異世界魔王の勇者転生記 

タケノコご飯

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第一章  お帰りなさい、勇者(魔王)さま!

閑話 魔王の過去 (魔王、村にて。5.5)

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それは、俺が生まれつき底知れぬ『力』ーーそう、強大な『魔力』を持っていたのが全ての始まりだった。


10歳の時、体から込み上げる『力』を抑えきれずに俺は暴れた。
母も父も、俺を止めることができず、村の長老の魔法によって俺はようやく押さえ込まれた。
後で聞いた話によると、その魔法は、村に伝わる最高結界魔法だったそうだ。
数日後、この異様な程の『力』を心配した母と父は、俺を医者に見せた。
胸に手をあて、魔力の流れを診察していた医師の腕がピタリとまった。
が、またすぐに動きだした。
診察が終わると何故か俺だけが部屋から出された。
気になった俺は、扉に耳をあて、3人の会話を盗み聞いた。
その時に聞いた言葉を今でも覚えている。

『このまま魔力が溜まり続ければ、お子さんの体は、いずれ崩壊するでしょう』

それは、死の宣告。
死ぬことが怖い臆病な俺にとって、それはとてつもなく恐怖だった。
そんな時、俺の持つその『力』は、俺にこう訴えてきた。


 ーー『俺を使え』ーー

そうなのだ。
魔力を溜まらせないためには使うしかない。
死を恐れた俺は、その力の声に逆らう事ができなかった。
だが同時に、その力で悪事を働くような下等なヤツにも、俺はなりたくはなかった。
だから俺は父と母から受け継いだ純白の翼を持って旅に出た。
邪悪な心にならぬよう、己を鍛え、しっかりと大きな南京錠を自分の心にかけて。
そうして、俺みたいな『力』を奮って悪事を働く奴等を、片っ端から叩いていった。

『俺は、正義を貫きたい』

だから俺は、そんな悪党でも命までとったことはなかった。
そして俺の『力』が負けたことなんて、一度も無かった。
そんな強大な『力』を持つ俺を、俺が倒したヤツが慕うのも、無理は無かった。
そんなとき、俺は伝説の魔剣『ディアボロ』に見いられた。
いや、『見いられた』なんて大それたことじゃなかったのかもしれない。
多大な魔力で実体を持つこの魔剣は、俺の中に溜まり続ける魔力を餌にするために俺に『寄生した』のかもしれないからだ。
しかし、伝説と言われるその魔剣を操るおれを、皆は『英雄』と言って慕った。

数年後、俺は功績と力、信頼が認められ、世界中の王から位を譲り受けた。
それから暫くは、俺は皆に心から慕われる『世界の王』だった。
しかし、そんな俺を慕っていたヤツらの中には、当然、俺に出会うまでは悪事を働いていた元『悪党』もいた。
俺が『王』になった瞬間、喜ぶ反面、彼らは心に『自分達もなりたかった世界の『王』に、本当になってしまったかしら』に対する嫉妬の念を抱いていたんだ。
さらに数年後、そんな『王』の欲に溺れ、祝福したハズの俺の王の座を再び狙い、前触れもなく俺に挑み、散っていくヤツも少なくなかった。

だが、その時の俺は、彼等を自分の手で殺した事は、決してない。

だから、その時の俺は、俺を殺せず、自決する彼等の理由が解らなかったのだ。
しかし、欲に溺れていた彼らが、王たる俺に絶対的な『力』の差を感じとり、その欲を一生満たせないと直感した瞬間、俺の目の前で自ら命を絶っていったのは、必然だったのかもしれない。
俺は何度も『王』の位を退こうと試みた。
が、俺の『力』は、一度『王』になった俺を、いつまでも『王』の座に縛りつけた。
歯向かっては自ら散って行く彼らを、死を恐れる臆病な俺は、罪悪感に刈られながら、ただ相手することしかできなかったんだ…

「次期『王』候補者を殺し、なおも『王』で在ろうとする。」

いつしかそんな噂が広がり、皆は俺を『悪魔王』と囁き、恐れた。
俺が、上部うわべだけは俺を慕う彼等の、そんな本心に気づいた時には、もう心から俺を慕うヤツなんて誰一人としていなくなっていた。
俺すら知らない、有ること無いことを噂された後で、すでに悪名高い『悪魔王』と呼ばれていた俺に、弁解の余地なんて微塵も無かったんだ。

