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第一章
18.変装デート
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その一週間後にライル様から手紙が届いた。
その内容は『二日後にデートに行こう』という内容だった。私は慌ててその夜にお父様に確認したら、ライル様となら言っても構わないという返答を貰った。
どうやらライル様はもう二ヶ月以上も謹慎を続ける私への息抜きとして、お出掛けすることをお父様に提案してくれたようだった。
……ライル様は私を優しいと言っていたけれど、ライル様こそ優しさの塊だと思う。愛などないただの婚約者にこんな優しくしてくれるんだもの。
でも、デートってどこに行くのかしら?
二日後、私は平民街にいてもおかしくないくらいの軽装でライル様を待っていた。
案の定、オルヒは初めてのライル様とのお出かけと聞き、とても張り切っていたが、ライル様から出来るだけ軽装でと服装の指定があったことを話すと、見るからにがっかりしていた。
ライル様の乗る馬車が到着する。馬車から降りてきたライル様も私と同じ軽装だった。でも、金髪碧眼とその美しさは服を変えても決して損なわれることはなく、威厳というものは生まれ持ったものなのだな…とライル様を見て思う。
……私は軽装に身を包んだら、ただの町娘だもの。いつもの戦闘服ならまだしも、こんな服じゃライル様の隣を歩けない。きっとこれがソフィアだったら、ライル様と並んでもおかしくないんだろうな……。
私はライル様に促され、馬車に乗り込む。
今日はライル様の護衛が付いているので、公爵家からは護衛はついて行かない。流石に王子殿下の護衛がいれば十分だからね。
馬車に乗り、ライル様の向かい側に座る。ライル様は優しく微笑む。
「アンナはそういう格好もよく似合う。いつもより少し幼い感じがして、とても可愛らしいよ。」
「ライル様は…どんな格好でも格好いいです。」
「それは褒めてくれてるのかな?ありがとう。」
「それで、今日はどこに行くんですか?」
私がそう尋ねると、ライル様は驚いたように目を見開いた。
「え?分かってなかったの?平民街だよ。
花屋に行きたいんでしょう?」
「花屋?」
「あぁ。この前見せてもらったユーリからの手紙に書いてあったろう?ティナという子が働いているところだよ。」
「えぇ?!」
うそ!?
ティナさんのところへ連れて行ってくれるなんて!
ライル様は驚いて固まる私を見て、笑う。
「本当に気付いていなかったんだね。
言ったでしょ?可愛い婚約者へのご褒美だって。」
ライル様はそう言って、私の手を取ると、手の甲に唇を落とした。
一気に顔が熱くなる。
…本当にキスして揶揄うのやめて欲しい。
◆ ◇ ◆
馬車を降りる直前、ライル様はポケットから小瓶を出した。
「それは何ですか?」
「ふふっ。面白いから見てて。」
ライル様がそれをぐいっと飲み干し、暫くするとみるみるうちに髪色と瞳の色が茶色に変わって行った。
「……変わった。」
私は唖然として、ライル様の瞳を見つめる。
「面白いでしょ?流石に平民街でも王族が金髪碧眼だと言うのは知られてるからね。お忍びで来る時にはこうして髪色と瞳の色を変えるんだ。」
「それって私が飲んだらどうなるんですか?」
「んー。王族以外は手に入れられない貴重な物だからなぁ。前例がないから分かんないや。」
「そうなんですね。」
その時、馬車が止まった。
「じゃあ、アンナここからは歩いて行くよ。」
私たちは途中で馬車を降り、平民街に歩いて入った。
ついでにライル様と私の手はしっかりと繋がれている。
恥ずかしいと主張したんだけど、ユーリとは繋いだのに僕とは駄目なの?と聞かれて、駄目と言えるはずもなかった。
ライル様と手を繋ぎながら、平民街を歩く。護衛がいると聞いていたのに、その姿はどこにも見えなくて、私は不安になる。
……ライル様に何かあったら大変。本当に大丈夫なのかしら?
そう思いキョロキョロしていると、ライル様が立ち止まった。口を突き出して拗ねているようだ。服装も髪色もいつもと違うせいか、なんだか幼く見える。…可愛い。
「アンナ?今日は僕とのデートなんだよ?
さっきから何を探しているの?」
私は周りに聞こえたらまずいと思い、ライル様の肩に手を置き、少し背伸びをして耳元で囁く。
「さっきから護衛の方が見えないので。ライル様に何かあったら大変だから、大丈夫かなと思ってたんです。」
そう言って、ライル様の顔を覗き込む。
……なんで顔が赤いの?さっきまでは普通だったのに。
「ライル様、大丈夫ですか?」
ライル様は両手で顔を隠す。
「……大丈夫じゃない。アンナの声が耳元でして、唇がふいに耳に触れて、身体も密着させてくるし……。全く僕をどうしたいの?」
ただ耳元で囁いただけなのに、何をそんなに騒いでいるのか?こんなに取り乱すなんて、ライル様らしくもない。
「え?いや、護衛の人にライル様を守って欲しいだけですけど。」
「はぁ……無自覚で急に距離を詰めてくるからタチが悪いんだよなぁ。」
「え…と。ごめんなさい?」
首を捻りながらも謝ると、ライル様は優しく微笑んだ。
「可愛くてたまらないってこと。謝ることじゃない。
護衛は変装して近くにいるから大丈夫だよ。僕もそれなりの心得はあるし。デートなんだから、気分だけでも二人きりというのを味わいたいだろう?」
「……本当にデートのつもりだったんですね。」
「あぁ。花屋が最終目的地ではあるけど、それまでは付き合ってもらうよ。平民街の視察も兼ねてるし。
ほら、行こう!」
ライル様は私と指を絡ませるようにして、手を繋ぎ、歩き出した。…だから、手汗が~!
本当は花屋にすぐにでも行きたかったが、視察も兼ねていると言われたら、断れなかった。
◆ ◇ ◆
「楽しかったぁ!」
すっかり平民街でのデートを堪能した私は大満足だった。だって、前回ユーリと聞き込みをしている時は、気になるものがあっても時間がなくて、見れなかったんだもの。
今日は前になっていたお菓子も、可愛いレターセットも、オルヒへのお土産も買うことが出来た。
時々、私がこの前ユーリと来た時のことを覚えているお店の人がいて、「今日はユラくんと一緒じゃないの?」と聞かれて、ライル様がムッとする場面もあったが。
「楽しんでもらえて良かったよ。」
「本当にありがとうございました!
すごく楽しかったです!」
道の端に置いてある木製のベンチに座り、私達は休憩していた。手を繋いで、ベンチに座るその姿はデートそのものだろう。流石にずっと繋いでいるので慣れたが、同時にここに座っているのが、私で良いのだろうかとどこか不安になる。
「…僕もだ。
こんな風に楽しく過ごしたのは初めてだよ。」
「えへへ。私だけじゃなく、ライル様も楽しかったなら良かったです。…本当にライル様にはどう御礼をしたらいいか…。」
私がそう言うと、ライル様は真剣な表情を見せる。
繋いだ手が熱い。
「御礼なんていらないよ。
……でも、僕が何かアンナにお願い出来るなら…
ずっと、僕の側にいて欲しいな。」
そう言うライル様の瞳は優しいのに、どこか熱っぽかった。
ライル様が十五になれば、ヒロインを好きになるだろうし、私がヒロインに何かしなかったとしても婚約者という存在自体が邪魔になるだろう。
でも、ライル様が私のことを婚約者として大切に想ってくれている今だけは、その気持ちに応えたいと思った。
「……分かりました。
ライル様が望む限りは、ずっとお側にいますわ。」
私がそう言って微笑むと、ライル様は安心したように笑い、より強く手を握った。
「良かった……。
じゃあ、今日の目的地へ行こうか。」
「はい!」
私たちはティナさんの働いているという花屋に向かった。
その内容は『二日後にデートに行こう』という内容だった。私は慌ててその夜にお父様に確認したら、ライル様となら言っても構わないという返答を貰った。
どうやらライル様はもう二ヶ月以上も謹慎を続ける私への息抜きとして、お出掛けすることをお父様に提案してくれたようだった。
……ライル様は私を優しいと言っていたけれど、ライル様こそ優しさの塊だと思う。愛などないただの婚約者にこんな優しくしてくれるんだもの。
でも、デートってどこに行くのかしら?
