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金龍の章 一森山5
鹽竈神
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かつて国守の陸奥国入りは、海路で那珂湊を経由して鹽竈の浦に至り、国府津から上陸して入府するのが常道であったという。
しかし何時の頃からか、途中の浦々で鹿島神を信奉する人々の助力が得られなくなって、主に東山道経由の陸路を採るようになっていた。
それでも、古式を違えては神を鎮め、国を鎮めることは出来ないので、国守一行は国守館を出ると東行し国府津舟戸より鹽竈の浦へ漕ぎ出た。
直ぐに目の前に籬島が迫り、そこで取舵を切って千賀浦へと入っていく。
すると舟は奇妙な事に、鹽竈社のある右岸に着岸せず、左岸に着いた。そして、登任は渚で身を清めるように即され、目の前の小さいが古格のある社に参拝した。
この社は御釜社といい、貞観や仁和の大津浪などで、幾度となく流されては、その度に再建されてきた。鹽土老翁神が当地に降りられて、藻塩を焼いて塩を得る法を伝えたと言われている。
対岸の鹽竈社は鹽土老翁神の薨られた地として、当社と対をなすものであり、古より製塩の盛んな此の地に鎮座してきた。
もはや言われるがまま、操り人形のようになった登任は再び舟に乗せられて、対岸の参道下の四方石に上陸すると、両側からうっそうと木々が迫る長い坂道を、左右にくねりながら、北へ向かって登って行った。
登りきった所にある拝殿に進み、貞任をはじめ、諸郡の郡司が見守る中、参拝を始めた。
参拝の直前、貞任が耳元で囁いた。
「当社には岐神もおわします。この御神霊は、陸奥国を外夷から守護する神であらせられます。くれぐれも、真底より拝されますように。」
背後から迫る視線と、本殿から発せられる圧倒的な気配に気圧されて、登任の全身は総毛立ち、滝を浴びたように汗で濡れていた。
--柏手を打ち、一礼すると登任はその場に膝から崩れ落ちた。
貞任と宗任に両側から支えられ、登任は抱えられるようにして舟に運び込まれた。
江尻を対岸に渡り、鳥居原を国府へと帰る牛車の中で、ようやく正気に戻った登任は、牛車の中で胡座をかき、正面を見つめたまま、まだ震えが止まらない両膝を掴んで、独り言ちた。
「この蝦夷の地は、何かが違う。都とは、大和とは、地を、天を覆う別のものが御わすようだ。これは畏れ多き事。儂如きが来るべき処ではなかったのだ。」
眼を朱くしうなだれて、首を左右に振り、只々、権中納言定頼の言葉と、家持の歌をブツブツと繰り返していた。
しかし何時の頃からか、途中の浦々で鹿島神を信奉する人々の助力が得られなくなって、主に東山道経由の陸路を採るようになっていた。
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すると舟は奇妙な事に、鹽竈社のある右岸に着岸せず、左岸に着いた。そして、登任は渚で身を清めるように即され、目の前の小さいが古格のある社に参拝した。
この社は御釜社といい、貞観や仁和の大津浪などで、幾度となく流されては、その度に再建されてきた。鹽土老翁神が当地に降りられて、藻塩を焼いて塩を得る法を伝えたと言われている。
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登りきった所にある拝殿に進み、貞任をはじめ、諸郡の郡司が見守る中、参拝を始めた。
参拝の直前、貞任が耳元で囁いた。
「当社には岐神もおわします。この御神霊は、陸奥国を外夷から守護する神であらせられます。くれぐれも、真底より拝されますように。」
背後から迫る視線と、本殿から発せられる圧倒的な気配に気圧されて、登任の全身は総毛立ち、滝を浴びたように汗で濡れていた。
--柏手を打ち、一礼すると登任はその場に膝から崩れ落ちた。
貞任と宗任に両側から支えられ、登任は抱えられるようにして舟に運び込まれた。
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「この蝦夷の地は、何かが違う。都とは、大和とは、地を、天を覆う別のものが御わすようだ。これは畏れ多き事。儂如きが来るべき処ではなかったのだ。」
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