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九重の章 京極御堂 2
~船岡山~2
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この頃、朝廷では藤原北家御堂流を中心とした、いわゆる摂関家が、政治の中枢を独占しており、その象徴たる太政大臣藤原道長の息子たちが、左大臣、右大臣、内大臣の三公の位にいた。
長男の頼通は、父道長の跡を継ぎ摂政関白として絶大な権力を振るっていたが、次男の頼宗は正室の源倫子の子ではなく、側室の源明子の子であったため、未だ内大臣であった。
教通は五男であったが、他の兄達(三男顕信は既に鬼籍に在り、四男は能信という)がやはり、実母が明子であったため、頼通に次いで嫡男扱いとされていた。
だが教通は、様々な朝廷工作を図るも、兄頼通を越えることは出来ず、この時いまだ摂関の経験はなく、右大臣であった。
陸奥国守藤原登任は、かつて教通の家の家司を務めており、甥の繁成の叙任を含めて、自らの任官のための申文において、主家の力添えにおおいに頼ることがあった。
今回の件も、国守として大きな失態であり、かつての主家である教通にとりなしてもらいたいと、金をはじめ大量の物産を贈り、訴えていた。
一方、生母の立場の違いから、兄達に何かと張り合う姿勢を見せてきた頼宗は、教通につながる登任に何らかの失態が生じれば、それを引き合いに立場を優位に出来ると考えて、様々な情報を得られるようにかねてより手を打っていたのであった。
そのひとつが、経清ら在庁官人の情報網であった。
「しかし、いかに私戦といえども、畏れ多くも帝より任じられた国守に対して、弓矢を向けるというのは如何なものか?しかも損害は、万を越えずとも数千にのぼったのであろう?」
頼通が、頼宗を見て言う。
「やはり俘囚は、どこまで行っても俘囚のままなのか・・・。」
教通は、虚空を見つめてつぶやいた。
「まずは、陸奥国守藤原登任および秋田城介平繁成の、処分を決めねばなるまい。両名とも諸事情があるとはいえ、みだりに兵を動かし、あまつさえその兵を損なったは、責を取るのは必定。したがって、その任を解くこととする。」
頼通は、周りに有無を言わせずそう断じた。
それを聞いた頼宗は、してやったりという顔を教通へ向けた。
教通は、それを見て顔をそむける。
頼通は、弟たちのそんな様子に反応を示さず、無表情のまま続ける。
「だが、安倍頼良なる者も、これ以上朝廷の代官たる国守、城介に手向かうことを赦(ゆる)すわけにもいかぬ。かといって、相応の武を持つものでなければ彼の地は治まらぬであろう。誰か適任はおらぬか?」
そう言って、太政官たちを見渡した。
「それならば、うってつけの者がおりまする。」
教通が、身を乗り出した。
「かの鎮守府将軍源満仲の孫にして、「四天王」の一人、源頼信(みなもとのよりのぶ)が嫡男源頼義でいかがでございましょう?」
鼻をふくらませ、得意気に言い放つ。
皆が一様に得心したようにうなずく中、頼宗ら親子をはじめ明子の子らは、はっきりと渋い顔をしている。
なぜなら、安和ニ年(九六九年)に起きた中務少輔橘繁延と左兵衛大尉源連の謀反事 変において、かれらの母である明子の父、左大臣源高明も繁延や連と共に、密告によって失脚したのであるが、その密告者の一人が満仲であったのである。
つまりは、自分たちの祖父を密告によって陥れ、母明子をはじめ一族の立場を弱らしめた張本人の孫を推挙したのである。
朝廷を震撼させた天慶ニ年(九三九年)の平将門の起こした乱に続き、長元元年(一〇ニ八年)の平忠常による乱は、再び東国を戦禍に巻き込みまたしても朝廷を揺るがした。
頼通を中心とする朝廷が、追討使として任命した平直方は、この乱を終息させることが出来ず、代わって任じられたのが源頼信であった。
頼信は、嫡男頼義とともに、かつての自分たちの家人である忠常の追討のため進軍すると、たちどころに矛を収めさせ、忠常は、朝威に服したという。
元の主家に楯突くことができなかったといえばそれまでだが、頼信、頼義親子の武勇は戦場となった東国はもとより全国に響き渡った。
とくに、坂東の武士たちはこぞって、頼信の下についたという。
---ちなみに『坂東』とは、足柄坂(峠足柄)あるいは碓氷山(碓氷峠)より東側のいわゆる関東地方のことをそう呼んでおり、古来より蝦夷遠征のための補給・徴兵の基地としての役割を担っていた。
「先の相模守(頼義)は、性は冷静沈着にして物に動じず、豪毅さを兼ね備え、戦の駆け引きにも優れるという。陸奥守にするに、最も相応しい器の者であると思うがいかがであろう?」