二日後、私は平民街にいてもおかしくないくらいの軽装でライル様を待っていた。
案の定、オルヒは初めてのライル様とのお出かけと聞き、とても張り切っていたが、ライル様から出来るだけ軽装でと服装の指定があったことを話すと、見るからにがっかりしていた。
ライル様の乗る馬車が到着する。馬車から降りてきたライル様も私と同じ軽装だった。でも、金髪碧眼とその美しさは服を変えても決して損なわれることはなく、威厳というものは生まれ持ったものなのだな…とライル様を見て思う。
……私は軽装に身を包んだら、ただの町娘だもの。いつもの戦闘服ならまだしも、こんな服じゃライル様の隣を歩けない。きっとこれがソフィアだったら、ライル様と並んでもおかしくないんだろうな……。
私はライル様に促され、馬車に乗り込む。
今日はライル様の護衛が付いているので、公爵家からは護衛はついて行かない。流石に王子殿下の護衛がいれば十分だからね。
馬車に乗り、ライル様の向かい側に座る。ライル様は優しく微笑む。
「アンナはそういう格好もよく似合う。いつもより少し幼い感じがして、とても可愛らしいよ。」
「ライル様は…どんな格好でも格好いいです。」
「それは褒めてくれてるのかな?ありがとう。」
「それで、今日はどこに行くんですか?」
私がそう尋ねると、ライル様は驚いたように目を見開いた。
「え?分かってなかったの?平民街だよ。
花屋に行きたいんでしょう?」
「花屋?」
「あぁ。この前見せてもらったユーリからの手紙に書いてあったろう?ティナという子が働いているところだよ。」
「えぇ?!」
うそ!?
ティナさんのところへ連れて行ってくれるなんて!
ライル様は驚いて固まる私を見て、笑う。
「本当に気付いていなかったんだね。
言ったでしょ?可愛い婚約者へのご褒美だって。」
ライル様はそう言って、私の手を取ると、手の甲に唇を落とした。
一気に顔が熱くなる。
…本当にキスして揶揄うのやめて欲しい。
◆ ◇ ◆
馬車を降りる直前、ライル様はポケットから小瓶を出した。
「それは何ですか?」
「ふふっ。面白いから見てて。」
ライル様がそれをぐいっと飲み干し、暫くするとみるみるうちに髪色と瞳の色が茶色に変わって行った。
「……変わった。」
私は唖然として、ライル様の瞳を見つめる。
「面白いでしょ?流石に平民街でも王族が金髪碧眼だと言うのは知られてるからね。お忍びで来る時にはこうして髪色と瞳の色を変えるんだ。」
「それって私が飲んだらどうなるんですか?」
「んー。王族以外は手に入れられない貴重な物だからなぁ。前例がないから分かんないや。」
「そうなんですね。」
その時、馬車が止まった。
「じゃあ、アンナここからは歩いて行くよ。」
私たちは途中で馬車を降り、平民街に歩いて入った。
ついでにライル様と私の手はしっかりと繋がれている。
恥ずかしいと主張したんだけど、ユーリとは繋いだのに僕とは駄目なの?と聞かれて、駄目と言えるはずもなかった。
ライル様と手を繋ぎながら、平民街を歩く。護衛がいると聞いていたのに、その姿はどこにも見えなくて、私は不安になる。
……ライル様に何かあったら大変。本当に大丈夫なのかしら?
