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九重の章 京極御堂 1
~船岡山~ 1
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「では次の上書は陸奥国からであったな?経長殿、陸奥守はなんと申してきた?」
右大臣左近衛大将藤原教通は、一度兄の関白左大臣藤原頼通の顔を見たのち、参議左大弁源経長の方を向いて言った。
月次祭が終わり、大祓が迫るいち日、左近衛府に設けられた、陣座において陣定(いわゆる評議)が開かれていた。
陣定は、上卿たる、左大臣が主宰し、参議以上の太政官が集まって、様々な議題について話し合い、対応を決定していく国の最高会議であった。
ちなみに大祓とは、もともとは六月と十二月の晦日に行われる、天津罪、国津罪を祓う神事である。
神事では、大祓詞という祝詞があげられるが、次第に六月にあげられる、中臣祓詞(なかとみのはらえことば)だけが残っていった。
大祓詞は、天孫降臨からの神話を述べ、罪穢の種類の列挙とその祓い方を述べた後、祓戸大神によりどのように罪穢が消されていくかを述べるものであった。
---つまり、すべての罪穢を浄化する神事が終わる前に、今回の件を処断する必要があった。
居並ぶ参議の中において年長である経長は、左大臣の頼通に一礼すると、陸奥守藤原登任からの上書を読み上げた。
「・・・・なお、同様に秋田城介よりほぼ同じ内容の上書が届いております。」
経長はそう言って、教通の顔を見た。
登任らからの上書の内容は、以下の通りであった。
『奥六箇郡の司、安倍頼良なるもの、父祖の代より六郡を横行し人民を劫掠す。頼良もまた滋蔓なり。近年衣川の外にいでて、賦貢を滞らせ、徭役を勤めず、驕奢なり。よって、これを懲らしめるため、秋田城介とともに図り陸奥国玉造郡において兵をもって誅す。然れども頼良、奇謀をもって国守に叛逆し未だ従わず。疾く、善処給わりたく上申致すものなり。』
「うむ。して、戦果はどうなっておるのか?」
教通は、頷いて言った。
「敵陣おおいに打ち破り朝威を示したものの、三千以上の兵を損耗したとのことでございます。」
経長は、登任から送られてきた関連文書を見ながら答えた。
実際には、一万に迫る損害があったにもかかわらず、ほぼ私戦といえる戦いに国府の兵の大半を失ったとは言えず、かなり小さく報告していたのである。
それでも、これまでながらく平穏であった彼の地での予想外の状況に、頼通をはじめ太政官らは、一様に表情を固くした。
「わたくしの所には、いささか異なる報告が届いておるのだが・・・。」
固まった場の空気を変えるように、頼通の右隣に座した、内大臣藤原頼宗が、息子の参議能長を見ながら言葉を発した。
能長が頷くと、皆の視線が一斉に集まる。
「陸奥国府に居ります、散位曰理権大夫藤原経清によりますと、安倍頼良なるもの従五位下の位を賜り、安太夫を名乗って父祖の代より鎮守府将軍不在の六郡をよく治め、賦貢、徭役を滞らせる事なきよう尽くしていたとのことでございます。然るに、新しく下向した国守並びに城介らは、叔父甥の間柄でよく通じ合い、互いの益の少なさに常より慨嘆すること甚だしく、こたびも私憤から、みだりに帝の兵を動かしたものと言っております。」
一礼する能長の言葉に、先ほどとは違った意味で座が固まり、すぐにざわつき始める。
「曰理権大夫などという者の言葉、国守の申すことよりも正しいと言われるのか?」
「そもそも、それは正式な上申書ではございませぬではありませんか。」
教通の息子の権大納言信家と、権中納言信長が口を揃えて異を唱える。
「そうですかな?伊具郡司平永衡なるものも、兵の損害は一万を越え、帝の威光をおおいに損なうこと甚だしいと、申し添えておるが?」
頼宗の嫡男権中納言兼頼が、強い口調で発言する。
「それともう一つ、気仙郡司金為時からも、正式な勅なきことゆえみだりに兵を動かすこと叶わず、結果傍観せざるをえなかった旨、詫び状が届いておりましたぞ。」
同じく次男権中納言俊家も、口の端をやや上げ気味にして言う。
右大臣左近衛大将藤原教通は、一度兄の関白左大臣藤原頼通の顔を見たのち、参議左大弁源経長の方を向いて言った。
月次祭が終わり、大祓が迫るいち日、左近衛府に設けられた、陣座において陣定(いわゆる評議)が開かれていた。
陣定は、上卿たる、左大臣が主宰し、参議以上の太政官が集まって、様々な議題について話し合い、対応を決定していく国の最高会議であった。
ちなみに大祓とは、もともとは六月と十二月の晦日に行われる、天津罪、国津罪を祓う神事である。
神事では、大祓詞という祝詞があげられるが、次第に六月にあげられる、中臣祓詞(なかとみのはらえことば)だけが残っていった。
大祓詞は、天孫降臨からの神話を述べ、罪穢の種類の列挙とその祓い方を述べた後、祓戸大神によりどのように罪穢が消されていくかを述べるものであった。
---つまり、すべての罪穢を浄化する神事が終わる前に、今回の件を処断する必要があった。
居並ぶ参議の中において年長である経長は、左大臣の頼通に一礼すると、陸奥守藤原登任からの上書を読み上げた。
「・・・・なお、同様に秋田城介よりほぼ同じ内容の上書が届いております。」
経長はそう言って、教通の顔を見た。
登任らからの上書の内容は、以下の通りであった。
『奥六箇郡の司、安倍頼良なるもの、父祖の代より六郡を横行し人民を劫掠す。頼良もまた滋蔓なり。近年衣川の外にいでて、賦貢を滞らせ、徭役を勤めず、驕奢なり。よって、これを懲らしめるため、秋田城介とともに図り陸奥国玉造郡において兵をもって誅す。然れども頼良、奇謀をもって国守に叛逆し未だ従わず。疾く、善処給わりたく上申致すものなり。』
「うむ。して、戦果はどうなっておるのか?」
教通は、頷いて言った。
「敵陣おおいに打ち破り朝威を示したものの、三千以上の兵を損耗したとのことでございます。」
経長は、登任から送られてきた関連文書を見ながら答えた。
実際には、一万に迫る損害があったにもかかわらず、ほぼ私戦といえる戦いに国府の兵の大半を失ったとは言えず、かなり小さく報告していたのである。
それでも、これまでながらく平穏であった彼の地での予想外の状況に、頼通をはじめ太政官らは、一様に表情を固くした。
「わたくしの所には、いささか異なる報告が届いておるのだが・・・。」
固まった場の空気を変えるように、頼通の右隣に座した、内大臣藤原頼宗が、息子の参議能長を見ながら言葉を発した。
能長が頷くと、皆の視線が一斉に集まる。
「陸奥国府に居ります、散位曰理権大夫藤原経清によりますと、安倍頼良なるもの従五位下の位を賜り、安太夫を名乗って父祖の代より鎮守府将軍不在の六郡をよく治め、賦貢、徭役を滞らせる事なきよう尽くしていたとのことでございます。然るに、新しく下向した国守並びに城介らは、叔父甥の間柄でよく通じ合い、互いの益の少なさに常より慨嘆すること甚だしく、こたびも私憤から、みだりに帝の兵を動かしたものと言っております。」
一礼する能長の言葉に、先ほどとは違った意味で座が固まり、すぐにざわつき始める。
「曰理権大夫などという者の言葉、国守の申すことよりも正しいと言われるのか?」
「そもそも、それは正式な上申書ではございませぬではありませんか。」
教通の息子の権大納言信家と、権中納言信長が口を揃えて異を唱える。
「そうですかな?伊具郡司平永衡なるものも、兵の損害は一万を越え、帝の威光をおおいに損なうこと甚だしいと、申し添えておるが?」
頼宗の嫡男権中納言兼頼が、強い口調で発言する。
「それともう一つ、気仙郡司金為時からも、正式な勅なきことゆえみだりに兵を動かすこと叶わず、結果傍観せざるをえなかった旨、詫び状が届いておりましたぞ。」
同じく次男権中納言俊家も、口の端をやや上げ気味にして言う。
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