25 / 79
第一章 井の中の使徒
第一章 二十三話 ・
しおりを挟む「ルカ、ライアン。ユーリをかばうぞ」
「『緊急展開(テクト)』!!」
ルカは俺たち三人の後ろに立つユーリを囲むように防御魔法を発動させる。
俺たちとついてきたばっかりに不幸にあっただなんて、ユーリに思われないためだ。
少年が一歩ずつ、ゆっくりとこちらに歩き始める。
「『越炎(オーバークロス)』」
ライアンの無数の炎弾が少年めがけて飛んでいく。
しかし少年は避けようとしなかった。
当たった箇所で爆発が起き、煙で少年の姿が霞む。
しかし少年は歩みを止めない。
まったく決定打には至っていなかった。
なにか大技の一撃で決めないと……。
少年の歩みを止めなければならない。
と次の瞬間突風が吹き抜け、俺の目の前から少年が消える。
少しのタイムラグがあったあと、一番後方にいたユーリの目の前に立っていた。
ユーリの驚愕した顔が目に入る。
少年はゆっくりとした動作で包帯の巻いてある右手を前に突き出した。
正拳突きだ。
一瞬でルカの防御壁が砕け散る。
キラキラと防御壁の破片が消えてゆく。
ユーリが間髪入れずに目の前に向かってきた少年に回し蹴りを入れようとした。
瞬時に、少年は俺たちの目の前に戻っていた。
「そろそろ君たち、満足かい? 僕は出会った瞬間に決着をつけるなんていう勝者ザコしか楽しめないことはしないんでね」
「てめー、言いたいんだ」
ライアンが声を荒らげる。
相変わらず少年の顔は見えない。
「気分を害したなら、申し訳ない。でも僕には帰りを待っている同胞がいるんだ。そして僕は今この場で君たちの力を収集できる。実に合理的だ。だからそろそろ貰うよ」
本心から本当のことを言っているかどうかは分からない。
しかし、この停滞した時間が動き出き始めようとしていることは分かった。
俺は即座に煙玉を地面に投げつけた。
「一旦集合。ルカは最大の魔力を使っていいから、大規模の防御魔法よろしく。ライアンも特大の炎弾が出せる準備を……。あと、絶対に少年からは目を離すなよ!!」
そう指示を下し、俺は魔法使い二人と距離を縮める。
俺が自らが使った煙幕をかき分けるようにして、ルカの透明の防御壁の中に入った。
煙が晴れ始めたとき、少女……ユーリが一人、今来た道を猛スピードで走り始めているのに気がついた。
全力で走っていた。
疾走。
先程のいきなりの攻撃に耐えられなくなったのだろうか。
それとも救援を呼びに行くとか……。
しかしルカの魔法を、……いや俺たちの力を少しは信じてくれてもいいのに……。
と俺はそう思いつつも、相手が一人であるにも関わらず盗賊たちの時とは、状況が違うことは目に見えている。
俺がそう思った次の瞬間、平穏であるはずの防御壁の中まで強めの風が吹き抜け、再び目の前の少年が消えていた。
俺は自分の目を疑った。
ライアンたちに目を離すな、と言っておいて俺自身が見失うとは何たる失態だ。
だが少年から目を離していなかったはずはなかったのだが…………。
俺は瞬時にユーリに向かって二本のくないを投げつけた。
少年は再びユーリに向かっているに決まっている。
くないのスピードが少年の移動速度よりも早いはずだと信じたい。
「ユーリ、(少年と俺のくないに)気をつけろ!!!」
くないと少年の両方の脅威を知らせる。
即座に振り返りユーリはくないを確認した。
そして再び前方を向こうとした瞬間、俺の投げたくないが突如姿を消す。
それでも、走るスピードを落とさない。
くないの脅威が消えたなら、あとは少年の脅威から警戒するだけだ。
そして数秒後、フードの少年がユーリの目の前に突如姿を現した。
ユーリは驚きの表情を隠せない。
ユーリは猛スピードのまま、横っ飛びに跳んだ。
瞬時の判断だった。
ーーー上手い。きれいなモーション。
結界の中から見ている俺はそう思った。
彼女の前職っぷりが伺える。
ユーリはそのままその反動を活かして地面を蹴り、身の凝らしも軽やかに少年を回避した。
昔の盗賊技術が、劣っていないようだ。
「背の向けた奴よりも、相手をしなければならないヤツがいるだろうがーー!!!」
ライアンが怒声をあげながら、防御壁の中から炎のレーザービームをフードの少年に一直線に放った。
見るとライアンの脚が震えていた。
とっきの行動は虚勢であったのだが、ユーリを思っての勇気ある行動だった。
風は吹き荒れ、ねらいが定まっていなかったからのこともあったかもしれないが……。
しかしレーザービームの当たる直前、少年は再び姿を消した。
ドガガガガガーーーーーン!!!!!!!
