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第三章
7.屋上
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私は気付くと、前と同じように、研究室のソファの上に寝かせられていた。
パチパチと瞬きをするが、瞼が重い。
もしかして、かなり長いこと、気を失っちゃったのかな…?
「アンナ!?」
私の傍にはユーリがいた。
「……ユーリ…?」
「馬鹿野郎!!無茶しやがって!!」
「ごめん。…ユーリ……でも、聞いて…。」
喉がひりついて、上手く声が出ない。
掠れた小さな声だが、ユーリは拾ってくれた。
「どうした?」
「ソフィアのいるところ…分かったかもしれない。」
「本当か?!何処だ?!」
「思い当たるところが二つ……あるの。
手分けして行きたい。…ジョシュア様は?」
「今、廊下で公爵家の人間と話してる。すぐ呼んでくる!」
ユーリが急いで駆けていく。私は身体を起こし、肩を回す。
これからそこに向かうんだもの、身体を慣らしておかなきゃ。
ソファから立ち上がる。
「アンナッ!!」
顔を上げた時には私は既にジョシュア様に抱きしめられていた…ちょっと苦しいくらいに。
「済まなかった…アンナ!
こんな長い時間、気を失うなんて…。それに酷く汗をかいていた…苦しい思いをさせた…本当に、本当に申し訳なかった…。」
私から身体を離すと、ジョシュア様は深く頭を下げた。
ジョシュア様は悪くないのに…。
「そんな…私から頼んだことですし、すみませんでした。
私はどれくらい気を失っていましたか?」
「三時間だ。もう夜も近づいて来ているから、クウェス公爵家に連絡を入れようかと思っていたところだ。」
間に合って良かった…。お父様とオルヒに失神したと知れたら、一週間は安静にしてろ!とベッドの住人になるところだった。
「ジョシュア様、ソフィアの場所が分かったかもしれません。」
「本当か?!」
「はい。でも、候補が二箇所あって、ユーリと手分けして行きましょう。」
「分かった。」
私が杏奈の記憶の中で見たのは、新たにジョシュア様のルートと、ルフト先生のルートだ。
ジョシュア様のルートでは、ソフィアがリィナの妹のティナを拐って、廃屋の隠し部屋に閉じ込めるシーンがある。
ルフト先生のルートでは、リィナ自身が拐われて、監禁される部屋が学園内にあった。
ウィルガルート…と、隠しキャラルートはやっていないが、私が思い当たるのはこの二つだ。今はそれに賭けるしかない。
二人に部屋の位置を伝える。一つは学園の隠し部屋と、もう一つは平民街の廃屋にある部屋だ。
そんなところにまさか…と、二人は唖然としていたが、今は私を信じてほしいと言うと、二人は力強く頷いてくれた。
「じゃあ、私とユーリで行ってくる。
アンナはここで待っていた方がいい。」
「嫌です!私もソフィアを探しに行きます!
それに自分が出した情報の真偽くらい確かめたいです!」
少しジョシュア様は迷った素振りを見せたが、頷いてくれた。
「……わかった。では、アンナは私と。」
「はいっ!」
「ユーリには平民街の方を任せていいか?一番走るのが速いし、平民街にもよく行っているだろう?」
「勿論だ。じゃあ、もうー」
「待て、ユーリ。これを。」
そう言って、鳥型の一枚の小さな紙を出した。
「これは?」
「それは私が風魔法で使役している奴らなんだ。ソフィアを見つけたら、それにソフィアの状況を魔力で念じて、送ってくれるか?」
「あぁ。俺の方で見つかればな。」
「頼んだ。こちらも見つかれば知らせを飛ばす。」
「わかった。」
そう言って、ユーリはジョシュア様と拳を合わせると、そのまま窓から飛び出て、窓の外にある木につかまると、するすると下に下りて、走り去っていった。……なんか、猿みたいだ。
「アンナ、私たちも行こう。」
「はいっ!!」
◆ ◇ ◆
私たちが来たのは、屋上だった。
…そして、今、私達はその床に這いつくばっている。
「何処なの…?!なんで、見つからないの?!」
焦りばかりが先行する。床を叩きすぎて、手が痛い。
ゲームでは屋上の床の何処かに、下につながる階段とその先に冷たい石の壁で囲われた無機質な部屋があった。床の下に階段があるなら、音が他とは違うはずだと思い、床を叩いて探しているが一向に見つからない。
私は拳を床に叩きつけた。
ゲームでこの部屋を開けたシーンは描かれていなかった。
