【完結】魔がさし令嬢の国外逃亡は恋の予感

愚者 (フール)

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第5章  永遠の愛をあなたに

第13話 開演前の騒ぎ

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 美味しそうにシャパンを飲むグレースを、心配そうに見るカルロス。
観劇が始まる前から酔わせてはならんと、やんわりと彼は注意していた。

「グレース、その一杯でやめな!
酔っぱらって観るんじゃない。
それに、もう一人客が来るから行儀よくするんだよ!」

「へっ、誰が来るんですか?
ドロシーさんの身内の方ですか?」

ノックをしてから、一人の見知らぬ優しげな男性が入って来た。

「わぁー、なんて中性的な!
背はカルロス様より少し高いし、男性の骨格こっかくされてるから男の方ですよね?!
初めまして、グレース・マローと申します。
宜しくお願い致します」

丁寧かつ優美なカーテシーで挨拶する彼女は、酔ってはいないがれない場所で酔っていた。

「グレース、初対面の方に対してのご挨拶ではないよ!
すみません、カルロス・エーレンタールです。
何度かお会いしてましたよね?!」

「二人共、似たりよったりだよ。
おやっ、久しぶりだね。 
ウィルフレッド!」

次々に個性的な紹介に微笑ほほむしか出来ない彼は、まるで春の妖精王ようせいおうかと勘違いするような容貌ようぼうをしている。
明るい金髪は輝き、とおる新緑の若葉の瞳の色をしていた。

「ドロシーも元気そうだね。
初めまして、ウィルフレッド・カルテリです。
カルロス殿は父上のアキシミアン殿と同席していたのを覚えてます。
君がー。あのマノンが、気に入ったご令嬢だね」

目をぱちくりさせて、眩しそうに彼を見ていたグレースはある音に驚く。

突然派手な音が劇場中に鳴り響くと、全ての客が立ち上がりある方向を見ていた。
私たちを見てる?

「グレース、ザィール国王陛下がお見えになった。
右の壁に向かい、早くカーテシーを!!」

カルロスが急ぎ指示すると、すでにもう二人は最上の礼をしていた。
慌ててグレースも、それに習ってカーテシーをする。

また同じかねの音が鳴ると、静かに席に座りだす群衆ぐんしゅう

「もう驚きましたわ。
陛下がお見えになるのは承知しておりましたが、このような作法でしたのね」

緊張でひたいからにじんだ汗をハンカチで拭いて話すと、彼が心配顔で謝ってくる。

「すまない、前もってちゃんと教えてなくって…。
隣にいらっしゃる陛下に、ご挨拶を申し上げた方がいい。
私が、代表として行ってくるが宜しいか?!」

カルロスが皆に話すと、ウィルフレッドも御一緒すると言い二人して部屋を出て行った。

「私たちは宜しいのかしら?」

グレースは後ろのとびらをチラチラ見ては、落ち着きなくドロシーに意見を述べる。

下手へたにアタシらが出向くより、身分ある二人だけの方が無難だよ。 
ウィルフレッドは、あれでも公爵カルテリ家の嫡男ちゃくなんだった男だ。
マノンとの事で、実家から廃嫡はいちゃくされたのさ」

まさしく物語のような展開に、彼女は目が点になりそうになる。

「えーー!!
そんなお方が、マノン様のお相手でしたの。
素敵な方を想像しておりましたが、大物を釣り上げてましたのね。
まさに、大女優さんです!」 

「まったく、アンタは…。
良かったよ、一緒に行かなくて。
牢屋ろうやには入るには、この年寄としよりは辛いからね」
 
挨拶から戻ってきた二人は安堵あんどからか、部屋に入って扉を閉めた途端とたんに笑い合っている。

「どうでございましたか?
国王様に席の件で不興ふきょうを買いませんでしたか?」

気にしていた彼女は、男性方に真剣な表情で質問をしてきた。

「今日はご機嫌がうるしく、婚約者のカテリナ様の同席で納得されて下さった」

「愛する者が愛する方に、最善席で観て欲しかったのだろうとね。
陛下は、そう鷹揚おうように申して下された」

カルロスの次にマノンの婚約者が安心させるように陛下のお言葉を二人に伝えてくれた。

流石さすがは一国の王!
心が広くて助かった。
グレースは落ち着きなくって、あたしは見てるだけで疲れたよ!」

笑い声で部屋は賑やかになり、それを上回る開演のベルが鳴り響き渡っている。

マノンが子役から主役としてまで、立ち続けていた最後の舞台。

皆が視線を向ける先には静かに幕が徐々じょじょに上がっていくのを、グレースの瞳が映り込むのであった。

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