オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

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第一章 井の中の使徒

プロローグ

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 王都を目の前にして、初めて彼の中の本能が警鐘を鳴らし始める。


 フードを目深にかぶり、黒のコートで全身を包んだ格好。

 彼よりほんの少し背の低い少年だけが彼の前に立ちはだかる。


 そもそも、こんな何もない道でただ一人の少年が立ち止まってこちらを向いている意味が彼には分からない。

 王都へ続く道も半ば、見上げる空は灰色の雲が足早に彼の頭上を通り過ぎ、視界の中に否応なく入る木々はざわざわと揺れ始める。

 向かい風は強く彼と彼の仲間、それに少年にも平等に吹きつける。 

 フードの少年の右腕には白の包帯が巻かれ、全てを腕に巻くには長すぎる有り余ったそれの端は、ゆらゆらと彼に向かって靡なびく。

 彼が初めて村を出て四日間、これまで幾度となく魔獣に遭遇した。
  

 しかし、そのときとは、比べ物にならないほどの威圧と殺気、そして得体のしれない何かを少年から感じた。


 王都目前の街、カラグプルで戦ったときのミノタウロスのものとは…………、気配は似ていなくもないが勝負にはなるまい。


 そんな気配からなのか本能からなのかはわからないが、彼はそうするべきだと感じて、鞘から青白く光る剣を自然な流れで抜き、少年に向かって構えた。

 不思議なことに今や、この金色の鞘にも青白い剣にも愛着が湧いている。


 彼の後ろには、三人の少年少女たちがさきほどまでの和やかな空気のままでいたが、彼の様子の変化につられて、二人、杖を構える。


 攻撃要因と防御回復要因であった。


 残る一人はというと、何かヤバイこと起こる予感がしたのか、何かが始まったら全力(フルスピード)で逃げ出すような雰囲気を急にバンバン醸し出し始める。


 ここを越えて王都に着くことが出来れば、もう悩む必要なんてない。

 そう心の中で呟いて、彼は目の前に立ちふさがるものへと意識を切り替え、やる気を起こす。


 少年は何も言葉を発さない。

 そもそも、口元が隠れて見えないのだ。

 しかし、じわじわと魔法か何かがこの場に満ち始めているを彼は感じた。

 その少年が王都へと続く道を立ち阻もうとしていることは目に見える。


 この空気に呑まれまいと、彼が剣を構えて一歩踏み出そうとする。

 その瞬間、ふいにフードの少年が左手で銃を打つ動作をした。


 パリンっーーーーー!!!!!



 静けさの中、ある意味透き通り軽やかでキレイな音が響いた。

 その瞬間、彼は剣を握っていた右手が軽くなるのを感じた。
 こんなことが……あり得ない!!!!

 王都には強い騎士や魔法使いに溢れているため王都周辺は、定期的に魔獣は駆除され、安全に王都入りできるよう極端にモンスターの数が少なくなっていると。
 さらに、王都周辺に張られている強力な結界のため、普通のモンスターなら自ら近づこうともしないと。

