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鬼喰いの森 ~ 香妖の森
57. 風の夢を見る (15日目)
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※芽芽視点に戻ります。
****************
気がついたら、私は見晴らしの良い山の頂上にいた。
遠くの街々があますところなく見渡せる。周りの新緑もキラキラ輝いていて、なんてキレイ。紺碧の空に響くのは、鳥たちの美しい歌声。
樹々の香りを肺の中に、深くゆっくり吸いこんだ。
≪しあわせ……≫
ふわり。
風が私の周囲を舞うように、通り抜けていく。
ふわり。
今度は方向変えて、また戻って来たよ。
≪およ。君、少々動きがおかしくないかい?≫
風は少し躊躇して、またふわりと周囲を飛び回る。なんだか気に入られたっぽい。でも無色透明だと、どこが顔だか判らんね。
あ、君もそう思う?
なんか、同意を得られた感がする。うまくいえないけど、そんな気持ちが風から伝わってきた。
≪カチューシャみたく、姿、いる?
フィオみたく、名前、いる?≫
試しに訊いてみると、うれしそうに私の周りをハイピッチで飛び回りだした。
風さんよ、ちと寒い。
柔らかめをお願いすると、また元の『ふわり・はらり』という飛び方に戻ってくれる。そして8の字回転。最早フツーの風じゃないな。
ま、それも個性だ。人生で散々『普通じゃない』と貶されてきた身としては、君の不自然極まりない動きを大いに評価するよ。
さて。まず姿。
うーん。風かぁ……飛ぶ……羽……もふもふ……ぴよぴよ……ちゅんちゅん。
――シマエナガ!
私の頭上で雪ウサギみたいな小鳥がぽふん! と登場した。スズメの一種で、真っ白い羽毛が雪の妖精みたいな子。
わわわ、落っこちないように慌てて両手の平を広げて受けとめる。目の前に持ってくると、即キュン死しそうなくらいに可愛らしい。
あ、でも真っ白はカチューシャだった。
この国の『風』ならテーマカラーの紫は? お守りストラップとか竜騎士マントみたいな濃い紫じゃなくて、全体が薄~いラベンダー色。
尾っぽや翼は、もうちょっと濃い目の紫にしようか。そう、淡い色した生え際からモーブ色に移って、さらに羽先は濃くして。ところどころ銀粉が煌めいていたら、もう最高。
ついでに、うるうるの瞳は一見黒に見えちゃう、うんと濃いアメシスト色。
金髪碧眼のクラスメイトが、部屋の中でも太陽光が苦手だって話してたからね。目の色素が薄いせいで、真夏でなくてもサングラスをかけていた。その苦労はさせたくない。
名前はそうねぇ……君、男の子? お、当たった。
じゃあ――タウシーク! 確かウルドゥー語で『成熟』とか『強くなる』だよ。
以上が、正式名称で。愛称は――タウ! ボツワナだったかな、アフリカの言語で『ライオン』だ。カッコいいでしょ。
パタパタパタ、と手の平から飛びだした小鳥が周囲を楽しそうに飛び回る。なんて可愛い! うんうん、お友達だね。こちらこそ宜しく。
****************
≪芽芽、起きなさいっ≫
犬の肉球がべこんっと額に置かれた。むむむ。もっと寝かせておくれ。
≪起~き~ろっ≫
≪カチューシャ! 芽芽ちゃん、痛がってるよ。お顔に爪の痕がついちゃうよ≫
ありがとう、フィオ。現実世界の癒しは君しかいないわ。
そいでカチューシャ、私は世界むきゅむきゅ肉球愛好会・異世界支部所属だから、乗っかるなとは言わん。人を踏みつけたときに、肉球へ全体重かけようと試みるのをやめい。
≪もうっ! せっかくいい夢みてたのにっ≫
≪夢~? どんな?≫
ごろりと寝転がりながらも興奮冷めやらずで、すぐ隣に座っているフィオにシマエナガのタウちゃんの話をする。もうね、超絶ラブリーだったのよ。
ふべしっ!
カチューシャが尻尾を乱暴に振り下ろした。だから、サモエド犬はそんな尻尾の振り方じゃないっ。世界もふもふ尻尾愛好会の――。
≪だから! さっきからいるの、その鳥!≫
――へ?
