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29.襲撃
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◇◇◇◇◇◇◇
王都イシュタルへ向かう街道は、大河エンキドゥ沿いに下流へと南下している。
かつては、エンキドゥを行き来する定期船があったそうだが、水性の魔物が多く出現するようになり、いつしか交通手段としての水上交通は途絶えていた。
したがって、街道には商人や冒険者の姿を多く見かけるのだった。
****
王都イシュタルを過ぎると、大河エンキドゥはやがて、国境を越え隣国の大国バロニア国を縦断し、王都エヌルタに至り、紅の海へと注ぐ。
ちなみに、エンキドゥは、水路と運河の主であり、農耕神である。
また、この世界(地域)に流れるもう一つの大河トトは、古の巨大国家シュメルの都、旧都アンシャルと現代の中央国家アリア国の王都アシュルに挟まれながら南下し、同じ様にバロニア国を縦断して、紅の海に達している。
トトもまた、農作の神であり、平野を灌漑する地下の水源を開き、飢饉や災害を未然に防ぐ神でもあった。
さらに言えば、2つの大河は共に、北方の水の国、ウルト国を源としていた。
ハルバト国を含むこれらの4国は、古代国家シュメルの遺産を引き継ぐ、同じ文化圏に属しており、おおむねその習俗は共通していた。
****
「意外と安全なものだな。エア村に着くまでに、結構魔物に出会ってたから、街道って言っても、もう少し緊張感があるものだと思っていたよ」
俺は、馬車の中から外の景色を眺めながら、エルに言った。
俺たちは、エア村でチャーターした、6人乗りの馬車に、5人で乗り込んで王都イシュタルへと向かっていた。
「当たり前じゃない、この道はハルバト国のメインストリートなのよ。王都までそんなに距離は無いし、常に正規兵が魔物は討伐してるわよ」
「そうなんだ。近いって、あとどれくらいで王都につくんだろ?」
俺は、誰ともなしに尋ねた。
「エア村から王都までは、だいたい20万キュピ(100キロメートル)あるわ。馬車だと、1日半てところね。」
すると、乗り込む時に問答無用で俺の隣の席を確保した、スザンヌ(本名ローリー)さんが、耳元で答えた。
わざわざ、耳元で言わんでもいいのに!
「じゃあ、途中どこかの村とかで一泊するんですか?」
「村なんて無いわよ。野宿よ。の、じゅ、く」
そう言って、スザンヌさんがウインクをしてくる。
なんで、そんなに嬉しそうなわけ?
「別に一緒に寝たりとかしませんからね。交代で見張りとかするんですよね?だったら、スザンヌさんが寝てる時に、俺が見張りをしますから」
「いいわよぉ。セイヤくんの寝顔を、タップリ堪能させていただくから」
「ひぃ!エル~、なんか言ってやってくれよ~」
「減るもんじゃないし、放っておけば?」
逃げ道ねぇーー!
全体の3分の2を進んだところで、暗くなってきたので、今日はここで野宿をすることになった。
あたりは鬱蒼とした森で、王都へ向かって左手奥の方向からは、エンキドゥのせせらぎが聞こえてくる。
街道から少しそれた場所で、木がまばらになったちょっとだけ開けた所に馬車を止め、そのそばに焚き火をたいた。
その焚き火を使って、スザンヌさんが夕食を作ってくれたのだが、これが思いのほか旨かった。
「将来の旦那様のためにも、こういうことは当たり前にできないと。それが、乙女のタシナミってものよ」
スザンヌさんが、料理をしながら自慢げに言うと、エルがポツリと言った。
「あたしだって、切るのは得意」
たしかに、めっちゃ食材を切るのは速いけど、シャムシールを使うのはどうかな?と思うぞ。
だって、それで魔物とか場合によっちゃ人も斬るんだろ?
