【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第5章  永遠の愛をあなたに

第12話 ご招待は特別席

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 彼女の最後の舞台は、ザィールの国中で評判を呼んでいた。
好評で引き続き延長してはと、劇団ではマノン様の退団の引きめ話もでていた。
しかし、一度決めたからと彼女は首を縦に振ることはなかった。

「なんだか緊張してますわ。
私、観劇をするのは今日が初めてです。
ザィールに訪れてから、初めての経験をたくさんさせて頂いております」

馬車に乗りカルロスにはしゃいで話す彼女は、いつもより美しく見惚みほれて話を聞いていた。
彼に鼻の下が伸びていると、馭者ぎょしゃをしているタイラーに馬車に乗る前に茶化ちゃかされる。

「ベアトリスが先に観たそうだが、素晴らしかったと泣きらした顔で話していたっけ。
今日は、ハンカチを何枚持ってきてる?!」

冗談も普通に言える関係になっていた二人は、だんだんと他人から見てもカップルの感じが出てきている。

「おたわむれをと言いたいのですが、見てください。
5枚も持ってきました。
ドロシーさんの分もですよ」

「アーハハ、そんなことを言って全部グレースが使う羽目はめになるのではないのか。
もし、私が必要になったら宜しく頼む」

あー、胸がドキドキするわ。
着飾って素敵な殿方との観劇。
でも、二人きりじゃなくて良かった。
そんなにれてないから、ドロシーさんが居てくれて心強い。

   馬車は、仮面かめんやかたの近くの道に着いた。
タイラーは、ドロシーに馬車で迎えに行くと伝えていたからだ。

「ドロシーさん、素敵なドレスです。
魔女の服ではなくて、綺麗な紺のドレスですね。
髪もちゃんとってあって、口紅やお化粧までー!
私、なんか感動してます」

「会うなり、失礼な馬鹿な話をするんだい。 
私だってドレス位はあるさ!
売るぐらい持ってるじゃないか!」

確かにと男性陣は、仮面の館の中を思い出していた。

「カルロス様、いいんですかい。
グレースは時たま、あんなアホになる娘ですよ」

ザィールの父は、心配になり婚約者になる若者へ声をかけていた。

「それがまた可愛いのです。
頭は賢いが、抜けているのがまた良い。
今日は綺麗で、他の男に見せるのが嫌でたまらない!」

「そうですか……、言った俺が馬鹿でした。
さぁ、皆は馬車に乗ってくれ!」

3人に指示すると、馭者席に向かう。
 タイラーは、よくもあんなに惚気のろけられると自分が何故か恥ずかしくなっていた。

 劇場前は、着飾った客たちが大勢いてごった返している。
グレースたちは、少しだけ離れた場所から徒歩とほで行くことにした。
タイラーは終わり時刻から30分後に迎えに来ると言い、また屋敷に戻っていく。

「タイラー父様も、一緒に観れば宜しいのに。
この席は、特別に一人だけお付きの人が入れるから…」

「ハハハ、タイラーはお笑いの大道芸だいどうげいが好きだからね。
気取った芸術肌は合わないよ」

「さぁ、人混みが凄いですから気をつけて!
押されないように、ゆっくり歩きましょう」

こういうときは、男の方が頼りになるわ。
口々に客たちは最後だから、王族たちがいらっしゃると彼方此方あちらこちらで話題にしている。

「ザィールの王様が…。
本当に、マノン様は特別な女優さんでしたのね。
最初で最後の演じるのを観れて嬉しいけど、もっとたくさん観てみたかったわ」

「グレース、まだ1度も観てないんだから観てから評価したらどうだい。
ちゃんと、マノンの舞台をしっかり観てあげるんだよ」

ドロシーは発破はっぱをかけると、グレースの肩を軽くポーンと叩く。

入口でチケットを見せると、ボックス席は案内の人が席まで送り届ける手はずになっていた。

「グレース、私の側から離れないように。
今日の君は魅力的だからね!」

カルロスの歯が浮きそうな言葉に、ドロシーは自分の歯が本当にそうなりそうだと笑いそうになってくる。

「皆さん、気合きあいが入った格好かっこうをしてますわ。
ドレス新調して正解でしたわね。色も年配ねんぱいの方以外は派手はでなお色がいますし、今から踊りそうな雰囲気ふんいきですわ」

「そりゃあ、王族が来られるのだから気張きばるに決まってんだろう。  
ほとんどは、シルクのドレスだ!
アンタのもそうだろう?」

よく見ると、ドロシーのドレスもそうだった。

「こちらがお席の部屋になります。
お隣は、右側がヘイズ国王御一家で左側がアルバ公爵御一家になります。
始まる開演前にシャンパンと果物や軽い物を御用意してございますので、ごゆっくりなさって下さい」

案内係の説明に、グレースは口をぽかーんと開けていた。

「グレース、アンタおうぎは持ってきてるかい?
そのだらしない口元を、隠したほうがいい! 
カルロス!アンタもそういうのを、教えなくては駄目だろうがー」

部屋の中に先に入ってからドロシーは、若者たちに説教を始めてから席に着いた。

「まぁー、お二人共ご覧になって!
真正面に舞台がありますわ!
先ほどの話ですと、私たちの席は、真ん中になりますのね!」

この娘は何を呑気のんきな話をしているのかと、二人はある意味無知むちの怖さをうらやましく感じた。

「グレース、言いにくいけど…。今回のこの席は、本来は国王陛下が相応ふさわしいんだ!
マノン様は、私たちに一番いい席をお与え下さったんだよ」

話を聞き終わると、はしゃいで席から下の客席をのぞむ体がピタッと止まる。

「えーっ、それはいけませんわ!!
マノン様にお話して席をえて頂かないと、彼女が不敬罪ふけいざいつみになりませんか?!」

「はぁ~、この舞台はマノンの最後の芝居しばいだよ!
ましてや、私たちは彼女から招待を受けた。
それにまらない事を言って、役者の集中が途切とぎれたらどうするんだいー!!」

ドロシーはあき怒鳴どなり、腹をくくれとグレースのお尻を強く叩く。

「なかなか上質なシャンパンだ!苺もある、グレースたちも飲みたまえ」

女性陣は流石さすがは侯爵の坊っちゃんだと、その堂々とした飲みっぷりに感心する。
それは舞台が始まる、15分前の出来事だった。



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