ぱたぱたぱた、ぽて。
薄ラベンダー色した小鳥が私の胸元に留まった。……うん、タウだ。えーと。
ちょっと状況を整理しよう。私は昨日、男色カマキリ竜騎士から金竜コインをぼったくって、プロでもないのに歌唄わされて、そいでフィオとカチューシャの間で川の字になって三人仲良くまったりゴロゴロして。
寝落ちしそうになったけど、夜中に起きなおして、結界石のおまじないもちゃんとした。
ほいで今だね、朝だね……サボテン女王が崩れた壁の上で、はんなりしてはる。念話で挨拶しても、片手を振ってみても、露ほども反応がない。相変わらず魔樹・魔草はクールだ。
よん豆は焚き火を囲んでマイムマイムしているのかな。石畳をコロコロ転がりながら、火の回りをぐるぐるぐる。相変わらず意味不明。
さらに向こうの壁際には黒竜がいる……じゃない、全体的に黒っぽい服着た人間の男だ。清らかな朝の光の下だと、爽やかすぎて胡散臭さ倍増だわ。
よく見たら濃紫なのに、なんで『黒竜』って思うんだろう、ホント変なの。
で、胸元だね、うん。現実逃避しているわけではないのだけど。とりあえず、もう一回寝ていい?
≪起きなさいって言ってるでしょ、この牙娘っ≫
カチューシャ姐様の肉球が容赦ねぇ……しくしくしく。
――紫の石ちゃん、どこ行った!
いつもどおり、枕もとの『おまじない』小石を回収しようとして、急速に頭が覚める。夜中、寝床の四隅に置いたときには確実に四つあったのに、一つ足らなくなっている。
爺様のローブをパタパタさせても、フィオやよん豆にどいてもらっても、どこにもない!
≪あの竜騎士が盗んだの?!≫
≪でも焚き火よりもこっち側には来なかったよ、夜の間もずっと≫
フィオってば、熟睡せずに見張りをしてくれたんだ。ごめんねと謝ると、≪うとうとしてたから、ほとんど寝てたよ~≫と返してくれた。竜が優しい。
にしても何この怪奇現象。おじいちゃんのお守りが一個だけ消えた。ほんのわずかに持ち込めた、地球の希少な思い出なのに。
ショックでへたり込んでいると、紫の小鳥が頭の上にぽとんと着地した。
≪何さわいでるのよ。小石は芽芽がその鳥に変化させたんでしょ≫
≪なんと精霊の卵を持っておったとは! それならそうと先に言わぬか!≫
あきれた声で指摘するカチューシャの隣で、爺様が感心しながら憤慨するという器用なことをしている。いやこの子たちは、地球の河原にゴロゴロ転がってるただの石ですってば。
瑪瑙とか水晶とか、特別な素材は混じっていない。ちょっと色味がついてはいるが、おじいちゃん家の近くの川岸じゃ、どれもこんな感じの小石だった。
こっちの『精霊四色』の鮮やかな染色とは違って、土質がなんとなく紫っぽいとか、赤みがかってるとか、そんなレベルだよ? 特色を強いていえば、丸くて握りやすいくらい。
≪世間一般では、精霊の力が中に込められたものを『精霊の卵』というが、お前さんは規格外じゃな。風の精霊の眷属を孵化させおったか≫
≪眷属、って神様にお仕えする動物さんだよね? こっちの世界ではこうやって生まれるの?≫
フィオと並んで二人して首を傾げたら、爺様の講釈が始まってしまった。よく解らんがざっくりまとめると、『精霊の生態は、ほとんど知られていない。こんな事例は聞いたことがない』だそうだ。意味ねぇっ。
≪よって牙々娘は残りの卵も孵化させるのじゃ!≫
また無茶ぶりを。やり方わからないんだってば。夢で見ただけだってば。
≪そもそも論として、なんでしなきゃいけないの?≫
急に爺様が黙りこくってしまう。王都に戻って神殿から宝物を盗んでほしいのかと思いきや、いきなりすこぶる怪しいわ。
紫シマエナガ本人に、本当に私の小石から生まれたのか質問してみたけれど、ちいちゃな首を傾げるだけ。
