日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

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九重の章 京極御堂 3

~船岡山~3

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 しばらくぶりに戻った都のやしきで、息子たちと寛いでいた源頼義は、突然の朝廷からの召出しに驚きつつ、右大臣藤原教通の邸へ来ていた。

「久方ぶりであったのう、頼義殿。」
 教通が御簾の向こうから、平伏する頼義に声をかけた。

「右大臣様にはご機嫌麗しゅう、お慶び申し上げます。」
 頼義は、面を伏せたまま応える。

「・・・それほど機嫌が良くは無いのだがな。・・・まあよい。面をあげよ。」
 教通は、やや間をあけたのち許しを与える。

「はっ。・・といいますと?」
 頼義は頭を上げ、教通の胸元を見ながら尋ねた。

「陸奥のことは聞きおよんでおろう?」
 教通は、感情を抑えているように、声音に抑揚をあまり付けない。

「たしかに、鎌倉は、・・・相模国は陸奥国にも都よりは近くありますゆえ、多少なりとも噂は届いております。」
 頼義は、緊張し始めたのか、少し硬い声で答えた。

「であろう。では、詳しい話は省いてもよかろうの?そなたには、陸奥守に就いてもらいたい。弟御の頼清よりもあとというのは申し訳ないが、直方にも認められた弓取りの名手であるそなたをおいて、この任に相応しき者はおらぬと思っておる。これは、太政官全員の総意である。無論、帝の御意でもある。是非にも拝受するよう。」
 教通は、目の前の烏帽子えぼしを見つめたまま、静かに言い渡した。

よわい六十を越え、如何ほどのことができまするか判りませぬが、帝の御為おんため、身を粉にして国を治められるよう尽くさせていただきます。」
 頼義は、突然の叙任の申し渡しに戸惑いを覚えたものの、彼の地に古くから繋がりを構築してきた平氏に比べ、ようやく東国へ確かな足がかりが出来はじめてきたばかりの源氏の棟梁として、遅ればせながらもその勢力を拡げる手がかりを掴むきっかけになるものと思い、即応したのであった。

「では、後日内裏より使者が迎えに行くゆえ、宜しくお頼み申しますぞ。」
 教通のその言葉に一礼すると、頼義は邸をあとにした。

 頼義は、清和源氏せいわげんじ(後に河内源氏かわちげんじ)の嫡流である、父源頼信みなもとのよりのぶの嫡男として生まれた。
 鎮守府将軍にまでなった父に似て、若いころから武芸に秀で、四十歳の時に起きた長元ちょうげんの乱では、父とともに平直方に代わって東国を平定し、特に弓の名手として驍名を轟かせた。
 その後、小一条院敦明親王こいちじょういんあつあきらしんのう判官代はんがんだいに抜擢され、狩猟を愛好する小一条院に重用されたが、政務に長けた弟の頼清が各地の国守を歴任するのとは裏腹に、その昇進は足踏みを続けた。

 ようやく道が開け始めたのは、四十八歳になってからであった。

 その年、相模守に叙任された。

 その赴任地の相模国は、かの平直方の本拠地であり、このとき上野こうずけの守であった直方はあの乱以来、頼義の武勇に心酔しきっていた。
 直方は赴任してきた頼義を見ると、『私は無能な将軍ではあったが、曲がりなりにも、あの平将門を討ち滅ぼした平貞盛のすえである。であればこそ、常々、武芸第一と考えてきた。しか し、国守殿ほどの弓の技を持ちうる武人を見たことはなかった。不躾ながら、是非とも、私の娘婿となって頂けないだろうか?』と言って、おおいにもてなした。
 直方は、自らの娘を嫁がせたばかりか、さらには鎌倉は大蔵にある邸宅とその所領、桓武平氏嫡流伝来の郎党をも頼義へと譲り渡したのだった。

 相模の民は武勇を好んだ。
 したがって、弓の名手で武略に優れた新しい主は人々に受け入れられた。
 やがて、東国の武門のものたちは大半が彼の家臣となっていた。

 頼義は、直方の娘を娶ると、三男二女をもうけた。
 長男が義家、次男が義綱である。

 頼義は、相模守の任期を終え都に帰ると、数年間を経た時に、突然に朝廷より召出しがあったのである。
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