【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第1章  隣国への逃亡

第11話 吉報と凶報

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 ワゴンを押しながら向かうのは秋のさわやかな気候の中で、咲き誇る薔薇を囲む中庭であった。
ことのほか薔薇を愛する王妃は、まだ年若い新人のグレースを微笑んで眺めていた。

「女官長、今日は楽しみにしておりましたのよ。
貴女も、今日は宜しくね」

気さくにお声をかけて下さるのは、滅多めったにお会いできないお方である。
グレースは初めてご尊顔そんがん拝見はいけんして、その女性の気品と優美さに心がドキドキ高鳴ってしまう。

綺麗なお方、本当の淑女しゅくじょとはこのようなお方をおっしゃるのだわ。
真紅の大輪の薔薇を背にした姿は、薔薇の女王様でなく王妃様。

深呼吸して彼女は、心を込めて入れてお出しする。
王妃ジョセフィーヌは、震えている手先を見て彼女の心境をさっする。

「有難う!頂くわね」と、一言礼を述べて口に運ぶ。

王妃は、紅茶を一口含むと目を閉じた。
不思議だわ、とても安らぐし味わいが深く感じる。
彼女はまだ若いのに、まるで熟練した方が入れたような。

「グレースって、名でしたわよね。
貴女は、私に罪を犯しました。
もう、貴女以外のお茶は飲めなくなったわ。
これからは、ずっと私にお茶を入れなさいな!」

そのお言葉に、グレースは深く頭をれた。
婚約破棄されて、惨めな思いをして入った王宮。

そこで、この国の女性の頂点に立つ方に認められておめの言葉を頂いた。
自然と嬉しさから、目に涙が浮かぶのである。

女官長オリヴィアとその他の女官たちは、王妃様の発言に驚きの表情をしたのである。

それからは、王妃様のお茶を入れる係の名誉を手にしたグレース。
ぎこちないカーテシーを王妃にすると、王妃ジョセフィーヌはクスクス笑う。
真っ赤になるグレースを面白がっていたが、時たま席をお立ちになりグレースにカーテシーのやり方をみずから教えるようになっていた。

「王妃様、たかが新参者のメイドにそんな事をー」

一人の女官が声を出して、王妃様をとがめる。

「これくらいはよいでしょう。私の気まぐれよ!
それくらいで、目くじらを立てることはあるまいにー。
教えることは、勉強になります。
貴女たちも、一緒に習ったらどうかしら?」

母娘でも姉妹でもない少し離れた歳の二人は、身分ではこの上もなく離れていた。
それなのに、王妃様は何故かグレースをことのほか気に入ってしまっている。

グレースの方はちゃんと一線を引いて、権威を持って接しているので怒る者はいなかった。
女官長オリヴィアは、普通はやっかみでいじめられると思っていたが違うようだった。
不思議な子ね、かえって心配されるなんて…。

「グレース、貴女大丈夫なの?
王妃様に対して、粗相そそうしてないでしょうね!」

「そうよ、グレース。
私なら毎日失敗しないか、心臓が止まりそうになるわよ」

食事中に仲の良いメイド仲間に心配されて、グレースもドキドキしてると本音をらすと周りは笑って納得する。

女官長オリヴィアは、そんなグレースの姿の様子を度々見ていた。

 穏やか時を破壊する、手紙がグレースの元に送られてきた。
大部屋のベッドで独り読む内容に、彼女は口を手でおおう。

「お、お母様が病気で倒れた…。そんなー。領地の医者では判明しないやまいなんて!
お医者様を呼ぶにも、お金がかかるわ」

彼女は手持ちのお金を調べて、売れそうな私物を探す。
給金を貯めて自分で買った、初めての小さなルビーのネックレス。
頂いた絹の布地で、自分で刺繍ししゅうした真新しいハンカチ数枚。
王宮に働き先が決まりお祝いに、親戚たちや両親から作ってったり頂いたドレスが7着。

お金になるかしら?!
何処で、どう買い取って貰えばいいの?!
グレースは、気ばかりあせり不安になり涙があふれてきていた。

 朝になり目がれている彼女に、メイド仲間たちが心配し話しかける。
ただ、寝付けなかったと言葉をにごしていた。
そして、また嘘を上乗うわのりして仲間にうかがってみた。

「そうだったのね。
グレース、王宮内では売買は禁じられているわ。
でも、王宮を去るものが荷を減らすために買い取りしてくれる場所があるの」

「今度の外出の日時を合わせて、連れて行ってあげるわ!
独りで行っては、足元を見られて買い叩かれるから」

「あ、有難うございます。
それでお願いします」

グレースは母の病とは言わずに、気に入らないから売りたいと嘘を言っていた。
それで、領地にいる家族にプレゼントを買いたいと笑って伝える。

噓つきな私、どうして正直に話せないのかしら?
嘘でも、話して良かったわ。

これで仲間に連れて行ってくれた店で、持ち物を売れば少しは診察費のしになるかもしれない。
一刻いっこくでも早く、お母様の体をてもらいたい!

そのお金が手に入るかもしれないと、ほんの少しだけ心がホッとした気持ちになるのだった。









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