【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第1章  隣国への逃亡

第22話 最後のお茶

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 王妃様に最後のお茶いれをする為に、慎重しんちょう身仕度みじたくをしていた。
自分の姿を鏡で顔をジッと見ると、昨日泣きすぎたのか目がれている。

我ながら不細工な顔に、ため息も出てこない。
メイド服にシワや汚れがないかを確認し、自分自身に気合いを入れた。

心を穏やかにして、相手を思い準備していく。
今日であのお方のお顔を見るのも、お声を聞くのも最後なのね。
尊敬して憧れたお方、美味おいしそうにお茶を飲む姿を拝見はいけんしては自信と喜びを感じていたわ。

こんな自分に唯一ゆういつ、誇りを与えてくれたそんな大切な時間でもあったのに。
毎日が幸せでその日が、いつまでもいつまでも続くと信じていた。

自分で壊してしまい。
その場を明日から失う。

両親と恩人の編集長には、このことを前もって報告をしてある。
病院で会って母に泣かれ、父は自分の不甲斐ふがいなさを私に手紙でびてきた。
私はなんという、親不孝者なのだろうか。

そのような事を思いながら、女官長様の後ろ姿を見て準備をしたワゴンを押す。

   部屋の中には、私たちしか居なかった。
きっと、王妃様がお人払いをしてくれたんだわ。
そう思うだけで、胸が熱くなり涙がまた出そうになるのだった。

ベランダにあるテーブル席に、そのお方はいつもの通りに背筋を伸ばして座っておられた。
外の薔薇を眺めていた顔を、私たちに向けて優しげに微笑ほほえんでくれる。

「グレース、お久しぶりね?!
体調は如何いかがかしら?話は女官長からうかがったわ。
まずは、お茶を入れてくれる?
お願いね」

いつもと、少しも変わらない対応をして下さる。
こんなにも罪深い、私になんかに…。

王妃様が元気で幸せな気持ちになりますように、毎日心を込めていれていた。
今日は、その気持ちに感謝を付け加えたい。

一介いっかいのメイドの私に、おごり高ぶることなくいつも優しくせっしてくれたお方。
この方が好きだった、人としてー。

「王妃様、どうぞ」

カップをとり、一口お茶をゆっくりと飲む。
そして、味わうように目を閉じた。

そのお姿を不敬ふけいに当たるが、最後なので見つめ続けた。
目に焼き付けるように、その目から止めどなく涙があふてくる。

「グレース、貴女は私に罪を犯したわ。
暫くこのお茶が飲めなくなるのが、残念よ。
私に約束してちょうだい!
もう一度、必ずまたお茶をいれなさい。
この私に誓いなさい!!」

私を見つめながら、泣きそうな曇ったお顔をされて私に向いおっしゃってくれた。

「はい、誓います。
私、グレース・マローは、必ずもう一度王妃様にお茶をお入れします」

貧乏子爵令嬢の私とこの方では、天と地ほどの身分差がある。
今でもこうしているのは、奇跡に近いはずだわ。

思い続ければ、いつかは叶うことができるのかしら?
いいえ、きっと叶えてみせるわ!!
どんなに時がっても、生きている限りー。

「貴女を好ましく思ってますよ。
貴女のいれてくれたお茶を飲むと、安らぐの不思議ね?
身分差がなれけば、友人になって欲しいぐらいだったのよ」

そう話すと、味わうようにまた一口カップに口をつけた。

「王妃様、光栄でございます!
私も、王妃様にお茶をお出しするこの時をー。
誇りに感じ幸せでした。
どうか、ご健勝けんしょうをお祈り申し上げます」

部屋の中に、女官長オリヴィアのすすり泣く声がかすかに聞こえた。

「明日早朝、グレースを王宮から出します。
私は、この王宮から外へ出れないわ。
何かあっても助けてあげられない。
だから、だから貴女を隣国の知り合いにたくします」

彼女はグレースを手招き、近くに呼ぶのである。

「この手紙を持って、門番にこうおっしゃい。
「赤いバラはお好きですか?」と、私と侯爵夫人しか知らない思い出の言葉です。
彼女は、きっと私の願いを叶えるでしょう。
ご機嫌よう、グレース・マロー。
また、いつかお会いしましょう」

手紙を震える両手で受け取り、深く頭を下げた。

「心より感謝いたします」

これが、王妃様と私の最後の言葉となった。

あのお方は、視線をらして薔薇を見始める。

自分が出来る最高のカーテシーをしてから、女官長様とその部屋を静かに後にした。


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