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王都凱旋
78. 逆走を開始する (24日目)
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私はアイドル。誰がなんて言おうとアイドル。
大事なことなので繰り返す、吾輩はアイドルである。異論は認めない。
おっさんだろーが、髭もじゃマッチョだろうーが、丸っとアイドルになれる不思議の国から来たんだもの。こんなのは言い出したもん勝ちでアイドルだ。
~~~~って、ダメだ。いくら鼓舞しても、足元を見たら高所恐怖症でふらついてしまう。馬車の上に立たせろなんて言い出した馬さん誰だよ、鹿さん私だよ。
「聖女様、一体これは……?」
横で心配そうに立つディルムッドに、へっぴり腰でしがみついてることは否定しない。でも両腕で支えなおそうと大きく動くのはやめて。私本人も、私が被った緑頭巾も、もろもろ一手にずり落ちそうになってきたじゃないか。
≪あれ? 私、そういや髪の毛、やばくね? この国って、女の人は長く伸ばしてお団子にまとめてるよね、皆!?≫
≪まーでも、病み上がりだし? 後頭部が見えないよう調整しなおして、顔だけ覗いている状態ならば、問題ないんじゃない?≫
投げやりな声のわりには心配してくれたのか、カチューシャが遅れて馬車の上まで脅威の跳躍力でやってきた。気持ちはうれしいんだけど、着地のわずかな震動でもね! 馬車がホラ、かすかに揺れるとだね!
≪無理むりムリ激しく無理むりムリ絶対に無理むりムリぃぃぃっ≫
両手ふさがってるのに、フードに手を伸ばすとか、千手観音じゃないしぃぃぃっ。でもなんだか風が森の方角から吹いてくるし、これだと短いザンギリ髪が露呈しちまう。聖女ブランドが、デビュー数日でイメージダウンしたらどぉぉぉしよお!
そもそも私、若竹色のコートの魔法陣のせいで幼く見えているんだよ。おまけに今日はふりふりの青磁色スカート。フードが脱げ落ちたら女装した奇妙キテレツ旅芸人になるよね、コレ? 異端認定されちゃったら聖女どころか、魔女裁判に突入じゃん。
私の正面、立派な玄関門の向こうは、つめかけた近隣の人々で一杯だ。馬車の周りには竜騎士の皆さんが、予定外の私の行動に困惑しきっている。背後では見送ろうと集まった領地伯や親戚縁者やらお屋敷の従業員の皆々様が、興味津々の熱い眼差しでこっちを見ている。
本当にもう、地球のお騒がせ系アイドルに瞬間憑依されたとしか思えない。なんで私、ディルムッドに馬車の屋根へ引き上げろなんてワガママ言った。
≪どっどっどっおしよお。カチューシャ!≫
≪ちょっと、計画も何ないクセに、馬車の上によじ登ったわけ? この出発直前に?≫
いやあの。計画というよりも、思いつきと言いますか、一時の気の迷いと言いますか。黄色い街のマンチキン市場のノリで、お集りの皆さんありがとう演説の代わりにアイドルだし歌っちゃえとか思っちゃったのよ!
あかん、このところ「聖女様」とか持ち上げられて、正気じゃなかった。白い犬が≪ちっ≫と舌打ちを寄こしつつ、くるりとその場で回転する。
初めて狐に変身してくれた!
長い毛並みは晴れた日の雪みたいに輝いている。額のところに精霊十字の印が浮き出て、目の周りも縁取り模様が青く入って、『聖獣』って称えられるのも納得の神々しさだ。
≪ホントに尾っぽが九本もある! すごい! キレイ!≫
うわぁ、モフりたい。なんだこのふさふさウィンター・ワンダーランド。
≪メメちゃ~ん、大丈夫!≫
タウたち精霊組も、私の顔の高さまで空中浮遊して励ましてくれる。あれ、よん豆まで足元からピコピコと私の身体を伝って上がってきて――外れかけたフード目掛けて飛び込んだら、駄目なヤツそれ! フードが完全に脱げるから!
ばふん! と首元で何かが弾けた。全体像が見えないけど、よん豆たちが『森の女王』の花に擬態して、私の髪の毛の代わりに花びらを垂れ下げてくれたみたい。
≪えっと、これ、もしかしてなんとなく髪の毛っぽく見えてる?≫
九尾の狐になったカチューシャに確認する。
≪そうね、髪飾りみたいにはなってるわね≫
手の平を広げた大輪の月下美人もどき。鮮やかな精霊四色で、お団子髪の代わりになってくれた。
≪よん豆、ありがとう! よん卵、いっくよ~!≫
≪合点承知の助~っ≫
精霊卵から孵ったタウとナイア、アルンとビーが、頭上でくるくる回ってる。そうだ、私は一人じゃない。
まずは天才魔導士である爺様の親族として、魔法も使えることをアピールしておこう。
ディルムッドへ緑のコートをいさぎよく渡す。魔法陣の幻覚作用が消えたのだろう。カチューシャの変化にどよめいていた見物客が、私の印象まで変わってさらにざわついた。
お次は聖女の威力を見せつけようじゃないの。この国の権威(※神殿)とガチンコ対決して、大事な竜友を守れるだけのパワーをこの手に!
早朝の薄っすら霧がかかるお屋敷の正面玄関で、ザンッと光の柱が空高く立ち上がる。本当は『聖女』と呼ばれる人間なんて単なる媒体。大地からの慈愛の光を上へ、天空からの祝福の光を下へ。
「でぃるむっど」
しばらくしてタウたちが元の小さな姿に戻り、カチューシャも犬になったので、紫マントの竜騎士をせっつく。間近で光を見せられたからかな、ちょっとぼんやりしているけど、流石の身体能力だ。コートと私を抱えても、羽のように地面に降ろしてくれる。
周囲を警戒したお屋敷の騎士や一緒に移動する竜騎士たちは即座に立ち上がり、配置に戻っていった。でも一般人の皆さんは、四方八方で片膝をついたまま。私が馬車に乗り込もうとしても拝んでいるし、涙ぐんでいる人まで。
「セイレイ、シュフクフ!」
頑張って練習したのだが、手を差し出してくれていたディルムッドの顔が一瞬にして緩んで、馬車の扉を開けたクウィーヴィンが笑いを噛み殺した。
「いやすみません、ええ。大変上達してますよ。精霊の祝福を、ですよね」
青の竜騎士め。言い直されている段階で、『大変上達』した気が一切しないぞ。
「セイレ!」
ちょっとムッとなったけど、挨拶はきちんとせねば。お屋敷の皆さんには、おしとやかに片手を振る。
「聖なる極光よ、精霊と共にヴァーレッフェを遍く照らし給え」
小柄なルキアノス領地伯が代表で応えてくれる。聖女への決まり文句らしい。『こんにちは』も『さようなら』も、正式な場ではこれ一つなんだって。
先に乗り込んだ精霊学者のガイアナさんも馬車の窓から顔を出し、領地伯や仲良しの女中さんたちに「行ってきます」と声をかけていた。母親のタレイアさんは城下町を出るまで先導するため、隊列を組んだ先頭の軍馬に騎乗済みだ。
私の横にカチューシャが乗って、目の前のガイアナさんの隣にはオルラさんが乗り込む。扉が閉められて、太鼓の音が鳴り響く。
王都へ向けた聖女パレード開始の合図だ。
一部の竜が私たちの上空をゆったり回遊する中、一部の竜は本日の最終目的地まで勢いよく飛び立っていった。さらに残りの竜が後から追いかけてくる予定らしい。竜騎士も竜に騎乗している人たちと、竜に耐性のある軍馬に騎乗している人たちに分かれている。
各領地を通過していくたび、そこの領主お抱えの騎士団も交代しては付き添っていくらしい。
来週末には秋の第一収穫祭が開かれる。毎年、休暇を取って王都に人々が集う時期なのだ。街と街をつなぐ主要道に出たら、遠方からの旅行客まで合流してくる可能性があると言われた。
かなりの大名行列になりそうだが、望むところだ。
でも問題は、服装よね。とりあえずメインの色味はチームカラーのグリーンに決めたのだけど、この国って精霊四色が席捲していて、緑の生地が圧倒的に足らない。
当座の分は、オルラさんと領主館の女中さんたちが、無地のドレスを黄色と青の染料で試行錯誤して染めてくれた。ただ、白い服ってこの国だとお葬式用なのだ。一から仕立てる時間はないので仕方ないけれど、いかんせん質素なデザインで困る。
この国の女性の服装で、最もお金をかける部分は帯らしい。着物と同じだ。とりあえず精霊四色のリボンをマクラメ編みして幅広の帯を作り、爺様の大きな石の指輪四つを帯留めにしてみた。
スカートの裾や袖口、襟の飾りなんかも、精霊四色を均等に散りばめて誤魔化すしかない。もう少しガツンと新聖女っぽさを演出したいのだけど――。
「メメ様、お髪が!」
「わわっ」
目の前のオルガさんのほうが、私よりもギョッとしている。お洒落さんだものね。よん豆の擬態が解けて、膝上にコロコロと転がり落ちてきた。さっきは咄嗟に頑張ってくれたのだろう。すまなかったねぇ。
「そ、そ、それは如何なる精霊魔術なのでしょうか?!」
ぷにぷになお豆に指で漢字を書きはじめたら、オルガさんの横にぼーっと座っていたガイアナさんまで喰いついた。
斑紋卵には『土』、玉藻々には『水』、煙々羅には『火』、毛羽毛現には『風』の字。くすぐったそうに、スライム大福餅がきゅきゅきゅと体を揺する。
「カワイイ」
「い、いえ! か、可愛いというよりもそれは、元素を手渡すと形容すべきでは? 人里に連れてきても消えないのは、や、やはり聖女様が餌を与えていたからだったのですね!」
餌……なのか? これが?