「コリンも、料理のお手伝いは得意なのー!」
そう言って、ホニオン(玉ねぎみたいな野菜)の皮を、一生懸命にむいている。
「スザンヌさん、味付けはこれでいいですか?」
「ん、バッチリよ!」
意外だったのは、アイリスが料理が上手かったことだ。
「アイリス、結構やるじゃないか」
「ボクは3姉妹の末っ子だったから、将来のために小さいときから料理とかの家事を一通り習っていたの」
俺がアイリスを褒めると、嬉しそうにはにかんで、頬を赤くした。
「(どうせ、あたしは戦うしか能がないわよ。)ほら、切ったわよ!セイヤ、はやく串に刺してちょうだい!」
「お、おう!」
ん~エルさんの機嫌が悪化している・・・。
「肉の切り口が綺麗だと、余計に美味そうに見えるねえ!」
「バ~カ。焼けばみんな一緒でしょ!」
くだらんフォローしか出来ない、自分が情けない・・・。
***************
野宿の見張りは、俺とエル、そしてスザンヌさんの3人で交代ですることになった。
最初にエル、2番めにスザンヌさん、最後に俺だ。
見張り役は焚き火の番を兼ねて、そのそばに待機し、そのほかの者は馬車で休む。
当然、馬車の馭者も馬車で寝る。
「・・ん?・・・・うわぁー・・んグッ」
ふいに、背筋に悪寒が走ったような気がして、薄目を開けると、青い瞳の大きなタレ目が、すぐ目の前にあった。
俺は、思わず悲鳴をあげそうになったのだが、すぐに真っ赤なマニキュアをした大きな手で、口を塞がれてしまった。
--マニキュア、あるんだ・・。
そんな、マヌケな感想を抱いている間にも、無駄に肉感的な唇をした大きな口が、耳元へと近づいてきた。
「お、は、よ。セイヤくん、あなたの番よ」
『ゾ、ぞわ~~』
本当に寒気が・・・。
「わ、わかりましたから。そんなに、顔を近づけないでください!」
俺は、慌てて飛び起きると、アイテムボックスから武器を取り出しながら、馬車を出て、焚き火の方へと向かった。
「うふふ、お願いね」
スザンヌさんが、うしろから声を掛けてきた。
「・・まったく!ほんとうに、俺の寝顔を見ていたのか?」
おお、寒い!
◇◇◇◇◇
突然、『空間把握』スキルの探知・索敵画面に、魔物の反応が現れた。
「どういうことだ?」
探知範囲は、常に2000キュピ(1キロメートル)を保持していたはずだ。
それが、なんの前兆も無く、反応を示したのだ。
あっという間に、反応点が30個程に増える。
「これは・・スケルトンか。距離は100キュピ~200キュピほど」
ん!また増えた!!
「今度は、グール。いち、にー、さん、20体!」
囲まれたか・・。
動きが、早すぎる。
「それに、秩序があり過ぎる」
まるで、誰かに操られているかのようだ。
それでも俺は、その時点で馬車のそばまで移動しており、最も近い魔物たちと馬車の間に入って、ショートソードを構える。
「あらあら、囲まれちゃったわねえ」
「なんで気づかなかったのよ!」
「セイヤお兄ちゃん!」
一瞬、振り向くと、馬車の周りの残り3方を、スザンヌさんとエル、そしてコリンが囲んでいた。
それぞれに武器を構えている・・いや、スザンヌさんだけ素手・・拳を構えていた。
「ちょっと厄介な奴らに囲まれちゃったわね。聖属性か光属性の浄化の魔法を、付加出来ればいいんだけど」
スザンヌさんが、つぶやいた。
「あ、俺持ってます」
「そう!じゃあ自分のと、コリンちゃんのショートスピアにかけてあげて。あと、エルちゃんのも・・」
「スザンヌさんは?」
「大丈夫、あたしはこの拳があるから」
俺が、自分のショートソード、コリンのショートスピアの順に、魔法を付加しながら、スザンヌさんを見ると、その拳が白い光に包まれていた。
スゲエ・・なんかのユニークスキルか?
半瞬、見とれていて、エルのシャムシールの魔法付加が遅れてしまった。
その隙に、包囲を狭めていた魔物たちが一斉に襲いかかってくる。
「エル!」
やばい、どうする?!
