親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

文字の大きさ
73 / 99
第三章

13.告白

しおりを挟む
 ライル様は、重苦しい空気に耐えられなくなったのか、話を変えた。

 「そういえば、よくソフィアのいる場所が分かったね?」

 先程の説明では長くなるから、捜索して…としか伝えなかったから、ライル様が疑問に思うのも当たり前だ。

 ……とうとう話す時が来てしまった。
 頭のおかしい奴だと思われないだろうか。
 不安で息が詰まる。

 「……そ、それについてなんですけど……。」

 「ん?」

 「その場所が分かったのは、私の記憶が関係してて…。」

 「……記憶?」

 ライル様の眉間に皺が刻まれる。

 「ちょっと信じられないような話なんですけど……
 聞いてくれますか?」

 「勿論。」

 私はおずおずと話し出す。

 「えっと……その……
 私には……おそらく前世だと思われる記憶があるんです!」

 「……まさか。」

 ライル様の目が大きく開かれる。

 「信じられないでしょうが、本当なんです。
 前世の私は、日本という国に住む桜庭杏奈という名前の女の子でした。」

 「さくらば、あんな……。」

 ライル様が呆然と呟くように私の名前を呼ぶ。
 すると、すぐにライル様は神妙な表情で、私に尋ねた。

 「どこまで?」

 「え?」

 どこまで…とはどういうことだろう?

 「……前世がどのように終わったのか覚えている?」

 ライル様の表情は真剣で…少し焦ってるようにも見えた。

 「……い、いえ。
 十三歳の途中までしか思い出せていないんです。」

 「……そう。」

 ライル様はどこかホッとしたように見えた。
 ……先ほどから一体どうしたというのだろうか?

 ライル様が深く聞いてこないので、私から話し始める。

 「実は、この世界は私が前世でやっていたゲーム…えーと、私が前世で知った物語と同じ世界観なんです。」

 「そのゲームはどんなもの?」

 ライル様の順応性が高くて驚く。頭のいい人は、こんなぶっ飛んだ話にもすぐに慣れるものなのだろうか。いや…流石のジョシュア様だってなかなか理解できないような顔をしていたのに。

 予想外の質問に私は慌てて答えた。

 「は?え…と……、恋愛ゲームというもので、ヒロインが学園の男性陣と恋をしていくものです。攻略対象は、ライル様とジョシュア様、ルフト先生とウィルガ。そして、隠しキャラがいるみたいです。」

 「いる、みたい?」

 ライル様は険しい顔をする。

 「それが最後までやっていないので、分からないんです。そういうキャラクターがいるとゲームを教えてくれた人から聞いただけで。」

 ライル様は何か考えながら「そう…」とだけ呟いた。
 いろんなことを考えているようで机上の一点だけを見つめている。

 少し経つと、今度は顔を上げて、私に質問する。

 「ついでに各キャラクターのシナリオ通りに物語は進んでいるのかな?」

 「いえ、ゲームが始まる前提からして色々と違います。
 だいたい物語では学園が始まる前に私…アンナ・クウェスは死んでいるのです。」

 ライル様がガタンと立ち上がった。
 その驚きように私の身体がビクッと跳ねる。

 「死んでるだって?!」

 「……は、はい。」

 ただならぬライル様の様子に少し不安を感じる。
 先ほどから様子がおかしい。

 その時、ぽそっとライル様がつぶやいた。

 「くそ…っ、そんな内容だったなんて…。」

 「はい?」

 「……すまない、取り乱した。続けてくれるかい?」

 うまく聞き取れなかったが、ライル様に先を急かされ、話し始める。

 「ゲームでは私がいないので、公爵家の後継はウィルガになっていますし、ライル様の婚約者はソフィアです。」

 「そうか…。ついでにそのゲームの主人公は誰?」

 「リィナです。」

 「あいつか……そういうことね。では、彼女も転生者で、その上ゲーム内容を熟知しているのか?だから、彼女は本来知らないことを多く知っている、と。」

 「……ライル様、すごいですね。」

 本当にすごい。これだけしか話してないのに、なぜこんなにもあっさりと受け入れられるのだろう。私はライル様の頭脳に感嘆した。……まるで杏奈の生きていた世界のことを知っているようなー。

 しかし、私の考えを打ち消すかのようにライル様は言った。

 「あぁ。色々なことから推測すれば、簡単に分かるさ。」

 「…そうです…よね。」

 きっと王子であるライル様のところには驚くような話が届いたり、普通は知り得ない伝説の話なども知っているから、似たような話を聞いたことがあるのかも……と、自分を納得させた。

 ライル様が神妙な顔つきになる。

 「では、アンナ、そのゲームの内容を出来るだけ細かく最初から教えてくれる?」

 「は、はい!」

 私は、ライル様、ジョシュア様、ルフト先生ルートの話をした。

 「ーと、私が覚えているのがここまでです。」

 「ありがとう。

 ただ……正直あの女と結ばれる話など物語でも聞いていて気持ち良いものではないね。」

 そう言ってライル様は苦笑した。

 「ゲームの中のリィナと、実際のリィナは随分と性格が違いますからね。」

 「そうだね。
 でも、魔宝のことやリィナの秘密が分かったのは、大きな収穫だよ。アンナ…ありがとう。」

 ライル様はそう言って、目を細めた。

 「本当はウィルガや隠しキャラルートも分かったら良かったんですけど…。もう一回、ジョシュア様に頼んでー」

 「駄目だっ!!」

 ライル様が机上に置いてあった私の手を痛いくらいに掴んだ。

 「お願いだから……もう危険を犯すのはやめてくれ。
 今回はたまたま運が良かっただけかもしれない。
 次は目覚めなかったらどうする?

 ……それに取り戻す記憶が良いことばかりとは限らないだろう?ゲームの続きもやっていない可能性だってある。」

 ライル様の瞳が揺れる。

 私の身体を…心を…心配してくれているのかもしれない。

 確かにこうやって記憶を取り戻していけば、いつか杏奈が死ぬ場面の記憶を取り戻すことになるかもしれない。それが事故だとか悲惨な死に方だったりすれば、今の私の心に傷を負わせる可能性も否定できなかった。

 でも、もしもの時はー

 私は本当の気持ちを隠して、微笑んだ。

 「そうですね。もうやめておきます。
 あれ、すっっっごく痛いので、もう嫌です。」

 「うん。そうして欲しいな。」

 ライル様は今度は優しく私の手を握った。

 「……ところで、前世では…
 す、好きな奴とかいなかったのか?」

 少し顔を赤らめて、ライル様が尋ねる。
 
 「ふふっ。いたら、どうなんです?やきもちですか?」

 「い、いやっ!流石にそこまでは……。」

 「思い出してる記憶の限りは、いなかったですよ。
 仲の良い幼馴染はいましたけど…そういう目で見たことは無かったかなぁ。」

 「……ふーん。」

 ライル様はどこかいじけたように、頬杖をついている。

 「あ、侑李って言うんです!……ライル様が火事から助けてくれた時に私が呼んでいたのも『侑李』だったんですよ。」

 不思議そうな顔をしたライル様が尋ねる。

 「……なんで…この世界にいない奴のことを呼んだんだ?」

 あの時のことを思い出す…。

 「声が聞こえた気がしたんです。
 『大丈夫』『煙は吸わないように』って。」

 「そうなんだ…その続きは?」

 ライル様は真っ直ぐに…どこか熱っぽくこちらを見つめる。
 でも、何のことを言っているのか、さっぱり分からない。

 「その続き…?」

 「……そんなの、ない…か。
 ごめんね、変なことを聞いた。」

 そう言って、少し寂しそうに笑った。

 ……ライル様の笑顔の裏には何かが隠されているような気がした。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...