四大元素に因んで漢字を書いてみたけれど、自分の指先から何かが抜けていく感覚はない。
≪あんた、魔力も無駄にタレ流しだもの。可能性は高いわね≫
≪うっさい。カチューシャもその魔力を食べてるクセに!≫
私が軽くいなすと、隣で窓の外を眺めていた白犬がこっちにグルっと向き直った。
≪気づいてたの!?≫
≪え? だって爺様が契約獣は魔力や魔核を食べるって言ってたし……そりゃ時々は魔獣の魔核も食べるのかもしれないけれど、契約したってことは、普段は契約主の魔力をもらってるってことでしょ?≫
ドラキュラみたいなもんだ。ま、死なない程度に献血するのは、逆に新陳代謝が良くなりそうだし、わたしゃ構わんよ。
そう告げたら、白い犬はサファイアの瞳をまん丸にしたままフリーズ状態。そんなに驚くことかな。
≪……牙娘って変なだけでなく、変態だったのね!≫
≪……カチューシャ、みっちりオハナシする前に、まずは狐になりんしゃい!≫
失礼な姐御め。ふさふさ尻尾を九本分、たっぷりモフってやろうじゃないの。さあ、お尻をこっちにお向きおし!
****************
※お読みいただき、ありがとうございます。
もしお手隙でしたら、感想をぜひお願いします。
「お気に入りに追加」だけでも押していただけると、光栄です!
すでに押してくださった皆様、心より感謝いたします。
きらきら色鮮やかな日々となりますように。
私はアイドル。誰がなんて言おうとアイドル。
大事なことなので繰り返す、吾輩はアイドルである。異論は認めない。
おっさんだろーが、髭もじゃマッチョだろうーが、丸っとアイドルになれる不思議の国から来たんだもの。こんなのは言い出したもん勝ちでアイドルだ。
~~~~って、ダメだ。いくら鼓舞しても、足元を見たら高所恐怖症でふらついてしまう。馬車の上に立たせろなんて言い出した馬さん誰だよ、鹿さん私だよ。
「聖女様、一体これは……?」
横で心配そうに立つディルムッドに、へっぴり腰でしがみついてることは否定しない。でも両腕で支えなおそうと大きく動くのはやめて。私本人も、私が被った緑頭巾も、もろもろ一手にずり落ちそうになってきたじゃないか。
≪あれ? 私、そういや髪の毛、やばくね? この国って、女の人は長く伸ばしてお団子にまとめてるよね、皆!?≫
≪まーでも、病み上がりだし? 後頭部が見えないよう調整しなおして、顔だけ覗いている状態ならば、問題ないんじゃない?≫
投げやりな声のわりには心配してくれたのか、カチューシャが遅れて馬車の上まで脅威の跳躍力でやってきた。気持ちはうれしいんだけど、着地のわずかな震動でもね! 馬車がホラ、かすかに揺れるとだね!
≪無理むりムリ激しく無理むりムリ絶対に無理むりムリぃぃぃっ≫
両手ふさがってるのに、フードに手を伸ばすとか、千手観音じゃないしぃぃぃっ。でもなんだか風が森の方角から吹いてくるし、これだと短いザンギリ髪が露呈しちまう。聖女ブランドが、デビュー数日でイメージダウンしたらどぉぉぉしよお!