標的を失ったレーザービームは大きな音を立てて、木々をむやみになぎ倒す。
そして次も、また、颯爽と逃げるユーリの前に少年は姿を表した。
いい加減しつこいものだ。
しかし、今回のユーリの行動は違った。
予測していたのだろうか。
いつの間にやら、ユーリの片手に短剣、もう片方には爆弾が握られていた。
昔使っていたほうの短剣ではなさそうだ。
そしてフードの少年が目の前に現れた瞬間、ユーリは少年の方へ、片手の短剣に全体重をかけて飛び込んだ。
「ビンゴーーー!!!!」
そんな勝ち誇ったユーリの声とは裏腹に、フードの少年は短剣を足で弾き飛ばした。
ユーリの握りしめていた手から、いとも簡単そうに。
少年の華奢な足に力があるようには思えない。
しかし俺が小さい頃にさんざん聞かされた神話に登場する英雄たちも大男ではなかったことをふと思い出す。
人は見た目によらず、魂のみが全てを語る。
お話の中の彼らは何かを持っていたのだろう。
特別な何かを……。
勢い余ったユーリは地面に投げ出される。
運良く手から彼の元へ転がった爆弾も、フードの少年はサッカーでディフェンスが相手からボールをカットするかように遠くに高々と蹴り上げた。
そしてそれが落ちた瞬間、爆音と灼熱が放たれた。
木々が燃えている。
防御壁の中でさえ、熱風を感じる。
「『氷気(アイスヒュージ)』!!」
ルカは俺たちのところへ、熱風がこないように大気を冷やす。
見ると少年の肌は所々傷が生じ、熱風でコートも切り裂けている。
コートを通してだが、少年の背中に深々とくないが二本刺さっているのも確認できた。
いつの間にか少年の背中の黄金の剣は消えていた。
「すこし時間をかけすぎたかな。この忌々しい身体め。……はは、はははは。嬢ちゃんとの遊びは、もう飽きたよ。」
少年が嬢ちゃんと言う呼び方には、その外見からかいささか違和感を感じる。
ユーリも投げ出された瞬間に額や手に軽く傷を負い、さらに自らの爆弾の被害をもろに受け、血を流す。
それでもユーリは少年を睨みつけ、立ち上がろうと片膝をつく。
少年はゆっくりと傷ついたユーリの元へと近づきゆく。
そして、立ち上がったユーリの額に包帯の巻かれた右腕をつき出す。
少年が開いた手をゆっくりと閉じた瞬間、少年の周囲が突如霞んだように俺には見えた。
そして、その手を開いた瞬間、…………………、しかしさも何でもなかったかのように何も起こらない。
フードを深々とかぶり、依然として熱風にはためく長い包帯。
優しさの感じさせるような荒々しさの欠片もないゆったりとした動作。
ーーーーーー。
またもや少年の行動は無音だった。
すると……しかし、スローモーションのようにユーリは倒れた。
極めて静かな動作だった。
まだ息はあるが、失神しているようだ。
「死んでもらってはせっかくの僕の苦労が台無しだよ。……あと、三人。これでもまだ、僕は«百ぱーせんと»の力をだしてないのになあーー。…………まあまあ、そんなに怯えないでよ。僕も今、ヤラなきゃいけない時なんだよ。最善策。予想外だったけど……これも一興と思うことにしたから、安心してよ。ヤったあげるよ、僕自身の手で……今からね☆」
目元こそは見えないが、にまっと笑った歯だけが俺たちには見えた。
安心させようとする言葉なのに、なぜか俺たちの背中に悪寒が走る。
「……あんたが何者か知らんけど、ユーリの仇取らせてもらう」
誰も逃げようとは思っていなかった。
そもそも無理言って俺たちがパーティーに誘っておいて、つい先程入ったばかりのユーリが一番初めにやられたことを黙って見過ごせるはずもない。
俺はライアン、それにルカの肩に手をのせた。
なんかついこの間も同じようなシュチュエーションだったな、とふと思う。
フードの少年が常人ではないのは見なくても、雰囲気で分かる。
しかし自分も運の悪いことに、常人ではないらしい。
魔法が使えないことだが……。
愛する長剣は折られてしまったので、仕方なく両手に一本ずつ残りの短剣というか、いや違う。
"くない"を握りしめる。
「ライアンはメイン攻撃と援護射撃、ルカは防御結界………………とやられたユーリの回復ができそうなら頼む。無茶はするなよ!!」
そういって俺は景気よく煙幕玉を投げつける。
そんな小道具は意味がないとばかりに、フードの少年はそれをも蹴り返そうとした。