気絶させられたリィナはここに運ばれて、階段からソフィアが降りてくるのを見る。その時ソフィアは屋上の床から通じる隠し部屋だと言っていた。その後、ルフト先生が助けに来てー
駄目だ。その後は助け出されて、違うシーンに行ってしまう。
本当は隠し部屋なんてないのかもしれない…。
どうしよう……ソフィアが…。最悪の事態を考えて、涙が滲む。
少し離れた所にいるジョシュア様は、一つ一つ床を確かめている。その横顔は真剣そのものだ。綺麗な水色の髪が床に付くのも厭わず、ただただ確認作業に没頭している。
何の根拠のない情報なのにー
私の言うことを心から信じてくれてるんだ…。
私は涙を拭った。
また一つ一つ確認していく。
「…っ。」
拳から少し血が出ている。
でも、もっと、ソフィアは痛い思いをしているかも知れない。
こんなところで諦めるわけには行かない。
「アンナ、どうだ?」
立ち上がったジョシュア様から声が掛かる。
「まだ何も。すみません……情報が曖昧で……。」
「いや、アンナが痛みに耐えて手に入れてくれた情報だ。
必ず見つけ出そ…うっ……。」
次の瞬間、ジョシュア様はバランスを崩したように、ガクッと膝を床に付いた。
「ジョシュア様?!」
私はジョシュア様に駆け寄るが、途中躓いて、その場にべシャーっと見事に転んでしまった。
「アンナ!!」
ジョシュア様が慌てて、こちらに来てくれる。
二人でお互いを支え合うように立ち上がる。
「すみません。ジョシュア様、大丈夫ですか?」
「あぁ、少し魔力を使いすぎたみたいだ。
今も使役して、探索を続けさせているから。」
「ちょっと休んでください。」
何時間も魔法を使い続けるなんて、魔力が枯渇していてもおかしくない。ジョシュア様の魔力量はかなりのものだと、以前ルフト先生に聞いたことがあるけど、こんなにフラフラじゃギリギリなんじゃないだろうか…。
それでも、ジョシュア様は厳しい顔で首を横に振った。
「いや、そうも言ってられない。
アンナこそ少し休め。……手もボロボロじゃないか。」
ジョシュア様は私の右手を優しく包んでくれる。
重ねられたジョシュア様の手も擦りむけて血が出ている。
「……なんか、ボロボロですね。私たち。」
顔を上げてジョシュア様を見つめる。
その顔は汗まみれで、頬も汚れてしまっている。いつもきちんと纏められている美しい髪も乱れている。
「そうだな…。こんな姿を好きな女性の前で晒すことになるとは思わなかったよ。もっとスマートでいたかったのに。」
ジョシュア様はそう言うけど、私にはー
「すごく格好いいと思います。ソフィアのために一生懸命ボロボロになってるジョシュア様も。」
ジョシュア様は少し固まったが、すぐに微笑み返してくれた。
「ありがとう…。
励ましてもらったところで、もうひと頑張りするかな。」
「はい!」
ジョシュア様も私も先程調べていたところに戻ろうと歩き出す。
あ。
そう言えば、私はさっき何に躓いたんだろ…?
そのあたりにパッと目を落とすと、その部分だけ石が欠けたようになっている部分があった。でも、随分と綺麗に欠けているような…。
私はその場にしゃがみ込み、じっと観察する…その欠けた部分をなぞってみると、そこはまるで何かの取手のように滑らかに加工されていた。
まさか…これって……!!
「ジョシュア様!ここ、見てください!!」
ジョシュア様がこちらへ駆けて来て、私が指し示したところへ視線を落とす。
「何かの取手のようだな…持ち上げてみよう。」
しかし、びくともしない。
どの方向に引っ張っても、押しても駄目だ。
音の響き方からして中には確実に空洞があるようだった。
が、どうしても開けることが出来ない。
「仕方ない。アンナ、離れて。」
「はっ、はい!」
私は慌てて離れた。
「使役。」
ジョシュア様はそう唱えると、風の渦の玉をそこに叩き付けた。
すると、その奥には思った通り、階段が現れた。
大きな音と共に屋上の床が揺れる。
壊れた床の破片が内部に入らないようにジョシュア様は風魔法で入口を保護していた。
「行こう。」
「はい。」
ジョシュア様が先頭で、私は後ろからついてくる。
恐る恐る下へ降りていくと、そこには一人……
ルフト先生が項垂れて、地べたに座り込んでいた。
「……ルフト先生!!」
ここに閉じ込められているってことは、ルフト先生はやっぱり裏切ってなんかいなかったんだ…!それにルフト先生がいれば、思いもしない魔法でソフィアのことを助けてくれるかもしれない!!
