日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

文字の大きさ
36 / 69
火焔の章 鬼切部16

~小鏑山~ 10

しおりを挟む
 繁成、貞成親子が率いる千五百の軍勢が陣を出て、おびただしい数の登任軍の兵のむくろが転がる場所へ到達すると、草むらの向こうから声が聞こえた。

「せっかく差し上げた陣を出て、どちらへ行かれるのかな?殿。」

 草陰から大きな騎影が立ち上がる。
 青毛の巨大な馬、黒漆に金糸の刺繍、熊のような巨体、貞任であった。

「貞任!」
 貞成が、父を守るように刀を構えて一歩前に出た。

 すると、貞任の周りに複数の騎影が立ち上がる。
 宗任、正任、則任ら安倍兄弟であった。

「陸奥守様は、すでに国府へ戻られました。そこもともく、雄勝城へ戻られるが良かろう。」
 貞任がそう言い放つと、四人は同時に哄笑した。

「ぐ、愚弄する気か!」
 繁成が、こぶしを握りしめて睨みつける。

 それを合図に、繁成軍を取り囲むように騎馬軍団が姿を現した。

 みな弓を構えている。

「くっ。ま、まずい・・・。ひけ、引け~い!」
 貞成は、繁成をかばいながら、後退を命じる。

「うぬぅ・・・・。」
 繁成は、貞任を睨みつけながら、周りのものに引きずられるように、後方へと消えていった。


「この地に、これ以上長居をされてもかなわぬ。国ざかいまでお見送りせよ。」
 貞任は弟らに命じると、馬首を転じて歩き出した。

「散位殿、永衡殿、こたびのご助力誠に有難うございました。衷心より、御礼申し上げる。」
 貞任は、二人の前まで来ると、そう言って馬上で深々と頭を下げた。

 それを見た経清は、永衡と顔を見合わせたのち手を振って応えた。
「道理の通らぬ理不尽に、加担しとうなかっただけでございます。何よりこの地は、父祖の頃よりえにしの深き所。心持ちは、皆様と近きところにあるのです。」
 そう言って、二人ともども馬上で返礼した。


 繁成の軍は、一旦は久保田の陣と若神子原の陣、大森山の陣でそれぞれ抵抗を試みたが、安倍軍の追撃に抗することが出来ず、最後には兵力を五百以下まで減らして、出羽へと敗走していった。


 結局、陸奥守、秋田城介連合軍は、一万近い兵力を注ぎ込みながら、度重なる安倍側の策の前に無残にも敗退したのであった。
 当然、私戦であるこのいくさの詳細は、朝廷に上げられることはなかった。
 ただ、安倍氏の専横と、それを諌めようと軍を発したものの、逆に抵抗されて相応の損害を被ったとだけ上奏された。

 これを受けて朝廷では、陸奥守と秋田城介の処分と今後の対応が評議されることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

処理中です...