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九重の章 京極御堂 4
~船岡山~4
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「父上、右大臣様の用向きは如何でした?」
頼義が邸に戻ると、嫡男の義家が待ち構えていた。
義家はこの時十二歳、幼名は不動丸であり、七歳の春に、山城国の石清水八幡宮で元服したことから八幡太郎と称していた。
「ふむ、太郎か。陸奥国へゆくことになった。」
頼義は、見上げる息子の頭をその大きな掌で撫でて、そう告げた。
「それはまことですか?ですが、陸奥の北には鬼が住むと聞きましたが、大丈夫でございましょうか?」
義家は一瞬顔をきらめかせたが、すぐに眉を下げて父に聞いた。
「鬼はおらぬが、俘囚と夷俘はおるな。だが、彼の地は良き馬を産するし、矢羽も見事なものが手に入るぞ。」
そんな息子の目をのぞき込みながら頼義は言った。
「なるほど!いずれにしても、そのようなものが手に入るのであれば、万が一の時にはわたくしの弓が、父上を守ってしんぜます。」
義家は、俘囚も夷俘もよくは分からなかったが、自慢の弓の技で父を守ると胸を張るのであった。
頼義は息子に、『頼むぞ。』と一言いいおいて、邸の奥へと向かった。
「お帰りなさいまし。」
頼義の正室(平直方の娘)が手をついて迎えた。
「陸奥国にゆくことになった。」
頼義は太刀を預けながら、告げた。
「それはようございました。当家は満仲様以来、代々鎮守府将軍や陸奥守を預かる家柄。ましてや、わたくしの父方も国香様以来、やはり代々鎮守府将軍を拝命してまいりました。主様もようやっと、朝廷よりお認め頂けましたのですね。むしろ、遅いくらいでございます。」
妻は顔を明るくして、言葉を次々と発する。
それを聞いた頼義は、苦笑するしかなかった。
平服に着替えて着座し、頼義が一息ついたところで、妻は下女の持ってきた茶を夫に差し出しながら、言った。
「それにしても、同じ国香様の裔である縁戚として、繁成殿や登任様があのようなことになろうとは、情けないやら、腹立たしいやら。安倍頼良とは如何なる者なのですか?」
まるで、自らのことのように目を怒らせて尋ねる妻に、頼義はやや押され気味になっていた。
桓武帝の孫、高望王が臣籍降下して、平高望を称し、その子平国香を祖とする国香流桓武平氏は、武門の平氏の嫡流として、その昔の平将門の反乱や平忠常の反乱を収める役目を担ってきた。
同様に、清和帝の孫、経基王が臣籍降下して、源経基を称し、その子源満仲を祖とする多田(清和)源氏も、武門の源氏の嫡流として、数々の乱を収めてきた。
であるからこそ、頼義の妻も女の身でありながら、一族の誇りと矜持を人一倍持ち合わせており、遠いみちのくでの出来事に憤慨し、落胆し、己の夫に期待を寄せているのであった。
「安倍氏の出自はよくは判らぬのだが、いずれ俘囚の出であり、大した位階でもないくせに、奥六郡はおろか陸奥国にまで、縦横無尽に往来しておるそうだ。」
頼良は、父祖の代より陸奥国にもつ、自領の田堵負名からの報告を思い出していた。
「俘囚というからには、やはり粗野な者どもなのでしょうね。それで、朝廷の威光にも逆らうでしょう。」
俘囚と聞いて、その性までも決めつけるのであった。
鎮まる気配のない妻をよそに、頼義はどこか遠くを見ながらつぶやいた。
「だが別な筋によると、頼良の祖父忠頼なる者、どうも腑に落ちないところがあるのだがなあ。父親の忠良もなぜ、陸奥権守になれたのか・・・。」
頼義が邸に戻ると、嫡男の義家が待ち構えていた。
義家はこの時十二歳、幼名は不動丸であり、七歳の春に、山城国の石清水八幡宮で元服したことから八幡太郎と称していた。
「ふむ、太郎か。陸奥国へゆくことになった。」
頼義は、見上げる息子の頭をその大きな掌で撫でて、そう告げた。
「それはまことですか?ですが、陸奥の北には鬼が住むと聞きましたが、大丈夫でございましょうか?」
義家は一瞬顔をきらめかせたが、すぐに眉を下げて父に聞いた。
「鬼はおらぬが、俘囚と夷俘はおるな。だが、彼の地は良き馬を産するし、矢羽も見事なものが手に入るぞ。」
そんな息子の目をのぞき込みながら頼義は言った。
「なるほど!いずれにしても、そのようなものが手に入るのであれば、万が一の時にはわたくしの弓が、父上を守ってしんぜます。」
義家は、俘囚も夷俘もよくは分からなかったが、自慢の弓の技で父を守ると胸を張るのであった。
頼義は息子に、『頼むぞ。』と一言いいおいて、邸の奥へと向かった。
「お帰りなさいまし。」
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「陸奥国にゆくことになった。」
頼義は太刀を預けながら、告げた。
「それはようございました。当家は満仲様以来、代々鎮守府将軍や陸奥守を預かる家柄。ましてや、わたくしの父方も国香様以来、やはり代々鎮守府将軍を拝命してまいりました。主様もようやっと、朝廷よりお認め頂けましたのですね。むしろ、遅いくらいでございます。」
妻は顔を明るくして、言葉を次々と発する。
それを聞いた頼義は、苦笑するしかなかった。
平服に着替えて着座し、頼義が一息ついたところで、妻は下女の持ってきた茶を夫に差し出しながら、言った。
「それにしても、同じ国香様の裔である縁戚として、繁成殿や登任様があのようなことになろうとは、情けないやら、腹立たしいやら。安倍頼良とは如何なる者なのですか?」
まるで、自らのことのように目を怒らせて尋ねる妻に、頼義はやや押され気味になっていた。
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同様に、清和帝の孫、経基王が臣籍降下して、源経基を称し、その子源満仲を祖とする多田(清和)源氏も、武門の源氏の嫡流として、数々の乱を収めてきた。
であるからこそ、頼義の妻も女の身でありながら、一族の誇りと矜持を人一倍持ち合わせており、遠いみちのくでの出来事に憤慨し、落胆し、己の夫に期待を寄せているのであった。
「安倍氏の出自はよくは判らぬのだが、いずれ俘囚の出であり、大した位階でもないくせに、奥六郡はおろか陸奥国にまで、縦横無尽に往来しておるそうだ。」
頼良は、父祖の代より陸奥国にもつ、自領の田堵負名からの報告を思い出していた。
「俘囚というからには、やはり粗野な者どもなのでしょうね。それで、朝廷の威光にも逆らうでしょう。」
俘囚と聞いて、その性までも決めつけるのであった。
鎮まる気配のない妻をよそに、頼義はどこか遠くを見ながらつぶやいた。
「だが別な筋によると、頼良の祖父忠頼なる者、どうも腑に落ちないところがあるのだがなあ。父親の忠良もなぜ、陸奥権守になれたのか・・・。」
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