そう思いキョロキョロしていると、ライル様が立ち止まった。口を突き出して拗ねているようだ。服装も髪色もいつもと違うせいか、なんだか幼く見える。…可愛い。
「アンナ?今日は僕とのデートなんだよ?
さっきから何を探しているの?」
私は周りに聞こえたらまずいと思い、ライル様の肩に手を置き、少し背伸びをして耳元で囁く。
「さっきから護衛の方が見えないので。ライル様に何かあったら大変だから、大丈夫かなと思ってたんです。」
そう言って、ライル様の顔を覗き込む。
……なんで顔が赤いの?さっきまでは普通だったのに。
「ライル様、大丈夫ですか?」
ライル様は両手で顔を隠す。
「……大丈夫じゃない。アンナの声が耳元でして、唇がふいに耳に触れて、身体も密着させてくるし……。全く僕をどうしたいの?」
ただ耳元で囁いただけなのに、何をそんなに騒いでいるのか?こんなに取り乱すなんて、ライル様らしくもない。
「え?いや、護衛の人にライル様を守って欲しいだけですけど。」
「はぁ……無自覚で急に距離を詰めてくるからタチが悪いんだよなぁ。」
「え…と。ごめんなさい?」
首を捻りながらも謝ると、ライル様は優しく微笑んだ。
「可愛くてたまらないってこと。謝ることじゃない。
護衛は変装して近くにいるから大丈夫だよ。僕もそれなりの心得はあるし。デートなんだから、気分だけでも二人きりというのを味わいたいだろう?」
「……本当にデートのつもりだったんですね。」
「あぁ。花屋が最終目的地ではあるけど、それまでは付き合ってもらうよ。平民街の視察も兼ねてるし。
ほら、行こう!」
ライル様は私と指を絡ませるようにして、手を繋ぎ、歩き出した。…だから、手汗が~!
本当は花屋にすぐにでも行きたかったが、視察も兼ねていると言われたら、断れなかった。
◆ ◇ ◆
「楽しかったぁ!」
すっかり平民街でのデートを堪能した私は大満足だった。だって、前回ユーリと聞き込みをしている時は、気になるものがあっても時間がなくて、見れなかったんだもの。
今日は前になっていたお菓子も、可愛いレターセットも、オルヒへのお土産も買うことが出来た。
時々、私がこの前ユーリと来た時のことを覚えているお店の人がいて、「今日はユラくんと一緒じゃないの?」と聞かれて、ライル様がムッとする場面もあったが。
「楽しんでもらえて良かったよ。」
「本当にありがとうございました!
すごく楽しかったです!」
道の端に置いてある木製のベンチに座り、私達は休憩していた。手を繋いで、ベンチに座るその姿はデートそのものだろう。流石にずっと繋いでいるので慣れたが、同時にここに座っているのが、私で良いのだろうかとどこか不安になる。
「…僕もだ。
こんな風に楽しく過ごしたのは初めてだよ。」
「えへへ。私だけじゃなく、ライル様も楽しかったなら良かったです。…本当にライル様にはどう御礼をしたらいいか…。」
私がそう言うと、ライル様は真剣な表情を見せる。
繋いだ手が熱い。
「御礼なんていらないよ。
……でも、僕が何かアンナにお願い出来るなら…
ずっと、僕の側にいて欲しいな。」
そう言うライル様の瞳は優しいのに、どこか熱っぽかった。
ライル様が十五になれば、ヒロインを好きになるだろうし、私がヒロインに何かしなかったとしても婚約者という存在自体が邪魔になるだろう。
でも、ライル様が私のことを婚約者として大切に想ってくれている今だけは、その気持ちに応えたいと思った。
「……分かりました。
ライル様が望む限りは、ずっとお側にいますわ。」
私がそう言って微笑むと、ライル様は安心したように笑い、より強く手を握った。
「良かった……。
じゃあ、今日の目的地へ行こうか。」
「はい!」
私たちはティナさんの働いているという花屋に向かった。
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