そもそも私、若竹色のコートの魔法陣のせいで幼く見えているんだよ。おまけに今日はふりふりの青磁色スカート。フードが脱げ落ちたら女装した奇妙キテレツ旅芸人になるよね、コレ? 異端認定されちゃったら聖女どころか、魔女裁判に突入じゃん。
私の正面、立派な玄関門の向こうは、つめかけた近隣の人々で一杯だ。馬車の周りには竜騎士の皆さんが、予定外の私の行動に困惑しきっている。背後では見送ろうと集まった領地伯や親戚縁者やらお屋敷の従業員の皆々様が、興味津々の熱い眼差しでこっちを見ている。
本当にもう、地球のお騒がせ系アイドルに瞬間憑依されたとしか思えない。なんで私、ディルムッドに馬車の屋根へ引き上げろなんてワガママ言った。
≪どっどっどっおしよお。カチューシャ!≫
≪ちょっと、計画も何ないクセに、馬車の上によじ登ったわけ? この出発直前に?≫
いやあの。計画というよりも、思いつきと言いますか、一時の気の迷いと言いますか。黄色い街のマンチキン市場のノリで、お集りの皆さんありがとう演説の代わりにアイドルだし歌っちゃえとか思っちゃったのよ!
あかん、このところ「聖女様」とか持ち上げられて、正気じゃなかった。白い犬が≪ちっ≫と舌打ちを寄こしつつ、くるりとその場で回転する。
初めて狐に変身してくれた!
長い毛並みは晴れた日の雪みたいに輝いている。額のところに精霊十字の印が浮き出て、目の周りも縁取り模様が青く入って、『聖獣』って称えられるのも納得の神々しさだ。
≪ホントに尾っぽが九本もある! すごい! キレイ!≫
うわぁ、モフりたい。なんだこのふさふさウィンター・ワンダーランド。
≪メメちゃ~ん、大丈夫!≫
タウたち精霊組も、私の顔の高さまで空中浮遊して励ましてくれる。あれ、よん豆まで足元からピコピコと私の身体を伝って上がってきて――外れかけたフード目掛けて飛び込んだら、駄目なヤツそれ! フードが完全に脱げるから!
ばふん! と首元で何かが弾けた。全体像が見えないけど、よん豆たちが『森の女王』の花に擬態して、私の髪の毛の代わりに花びらを垂れ下げてくれたみたい。
≪えっと、これ、もしかしてなんとなく髪の毛っぽく見えてる?≫
九尾の狐になったカチューシャに確認する。
≪そうね、髪飾りみたいにはなってるわね≫
手の平を広げた大輪の月下美人もどき。鮮やかな精霊四色で、お団子髪の代わりになってくれた。
≪よん豆、ありがとう! よん卵、いっくよ~!≫
≪合点承知の助~っ≫
精霊卵から孵ったタウとナイア、アルンとビーが、頭上でくるくる回ってる。そうだ、私は一人じゃない。
まずは天才魔導士である爺様の親族として、魔法も使えることをアピールしておこう。
ディルムッドへ緑のコートをいさぎよく渡す。魔法陣の幻覚作用が消えたのだろう。カチューシャの変化にどよめいていた見物客が、私の印象まで変わってさらにざわついた。
お次は聖女の威力を見せつけようじゃないの。この国の権威(※神殿)とガチンコ対決して、大事な竜友を守れるだけのパワーをこの手に!
早朝の薄っすら霧がかかるお屋敷の正面玄関で、ザンッと光の柱が空高く立ち上がる。本当は『聖女』と呼ばれる人間なんて単なる媒体。大地からの慈愛の光を上へ、天空からの祝福の光を下へ。
「でぃるむっど」
しばらくしてタウたちが元の小さな姿に戻り、カチューシャも犬になったので、紫マントの竜騎士をせっつく。間近で光を見せられたからかな、ちょっとぼんやりしているけど、流石の身体能力だ。コートと私を抱えても、羽のように地面に降ろしてくれる。
周囲を警戒したお屋敷の騎士や一緒に移動する竜騎士たちは即座に立ち上がり、配置に戻っていった。でも一般人の皆さんは、四方八方で片膝をついたまま。私が馬車に乗り込もうとしても拝んでいるし、涙ぐんでいる人まで。
「セイレイ、シュフクフ!」
頑張って練習したのだが、手を差し出してくれていたディルムッドの顔が一瞬にして緩んで、馬車の扉を開けたクウィーヴィンが笑いを噛み殺した。
「いやすみません、ええ。大変上達してますよ。精霊の祝福を、ですよね」
青の竜騎士め。言い直されている段階で、『大変上達』した気が一切しないぞ。
「セイレ!」
ちょっとムッとなったけど、挨拶はきちんとせねば。お屋敷の皆さんには、おしとやかに片手を振る。