すると、俺がまごついている間に、シャムシールが光に包まれた。
「ボクも出来ます!」
馬車から身を乗り出して、アイリスが叫んだ。
「ありがと!」
「おお!アイリス、ありがとな!」
向かってきたスケルトンの、頭蓋骨を叩き割りながら、エルと俺は、礼を言った。
全部で50体の魔物たちを、4人でどんどん殲滅していく。
残り10体ほどになった時、別な反応が探知・索敵画面に現れた。
「ヴァンパイア?!」
その数20体。
ヴァンパイアが、20体って・・。
「クッ!」
5体のヴァンパイアに囲まれて、エルが苦戦を強いられている。
「キャッ!」
実戦慣れをしていないコリンが、裏をかかれて、攻撃を食らった。
だが、防御力のおかげでダメージは無いみたいだ。
「早いとこ、こっちを片付けて、加勢に行かないと」
俺は、目の前の1体を、斬撃と同時の至近距離からの浄化魔法で消し去る。
「な、なんだ!?」
5体目のヴァンパイアを倒して、エルの方へ行こうと振り返った瞬間、背後から、禍々しい魔力を感じた。
もう一度、後ろに向き直る。
まるで、漆黒の闇の中から湧いてくるように、何かが実体化しようとしていた。
感知される魔力が、増大する。
闇から生まれるように、そいつが実体化した瞬間、不協和音が頭の中に響いた。
「くっ!」
俺は、思わず両耳を押さえて、その場で片膝をつく。
すると、背後で『ズサッ』という音がして、ほかの3人も同じように、膝をついたのが分かった。
魔物たちの気配はしない、どうやらみんな、掃討は終えていたらしい。
「セイヤお兄ちゃん、あれ!」
コリンの言葉で、俯いていた視線を上げる。
黒いローブのフードを、頭からすっぽりと被った奴が、空中に浮かんでいた。
手には杖のようなものを持っており、フードの奥の表情は全く見えない。
体型からして、男だろうか?
「誰だ?!」
ほかに良いセリフも思い浮かばず、ベタな言葉を言ってしまう。
だが、相手は何も答えない。
相変わらず、不協和音が鳴り続けている。
・・あっそうか、調べればいいんだ。
「・・ネクロマンサー」
「「エッ!」」
俺の言葉に、エルとスザンヌさんが同時に声を上げる。
「ネクロマンサーが、こんなに膨大な魔力を持っているはずないわ」
「ええ」
「そうなのか?」
でも、ステータスにはそう表示されているんだけどなあ。
「僕たちが次々と消滅するから、何かと思えば、例のガキか。・・・それなりではあるが、まだまだだな」
おもむろに、全身黒ずくめのそいつが、俺の方を向いて言ってきた。
ただそれは、通常の声ではなく、直接頭の中に聞こえてくるものだった。
「お前は何者なんだ?俺のことを、知っているのか?!」
「フッ、そんなことはどうでもよいではないか。・・おお、そちらのお嬢ちゃんは、まだ生きておったようだな。ガキと一緒にいるとは、面白い」
今度は、エルの方を向いて、楽しげに言っている。
「なによ!あたしは、あんたのことなんか知らないわよ!」
「それも、どうでもよい。いずれにしても、これから愉しくなりそうだな。今日のところは、失礼する。また会おう!ふはははは」
ネクロマンサー?は、一方的にひとりで納得して、現れた時と同様に、霧散するように闇に消え去ってしまった。
「どういうこと?あなたたち、アイツとお知り合いなの?」
ようやく、不協和音から解放されて、安堵の溜息を漏らしたあと、スザンヌさんが俺とエルの顔を見ながら言った。
「「知りません!」」
「そうお?向こうは、知っているみたいだったわよ?」
「あの~」
そのとき、アイリスが、馬車から出てきておずおずとした感じで言ってきた。
「ボク、あの声に聞き覚えがあります」
「エッ、ほんとに?」
みんなの視線が集まって、アイリスは顔を赤らめる。
「ハイ、ボクの故郷を乗っ取った奴らの中に、ああいう声の持ち主がいたような気がします。姿に見覚えはないですけど・・」
声だけに、覚えがあるか・・・。
う~ん、今は考えるだけ無駄か。
材料が少なすぎる。
「とりあえず、もう襲っては来なさそうだし、早めに出発しましょうか?」
「そうね、そろそろ明るくなってくるし、ちゃっちゃと朝ごはん食べて、ここを引き払いましょう」