かさねて、教通は周りを見回して言った。
このときの朝廷の主である頼通に、近い関係をもつ清和源氏、その嫡流たる頼義の、推挙を拒むものはおらず、登任の後任は決することとなった。
長男の頼通は、父道長の跡を継ぎ摂政関白として絶大な権力を振るっていたが、次男の頼宗は正室の源倫子の子ではなく、側室の源明子の子であったため、未だ内大臣であった。
教通は五男であったが、他の兄達(三男顕信は既に鬼籍に在り、四男は能信という)がやはり、実母が明子であったため、頼通に次いで嫡男扱いとされていた。
だが教通は、様々な朝廷工作を図るも、兄頼通を越えることは出来ず、この時いまだ摂関の経験はなく、右大臣であった。
陸奥国守藤原登任は、かつて教通の家の家司を務めており、甥の繁成の叙任を含めて、自らの任官のための申文において、主家の力添えにおおいに頼ることがあった。
今回の件も、国守として大きな失態であり、かつての主家である教通にとりなしてもらいたいと、金をはじめ大量の物産を贈り、訴えていた。
一方、生母の立場の違いから、兄達に何かと張り合う姿勢を見せてきた頼宗は、教通につながる登任に何らかの失態が生じれば、それを引き合いに立場を優位に出来ると考えて、様々な情報を得られるようにかねてより手を打っていたのであった。
そのひとつが、経清ら在庁官人の情報網であった。
「しかし、いかに私戦といえども、畏れ多くも帝より任じられた国守に対して、弓矢を向けるというのは如何なものか?しかも損害は、万を越えずとも数千にのぼったのであろう?」
頼通が、頼宗を見て言う。
「やはり俘囚は、どこまで行っても俘囚のままなのか・・・。」
教通は、虚空を見つめてつぶやいた。
「まずは、陸奥国守藤原登任および秋田城介平繁成の、処分を決めねばなるまい。両名とも諸事情があるとはいえ、みだりに兵を動かし、あまつさえその兵を損なったは、責を取るのは必定。したがって、その任を解くこととする。」
頼通は、周りに有無を言わせずそう断じた。
それを聞いた頼宗は、してやったりという顔を教通へ向けた。
教通は、それを見て顔をそむける。
頼通は、弟たちのそんな様子に反応を示さず、無表情のまま続ける。
「だが、安倍頼良なる者も、これ以上朝廷の代官たる国守、城介に手向かうことを赦(ゆる)すわけにもいかぬ。かといって、相応の武を持つものでなければ彼の地は治まらぬであろう。誰か適任はおらぬか?」
そう言って、太政官たちを見渡した。
「それならば、うってつけの者がおりまする。」
教通が、身を乗り出した。
「かの鎮守府将軍源満仲の孫にして、「四天王」の一人、源頼信(みなもとのよりのぶ)が嫡男源頼義でいかがでございましょう?」
鼻をふくらませ、得意気に言い放つ。
皆が一様に得心したようにうなずく中、頼宗ら親子をはじめ明子の子らは、はっきりと渋い顔をしている。
なぜなら、安和ニ年(九六九年)に起きた中務少輔橘繁延と左兵衛大尉源連の謀反事 変において、かれらの母である明子の父、左大臣源高明も繁延や連と共に、密告によって失脚したのであるが、その密告者の一人が満仲であったのである。
つまりは、自分たちの祖父を密告によって陥れ、母明子をはじめ一族の立場を弱らしめた張本人の孫を推挙したのである。
朝廷を震撼させた天慶ニ年(九三九年)の平将門の起こした乱に続き、長元元年(一〇ニ八年)の平忠常による乱は、再び東国を戦禍に巻き込みまたしても朝廷を揺るがした。
頼通を中心とする朝廷が、追討使として任命した平直方は、この乱を終息させることが出来ず、代わって任じられたのが源頼信であった。
頼信は、嫡男頼義とともに、かつての自分たちの家人である忠常の追討のため進軍すると、たちどころに矛を収めさせ、忠常は、朝威に服したという。
元の主家に楯突くことができなかったといえばそれまでだが、頼信、頼義親子の武勇は戦場となった東国はもとより全国に響き渡った。
とくに、坂東の武士たちはこぞって、頼信の下についたという。
---ちなみに『坂東』とは、足柄坂(峠足柄)あるいは碓氷山(碓氷峠)より東側のいわゆる関東地方のことをそう呼んでおり、古来より蝦夷遠征のための補給・徴兵の基地としての役割を担っていた。
「先の相模守(頼義)は、性は冷静沈着にして物に動じず、豪毅さを兼ね備え、戦の駆け引きにも優れるという。陸奥守にするに、最も相応しい器の者であると思うがいかがであろう?」
かさねて、教通は周りを見回して言った。
このときの朝廷の主である頼通に、近い関係をもつ清和源氏、その嫡流たる頼義の、推挙を拒むものはおらず、登任の後任は決することとなった。
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