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31.ひみつ
しおりを挟むどうしてこうなった?
いま、俺の部屋のクイーンサイズのベッドの上で、何の毛皮か分からない、馬鹿でかいモフモフの毛布の海を相手に、コリンとライアンがバタバタと、泳いでいる。
そして隣の部屋では、エルが自分の武器の手入れを黙々としており、その傍らでアイリスがなにやら、祈りを捧げていた。
極め付けは、もう一方の隣の部屋のバスルームから、スザンヌさんの鼻歌が聞こえてくるのだ。
「どうしてこうなった?」
俺は、平泳ぎに続いてクロールを始めたコリン(ライアンは相変わらずネコかき)を、虚ろな目で見ながら、声を出して言った。
*************
時は少し遡る。
王都のメインストリート見物を適当に切り上げた俺たちは、今晩からの宿探しをすることになった。
スザンヌさんの案内で、ホテルや宿屋が集中している街区にやってきた。
「さすが王都だな、選り取りみどりじゃないか。」
道の両側に林立する、建物群に圧倒される。
それにしても、日干しレンガで10階建てとかどうやって造っているんだ?
「何日泊まるかも分からないし、そこそこの宿屋でいいよね?」
俺はみんなの顔を見回して聞いてみる。
すると、スザンヌさん以外が首を縦に振った。
「え?スザンヌさん、だめですか?」
「なにシケたこと言ってるのよ、せっかく王都に来たんだから、もっといい所に泊まりなさいよ」
「でも、それこそ王都だから物価も高いんでしょ?これだけの人数が泊まるんだし、適当なところが・・・」
「もう~。いいからいいから、あたしに任せなさい!」
「あっ、ちょっと!」
いきなり腕をつかまれて、グイグイ引っ張っていかれる。
他のみんなも、しょうが無しについて来るのだった。
「さあ、着いたわよ」
しばらくして、結構立派なエントランスのホテルの前に連れてこられた。
屋根のついた、馬車止まりがある本格的な感じだ。
「いやあ~、ここはちょっとぉ・・・アレじゃないですか?」
「いいから、いいから」
俺が尻込みしていると、そのまま手を引いて、ズンズン中に入っていく。
「うわわわわ!」
「いらっしゃいませ、スザンヌ様」
受付カウンターに、ものすごい良い姿勢で立っていた黒ひげのホテルマンが、うやうやしく頭を下げた。
へ?なんで名前知ってんの?
お知り合い?
「こんにちは。例の部屋、空いてるかしら?」
スザンヌさんが、大きな顔を少し傾けて、ニッコリ笑って言った。
例の部屋?
「いつもありがとうございます。丁度、空いたところでございます。只今ご案内いたします・・・おい!」
ホテルマンも、一礼してニッコリ笑うと、控えていたボーイを呼んだ。
「スザンヌさん、大丈夫なんですか?こんな高そうなところに泊まって」
俺は、ボーイの後をついて行きながら、小声でスザンヌさんに言った。
「大丈夫よ、ここは三ツ星だから元々そこまでお高くないし、あたしの顔で特別割引があるのよ」
三ツ星?この世界のホテルのランクって・・・・五ツ星までか。(by 世界知識)
真ん中くらいってこと?・・か。
さすがにエルでも、こういう所には泊まったことがないのか、みんなと同じように周りをキョロキョロ見ている。
・・2階・・・3階・・・・4階・・・・・。
「スザンヌさん」
「なによ!」
「どこまで行くんですか?」
「最上階に決まってるでしょ!」
ハアぁ?!
最上階って、普通・・・。
・・・・・10階。
「こちらでございます」
・・来ちゃったよ。
ボーイが豪華な扉を開ける。
「「「「わあーーー!!!(ミャー!)」」」」
目の前には、広々としたリビングに豪華な調度品。
その奥には、いくつもの扉。
リビングの向こうには、開放的な景色が見える大きな窓。
「スペシャルスウィートよ」
見りゃ分かるよ。
いや、そうじゃなくて。
どうしてここよ?
そりゃ、いまは結構お金持ってるけど、何泊泊まるんだよ?
そもそも、必要性あるか?
「「セイヤお兄ちゃん、すごいよこのベッド!(みゃみゃ~~!)」」
「あ、こっちにも部屋がある!」
「ボクは、エルちゃんと一緒でもいいですよ!」
「じゃあ、あたしはこっちの部屋ね!」
・・・・ボーイは、「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」と言って一礼し、去っていった。
「あの、スザンヌさん。ほんとに、ここに泊まるんですか?」
「なに?お金のこと心配しているの?大丈夫よ、あたしもエルも払うし、そもそも9割引きだから」
「え?!どうして、9割引きとかになっちゃうんですか?!!」
「あたしのお友達に、そういう証明書をもらっているの。だから、ダ・イ・ジョ・ウ・ブ」
げ、ウィンクされた。
なんだよ、そのお友達って!