 だから、地方に比べて王都周辺は安全なのだと。

 スートラの領主からも、これまで寄ってきたメター、ハイデの住人たちからも口を揃えて言われてきた。

 あと数百メートルで『王都に領主からの近況報告と援助願いという名目である親書を渡す』という今回の旅の目的が達成されるだろうという矢先、ありえないことが起こった。


 彼の持っていた剣が綺麗に真っ二つに割れていた。
 先端から柄までだ。


 彼は手に軽い痛みを感じた。

 頭では理解できていなかった。


 それでも体はとっさに、剣が完全に割れる寸前、柄から手を離していてくれていたようだった。
 軽く手のひらが切れて血が滲む。
 痛い。そして熱い。

 何かがあったら、速攻で逃げるだろうと思われていた少女でさえ一歩も動けなかった。

 彼がありえないと思ったのは、剣が折れたこと以上に少年が魔法を使っていないということだった。


 魔法だったり呪文だったりしたら、体や空気中から高魔力のエネルギーを発する。
 直前に何らかの前触れがあるのだ。

 それを瞬時に読み取り、判断して回避するだけの運動神経を持ち合わせているつもりだった。

 しかし、少年は手を動かしただけで呪文詠唱も、体や大気に漂っているエネルギーをも使わなかった。


 何も伝わってこない。
 しかも無音の攻撃だった。

 ノーモーションからの見えない一撃。


 少年は魔法の類の技を、なんて使っていない。
 少年を取り巻く空気がそう語っている。
 この事実を誰が否定できるであろうか、と。


 彼の場所からでは少年の顔も髪の毛も、ましてや口元さえもフードに隠れていてよく見えない。
 しかし、笑っているようにだけは感じる。


 やがて、段々と呆気にとられていた皆の意識も戻り始める。


 「一旦集合。ルカは最大の魔力を使っていいから、防御魔法をよろしく。ライアン、少年から目を離すなよ!!」


 そう指示を下し、彼は魔法使い二人と距離を縮める。

 彼が透明の防御壁の中に入ったときに、少女が一人、今来た道を猛スピードで走り始めているのに気がついた。
  
 全力で走る。走る。


 ーールカの魔法を、……いや俺たちの力を少しは信じてくれてもいいのに……。
  
 しかし、相手はあの時とは格が違うことは目に見えている。


 彼がそう思った次の瞬間、平穏であるはずの防御壁の中まで強めの風が吹き抜け、目の前の少年が消えていた。

 彼は自分の目を疑った。


 仲間に目を離すな、と言っておいて自分が見失うとは、なんたる失態だ。

 だが、少年から目を離していなかったはずはなかったのだが…………。


 「ユーリ、気をつけろ!!!」

 彼は少年を探すのをやめ、走る少女に向かって声を飛ばす。

 が、それが言い終わらぬうちに、フードの少年が、ユーリと呼ばれた少女の目の前に突如姿を現した。


 少女は驚きの表情を隠せない。

 少女は猛スピードのまま、しかしかろうじて横っ飛びに跳んだ。

 瞬時の判断だった。

 ーーー上手い。きれいなモーション。



 結界の中から見ていたからは素直にそう思った。
 彼女の前職っぷりが伺える。


 そのまま、少女はその反動を活かして地面を蹴り、身の凝らしも軽やかに回避した。

 昔のあれが、劣っていないようだ。


 「背の向けた奴よりも、相手をしなければならないヤツがいるだろうがーー!!!」


 攻撃要因の魔法使いが怒声をあげながら、炎のレーザービームをフードの少年に一直線に放った。


 魔法使いの彼は脚が震えていた。

 とっきの行動は虚勢であったのだが、少女を思っての勇気ある行動だった。


 しかしレーザービームの当たる直前、フードの少年は再び姿を消した。

 ドガガガガガーーーーーン!!!!!!!