あーこれ、よん豆と同じニオイがするわ、意味不明系の不思議ちゃんだ。
一人悶々としていても埒が明かない。巾着袋を手に、野営地墟の外へ抜けだす。フィオと一緒にお花摘みをすませ、歯を磨いて戻ってきたら、今度はカチューシャに釈明を求められた。
知りませんよ、こっちの世界の理なんか。少なくとも地球では、石は石であって、卵に変化はしないし温めても誕生しない。
≪この子、名前何!≫
せめてクエスチョン・マークで訊いて、カチューシャ。
≪愛称なんだけど――≫
「タウ」
≪――って名前をお贈りしたの≫
フィオが横で、私の胸元のぷっくりした小鳥を覗きこみながら≪タウ、可愛いねー≫とはしゃいでいる。
くぅっ、私と同じ蛸ツボに共感してハマってくれるのは、君だけだよ。
≪ちょっと、タウ。顔貸しなさい≫
カチューシャは主人公を呼び出す悪役女番長よろしく、顎をしゃくって野営地の外を示す。私の首に掛かっていたネックストラップをするりと外し、ミーシュカも自分の首に器用に掛けなおした。
――いやまぁ、カチューシャならいつでも熊のぬいぐるみ掻っさらって、フィオと私を置いて爺様と逃避行できそうだとは思ってたけどさ。見事すぎて、拍手したくなっちまったい。
女王様が去り際、私たちにここで大人しく待機するよう命じてたから、多分戻って来るとは思うんだけど。
ちょっと寂しくなった私は、身体を起こしてフィオの横に座った。
こちらを探っている竜騎士にバレないよう、水筒のお水を白湯状態にまでこっそり温める。本当は一度沸騰させるほうがいいのだけどね、さすがに手の中でコップの水がこぽこぽ暴れだすのは目立つわ。
朝はちびちび一杯の白湯から、が向こうの世界にいた時からの習慣。これで数時間はお腹が持つ。アーユルヴェーダの教えは偉大だ。
でも森のお宿『めめ亭』としては、竜騎士に朝ご飯提供しないとなー。面倒臭……いかんいかん、朝は気持ち良く。
****************
※お読みいただき、ありがとうございます。
もしお手間でなければ、感想をぜひお願いします。
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すでに押してくださった皆様、感謝の気持ちでいっぱいです。
今日も明日も、たくさんいいことがありますように。
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気がついたら、私は見晴らしの良い山の頂上にいた。
遠くの街々があますところなく見渡せる。周りの新緑もキラキラ輝いていて、なんてキレイ。紺碧の空に響くのは、鳥たちの美しい歌声。
樹々の香りを肺の中に、深くゆっくり吸いこんだ。
≪しあわせ……≫
ふわり。
風が私の周囲を舞うように、通り抜けていく。
ふわり。
今度は方向変えて、また戻って来たよ。
≪およ。君、少々動きがおかしくないかい?≫
風は少し躊躇して、またふわりと周囲を飛び回る。なんだか気に入られたっぽい。でも無色透明だと、どこが顔だか判らんね。
あ、君もそう思う?
なんか、同意を得られた感がする。うまくいえないけど、そんな気持ちが風から伝わってきた。
≪カチューシャみたく、姿、いる?
フィオみたく、名前、いる?≫
試しに訊いてみると、うれしそうに私の周りをハイピッチで飛び回りだした。
風さんよ、ちと寒い。
柔らかめをお願いすると、また元の『ふわり・はらり』という飛び方に戻ってくれる。そして8の字回転。最早フツーの風じゃないな。
ま、それも個性だ。人生で散々『普通じゃない』と貶されてきた身としては、君の不自然極まりない動きを大いに評価するよ。
さて。まず姿。
うーん。風かぁ……飛ぶ……羽……もふもふ……ぴよぴよ……ちゅんちゅん。
――シマエナガ!