俺の提案に、スザンヌさんが賛成してくれる。
****
しばらくして、朝食の用意が出来上がった。
あたりに、肉の焼けるいい匂いが漂う。
「なあ、そういえば。ライアンは?」
俺は、みんなの顔を見回した。
一斉に、ある方向を指差す。
「ミャーあーああ」
するとそこには、大きなあくびをしながら、馬車から降りてくる、ライアンの姿があった。
・・・大物過ぎる。
**********
王都イシュタルへ向かう街道は、大河エンキドゥ沿いに下流へと南下している。
かつては、エンキドゥを行き来する定期船があったそうだが、水性の魔物が多く出現するようになり、いつしか交通手段としての水上交通は途絶えていた。
したがって、街道には商人や冒険者の姿を多く見かけるのだった。
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王都イシュタルを過ぎると、大河エンキドゥはやがて、国境を越え隣国の大国バロニア国を縦断し、王都エヌルタに至り、紅の海へと注ぐ。
ちなみに、エンキドゥは、水路と運河の主であり、農耕神である。
また、この世界(地域)に流れるもう一つの大河トトは、古の巨大国家シュメルの都、旧都アンシャルと現代の中央国家アリア国の王都アシュルに挟まれながら南下し、同じ様にバロニア国を縦断して、紅の海に達している。
トトもまた、農作の神であり、平野を灌漑する地下の水源を開き、飢饉や災害を未然に防ぐ神でもあった。
さらに言えば、2つの大河は共に、北方の水の国、ウルト国を源としていた。
ハルバト国を含むこれらの4国は、古代国家シュメルの遺産を引き継ぐ、同じ文化圏に属しており、おおむねその習俗は共通していた。
****
「意外と安全なものだな。エア村に着くまでに、結構魔物に出会ってたから、街道って言っても、もう少し緊張感があるものだと思っていたよ」
俺は、馬車の中から外の景色を眺めながら、エルに言った。
俺たちは、エア村でチャーターした、6人乗りの馬車に、5人で乗り込んで王都イシュタルへと向かっていた。
「当たり前じゃない、この道はハルバト国のメインストリートなのよ。王都までそんなに距離は無いし、常に正規兵が魔物は討伐してるわよ」
「そうなんだ。近いって、あとどれくらいで王都につくんだろ?」
俺は、誰ともなしに尋ねた。
「エア村から王都までは、だいたい20万キュピ(100キロメートル)あるわ。馬車だと、1日半てところね。」
すると、乗り込む時に問答無用で俺の隣の席を確保した、スザンヌ(本名ローリー)さんが、耳元で答えた。
わざわざ、耳元で言わんでもいいのに!
「じゃあ、途中どこかの村とかで一泊するんですか?」
「村なんて無いわよ。野宿よ。の、じゅ、く」
そう言って、スザンヌさんがウインクをしてくる。
なんで、そんなに嬉しそうなわけ?
「別に一緒に寝たりとかしませんからね。交代で見張りとかするんですよね?だったら、スザンヌさんが寝てる時に、俺が見張りをしますから」
「いいわよぉ。セイヤくんの寝顔を、タップリ堪能させていただくから」
「ひぃ!エル~、なんか言ってやってくれよ~」
「減るもんじゃないし、放っておけば?」
逃げ道ねぇーー!
全体の3分の2を進んだところで、暗くなってきたので、今日はここで野宿をすることになった。
あたりは鬱蒼とした森で、王都へ向かって左手奥の方向からは、エンキドゥのせせらぎが聞こえてくる。
街道から少しそれた場所で、木がまばらになったちょっとだけ開けた所に馬車を止め、そのそばに焚き火をたいた。
その焚き火を使って、スザンヌさんが夕食を作ってくれたのだが、これが思いのほか旨かった。
「将来の旦那様のためにも、こういうことは当たり前にできないと。それが、乙女のタシナミってものよ」
スザンヌさんが、料理をしながら自慢げに言うと、エルがポツリと言った。
「あたしだって、切るのは得意」
たしかに、めっちゃ食材を切るのは速いけど、シャムシールを使うのはどうかな?と思うぞ。
だって、それで魔物とか場合によっちゃ人も斬るんだろ?