「聖なる極光よ、精霊と共にヴァーレッフェを遍く照らし給え」
小柄なルキアノス領地伯が代表で応えてくれる。聖女への決まり文句らしい。『こんにちは』も『さようなら』も、正式な場ではこれ一つなんだって。
先に乗り込んだ精霊学者のガイアナさんも馬車の窓から顔を出し、領地伯や仲良しの女中さんたちに「行ってきます」と声をかけていた。母親のタレイアさんは城下町を出るまで先導するため、隊列を組んだ先頭の軍馬に騎乗済みだ。
私の横にカチューシャが乗って、目の前のガイアナさんの隣にはオルラさんが乗り込む。扉が閉められて、太鼓の音が鳴り響く。
王都へ向けた聖女パレード開始の合図だ。
一部の竜が私たちの上空をゆったり回遊する中、一部の竜は本日の最終目的地まで勢いよく飛び立っていった。さらに残りの竜が後から追いかけてくる予定らしい。竜騎士も竜に騎乗している人たちと、竜に耐性のある軍馬に騎乗している人たちに分かれている。
各領地を通過していくたび、そこの領主お抱えの騎士団も交代しては付き添っていくらしい。
来週末には秋の第一収穫祭が開かれる。毎年、休暇を取って王都に人々が集う時期なのだ。街と街をつなぐ主要道に出たら、遠方からの旅行客まで合流してくる可能性があると言われた。
かなりの大名行列になりそうだが、望むところだ。
でも問題は、服装よね。とりあえずメインの色味はチームカラーのグリーンに決めたのだけど、この国って精霊四色が席捲していて、緑の生地が圧倒的に足らない。
当座の分は、オルラさんと領主館の女中さんたちが、無地のドレスを黄色と青の染料で試行錯誤して染めてくれた。ただ、白い服ってこの国だとお葬式用なのだ。一から仕立てる時間はないので仕方ないけれど、いかんせん質素なデザインで困る。
この国の女性の服装で、最もお金をかける部分は帯らしい。着物と同じだ。とりあえず精霊四色のリボンをマクラメ編みして幅広の帯を作り、爺様の大きな石の指輪四つを帯留めにしてみた。
スカートの裾や袖口、襟の飾りなんかも、精霊四色を均等に散りばめて誤魔化すしかない。もう少しガツンと新聖女っぽさを演出したいのだけど――。
「メメ様、お髪が!」
「わわっ」
目の前のオルガさんのほうが、私よりもギョッとしている。お洒落さんだものね。よん豆の擬態が解けて、膝上にコロコロと転がり落ちてきた。さっきは咄嗟に頑張ってくれたのだろう。すまなかったねぇ。
「そ、そ、それは如何なる精霊魔術なのでしょうか?!」
ぷにぷになお豆に指で漢字を書きはじめたら、オルガさんの横にぼーっと座っていたガイアナさんまで喰いついた。
斑紋卵には『土』、玉藻々には『水』、煙々羅には『火』、毛羽毛現には『風』の字。くすぐったそうに、スライム大福餅がきゅきゅきゅと体を揺する。
「カワイイ」
「い、いえ! か、可愛いというよりもそれは、元素を手渡すと形容すべきでは? 人里に連れてきても消えないのは、や、やはり聖女様が餌を与えていたからだったのですね!」
餌……なのか? これが?
四大元素に因んで漢字を書いてみたけれど、自分の指先から何かが抜けていく感覚はない。
≪あんた、魔力も無駄にタレ流しだもの。可能性は高いわね≫
≪うっさい。カチューシャもその魔力を食べてるクセに!≫
私が軽くいなすと、隣で窓の外を眺めていた白犬がこっちにグルっと向き直った。
≪気づいてたの!?≫
≪え? だって爺様が契約獣は魔力や魔核を食べるって言ってたし……そりゃ時々は魔獣の魔核も食べるのかもしれないけれど、契約したってことは、普段は契約主の魔力をもらってるってことでしょ?≫
ドラキュラみたいなもんだ。ま、死なない程度に献血するのは、逆に新陳代謝が良くなりそうだし、わたしゃ構わんよ。
そう告げたら、白い犬はサファイアの瞳をまん丸にしたままフリーズ状態。そんなに驚くことかな。
≪……牙娘って変なだけでなく、変態だったのね!≫
≪……カチューシャ、みっちりオハナシする前に、まずは狐になりんしゃい!≫
失礼な姐御め。ふさふさ尻尾を九本分、たっぷりモフってやろうじゃないの。さあ、お尻をこっちにお向きおし!
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