*************
ということで、今がこの状態なのだった。
「ライアンもう一回!こんどは、バタフライね!」
「ちょっと、あなたたち・・・話があるんだけど。」
その夜、アイリスがバスルームに行ったっているあいだに、スザンヌさんが俺たち3人を自分の部屋へ呼び集めた。
橙色のテラッテラした、シルクのネグリジェを着て、洗った髪の毛をタオルで纏め上げている。
「あのぉ、それ女物ですよね?」
「男女兼用よぉ~」
「・・・・」
もう、聞くのはやめよう。
「で、なんですか?とつぜん」
俺たち3人+1匹がベッドに腰掛けると、スザンヌさんはドレッサーの前の椅子に腰を下ろして脚を組んだ。
・・・ん?なんか前にも似たようなシュチュエーションが、あったような記憶が・・・。
「あなたたち、なんか隠しているでしょう?」
スザンヌさんが胸の前で腕を組み、右手を頬に当てて、俺たちを順に見回す。
・・そして、俺の方を向いて止まった。
「なんのことでしょう?」
俺の声が、変に上ずった。
エルが、陰で肘打ちをしてくる。
コリンは、小首傾げてキョトンとしている。
「ちょっと前の、ネクロマンサーとその手下との戦闘のことなんだけど」
スザンヌさんが、コリンのことを見つめる。
「コリンちゃん、随分と強かったわねえ、ステータスのわりに」
「い、いや・・あれは、その・・そう!エルに結構みっちり、稽古をつけてもらってたから・・なあ!エル」
「そう。コリン、けっこう優秀」
「えへへえ~」
俺たちが、三文芝居をしていると、スザンヌさんが再び俺の方を見て、真剣な表情になった。
「セイヤくんのステータスも、このあいだ見せてくれたのは、本当は違うんでしょう?」
「そ、そんなことないですよ。ははははは」
俺は、乾いた笑いを出してしまう。
「あたしにはね、スキルがあるの」
スザンヌさんが、ひとつ大きなため息を吐いて、言った。
「あの・・鑑定、ですよね?」
「それも持っているけど、それじゃないわ」
鑑定じゃない・・。
なんだ?
看破?
「『トレイス ディテクター』っていう、ユニークスキルよ」
「トレイス ディテクター?」
なんでございましょう?
「スキルの『痕跡を検知』できる能力よ」
「すいません、ちょっとなに言っているか分かんないんですけど。(なんで、なに言ってるか分かんないんだよ!)」
いちおう、一人ツッコミ入れときました。
「誰かが、スキルを発動した瞬間から、その痕跡を検知して辿ることができるの」
マジか!
じゃあ、ドヤ顔で隠しおおせたつもりでいても・・。
「だからたとえどんなに、巧妙に隠蔽することができたとしても、それがスキルによってなされたものなら、行った事実は分かってしまうのよ」
「バレバレですか・・」
スザンヌさんが、無言で頷く。
「ねえ、今ここで、ステータスを明かしなさいとは言わないわ。でも、何か目的が・・・うううん、何か理由があってこの旅をしているんでしょう?」
しばらくの沈黙のあと、スザンヌさんは切り出した。
「それを教えてくれない?」
「目的は・・・・いろんな国、いろんな町を巡って、その町の神殿を訪れることです」
俺は、なおも抵抗して言ってみる。
「理由って言ったでしょう」
スザンヌさんの真剣な眼差しは変わらない。
ダメか・・・。
「どこから・・・なにを、言えばいいのか・・」
言い淀む俺のことを、みんなが見ている。
「10年前の災厄のことは、覚えていますよね?」
ようやく絞り出した俺の言葉に、一瞬エルの表情が強張った。
「もちろん覚えているわ、この王都も酷い有様だった・・・今はこの通り、すっかり綺麗になっているけど」
「ええ、それには俺も驚いていたんですけど・・・・また・・『11の魔物』が現れるんです」
スザンヌさんが目を見開いて固まる。
「でも、クサリクは神々の軍が封印して、邪神アプスも倒したはず」
スザンヌさんは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「邪神ティアマトが、息子キングウに命じて『11の魔物』を復活させるんです」
ふいに、部屋の入口の方から、声が割り込んでくる。
「「「「アイリス(ちゃん)!」」」」
そこには、風呂上がりの上気した顔のアイリスが立っていた。
その赤い顔は、風呂上がりのせいばかりではないみたいだ。
「どうして、そのことを知っているんだ?」
俺は困惑して、上ずった声を出してしまう。
「それは・・・」
俺の勢いに、アイリスは途端にうつむいて黙り込んだ。
「どうやら出どころは違うみたいだけど、そういう噂があるというのは確かのようね」
スザンヌさんは、俺とアイリスを交互に見て顎に指を当てた。
「『11の魔物』が復活するかどうかは置いといて、それでセイヤくんが神殿巡りをすることと、どう関係があるのかな?」
ふたたび俺の顔を見つめ、聞いてくる。
どう言えばいいんだろう?