「コリンも、料理のお手伝いは得意なのー!」
そう言って、ホニオン(玉ねぎみたいな野菜)の皮を、一生懸命にむいている。
「スザンヌさん、味付けはこれでいいですか?」
「ん、バッチリよ!」
意外だったのは、アイリスが料理が上手かったことだ。
「アイリス、結構やるじゃないか」
「ボクは3姉妹の末っ子だったから、将来のために小さいときから料理とかの家事を一通り習っていたの」
俺がアイリスを褒めると、嬉しそうにはにかんで、頬を赤くした。
「(どうせ、あたしは戦うしか能がないわよ。)ほら、切ったわよ!セイヤ、はやく串に刺してちょうだい!」
「お、おう!」
ん~エルさんの機嫌が悪化している・・・。
「肉の切り口が綺麗だと、余計に美味そうに見えるねえ!」
「バ~カ。焼けばみんな一緒でしょ!」
くだらんフォローしか出来ない、自分が情けない・・・。
***************
野宿の見張りは、俺とエル、そしてスザンヌさんの3人で交代ですることになった。
最初にエル、2番めにスザンヌさん、最後に俺だ。
見張り役は焚き火の番を兼ねて、そのそばに待機し、そのほかの者は馬車で休む。
当然、馬車の馭者も馬車で寝る。
「・・ん?・・・・うわぁー・・んグッ」
ふいに、背筋に悪寒が走ったような気がして、薄目を開けると、青い瞳の大きなタレ目が、すぐ目の前にあった。
俺は、思わず悲鳴をあげそうになったのだが、すぐに真っ赤なマニキュアをした大きな手で、口を塞がれてしまった。
--マニキュア、あるんだ・・。
そんな、マヌケな感想を抱いている間にも、無駄に肉感的な唇をした大きな口が、耳元へと近づいてきた。
「お、は、よ。セイヤくん、あなたの番よ」
『ゾ、ぞわ~~』
本当に寒気が・・・。
「わ、わかりましたから。そんなに、顔を近づけないでください!」
俺は、慌てて飛び起きると、アイテムボックスから武器を取り出しながら、馬車を出て、焚き火の方へと向かった。
「うふふ、お願いね」
スザンヌさんが、うしろから声を掛けてきた。
「・・まったく!ほんとうに、俺の寝顔を見ていたのか?」
おお、寒い!
◇◇◇◇◇
突然、『空間把握』スキルの探知・索敵画面に、魔物の反応が現れた。
「どういうことだ?」
探知範囲は、常に2000キュピ(1キロメートル)を保持していたはずだ。
それが、なんの前兆も無く、反応を示したのだ。
あっという間に、反応点が30個程に増える。
「これは・・スケルトンか。距離は100キュピ~200キュピほど」
ん!また増えた!!
「今度は、グール。いち、にー、さん、20体!」
囲まれたか・・。
動きが、早すぎる。
「それに、秩序があり過ぎる」
まるで、誰かに操られているかのようだ。
それでも俺は、その時点で馬車のそばまで移動しており、最も近い魔物たちと馬車の間に入って、ショートソードを構える。
「あらあら、囲まれちゃったわねえ」
「なんで気づかなかったのよ!」
「セイヤお兄ちゃん!」
一瞬、振り向くと、馬車の周りの残り3方を、スザンヌさんとエル、そしてコリンが囲んでいた。
それぞれに武器を構えている・・いや、スザンヌさんだけ素手・・拳を構えていた。
「ちょっと厄介な奴らに囲まれちゃったわね。聖属性か光属性の浄化の魔法を、付加出来ればいいんだけど」
スザンヌさんが、つぶやいた。
「あ、俺持ってます」
「そう!じゃあ自分のと、コリンちゃんのショートスピアにかけてあげて。あと、エルちゃんのも・・」
「スザンヌさんは?」
「大丈夫、あたしはこの拳があるから」
俺が、自分のショートソード、コリンのショートスピアの順に、魔法を付加しながら、スザンヌさんを見ると、その拳が白い光に包まれていた。
スゲエ・・なんかのユニークスキルか?
半瞬、見とれていて、エルのシャムシールの魔法付加が遅れてしまった。
その隙に、包囲を狭めていた魔物たちが一斉に襲いかかってくる。
「エル!」
やばい、どうする?!