 標的を失ったレーザービームは大きな音を立てて、木々をむやみになぎ倒す。


 そして次も、また、颯爽と逃げる少女の前に姿を現した。
 しかし、今回の少女の行動は違っていた。


 予測していたのだろうか。

 いつの間にやら、少女の片手に短剣、もう片方には爆弾が握られていた。

 そしてフードの少年が目の前に現れた瞬間、少女はその少年の方へ、片手の短剣に全体重をかけて飛び込んだ。


 「ビンゴーーー!!!!」

 そんな勝ち誇った少女の声とは裏腹に、フードの少年は、短剣を足で素早く弾き飛ばした。
  
 少女の握りしめていた手から、いとも簡単そうに。


 勢い余った少女は地面に投げ出される。

 運良く手から彼の元へ転がった爆弾も、フードの少年は、サッカーでディフェンスが相手からボールをカットするかように遠くに高々と蹴り上げた。


 そしてそれが落ちた瞬間、爆音と灼熱が放たれた。

 木々が燃えている。

 防御壁の中でさえ、熱風を感じる。


 「嬢ちゃんとの遊びは、もう飽きたよ。」


 少年が嬢ちゃんと言う呼び方には、その外見からかいささか違和感を感じる。


 投げ出された瞬間に額や手に軽く傷を負い、さらに自らの爆弾の被害をもろに受け、少女は血を流す。

 それでも少女は少年をにらみ、立ち上がろうと片膝をつく。


 少年はゆっくりと傷ついた少女の元へと歩いていく。

 そして、立ち上がった少女の額に包帯の巻かれた右腕をつき出す。


 少年が開いたその手を閉じた瞬間、彼の周囲が突如霞んだように見えた。


 そして、その手を開いた瞬間、…………………、しかし、さも何でもなかったかのように、何も起こらない。

 そんな気配すらない。


 またもや、少年の行動は無音だった。



 フードを深々とかぶり、依然として熱風にはためく長い包帯。
 優しさの感じさせるような荒々しさの欠片もないゆったりとした動作。

 ーーーーーー。


 すると……しかし、スローモーションのように少女は倒れた。
  
 極めて静かな動作だった。

 少女の肩が小さく揺れている。

  
 まだ息はあるが、失神しているようだ。


 「あと、三人。これでもまだ、僕は«百ぱーせんと»の力をだしてないのになあーー。…………まあまあ、そんなに怯えないでよ。僕も今、ヤラなきゃいけない時なんだよ。最善策。僕も偶然ここを通りかかっただけで予想外だったけど……これも一興と思うことにしたから、安心してよ。ヤったげるよ、僕自身の手で。…………今すぐにね☆」


 目元こそは見えないが、にまっと笑った歯だけが見えた。

 安心させようとする言葉なのに、なぜか彼の背中に悪寒が走る。

 どうやら、逃げるという選択肢は無い。

 彼は戦うしかないようだと確信する。


「……あんたが何者か知らんけど、ユーリの仇取らせてもらう」


 そう言って、彼は魔法使い二人の肩に手をのせた。

 なんかついこの間も同じようなシュチュエーションだったな、とふと彼は思った。


 フードの少年が常人ではないのは見なくても雰囲気で分かる。

 しかし、彼自身も運の悪いことに、常人ではないらしい。
 ……謙譲ではない。

 モチロン、コトバドオリ。


 愛する長剣は折られてしまったので、仕方なく彼は両手に一本ずつ短剣というか、いや違う。

 "くない"を握りしめる。 


 「ライアンはメイン攻撃と援護射撃、ルカは防御結界…………、とやられたユーリの回復ができそうなら頼む。無茶はするなよ!!」


 そういって彼は景気よく煙幕玉を投げつける。

 フードの少年はそれをも蹴り返そうとして、もろに煙幕を受けた。まとわりつくものを振り払おうとする強い意志を感じるが、その外見と行動からは子供らしさが垣間見える。


 しかし、中身は得体の知れない不気味さがある。

 人間を超えた悪魔と言われても、彼らは驚きはしないだろう。

  
 少年の欠片もない強さがそれを物語っている。

 彼は防御壁から出て、走り始める。
  

 無事に使命を果たせるはずだった旅が、王都を目の前にして、思わぬ邂逅にあった。

 それは、誰もが望んではいなかったが………否応にも俺達の戦いが始まった。


後書き

こんにちは、またはこんばんは。
羽田 智鷹です。
読んで下さりありがとうございます。

分かっていらっしゃるとは思いますが、プロローグは時系列的にズレさせているので、「固有名詞とか、人の名前も誰が誰だかわけわかんねーよ」と思われるかとしれませんが、次からが本当の一話目に位置する話なので、そのままページをめくってくださると嬉しいです。

まだまだ自分は新参者なので、感想、評価、直した方が良い点なのがございましたら、言ってくださると助かります。

次回予告、「サバイバルマッチ」
それでは第一章スタートです!!

 
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