俺が転移者であることは、話を聞くとエア神さまは、エルにさえ言っていないみたいだしな。
「・・・スザンヌさんは、神託ってどう思います?」
「『神託』?宮廷の大神官様や、どっかの国の聖女様が授かるっていう?」
スザンヌさんが、一瞬キョトンとした目をして言った。
ああ、この世界ではそうゆうこともあるんだ、ヤッパリ。
「ええまあ・・・その神託を授かったんです。エア神さまに」
「・・・・。」
スザンヌさんが、目をパチクリする。
「・・・セイヤくん、本気で言ってんの?」
「ハイ」
「あたしも神託を授かったわ」
「コリンも~!」
「みゃお~ん!」
エルが肯定すると、コリンも勢い良く右手を挙げる。
・・・ライアン、おまえは違うだろう!
「ちょ、ちょっと待って。どういうこと?」
スザンヌさんが、俺たちの顔を見回して狼狽する。
「俺はエア神さまに、こう言われたんです。『キングウに打ち勝って、『天命の粘土版』を奪い、『11の魔物』を倒し、邪神ティアマトを葬って、世界を救ってほしい』と」
「あたしは、セイヤのことを助けてやってほしいって言われた」
「コリンも~!!」
「みゃお~ん!!」
だから、ライアンは違うだろ!!
「だから、神殿巡りなんです」
スザンヌさんは、こめかみを押さえ始めた。
「そこが、わからないのよ。どうして、『11の魔物』や邪神と戦うことと、神殿巡りがつながるのよ?」
スザンヌさんは、こめかみを押さえながら聞いてきた。
「あたしも、そこは聞いてないわ。なんとなくは、分かるけど」
「コリンも~!」
「みゃお~ん!」
お前ら、遊んでるだろ?
「?」
俺たちと同じように、ベッドに腰を掛けたアイリスは、小首を傾げている。
「もう一つ、別な神さまからの神託があったんです」
「「「「えぇっ!?」」」」
みんなが一斉に俺の顔を見る。
ライアンは、アクビをしているけど(あたりまえか)。
「その前に・・・エア神さまからはこうも言われたんです。『国々を巡れば自ずと実力も付くし、やるべき事が見えてくる』って」
「なるほど・・・で?」
「そして、もう一柱・・・ニンフルサグ神さまからも、神託がありました。『それぞれの国の町に行ったら、必ずその町の神殿を尋ねなさい』っていう・・・」
「もしかしてあの時?」
エルが聞いてくる。
「ああ」
「アイリスちゃんを助けたときね」
うなずく俺に、スザンヌさんが納得する。
「・・・でもね、もうひとつ、しっくりこないのよね」
しばらくの沈黙の後、スザンヌさんが口を開いた。
「諸国を巡るのはいいわ、確かに実力も付くし、経験も積める。どんな敵と対決するにせよ必要なことよ。でも・・・なんで神殿なの?」
「それは・・・」
やっぱり、そこですよね・・・。
「・・・・神託だけじゃないんです」
「セイヤ!」
俺が話そうとすると、エルが声を上げる。
俺は、エルに頷いた。
「加護も頂いているんです」
「加護?そんなの、みんな持っているわよ。みんな、生まれ育った町の神殿に最初に参詣した時に、貰うものだもの」
「あたしもおんなじこと言った」
困惑するスザンヌさんに、エルがボソリと言った。
怒ってる?
「普通の加護じゃないんです、邪神を倒しうる特別な加護を貰ったんです」
「どういうこと?」
「あたしもおんなじこと言われた」
ん~~怒ってるね。
「ステータスは明かさないって言いましたけど、頂いた加護のお陰で、たぶんスザンヌさんの想像の遥か斜め上をいくステータスになっているんです、オレ」
「ちょ、ちょっと待って。じゃあ、神殿を巡るというのはもしかして・・・」
「足りないんです・・・これでも。多分ですけど、邪神たちと対等に渡り合うには、全然足りないんです・・・実力が」
両隣に座っているコリンとエルが、いつの間にか俺の手を握っている。
「・・・だから、ニンフルサグ神さまはおっしゃったんだと思います。神殿を巡れと」
「更なる加護を得るために?」
「・・はい」
「・・・・分かったわ。神託のことも、加護のことも、本当のことっていう前提でなんか話が進んできてしまったけど。その話・・・・信じるわ」
「ありがとうございます。ただ、このことは・・」
「それも解ってる、口外はしない。・・・ただし」
スザンヌさんが、妖艶な笑顔で言ってきた。
「とことん、付き合わせてもらうからね」
「ヤッター!」
俺は能天気に喜ぶコリンの横で、エルと一度顔を見合わせ、ガックリと肩を落としたのだった。
「あのう・・・・」
そのとき、アイリスがオズオズといった感じで、言ってきた。
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