すると、俺がまごついている間に、シャムシールが光に包まれた。
「ボクも出来ます!」
馬車から身を乗り出して、アイリスが叫んだ。
「ありがと!」
「おお!アイリス、ありがとな!」
向かってきたスケルトンの、頭蓋骨を叩き割りながら、エルと俺は、礼を言った。
全部で50体の魔物たちを、4人でどんどん殲滅していく。
残り10体ほどになった時、別な反応が探知・索敵画面に現れた。
「ヴァンパイア?!」
その数20体。
ヴァンパイアが、20体って・・。
「クッ!」
5体のヴァンパイアに囲まれて、エルが苦戦を強いられている。
「キャッ!」
実戦慣れをしていないコリンが、裏をかかれて、攻撃を食らった。
だが、防御力のおかげでダメージは無いみたいだ。
「早いとこ、こっちを片付けて、加勢に行かないと」
俺は、目の前の1体を、斬撃と同時の至近距離からの浄化魔法で消し去る。
「な、なんだ!?」
5体目のヴァンパイアを倒して、エルの方へ行こうと振り返った瞬間、背後から、禍々しい魔力を感じた。
もう一度、後ろに向き直る。
まるで、漆黒の闇の中から湧いてくるように、何かが実体化しようとしていた。
感知される魔力が、増大する。
闇から生まれるように、そいつが実体化した瞬間、不協和音が頭の中に響いた。
「くっ!」
俺は、思わず両耳を押さえて、その場で片膝をつく。
すると、背後で『ズサッ』という音がして、ほかの3人も同じように、膝をついたのが分かった。
魔物たちの気配はしない、どうやらみんな、掃討は終えていたらしい。
「セイヤお兄ちゃん、あれ!」
コリンの言葉で、俯いていた視線を上げる。
黒いローブのフードを、頭からすっぽりと被った奴が、空中に浮かんでいた。
手には杖のようなものを持っており、フードの奥の表情は全く見えない。
体型からして、男だろうか?
「誰だ?!」
ほかに良いセリフも思い浮かばず、ベタな言葉を言ってしまう。
だが、相手は何も答えない。
相変わらず、不協和音が鳴り続けている。
・・あっそうか、調べればいいんだ。
「・・ネクロマンサー」
「「エッ!」」
俺の言葉に、エルとスザンヌさんが同時に声を上げる。
「ネクロマンサーが、こんなに膨大な魔力を持っているはずないわ」
「ええ」
「そうなのか?」
でも、ステータスにはそう表示されているんだけどなあ。
「僕たちが次々と消滅するから、何かと思えば、例のガキか。・・・それなりではあるが、まだまだだな」
おもむろに、全身黒ずくめのそいつが、俺の方を向いて言ってきた。
ただそれは、通常の声ではなく、直接頭の中に聞こえてくるものだった。
「お前は何者なんだ?俺のことを、知っているのか?!」
「フッ、そんなことはどうでもよいではないか。・・おお、そちらのお嬢ちゃんは、まだ生きておったようだな。ガキと一緒にいるとは、面白い」
今度は、エルの方を向いて、楽しげに言っている。
「なによ!あたしは、あんたのことなんか知らないわよ!」
「それも、どうでもよい。いずれにしても、これから愉しくなりそうだな。今日のところは、失礼する。また会おう!ふはははは」
ネクロマンサー?は、一方的にひとりで納得して、現れた時と同様に、霧散するように闇に消え去ってしまった。
「どういうこと?あなたたち、アイツとお知り合いなの?」
ようやく、不協和音から解放されて、安堵の溜息を漏らしたあと、スザンヌさんが俺とエルの顔を見ながら言った。
「「知りません!」」
「そうお?向こうは、知っているみたいだったわよ?」
「あの~」
そのとき、アイリスが、馬車から出てきておずおずとした感じで言ってきた。
「ボク、あの声に聞き覚えがあります」
「エッ、ほんとに?」
みんなの視線が集まって、アイリスは顔を赤らめる。
「ハイ、ボクの故郷を乗っ取った奴らの中に、ああいう声の持ち主がいたような気がします。姿に見覚えはないですけど・・」
声だけに、覚えがあるか・・・。
う~ん、今は考えるだけ無駄か。
材料が少なすぎる。
「とりあえず、もう襲っては来なさそうだし、早めに出発しましょうか?」
「そうね、そろそろ明るくなってくるし、ちゃっちゃと朝ごはん食べて、ここを引き払いましょう」
俺の提案に、スザンヌさんが賛成してくれる。
****
しばらくして、朝食の用意が出来上がった。
あたりに、肉の焼けるいい匂いが漂う。
「なあ、そういえば。ライアンは?」
俺は、みんなの顔を見回した。
一斉に、ある方向を指差す。
「ミャーあーああ」
するとそこには、大きなあくびをしながら、馬車から降りてくる、ライアンの姿があった。
・・・大物過ぎる。
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