いつだったか、そんな考え事をしていた俺は、歯向かってきた少女をみずからの手で殺してしまった。
完全な事故だった。
本当に、殺す気なんてなかった。
気づいた時には、ディアボロが、深く彼女の胸に突き刺さっていた。
俺に心臓を貫かれた時、彼女は俺を睨んだ。
そんな彼女の目に、俺の良心はズタズタに引き裂かれた。
いつも俺に挑んだものが最後に見せる、欲が満たされず、哀しみに明け暮れた眼などではない。

その眼には言葉では言い表せないほどの憎しみが詰まっていた。

彼女は欲に溺れてなどいなかった。
死に際に、彼女は俺にこう言った。

「歯向かったヤツを…容赦なく殺す…『悪魔』…め…ッ!」

そう言って、静かに力尽きた。
体を支えていた力が抜け、少女の形をしたソレは、ズンッと重く俺の手にのし掛る。
ディアボロを握る手が恐怖で震えた。
彼女は欲に溺れているんじゃなかった。
彼女がしたかったのは『復讐』。


ーー俺は…何もしていないのに…

ーー俺は…『悪魔』なんかじゃないのに…

ーーなんで…皆わかってくれないんだ…?

ーーどうして…俺を目の敵にするんだ…?

ーー俺は…ただ…死にたく無かっただけなのに…

ーーただ…悪党になりたくなかっただけなのに…

ーーどうしてだ…?

ーーどうして…

ーー皆俺を…『悪魔王』なんて呼ぶんだ…!

ーー俺が…何をしたって言うんだ…!!

俺の悲しみは怒りに変わっていった。
髪を引っ掻き回し、声にならない叫び声を上げながら、俺は既にもぬけの殻となった少女の体を蹴った。
怒りに身を任せたその蹴りは、彼女の体を跡形もなく粉砕した。
返り血がベッタリと全身に飛び散り、俺の白い甲冑と翼は赤黒く変色する。
それが乾くと、甲冑と翼は漆黒に染まっていった。

俺は彼女に負けたんだ。
生まれて初めて知った『敗北』。
こんなにもむしゃくしゃするなんて思わなかっ…た……?

(……?)

そこで初めて、俺は自分を疑った。

ーーむしゃくしゃ…?

ーー俺は…何を考えている…?

ーー人を…それも…こんな少女をこの手にかけておいて俺は…俺は…?

壊れそうだった。
もう既に壊れていたのかもしれない。

自分が嫌になる。

嫌だ。

怖い。

皆を殺したくなんてなかった。

俺は悪人になりたくないどうして皆俺を悪人にするんだこれは力のせいだ俺は悪くないこんなの俺じゃない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だもうこんなことを繰り返すのは嫌だ死にたくない殺されたくないどうして俺が殺されるんだ俺はいつまで皆が死にゆく様を見続けなければならないんだ嫌だ俺は見たくない皆の死に顔なんてみたくない悪人以外誰も傷つけたくない自分が怖い怖い怖い皆が怖い俺を縛り付けるこの力と皆が怖い!

そんな俺を、『力』が見逃すハズがなかった。

『そうだ…

お前は弱いんだ…

もっと強くなれ…

もっと俺を使え…

もっともっとーー』

ビシビシと心の奥底にかけていた、大きな大きな南京錠にヒビが入ってゆく。

『ーー殺せ…!』

その南京錠に向かって、その『力』はハンマーを振りかざした。


ーー幼い頃、旅に出る前にかけたソレは





    ーー バ キ ン ッ ! ーー





ーー音と共に、簡単に崩れ去った。

今まで溜め込んできた、邪悪な『力』。
それは、一瞬で俺を飲み込んだ。




ーーあぁそうか…そうかよ…




その時、俺は変わった。
いや、変わってしまったんだ。

キラキラと光りながら飛び散る南京錠の破片から、幼い頃の俺の幻影が涙目で足下にしがみついてくる。
『こんな自分は嫌だ』と、泣きわめいた。

……こんなに俺は…無力だったんだな。

俺は無表情でソイツを蹴り飛ばした。
力なく宙を舞ったソイツは、地面に落ちる前にすうっと霧散した。
同時に、心の中の南京錠も跡形もなく、消えた。
もはや俺は何が『悪』なのかも解らなかった。

ーーそうだ…俺は『わるく』なんかないッ…!!


ーー俺は『あく』じゃないんだッ…!!!



ーー悪いのは全部ッ!! 俺を陥れた弱いオマエたちだッ!!!





だからその晩、俺は王都から悪人を消した。

悪人を消して消して消してーー






ーー 気づくと、王都は俺一人を残し、壊滅していた。








その時からだろうか?




』を嫌う俺が、この世界の『王』になったのは。













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