だって、先生はすごい魔法士なんだから…!
私はルフト先生に駆け寄ろうとしたが、次の瞬間、ジョシュア様が言い放った。
「そいつに近付くな!!」
「え?」
私は、足を止める。
「ルフト、どう言うことか説明しろ。」
ルフト先生は項垂れて、何も言わない。
ジョシュア様は、先生に歩み寄ると、その前で仁王立ちをした。
そして、拳を硬く握りしめた。
「俺は……っ、兄のようにルフトのことを思っていたつもりだった。ルフトも、俺とソフィアのことを同じように思ってくれているとばかり思っていた……。
なのに……なんでこんなことを…っ!ソフィアはどこだ?!」
「……すまない。」
ジョシュア様は、ルフト先生を殴りつけた。
ルフト先生はそれに抵抗することもなかった。
殴られた反動で、地べたに寝そべるような形になる。
「謝れなんて言ってない!ソフィアの居場所は?!」
「……知らない。俺は、あいつらにソフィアを売った。
自分が求めるもののために……。」
「……殺してやる…っ!」
ジョシュア様の手のひらの上で、魔力が渦巻くが、それはすぐに蒸発するように消えてなくなった。
「くっ……。」
ジョシュア様が再び膝を付く。
……やっぱりもう、限界だ。
ルフト先生は身体を起こし、髪をかき上げる。
その顔は傷一つないが…酷く傷ついているように見えた。どこか寂しそうな瞳でジョシュア様を見つめる。
「それだけしか魔力がないのにどうやって殺すって言うんだ。そんなにボロボロになって、お前らしくもない。」
私はジョシュア様に寄り添って、その場に座らせた。
はぁ…はぁ…と肩で息をするジョシュア様が少しでも楽になればとその身体を支え、さする。
「ルフト先生、なんでここに先生がいるんですか?
一体、何が起きてるんですか?」
ルフト先生は、項垂れたまま、何が起こったのかを語り出した。
パチパチと瞬きをするが、瞼が重い。
もしかして、かなり長いこと、気を失っちゃったのかな…?
「アンナ!?」
私の傍にはユーリがいた。
「……ユーリ…?」
「馬鹿野郎!!無茶しやがって!!」
「ごめん。…ユーリ……でも、聞いて…。」
喉がひりついて、上手く声が出ない。
掠れた小さな声だが、ユーリは拾ってくれた。
「どうした?」
「ソフィアのいるところ…分かったかもしれない。」
「本当か?!何処だ?!」
「思い当たるところが二つ……あるの。
手分けして行きたい。…ジョシュア様は?」
「今、廊下で公爵家の人間と話してる。すぐ呼んでくる!」
ユーリが急いで駆けていく。私は身体を起こし、肩を回す。
これからそこに向かうんだもの、身体を慣らしておかなきゃ。
ソファから立ち上がる。
「アンナッ!!」
顔を上げた時には私は既にジョシュア様に抱きしめられていた…ちょっと苦しいくらいに。
「済まなかった…アンナ!
こんな長い時間、気を失うなんて…。それに酷く汗をかいていた…苦しい思いをさせた…本当に、本当に申し訳なかった…。」
私から身体を離すと、ジョシュア様は深く頭を下げた。
ジョシュア様は悪くないのに…。
「そんな…私から頼んだことですし、すみませんでした。
私はどれくらい気を失っていましたか?」
「三時間だ。もう夜も近づいて来ているから、クウェス公爵家に連絡を入れようかと思っていたところだ。」
間に合って良かった…。お父様とオルヒに失神したと知れたら、一週間は安静にしてろ!とベッドの住人になるところだった。
「ジョシュア様、ソフィアの場所が分かったかもしれません。」
「本当か?!」
「はい。でも、候補が二箇所あって、ユーリと手分けして行きましょう。」
「分かった。」
私が杏奈の記憶の中で見たのは、新たにジョシュア様のルートと、ルフト先生のルートだ。
ジョシュア様のルートでは、ソフィアがリィナの妹のティナを拐って、廃屋の隠し部屋に閉じ込めるシーンがある。
ルフト先生のルートでは、リィナ自身が拐われて、監禁される部屋が学園内にあった。
ウィルガルート…と、隠しキャラルートはやっていないが、私が思い当たるのはこの二つだ。今はそれに賭けるしかない。
二人に部屋の位置を伝える。一つは学園の隠し部屋と、もう一つは平民街の廃屋にある部屋だ。
そんなところにまさか…と、二人は唖然としていたが、今は私を信じてほしいと言うと、二人は力強く頷いてくれた。
「じゃあ、私とユーリで行ってくる。
アンナはここで待っていた方がいい。」
「嫌です!私もソフィアを探しに行きます!
