【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第5章  永遠の愛をあなたに

第25話 祝福の指輪

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 まだ陽に明るさが残り、人の目で周辺の景色が識別できる。
王家の紋章を印した正門から、1台の馬車が中へ入っていくとー。
そこはまるで森の中を連想させる木々を眺めながら、2頭の馬たちがリズムカルにひづめの足音をたてている。

整理された石畳の道を抜けると、目の前に人工的な川が流れ大きな噴水が幾つも見えた。
その奥には、白の大理石に黄金に装飾されている宮殿がどっしりと建っていた。

馬車はスピードを抑えて、宮殿玄関より少しだけ離れた専用の場に停車する。

「申し訳ございませんが、こちらから降りて会場までお歩き下さい」

王宮の門番たちが、馬車を操る御者ぎょしゃに声をかけてきた。

御者のタイラーが馬車から降りて、扉を軽く叩いて合図する。
何事かとグレースは、少しだけ中から窓を開けてみた。
門番の話を中にいるグレースたちに説明し始める。

「タイラー父様。
エテルネルの王宮は、いつもこうするから気にしないで下さい」

勝手を知っている彼女は、あっさりして彼に伝えてくる。
タイラーは子爵夫妻を先に降ろし、その後にカルロスが降りる。

「さぁ、グレース嬢。
気をつけて、私の手を取るといい」

カルロスがまるで姫を扱うように、手をえて降ろしてくれる様子をマロー子爵夫妻は満足そうに見守っていた。

「有難う、カルロス様。
あれから2年近くっているのね。
もっと、昔のように感じてしまうわ」

王宮をしげしげと見上げては、近くにいる3人に懐かしげに言い出す。

「グレースは、ここで働いていたのだなぁ。
お前のことだから、給金をほぼ全額送ってくれたのだろう」

「こんな孝行な娘を持った私たちは、とても幸運な親よ。
婿むこになるお方も、素晴らしい人柄の紳士。
グレース自身で見つけて、こうして連れて来てくれるなんてね」

母として不甲斐なさを持ち続けているのか、何度も同じことを言ってしまうのである。
両親のめ言葉に、いま着ているドレスのように赤く顔を染めてしまう。
あかいドレスは紅すぎずに、品のある落ち着いた深い深紅である。

そう、ワインに近い色合い。

ネックレスは、見事なルビーにダイヤモンドが取り囲まれた逸品いっぴん
ザイールの名門侯爵家の婚約者に、身につけるに相応しい品物。
指には王妃様にお返しする為に、あの指輪をしていたのである。

4人は招待状を渡すと、名前を告げられて入場する。
ザィールのエーレンタール侯爵の名を告げられて、その後に婚約者のグレースの名が続く。

「エーレンタールって、ザイールの中でも貴族の中でも名門と言われているわ。
侯爵でも、公爵に近いそうですよ」

「カルロス様とおっしゃるのね。
金髪は光輝くようで、瞳は青くまるで宝石のサファイアみたい」

「見れば見るほどに素敵な美男子で、王子様より王子様らしく見えますわ」

女性たちは皆カルロスを眺めながら、ウットリしてため息をらす。

やはりここでも、カルロス様は目立ちますのね。
きっと私を見て、これがあの方の婚約者だと胸の中で思ってるに違いないわ。
グレースはカルロスのたくましい腕をとり、歩きながら女性たちの声に聞き耳を立ててしまう。

招待客が、両陛下にご挨拶をする為に順番を待つ。
なんと、私たちは公爵家の次になっていた。
父のマロー子爵が順番を間違えてはないかと、何度も順番を伝える方に確認をしている。

「お父様、間違いではないでしょうか?!
いくらザイールの高位貴族。
エーレンタール侯爵の嫡男カルロス様がいらっしゃっても、この順番は早すぎませんか?!」

「私もそう申し上げたのだが、王妃様たっての願いだと仰るのだよ」

突然前方より、りんとした威厳ある声がした。

「王妃様に、何かお考えがあるのでしょう。
あなた方は、堂々としておればよい!」

父と私の会話に、あのクラレンス公爵夫人がお声をかけてきた。

「これは、クラレンス公爵様に公爵夫人。
お騒がせ致しました。
マロー子爵です、お会いできて光栄の極みでございます」

私たちは一斉に頭を下げたが、よいよいとクラレンス公爵である戦の神は鷹揚おうように笑っておられた。

「今日は一生の思い出となります。
これほどの高貴なお方に、お会いできてお声までかけて頂くとは思いませんでした」

母に至っては驚き胸に手を当てて、高まる鼓動こどうを落ち着かせようとしていた。

「私も生ける伝説の戦の神に、間近でお会いできるとは感無量ですよ」

隣国でも有名な御仁に、側で聞いていたカルロスも気持ちが盛り上がる。

両親の喜ぶ表情に、グレースたちも一緒になって笑う。

そんな様子を後方で、驚きと苦虫をつぶしたような顔で見ていた者たちがいた。

 
    グレースたちが国王両陛下にご挨拶をしてると、王妃があり得ないことに椅子から立ち上がりグレースにお言葉をかけてきた。

「マロー子爵令嬢。
素敵な婚約者と縁を持ちましたのですね。  
貴女の努力と心根が、侯爵令息の彼を射止めたのです。
必ずや…、お幸せにおなりなさい」

別れてから、ずっと願い続けていた。
それだけでなく、大勢の貴族たちの中で祝福のお言葉をかけて貰えた。

「あぁ、王妃様。
なんと、勿体もったいないお言葉をー。
どうか、この国の国母のそのお手に感謝のキスをさせて頂けてませんでしょうか?!」

許しを得てキスしながら、グレースは指輪を王妃の手の中に返した。
王妃は直ぐに何かを察して、皆に高らかに話をしだした。

「皆も知っているとは思うが、わらわも隣国ザイールから嫁ぎました。
ここにおるマロー子爵令嬢は、ザィールでも名門のエーレンタール侯爵に嫁ぐそうである。 
この先、苦労することもあろう。
これは妾からの選別として、そなたに受け取って欲しい。
そして、両国のけ橋となってたもれ」

そう話されると彼女の手を取り、皆に見せるように指にそのルビーの指輪をはめてくれる。

「王妃様、微力ですが出来得る限り事を致します。
お言葉を胸に刻みこの指輪を見ては、今日の日を忘れることはございません。
有り難く頂戴致します」

返却するはずの指輪は、正式に王妃よりグレースに贈られる形となった。

集まった客の貴族たちからは、盛大な拍手で二人の婚約を祝福されたのである。
グレースとカルロスにとり、忘れられない思い出となった。


    
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