【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇

愚者 (フール)

文字の大きさ
4 / 91
第1章  思い出は夢の中へ

第3話 医師の勘違い

しおりを挟む
 子供って、上手に相手に言葉を伝えられないよね。
今ならもう少し選んで話せたのに、フッ愚痴ぐちっちゃったわ。
その後に、本当に自分は誰って考えるぐらいになりましたわよ。
両親が、急いで医師を呼んでくれた。

視線の先に、焦げ茶色の短髪に明るい茶の瞳をした男性。
真面目ですと顔に書いてあるみたいな人が、ベッドの脇の椅子に腰かけていたわ。
後日メイドのケイトから教えてもらったの。
王宮にも呼ばれる方で、ダニエル・リンドール伯爵で医師でもある。

えっ、名前にドが付いてないって?
王族と公爵しか、ドは付けてはいけないんですって。
本に書いてあったわ、理由はよくわからないけどね。

リンドール伯爵の娘さんが、流行はやり病で2歳の時にはかなく天に召されたそうなの。
そのことが原因なのか、とても 親身になっていただきましたわ。

彼は優しげで話しやすい方だったのが、わざいしてしまったようだ。
幼かった私は、言われた通りに素直に返事をしたのが不味まずかった。
まだ本調子ではなくて、気持ちを押さえられなかったの。

 リンドール医師は、プリムローズの身体を診察して考えた。
痩せすぎていると、普通の幼児はもっとぷっくりしている。
まさか虐待ぎゃくたいの言葉が浮かんだ、この国の筆頭ひっとうの公爵家が…。

そう言えば前に親友のニコライが、伯爵夫人が幼い我が子を虐待していたのを調査してたはずだ。
確か夫が外に愛人をつくり帰宅しなくなり、子供にあたっていたと…。

プリムローズに注意深く質問すると、次々に疑惑がでてくる。
これは専門家の意見を伺いたくなった。

「今日はもう疲れたよね。
また明日診察と、お話をしてもいいかなぁ?」

そんな笑顔で言われれば、嫌とは言えないよ。
こんなにしゃべったの久しぶりですわ、違う初めてかしら?
もしかしたら、私はおしゃべりだったのね。

  翌日ベッドで本を読んでいたら、扉からノックの音がした。
メイドのケイトが、扉を開けるとリンドール医師ともう1人いた。

医師よりも若い男性が入って来るわ。
くすんだ金髪が襟足えりあしの長さでフワフワし、目は淡い緑色していた。
顔はニコニコし、ほんわかする癒し系。
ニコライ・ラッセル先生で、リンドール医師の友人で児童専門のお医者様と紹介された。

また昨日と同じ質問を、リンドール医師は繰り返す。
どうやら大事な質問のようですね。

ラッセル先生は、私たちの会話内容を紙に書いている。
なぜか、私をずっと見てましてよ。
恥ずかしくて、照れちゃうと呑気のんきに思っていた。

「では家族で食事されているが、お嬢様のペースに合わせてくれない。
家族が先に終わってしまうので、最後まで食べられない」

「はい、あわててのどまらせたんですのよ!」

「昼は部屋でメイドは控えているが、1人なので寂しく食欲がないんだね。
これで、いいんですか?」

「はい、そうですわ!」

お返事は、ハッキリ言わないと元気よく。
ウンウンと意思表示してうなづく、プリムローズ。

ニコライは、質問と彼女の返事を書きながら思う。
こんな小さな子に、親たちは気遣いがなさすぎる。
可哀想かわいそうに身体的な暴行はないが、精神的な虐待ぎゃくたい拒食症きょしょくしょうになりつつある。

目線を遠くにしたら、彼女の机の上に本棚ほんだながある。
ちょっと気になり見ていた。
この子は3歳と、リンドールは言っていたなぁ。
しかし、この本はー。

あら、ラッセル先生が本棚を見ていらっしゃるわ。
ラッセルは、プリムローズに目を向けて話しかける。

「お嬢様の本棚の本を、見ても宜しいでしょうか?」

「ラッセル先生。
その本は、単語と意味で面白くありません」

プリムローズは、辞書の意味を知らなかったのだ。
辞書は引けるにのに、実に残念な少女だった。

頭の良い方は、本がお好きなのね。
執事長トーマスが、確か前に話してたわ。
公爵家の図書室は王立図書館に匹敵ひってきするって、本当なのかしら?

あらっ、ラッセル先生は真剣に見ておりますわ。
あの分厚い本は特別なの、役立つけど退屈なのよね。
字がいっぱいで眠れない時に見ると、すぐにウトウトするわよ。
何か不思議だわと考える、プリムローズ。

ラッセル先生の叫び声で現実に戻る。
おや、意外にも声は男らしいのね。
見かけは、女性みたいにはかなげなのに驚きましたわ。
リンドール医師もラッセルに近づいて、本をのぞき見すると同じ反応をした。
さすが先生同士、似た者ですわね。
 
2人が本を一冊ずつ持って、プリムローズのところまで戻って来た。
なになに、もしかして読みたいのかしら?
貸し出しって出来るのかしら?
2人は身元がしっかりしているから、了承は得られそうと考えていた。

しかし、違った返事が返ってくる。

「これはウィルスター語で、ニコライのはザイール語の辞書ですよね?
お嬢様は、文字を理解しているのですか?」

「辞書?この分厚い本は辞書というのですね。
教えてくれてありがとうございます!」

リンドール医師が、ウィルスター語で質問してきたわ。

『この言葉、どなたに習いましたか?』

『そこにいる。メイドのケイトですわ。
ねぇ、ケイト!』と、呼びかけました。

『はい、私の祖国はウィルスターでザイール国の近くの出身で、2か国語話せます。
私がお嬢様に教えておりました』

ケイト、さすがにネイティブですわ。
私もまだまだですわね。

【わざわざこの国に、職を求めてお一人で?】

ラッセル先生が、ザイール語で質問したわ。
おーっとラッセル先生も外国語が話せますのね。
先生だけあるわ、賢いですこと。

今のは個人情報なので、駄目だと思うわ。
横目でチラッと見て話す。

【先生、それはー】と、私が話している途中でケイトが話し出した。

【私も国を出たくなかった。
あの女が、あの女さえ居なければ幸せになれたのにー!】

ケイトは、口をとっさに手をあてて隠すケイト。
静まる部屋で、気まずい私たち。

【ケイト、お茶が飲みたいわ。
先生方と私の3人分をお願い出来るのかしら?】 

あ~あ、お茶菓子もと言う前に行ってしまったわよ。
もう、また熱が出そうですわ。

「この辞書は、お父様の許可が下りてここにあるのですね。」

「う~んとねぇ。
執事長トーマスに図書室の本が読みたいから、お父様に頼んでとお願いをしたの?
許可が出ました良かったですね、お嬢様と言われたわ」

リンドールとラッセルは、お互い顔を見合わせて複雑な表情になる。

「恐らくは絵本と勘違いしたのでしょう。
この本で家が買えますよ。
お嬢様、早く返しましょうね!」

「そういう訳で、ガラスケースに入っていたのね?」

プリムローズは両手でパチッと1度叩いてから、2人に笑ってごまかした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。

青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。 その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。 あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。 一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。 婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。 婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。 アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。 「小説家になろう」でも連載中です。 修正が入っている箇所もあります。 タグはこの先ふえる場合があります。

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

処理中です...