それに自分が出した情報の真偽くらい確かめたいです!」
少しジョシュア様は迷った素振りを見せたが、頷いてくれた。
「……わかった。では、アンナは私と。」
「はいっ!」
「ユーリには平民街の方を任せていいか?一番走るのが速いし、平民街にもよく行っているだろう?」
「勿論だ。じゃあ、もうー」
「待て、ユーリ。これを。」
そう言って、鳥型の一枚の小さな紙を出した。
「これは?」
「それは私が風魔法で使役している奴らなんだ。ソフィアを見つけたら、それにソフィアの状況を魔力で念じて、送ってくれるか?」
「あぁ。俺の方で見つかればな。」
「頼んだ。こちらも見つかれば知らせを飛ばす。」
「わかった。」
そう言って、ユーリはジョシュア様と拳を合わせると、そのまま窓から飛び出て、窓の外にある木につかまると、するすると下に下りて、走り去っていった。……なんか、猿みたいだ。
「アンナ、私たちも行こう。」
「はいっ!!」
◆ ◇ ◆
私たちが来たのは、屋上だった。
…そして、今、私達はその床に這いつくばっている。
「何処なの…?!なんで、見つからないの?!」
焦りばかりが先行する。床を叩きすぎて、手が痛い。
ゲームでは屋上の床の何処かに、下につながる階段とその先に冷たい石の壁で囲われた無機質な部屋があった。床の下に階段があるなら、音が他とは違うはずだと思い、床を叩いて探しているが一向に見つからない。
私は拳を床に叩きつけた。
ゲームでこの部屋を開けたシーンは描かれていなかった。
気絶させられたリィナはここに運ばれて、階段からソフィアが降りてくるのを見る。その時ソフィアは屋上の床から通じる隠し部屋だと言っていた。その後、ルフト先生が助けに来てー
駄目だ。その後は助け出されて、違うシーンに行ってしまう。
本当は隠し部屋なんてないのかもしれない…。
どうしよう……ソフィアが…。最悪の事態を考えて、涙が滲む。
少し離れた所にいるジョシュア様は、一つ一つ床を確かめている。その横顔は真剣そのものだ。綺麗な水色の髪が床に付くのも厭わず、ただただ確認作業に没頭している。
何の根拠のない情報なのにー
私の言うことを心から信じてくれてるんだ…。
私は涙を拭った。
また一つ一つ確認していく。
「…っ。」
拳から少し血が出ている。
でも、もっと、ソフィアは痛い思いをしているかも知れない。
こんなところで諦めるわけには行かない。
「アンナ、どうだ?」
立ち上がったジョシュア様から声が掛かる。
「まだ何も。すみません……情報が曖昧で……。」
「いや、アンナが痛みに耐えて手に入れてくれた情報だ。
必ず見つけ出そ…うっ……。」
次の瞬間、ジョシュア様はバランスを崩したように、ガクッと膝を床に付いた。
「ジョシュア様?!」
私はジョシュア様に駆け寄るが、途中躓いて、その場にべシャーっと見事に転んでしまった。
「アンナ!!」
ジョシュア様が慌てて、こちらに来てくれる。
二人でお互いを支え合うように立ち上がる。
「すみません。ジョシュア様、大丈夫ですか?」
「あぁ、少し魔力を使いすぎたみたいだ。
今も使役して、探索を続けさせているから。」
「ちょっと休んでください。」
何時間も魔法を使い続けるなんて、魔力が枯渇していてもおかしくない。ジョシュア様の魔力量はかなりのものだと、以前ルフト先生に聞いたことがあるけど、こんなにフラフラじゃギリギリなんじゃないだろうか…。
それでも、ジョシュア様は厳しい顔で首を横に振った。
「いや、そうも言ってられない。
アンナこそ少し休め。……手もボロボロじゃないか。」
ジョシュア様は私の右手を優しく包んでくれる。
重ねられたジョシュア様の手も擦りむけて血が出ている。
「……なんか、ボロボロですね。私たち。」
顔を上げてジョシュア様を見つめる。
その顔は汗まみれで、頬も汚れてしまっている。いつもきちんと纏められている美しい髪も乱れている。
「そうだな…。こんな姿を好きな女性の前で晒すことになるとは思わなかったよ。もっとスマートでいたかったのに。」
ジョシュア様はそう言うけど、私にはー
「すごく格好いいと思います。ソフィアのために一生懸命ボロボロになってるジョシュア様も。」
ジョシュア様は少し固まったが、すぐに微笑み返してくれた。
「ありがとう…。
励ましてもらったところで、もうひと頑張りするかな。」
「はい!」
ジョシュア様も私も先程調べていたところに戻ろうと歩き出す。
あ。
そう言えば、私はさっき何に躓いたんだろ…?