もろに煙幕を受けた。
まとわりつくものを振り払おうとする強い意志を感じるが、その外見と行動からは子供らしさが垣間見える。
しかし、中身は得体の知れない不気味さがある。
人間を超えた悪魔と言われても、別に驚きはしないだろう。
少年の欠片もない強さがそれを物語っている。
「ライアン、俺が時間を稼いで状況を作るから前のサバイバルマッチの時のあれを見せてくれよ」
「ああ、とびきりのやつだな」
ライアンが自信有りげに答える。
「私も援護する。ライアン期待してるよ」
「久しぶりに戦ったが、この身体。実用性に欠けるな」
少年が呟くと再び、手で銃を打つ真似をする。
「『旋風(ウィンディア)』!!」
ルカの魔法による風に煽られ、少年の人差し指は小刻みに揺れ動く。
「チッ」
少年は指を構えるのをやめた。
俺は再び接近戦でまみえようと少年に接近する。
少年はフードが翻らないように左手で抑えている。
フードを俺が手に持った"くない"がかすった瞬間、少年は後ろにのめり、反らした体を戻す反動でそのまま少年は、俺に回し蹴りを繰り出す。
俺は両腕でそれを受け止めたが、それでも少し後方へ押し返される。
腕が痛い。
脚力も普通ではないようだ。
すぐさま、間髪入れずに俺は二本のくないの連撃で応戦する。
少年は後方に下がりながら、素早くかわす。
「ここに永劫、重圧をもを覆す炎帝……」
ライアンの発動時間まであと数十秒間。
と少年が包帯の巻かれた右腕を前に突き出した。
遅れて俺の体前面幅広く、衝撃が伝わる。
ズドーーーーー!!!!!
俺はルカの近くまで吹きとばされた。
ルカは一応はユーリを安全な場所まで回収し終えたようだ。
「回復させるのには時間がかかりそう。だからひとまず援護優先するね」
それからはルカは少年にひたすら魔法を放つ。
十、九、八、七、ろく。
あと少し。
ライアンの口元が、歪む。 次第に笑みが溢れだす。
毎回思うが、勝負が決まってから喜んでほしい。
「時は満ちた」
しかし、ライアンが言うべき言葉を少年が口にした。
少年の右腕の包帯が自然と解け、肌がむき出しになる。
しかし見るとその肌は黒い鱗のようなもので覆われ、とても人間のそれではなかった。
少年はそのままその腕を、魔法発動の途中であるライアンに向かって突き出した。
ライアンは呪文詠唱を続けているため、動くことができない。
急に空は陰り、辺りが暗くなる。
「『ターン・ペパッター』!!」
それは、紛れもなく魔法だった。
大気の魔法粒子に変動が起きているのを俺は悟る。
突如、ライアンが発動寸前だった呪文詠唱を辞め、言うべきではないはずの言葉をその口から発した。
「そうか、あなたがそれだったとは……。神に導かれしもの。幾多の冒険をしてきた精神、揺るがない決意。あなた様は、やっぱり我らを導く存在です」
ライアンが目の色が変わる。
赤く濁った目の色だ。
空にはライアンの完成途中の巨大炎弾が漂い、ここ上空を赤く照らす。
「英気を養うつもりが、逆に消費する技を使ってしまうとな……。僕も愚かだな。だが、これも必然」
少年は笑い、俺にも手を伸ばす。
ジビューンッッ!!
俺の中に何かが入ってくるのを感じた。
「さあ、役者は揃った」
少年はとても楽しそうにそう言った。
後書き
次回予告 第一章終話「ラグナ」
0
あなたにおすすめの小説
年増令嬢と記憶喪失
くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」
そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。
ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。
「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。
年増か……仕方がない……。
なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。
次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。
なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる