【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第2章  エーレンタール侯爵家 

第6話 水汲みは下っ端の役目

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 昨日到着したばかりの屋敷だが、侯爵夫人に頼まれたお茶を入れに一度訪れていたのが幸いした。
迷うことなく彼女は暗い廊下を歩く、大体の屋敷ははじ別棟べつむねにひっそりとあるものだ。

厨房ちゅうぼうに行くと何人かのメイドたちが、薄暗い中で朝食の準備をしていた。

「おはようございます!
グレースと申しますが、お仕事の指示を下さい。
宜しくお願い致します!」

グレースが朝の挨拶をすると、彼女を知らないメイドたちが新人と勘違いをする。
昨日来たばかりで、確かに新人には間違いない。

「あら、おはよう!
そうね、井戸から水をんでかめに入れてくれる?
そこに水を運ぶ道具があるでしょう。
井戸は、そっちの扉を開けたら右に歩けばあるわ。宜しくね」

グレースは返事をすると、道具を肩にかけて井戸に向かった。
井戸の水汲みなんて、いつ振りか忘れるぐらい久しぶりだわ。

王宮に入って間もない頃を思い出す。
慣れるまで、何度も桶から水をこぼして苦労したっけ。

何故か楽しげなに、ニコニコしながら井戸に向かう姿を一人の庭師に見られていた。

井戸からロープを引っ張ると、手や腕に重みを感じた。
用意していた、厚手の手袋が役に立つ。
2回組み上げると、また肩に天秤てんびんのようにかついだ。
気をつけてないと、おけから水があふれる。
慌てずに慎重に、足を一歩一歩踏み出す。

「はじめの頃は、なかなかコツがつかめなくって先輩たちに怒られたのが懐かしいわ。
結構、体が覚えていたのね!
よし、頑張るぞー!」

ドアを開けて、また担ぎ上げ厨房のかめに水を入れる。
グレースは往復10回位して、やっと1つのかめが一杯になる。

それが、まだ2つも残っていた。

黙々もくもくと1人で続けるグレースを、先輩メイドたちが作業しながら見ていた。

「ちょっと、誰か手伝ったら?!
あの仕事は、本当は2人でやる仕事と知っているくせに。
1人では、かなり辛いわよ!」

グレースに水汲みを頼んだメイドが、他のメイドたちに声をかけた。

「そう言っている。
あんたが手伝いなさいよ。
見ていたら初めてではないようだし、最後まで出来るんじゃない?!
少し様子を見ましょうよ」

そんな事を言うが、誰も手伝う素振りをしない。

額に汗をかき、肩の重みを感じ最後までやりきった。
終わった頃合いにメイドが、グレースにまた頼み事をしようとしていた。

 その時に、メイド長メリッサが大慌てで厨房に飛んで入ってきた。

「グレース嬢、こんな所に居ましたか!
捜しましたのよ。
その様な格好かっこうをして、早くお部屋に戻りましょう」

メリッサが見たグレースはヘロヘロで、汗だくで息が切れ切れだった。
側にいた頼み事をしたメイドは、メイド長の姿を見ると驚くのである。

「メイド長、おはようございます。
新人に水汲みをさせてましたが、他に仕事をさせるのですか?」

メリッサはその話を聞くと、1人で水汲みをさたせのかと質問をメイドたちにする。

「すみません。
慣れているみたいで、やらせてしまいました。
メリッサ様、勝手に申し訳ありません!」

「貴女たち!
この人は奥様のお客様ですよ。
確かにメイド服は着てますが、水汲みは2人でする仕事です。
後で、詳しく話を聞きますから」

グレースを見るとため息を吐き、どうしてこんな事をするのか訳がわからない感じだった。

「さぁ、朝食前に服を着替えましょう。
皆様を待たせては失礼ですよ」

彼女は逃げないようにグレースの腕を取ると、引っ張る様に歩きだした。

「失礼しますー!」

グレースはメリッサが勢いよく引っ張るので、それしか言葉を返すことしかできなかった。

どうしょう、メリッサさんの態度で怒っているのは間違いない。

許可なく仕事をしたから、だから気分を害したんだわ。

グレースは無言で前を歩くメリッサの背中を見つめ、後に付いていくしかなかったのである。
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