そのあたりにパッと目を落とすと、その部分だけ石が欠けたようになっている部分があった。でも、随分と綺麗に欠けているような…。
私はその場にしゃがみ込み、じっと観察する…その欠けた部分をなぞってみると、そこはまるで何かの取手のように滑らかに加工されていた。
まさか…これって……!!
「ジョシュア様!ここ、見てください!!」
ジョシュア様がこちらへ駆けて来て、私が指し示したところへ視線を落とす。
「何かの取手のようだな…持ち上げてみよう。」
しかし、びくともしない。
どの方向に引っ張っても、押しても駄目だ。
音の響き方からして中には確実に空洞があるようだった。
が、どうしても開けることが出来ない。
「仕方ない。アンナ、離れて。」
「はっ、はい!」
私は慌てて離れた。
「使役。」
ジョシュア様はそう唱えると、風の渦の玉をそこに叩き付けた。
すると、その奥には思った通り、階段が現れた。
大きな音と共に屋上の床が揺れる。
壊れた床の破片が内部に入らないようにジョシュア様は風魔法で入口を保護していた。
「行こう。」
「はい。」
ジョシュア様が先頭で、私は後ろからついてくる。
恐る恐る下へ降りていくと、そこには一人……
ルフト先生が項垂れて、地べたに座り込んでいた。
「……ルフト先生!!」
ここに閉じ込められているってことは、ルフト先生はやっぱり裏切ってなんかいなかったんだ…!それにルフト先生がいれば、思いもしない魔法でソフィアのことを助けてくれるかもしれない!!
だって、先生はすごい魔法士なんだから…!
私はルフト先生に駆け寄ろうとしたが、次の瞬間、ジョシュア様が言い放った。
「そいつに近付くな!!」
「え?」
私は、足を止める。
「ルフト、どう言うことか説明しろ。」
ルフト先生は項垂れて、何も言わない。
ジョシュア様は、先生に歩み寄ると、その前で仁王立ちをした。
そして、拳を硬く握りしめた。
「俺は……っ、兄のようにルフトのことを思っていたつもりだった。ルフトも、俺とソフィアのことを同じように思ってくれているとばかり思っていた……。
なのに……なんでこんなことを…っ!ソフィアはどこだ?!」
「……すまない。」
ジョシュア様は、ルフト先生を殴りつけた。
ルフト先生はそれに抵抗することもなかった。
殴られた反動で、地べたに寝そべるような形になる。
「謝れなんて言ってない!ソフィアの居場所は?!」
「……知らない。俺は、あいつらにソフィアを売った。
自分が求めるもののために……。」
「……殺してやる…っ!」
ジョシュア様の手のひらの上で、魔力が渦巻くが、それはすぐに蒸発するように消えてなくなった。
「くっ……。」
ジョシュア様が再び膝を付く。
……やっぱりもう、限界だ。
ルフト先生は身体を起こし、髪をかき上げる。
その顔は傷一つないが…酷く傷ついているように見えた。どこか寂しそうな瞳でジョシュア様を見つめる。
「それだけしか魔力がないのにどうやって殺すって言うんだ。そんなにボロボロになって、お前らしくもない。」
私はジョシュア様に寄り添って、その場に座らせた。
はぁ…はぁ…と肩で息をするジョシュア様が少しでも楽になればとその身体を支え、さする。
「ルフト先生、なんでここに先生がいるんですか?
一体、何が起きてるんですか?」
ルフト先生は、項垂れたまま、何が起こったのかを語り出した。
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