31 / 49
30.王都イシュタル
しおりを挟む森林地帯を抜けると、沃野が広がっていた。
一面、広大な麦畑だ。
草丈が勢いよく伸びた先端には、白くて小さな、かわいい花をつけている。
俺たちを乗せた馬車は、どこまでも続く、その麦畑の真ん中を進んでいった。
あれ以来、魔物は出て来なかった。
やがて、目の前にエンキドゥの流れが見えてくる。
河岸の土も、そして川底の土も真っ白なため、滔々と流れる水は青く、澄んでいる。
街道は、真っ直ぐに河岸へ向かっていく。
「うわぁー!あれ見て、セイヤお兄ちゃん!」
コリンが馬車の窓から、身を乗り出して、指をさして声をあげた。
「おお!すげえな!!」
「きれいですね」
「みゃー!」
言われて、外を見た俺が驚いていると、アイリスも同じように感嘆の声を漏らした。
ついでに、ライアンも。
「ただの橋よ」
「あたしは、ついこの間、通ったばかりだから」
一方、エルとスザンヌさんは、いたって平静だ。
街道が行き着く先、河幅が2000キュピ(1キロメートル)もあるエンキドゥに、石造りの巨大な橋が架かっていた。
はるか対岸には、絶壁のようにそびえ立つ、白亜の城壁が、見える範囲いっぱいに続いている。
「あれが、王都イシュタル・・・」
想像以上だ。
俺はその光景を見て、改めて異世界に来た実感がした気がした。
少なくとも、1ヶ月ちょっと前まで住んでいた、日本とは違うどこかだということは確かだ。
「驚くのはまだ早いわよ」
スザンヌさんが言った。
橋の上は、馬車やラクダ、徒歩の人々でごった返していた。
その中へ、俺たちの馬車も突っ込んでいく。
「凄い・・」
渋谷の有名な交差点の比ではない、例えていえば、山手線の朝のラッシュが近いだろうか?
馬車でさえも、人波に押し流されるように、対岸へと進んでいった。
そして・・・。
「「ひえ~~~!」」
俺とコリンが、眼前に扉が大きく開け放たれた、巨大な門を見上げて叫んだ。
なんという大きさだろう。
四頭立ての馬車が余裕ですれ違える幅があり、高さは10階建て、いや15階建てのビルに匹敵するだろうか。
ある意味、凄い技術力だ。
門の前には、ちょっとした広場のようなスペースがあって、10箇所ほどのイミグレーション窓口のようなものがあった。
王都内へ入る者はそこで身分と持ち物をチェックされ、出ていくものは持ち物だけをチェックされるようだ。
入る方の窓口が7つ、出ていく方は3つだ。
入る方が多いのにも関わらず、どの窓口も長い列が出来ている。
各種ギルドのギルドカードを持っているものは、それを提示すればチェックは完了みたいだ。
でも、カードを持っていないものはどうするんだ?
「コリンとアイリスは、どうすればいいんですか?」
俺は、スザンヌさんに尋ねた。
「大丈夫よ、専用の魔道具で基本的なステータスと犯罪歴をチェック出来るから。それに・・。」
「あ、ボク。カード持ってます。」
アイリスが、カードを取り出して見せてきた。
「そうなんだ、だったら大丈夫だね。」
コリンのステータスを偽装しておいて良かった・・。
「アイリスって、ヒタト国の冒険者ギルドに入っているの?」
「いえ、ボクは・・・神殿に仕えていたので、神職のカードです。」
「へええ~!・・・ねえ、スザンヌさん。そんなこと、ひとっことも言ってませんでしたよね?」
「あら、言わなきゃいけなかった?」
まったく。
くえないオバ・・オッサンだ。
こうして俺たちは、30分ほど並んで(意外と早かった)、無事に王都入を果たしたのだった。
「そんなに一生懸命キョロキョロしていると、疲れちゃうわよ」
スザンヌさんが、忙しくあたりを見回している、俺とコリンに言った。
いま俺たちは、チャーターしていた馬車を降りて、王都の街路を歩いている。
「ほんと。お上りさん丸出し」
エルが、莫迦にしたように冷たくつぶやく。
「しょうがないじゃないか、実際、初めて見るものばかりなんだし。なあ、コリン」
「うん!なにもかも、おっきくて、人もいっぱいいて面白い!」
コリンは、繋いだ手をブンブン振り回しながら、興奮している。
ちなみに、ライアンは俺の肩の上だ。
大きさは少し小さめの家猫くらい、なんか自由に大きさは変えられるらしい。
そんな能力があるなら、はじめから言ってくれって話だ。
縮めた身体で、俺の右肩の上に器用に乗っているのだった。
カレは彼で、鼻をヒクヒクさせて、一生懸命匂いを嗅ぐのに忙しい。
「確かに。ヒタト国の王都キシャルは、埃っぽくてどこか暗い感じがするんですが、イシュタルは、華やかで明るい感じがしますし、なんだかワクワクしますね」
アイリスも、俺たち同様、目をキラキラさせて、好奇心に満ちた視線を左右に向けている。
********
イミグレーションを終えて、巨大な門を抜けると、野球のグラウンドぐらいの広場があった。
広場は、5階建てくらいの大きな建物に囲まれている。
スザンヌさんによると、それらは各種ギルドの王都本部の建物らしい。
万が一、戦争などになった時は、この広場で敵を足止めして、周りの建物から攻撃、殲滅するように配置されているということだ。
まるで日本の城の、桝形虎口みたいだな。
この広場からは、街路が8方向に延びている。
街路は幅が10キュピ(5メートル)くらいで、緩やかに上り坂となっており、石畳敷だ。
石畳は、たくさんの人がその上を歩いてきたため、ピカピカに光っており、少しすり減って凹んでいる。
この縦方向の街路からは、横方向に幅6キュピ(3メートル)くらいの脇道が、たくさん延びている。
この脇道には、洗濯物が干してあったりと、とても生活感がある。
俺たちは、最初の広場から延びる、縦方向の街路の内、正面にあった2本の右側の道を進んで行ったのだったが、2000キュピ(1キロメートル)ほど進んだところで、横方向に延びる大きな通りに出た。
道幅は、24キュピ(12メートル)ほどもある。
そこは、さっきの橋の上に勝るとも劣らない賑わいだった。
「これが王都のメインストリートよ」
スザンヌさんが言った。
「なんなんだ、これは・・・」
「ふえ~~~」
この世界のメインストリートとと言えば、エア村のしか知らない俺は、只々圧倒された。
コリンも目を丸くして、呆然としている。
様々な種族が、様々な衣装で歩いている。
両側の建物は、基本的に1階建しかなかったエア村とは違い、3階建以上がほとんどだ。
商店の店先には、商品が溢れんばかりに陳列されていて、客の呼び込みの声が騒々しい。
そこかしこから、スパイスの薫りが漂ってくる。
「ちょっとだけ見物して、まずは宿を確保しましょう」
固まっている俺に、スザンヌさんが言ってきた。
「そ、そうですね。あっでも、冒険者ギルドには顔を出さなくていいんですか?」
「そんなのあとでいいわよ、ギルドは逃げないし」
ウインクをするスザンヌさんの大きな顔に、内心『逃げるかもしれない』と思ったのはナイショだ。
********
・・・というわけで、いま俺たちは、メインストリートの街路を歩いているのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる