日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

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九重の章 京極御堂 5

~船岡山~5

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 除目じょもくとは、内官ないかん外官げかんの諸官を任命する儀式であり、そのものであった。
 主に春と秋の年二回行われ、時々、臨時の徐目も行われた。
 春の徐目は、主に外官-すなわち、地方の国司などを任命するものであり、正月十一日からの三夜行われた。
 秋の徐目は、主に内官-すなわち、中央官庁の官吏を任命するものであり、八月に行われた。

 陸奥国の国守は、延喜式えんぎしきで定められた大国十三ヵ国の内の一つの司であることから、今回の叙任についても秋の徐目では内示に留まり、翌永承えいしょう七年(一〇五二年)の春の徐目で正式に任が下され、頼義は桜の花咲く春を待って多賀国府へと下向した。


 頼義が、嫡男義家をはじめとした息子たちとともに、坂東の郎党たちを従えて国府の南門へ至ると、門前に在庁官人たちが居並んで出迎えていた。

 出迎えの列の中央で、他の者より一歩前に出て、頭を下げていた男が面を上げると、犀利さいりそうな目元に笑みを貼りつけて言上した。

従四位上陸奥守源頼義朝臣様じゅしいじょうむつのかみみなもとのよりよしあそんさま、遠路、御下向頂きまして恐悦至極に御座います。先の国守様が帰京されましてより、当国府をお預かりしておりました、陸奥権守藤原説貞むつごんのかみふじわらときさだにございます。」



 そのかた鴨川かもがわの西岸、京極御堂きょうごくみどうにある法成寺ほうじょうじの境内に建てられた東北院とうほくいんに住まわれていた。

 新緑の若葉はすでに青々として、初夏の薫りがそよいでいる。

 夏の蒸し暑さはまだ遠い。

 ---であるのに・・・その方は全身に玉の汗をかき、床に臥せっておられる。

 上東門院じょうとうもんいん彰子しょうし

 かの関白太政大臣藤原道長の長女にして、一条帝の中宮ちゅうぐうとなり、後一条帝をした。
 自分よりもさきに中宮となっていた藤原定子ふじわらのていしと、その子三条帝、実父道長、夫一条帝の間で心を痛め続けていた彼女は、一方で、平安の世の王朝文化を体現するものたちを従えていた。

 源氏物語げんじものがたりの紫式部、栄花物語えいがものがたり和泉式部いずみしきぶ、歌人でいえば、赤染衛門あかぞええもんに、出羽弁でわのべん、そして伊勢大輔いせのたふ、彼女らは女房として中宮彰子に仕えていたのだった。

 そんな父道長同様の栄華を極めたかに見えていた彼女も、長元ちょうげん九年(一〇三六年)に後一条帝を、寛徳かんとく二年(一〇四五年)に後朱雀帝ごすざくていと二人の子を、わずかの間に失った。
 孫の後冷泉帝ごれいぜいていを即位させたものの、弟の頼通とはなにかとすれ違うようになっていた。

 国母としてこの国を支え続けてきた彼女の身体は、長年の様々が積り重なり、心地よい季節となったというのに、衰弱するばかりであった。


「姉上は相変わらず思わしくないのか?」
「床を払うどころか、ますます衰弱されるようで・・・・。」
 左大臣頼通は、実の姉である上東門院の見舞いに行ってきたという、弟の右大臣教通に、その様子を聞いていた。

 二人とも顕官けんかんを極めた身ではあるが、自分たちが幼き時より天皇のきさきとして仕える対象であった姉は、もはや母も同然であった。

「どうすればよいのであろうか・・・。」
「まずは、春日神かすがのかみにお伺いをたててみてはいかがでしょうか?」
「そうであるな・・。」
 藤原氏の栄華を体現したような実姉に忍び寄る死の影に、なにか不吉なものを感じて、この国の政の頂点に在る兄弟は同時に大きなため息を吐き出すのであった。
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