オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

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第二章 交錯・倒錯する王都

第二章 五話 親父と王

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 「あっ、そうだ。王様はスートラの領主とお知り合いなんですよね? ジジィのやつ、『俺は昔は強ったぞ。なんだったら王と共闘したことだってあるんだからな。ガハハハ』って相当な数聞かされてきたんですけど、ぶっちゃけ本当ですか?」

 俺はジジイのことがよく分からない。

 そもそも生きている時間が違う。

 だから理解なんて無理なのかもしれない。


 俺よりも長くジジイを見てきたであろう王様のほうが、俺よりもずっとよくジジイのことを知っている王様から聞いたほうが、俺のジジイへの理解が深まるかもしれない。


 「それを聞くとシャネルの野郎も元気そうで何よりだな。余はあやつとはこのように距離ができてしまったからな。めったに会う機会がなくてだな」

 肩にかかった長い白髪を後ろに払い除けながら、くもらせていた目を若干輝かせて語る。

 「だかそれは間違ってはいない」



 「そういえば、僕たちもスチュアーノの昔の話はそこまで存じてないな」

 「だね☆」

 セロとスチュアーノは顔を見合わせる。


 「そうなんですか?」


 案外、ジジイとこの王様は気のおけない仲であるらしい。


 「まあ、別に隠すような話ではないからこの際話すとでもしようか」



 「というか今、アンタは何歳なんだ?」

 ライアンはふと疑問に思ったかのように呟く。


 「そこは秘密だ。少年らの領主、シャネルとはよく一緒に戦っていた。とは言うても『二皇三帝戦争』の後であったがな」


 どうやら、世界は常に俺たちの意識の先を行くらしい。
…………、いや俺たちの理解が追いついていないだけか。


 「すみません。多分俺たち四人、その『にこうさんてい』戦争知らないと思うんですけど」


 セロにスチュアーノ、ましてや無表情が売りであるかのような王様でさえ驚いた顔をする。


 「じゃあさっきから我々がずっと使っていた『邪翼』についてもか?」


 「ちょっとー。お兄さんたち。この王が喋ろうとしていたのに、勝手に話の腰を折らないでよ☆ その辺については後でしっかりスチュアーノが説明してくれるから☆」


 セロは片目をウィンクした。

 今度は俺たちがセロに注意されてしまった。


 しかし呼ばれたスチュアーノさんはさも嫌そうに、


 「僕ですか? 何で僕なんですか? それなら言い出したセロ自身が説明するのが筋なんじゃないのですか?」


 「私は早くこの珍しく自分の話をしようとしてる王様の話が聞きたいの☆ だから勝手なことしないでね☆」

 「僕にだって意思というものが……」


 と、セロは手に持っていたフォークをスチュアーノさんに向かって投げた。


 するとそのフォークが空中で姿を変え、水しぶきとなってスチュアーノさんに降り掛かった。


 ピシャリ。   冷たそうだ。


 「えっ、それってどうやってや……」

 「ライアン、今聞くのは辞めとこうぜ」

 こうも空気が読めないと、この童女に俺たちまで攻撃されそうだ。

 「そうだね。また、あとで聞けばいいよ」

 ルカも同意する。


 皆この童女に恐れているはずはないのに、なぜかこの場をこの童女が仕切っている気がする。


 「では改めて。『二皇三帝戦争』が終わったあと、この国のあちこちで多大なる被害を受けていた。仲間を失った者。家族を失った者。怪我を負い、自由を失った者。生きる意味を失った者。乱世の世の中でまだこの国が進む先が決まっていなかった頃、余のその時はお前たち以上に若かったし、怖いもの知らずだった。そんな時、当時の王は王都で負傷していない者たちを集めて即席の騎士団を作った。そこにそのシャネルの野郎もいた。これが余とやつとの最初の出会いだ。やつは結構な自信家で暑苦しいかった。というのも王に会うやいなや、"こんな国にするならこの国をくれ"って言い出したんだな。で当然そんな大馬鹿野郎は"王家の血筋"の加護を持つ王には勝てなかった」


 「"王家の血筋"ってなんですか?」

 またまた、ヤババなワードが聞こえてきた。

 「簡単に言うと王家の者だけが持つ強大な力ってやつですね。しかしそのせいで力に耐えきれない者はそう長くは生きられない。どの国の王族にとって厄介なものでもあるのですよ」


 スチュアーノさんが懇切丁寧に補足説明をする。


 「じゃあ、この国にもそのような力を持っている人がいるってことなのよね?」


 「そうだ。とはいえ余の国には一人しかおらぬ」

 「実際に何やってみてくれよ」

 ライアンが物珍しげに言う。


 「すまぬが余はそれではない」


 またまた複雑な事情がありそうだ。

 「じゃあ王様なのに王家じゃないってことなのか?」

 俺が訊ねる。

 「ああ。実際の王家の者がまだ若いから、余は代わりにやってるだけだ。彼女以外はいないしな。では続きを話すぞ。シャネルの野郎が王と戦う姿を見て、余も体が無意識的に動いてな。気づいたらシャネルの野郎の援護をしてしまったのだ。しかし先にも言った通り余らは王に負けた。そこから王のめいで余とやつは、南の方の警備に飛ばされた。この国の弱っているところを他国に攻められないようにと防衛のためだったらしいが、乱世は色々と間違っている。地方では国民自身の蜂起が起きていてな。幸い、他国からの攻撃はなかったが、内部からの戦乱を鎮圧するのに多大な労力を要した。余らが王の命令通りそれやこれやしているうちに、王からある程度の地位がお与えになられた。つまりは余らが王の配下になったというわけだ」


 この王様自身、成り上がったということか。


 「へえ~。ジジイのやつも全然自分のこと語らなかったからその話すら俺は知らんかったぞ」


 「じゃあ、そのシャネルさんも当然強いんですよね?」

 スチュアーノさんが訊ねる。


 「いや、それはないだろう。若いことにドンパチして無理したツケが来ているのであろう。今や王都から出て、地方で開放的に暮らしているただの老いぼれ頑固ジジイだ。それが余とやつとの大きな違いというものだ」


 「そうだぜ。ただの口がうるさいジジイ。ちょっと郊外で俺が魔法を使っただけで怒る筋肉バカで馬鹿力」


 ライアンも同意している。

 「そうか。昔と変わらんな」



 「じゃあなんでシェレンベルクさんが今、王になれたの☆? シャネルさんもいたのに~☆」


 「それは余が当時の王の配下の中でトップまで上り詰めたからだ。シャネルの野郎は大人数をまとめるのは苦手とか口に出して、独断で行動することが多くなってな。勝手に王直属の配下を辞めて、地方を巡ると言い出したときにはとうとうおかしくなったか、と余は思った。やつもスートラで王様の真似事のようなことをしているが、やはり余とやつのやり方は違う」


 「王様はシャネルーーーージジイに会いに行こうとは思わないんですか?」 

 「それは、無理だ」

 「えっ、なんで……?」




 「それは、王都からシェレンベルクを中心に回っているからだよ」

 スチュアーノが気さくに説明してくれるが、俺にはよくわからない。

 王を中心に街が回る?


 「王が使っている魔法というか、術式が街全体で発動してるからだね☆ だから王がこの街から出たら、効果が切れ、秩序が崩壊する☆」


 「それって、どんな魔法なんだ?」

 「お兄さんたちも不思議に思っていたアレだよ☆」


 そう言って今度は、俺に向かってセロは手元にあったナイフを投げつけた。


 さっきと同じように空中でナイフは水へと姿を変える。

 そして、そのまま俺の顔へ直撃した。


 「冷たっ!!」

 「それ、どうなっているんだ?」

 待ちきれないように、ライアンが再び訊ねる。


 「フィルセ君たちはこの街への入り方が特殊だったけど、実際は王都の結界門では厳重な審査を受けるのですよ。一定の資産は持っているか、とか、武器や危険物である能力強化品アイテムを持ち込んでいないかとか調べるのです。見ての通り、この街では武器は実態を無くし、完璧に無力化状態となる。武器自体街の中で見かけることもないため、武器や能力強化品アイテムの種類については調べる必要は本当はないのですが……。中には寿命があるものや実態がないものの、いつの間にか勝手に効果を発動するものありますからね。そんなものを王都へ持ち込んでも、王様の魔法でその効果を打ち消し、ただ消費してしまうことになるんです。だから王都へ持ち込まないほうがよいものを助言したりするのですよ。それと今セロがやったように、手から離れた武器になりうるものは水へと姿を変えます」



 「これが王の魔法?」

 「そうです。かなり大掛かりな魔法なので王都の至るところに魔法陣が貼ってあります。そのため、効果は王都全体で効きますし、解除するにも手間がかかるほどです」


 「シャネルの野郎も似たようなことをやっているようだが、そもそもこの街に武器は存在しない。杖のない魔法は唱えることはできないし、たとえできたとしても大事に至るほどの威力もない。この王都が国の中で一番安全だって言い切れるほど治安がいい」


 「まあでも、無力化してる武器も王都の外に出れば元通りになるよ☆」




 「あとはこの城にも特別な魔法がかかっているのですよ。何せシェレンベルク直々に住んでいる場所だからね」

 「喧嘩ができない魔法とか?」

 俺は適当に言ったのだが、あながち間違ってはいないのだろうと思って訊ねた。


 「そこまで国民の自由を縛ったりするつもりはない。喧嘩をしたければすればいい。友人と喧嘩ができるのも平和の証拠だからな」

 ーー、全然間違ってたーーー。



 「じゃあアンタはどんな魔法を使ってるんだ?」

 ライアンは王をアンタって呼んでいるけど本当の本当に大丈夫なのだろうか?

 「『固定(ホールド)』という中級魔法をこの城全体にかけてある」

 「見せてあげるよ☆」


 セロはそう言うと、今度はリニゴを手に持って壁に飾ってある国のエンブレムに向かって投げた。


 今度はリニゴは水に姿を変えない。


 金属製のエンブレムにぶつかって激しい音がすると俺は覚悟した。

 しかし、音は聞こえない。
 みるとリニゴは静かに床に転がっている。


 リニゴが持っていたエネルギーを壁が吸収したようだった。


 「これがその魔法だよ☆ 城自体を傷つけることはできない☆」


 

後書き

夏休みって一体何なんだろう

次回予告 「昔々の物語」

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