私の頭上で雪ウサギみたいな小鳥がぽふん! と登場した。スズメの一種で、真っ白い羽毛が雪の妖精みたいな子。
わわわ、落っこちないように慌てて両手の平を広げて受けとめる。目の前に持ってくると、即キュン死しそうなくらいに可愛らしい。
あ、でも真っ白はカチューシャだった。
この国の『風』ならテーマカラーの紫は? お守りストラップとか竜騎士マントみたいな濃い紫じゃなくて、全体が薄~いラベンダー色。
尾っぽや翼は、もうちょっと濃い目の紫にしようか。そう、淡い色した生え際からモーブ色に移って、さらに羽先は濃くして。ところどころ銀粉が煌めいていたら、もう最高。
ついでに、うるうるの瞳は一見黒に見えちゃう、うんと濃いアメシスト色。
金髪碧眼のクラスメイトが、部屋の中でも太陽光が苦手だって話してたからね。目の色素が薄いせいで、真夏でなくてもサングラスをかけていた。その苦労はさせたくない。
名前はそうねぇ……君、男の子? お、当たった。
じゃあ――タウシーク! 確かウルドゥー語で『成熟』とか『強くなる』だよ。
以上が、正式名称で。愛称は――タウ! ボツワナだったかな、アフリカの言語で『ライオン』だ。カッコいいでしょ。
パタパタパタ、と手の平から飛びだした小鳥が周囲を楽しそうに飛び回る。なんて可愛い! うんうん、お友達だね。こちらこそ宜しく。
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≪芽芽、起きなさいっ≫
犬の肉球がべこんっと額に置かれた。むむむ。もっと寝かせておくれ。
≪起~き~ろっ≫
≪カチューシャ! 芽芽ちゃん、痛がってるよ。お顔に爪の痕がついちゃうよ≫
ありがとう、フィオ。現実世界の癒しは君しかいないわ。
そいでカチューシャ、私は世界むきゅむきゅ肉球愛好会・異世界支部所属だから、乗っかるなとは言わん。人を踏みつけたときに、肉球へ全体重かけようと試みるのをやめい。
≪もうっ! せっかくいい夢みてたのにっ≫
≪夢~? どんな?≫
ごろりと寝転がりながらも興奮冷めやらずで、すぐ隣に座っているフィオにシマエナガのタウちゃんの話をする。もうね、超絶ラブリーだったのよ。
ふべしっ!
カチューシャが尻尾を乱暴に振り下ろした。だから、サモエド犬はそんな尻尾の振り方じゃないっ。世界もふもふ尻尾愛好会の――。
≪だから! さっきからいるの、その鳥!≫
――へ?
ぱたぱたぱた、ぽて。
薄ラベンダー色した小鳥が私の胸元に留まった。……うん、タウだ。えーと。
ちょっと状況を整理しよう。私は昨日、男色カマキリ竜騎士から金竜コインをぼったくって、プロでもないのに歌唄わされて、そいでフィオとカチューシャの間で川の字になって三人仲良くまったりゴロゴロして。
寝落ちしそうになったけど、夜中に起きなおして、結界石のおまじないもちゃんとした。
ほいで今だね、朝だね……サボテン女王が崩れた壁の上で、はんなりしてはる。念話で挨拶しても、片手を振ってみても、露ほども反応がない。相変わらず魔樹・魔草はクールだ。
よん豆は焚き火を囲んでマイムマイムしているのかな。石畳をコロコロ転がりながら、火の回りをぐるぐるぐる。相変わらず意味不明。
さらに向こうの壁際には黒竜がいる……じゃない、全体的に黒っぽい服着た人間の男だ。清らかな朝の光の下だと、爽やかすぎて胡散臭さ倍増だわ。
よく見たら濃紫なのに、なんで『黒竜』って思うんだろう、ホント変なの。
で、胸元だね、うん。現実逃避しているわけではないのだけど。とりあえず、もう一回寝ていい?
≪起きなさいって言ってるでしょ、この牙娘っ≫
カチューシャ姐様の肉球が容赦ねぇ……しくしくしく。
――紫の石ちゃん、どこ行った!
いつもどおり、枕もとの『おまじない』小石を回収しようとして、急速に頭が覚める。夜中、寝床の四隅に置いたときには確実に四つあったのに、一つ足らなくなっている。
爺様のローブをパタパタさせても、フィオやよん豆にどいてもらっても、どこにもない!
≪あの竜騎士が盗んだの?!≫
≪でも焚き火よりもこっち側には来なかったよ、夜の間もずっと≫
フィオってば、熟睡せずに見張りをしてくれたんだ。ごめんねと謝ると、≪うとうとしてたから、ほとんど寝てたよ~≫と返してくれた。竜が優しい。
にしても何この怪奇現象。おじいちゃんのお守りが一個だけ消えた。ほんのわずかに持ち込めた、地球の希少な思い出なのに。
ショックでへたり込んでいると、紫の小鳥が頭の上にぽとんと着地した。
≪何さわいでるのよ。小石は芽芽がその鳥に変化させたんでしょ≫
≪なんと精霊の卵を持っておったとは! それならそうと先に言わぬか!≫
あきれた声で指摘するカチューシャの隣で、爺様が感心しながら憤慨するという器用なことをしている。いやこの子たちは、地球の河原にゴロゴロ転がってるただの石ですってば。
瑪瑙とか水晶とか、特別な素材は混じっていない。ちょっと色味がついてはいるが、おじいちゃん家の近くの川岸じゃ、どれもこんな感じの小石だった。
こっちの『精霊四色』の鮮やかな染色とは違って、土質がなんとなく紫っぽいとか、赤みがかってるとか、そんなレベルだよ? 特色を強いていえば、丸くて握りやすいくらい。
≪世間一般では、精霊の力が中に込められたものを『精霊の卵』というが、お前さんは規格外じゃな。風の精霊の眷属を孵化させおったか≫
≪眷属、って神様にお仕えする動物さんだよね? こっちの世界ではこうやって生まれるの?≫
フィオと並んで二人して首を傾げたら、爺様の講釈が始まってしまった。よく解らんがざっくりまとめると、『精霊の生態は、ほとんど知られていない。こんな事例は聞いたことがない』だそうだ。意味ねぇっ。
≪よって牙々娘は残りの卵も孵化させるのじゃ!≫
また無茶ぶりを。やり方わからないんだってば。夢で見ただけだってば。
≪そもそも論として、なんでしなきゃいけないの?≫
急に爺様が黙りこくってしまう。王都に戻って神殿から宝物を盗んでほしいのかと思いきや、いきなりすこぶる怪しいわ。
紫シマエナガ本人に、本当に私の小石から生まれたのか質問してみたけれど、ちいちゃな首を傾げるだけ。
あーこれ、よん豆と同じニオイがするわ、意味不明系の不思議ちゃんだ。
一人悶々としていても埒が明かない。巾着袋を手に、野営地墟の外へ抜けだす。フィオと一緒にお花摘みをすませ、歯を磨いて戻ってきたら、今度はカチューシャに釈明を求められた。
知りませんよ、こっちの世界の理なんか。少なくとも地球では、石は石であって、卵に変化はしないし温めても誕生しない。
≪この子、名前何!≫
せめてクエスチョン・マークで訊いて、カチューシャ。
≪愛称なんだけど――≫
「タウ」
≪――って名前をお贈りしたの≫
フィオが横で、私の胸元のぷっくりした小鳥を覗きこみながら≪タウ、可愛いねー≫とはしゃいでいる。
くぅっ、私と同じ蛸ツボに共感してハマってくれるのは、君だけだよ。
≪ちょっと、タウ。顔貸しなさい≫
カチューシャは主人公を呼び出す悪役女番長よろしく、顎をしゃくって野営地の外を示す。私の首に掛かっていたネックストラップをするりと外し、ミーシュカも自分の首に器用に掛けなおした。
――いやまぁ、カチューシャならいつでも熊のぬいぐるみ掻っさらって、フィオと私を置いて爺様と逃避行できそうだとは思ってたけどさ。見事すぎて、拍手したくなっちまったい。
女王様が去り際、私たちにここで大人しく待機するよう命じてたから、多分戻って来るとは思うんだけど。
ちょっと寂しくなった私は、身体を起こしてフィオの横に座った。
こちらを探っている竜騎士にバレないよう、水筒のお水を白湯状態にまでこっそり温める。本当は一度沸騰させるほうがいいのだけどね、さすがに手の中でコップの水がこぽこぽ暴れだすのは目立つわ。
朝はちびちび一杯の白湯から、が向こうの世界にいた時からの習慣。これで数時間はお腹が持つ。アーユルヴェーダの教えは偉大だ。
でも森のお宿『めめ亭』としては、竜騎士に朝ご飯提供しないとなー。面倒臭……いかんいかん、朝は気持ち良く。
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※お読みいただき、ありがとうございます。
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