エンリルの風 チートを貰って神々の箱庭で遊びましょ!

西八萩 鐸磨

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32.つきつけられた運命

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「どうした?」


 俺は、アイリスの方を見て言った。


「ボクも・・・御神託を頂きました。・・二度ほど」

 




 今度は、一斉にアイリスのことをみんなが見る。


「あの・・・ボク、ヒタトにいた時に神殿に仕えていたって言いましたですよね?」


 うつむいたまま、ぽつりぽつりとアイリスが話しだした。


「王都キシャルの、キシャル神殿に居たんです」

「そうなんだ、そういえば神官だったっけ?」


 俺は、王都に入る時に交わした言葉を思い出して聞いた。


「ま、まあ・・・そんな感じです。で、ある日・・・そうですね、ちょうどヒタト国にあいつらがやって来る、ひと月前のことでした」


 アイリスは、うつむいていた顔を上げ、胸の前で両手を組んで静かに目を閉じながら言った。


「いつもの様に、キシャル神さまにお祈りを捧げていたときでした。とつぜん、周りの音が聞こえなくなって、意識がフッと軽くなったような気がしました」

「あの時とおんなじ」


 エルが小さな声で独りごちる。


「そして、誰かが呼びかける声が聞こえたんです。いえ、聞こえたんじゃなくて、頭のなかに直接響くみたいな感じでした」

「それもおなじ」


「・・・その声は、ご自分を、キシャル神さまだとおっしゃいました。ボクはすごく驚いて、慌てて目を開けようとしたけど、どうしてもそれは出来ませんでした」


 その時と同じように、アイリスは目を閉じたまま話し続ける。


「その声はとても温かくて慈愛に満ち溢れていて、すごく安心できるものだったから、ボクは自然とキシャル神さまだということを信じていました」



「---そして、キシャル神さまは、こうおっしゃったんです。『間もなくこの国は暗黒に落ちて、ドワーフたちは安住の地を追われるでしょう』と」





********
 


「エッ!」


 ボクは、キシャル神さまの言葉に絶句した。

 だって、愛する祖国が大変なことになるなんておっしゃるんだもの。



 でも、絶句なんてしていられない。

 ボクは数瞬ののち、キシャル神さまにお聞きした。


「暗黒に落ちるって、どういうことですか?ヒタトはどうなるのですか?みんなは?お父様やお母様、お兄様やお姉様は?」

「・・・ヒタトは、邪神の手の者に奪われるのです。魔物たちに蹂躙されて・・。多くの者が、命を奪われるでしょう」


 邪神?魔物たちって・・・もしかして!?


「邪神とは、アプスのことですか?魔物というのは、有翼の牡牛クサリク?・・でも、あいつらは数年前にエア神さまたちが・・・」

「アプスの妻、ティアマトが邪神となって息子キングウに命じ、『11の魔物』を復活させようとしています。そして、エアをはじめ私達神々に復讐するため、この世界を滅ぼしに来るのです」

「そんな!・・・では、この国を奪いに来るというのは、そのキングウと『11の魔物』のことでしょうか?」


 ボクはまだ小さかったから、よくは覚えていないけれど。

 たった1体のクサリクにさえ、めちゃめちゃにされて、特に隣のハルバト国の被害は壊滅的なものだったと聞いている・・・。

 そんなのが、11体も復活したら・・・。


「今は”邪神の手の者”としか言えませんが、少なくとも『11の魔物』ではありません。あのモノたちは、まだ復活を果たしていないのです」


 良かった・・・と言っていいのかな?

 でも、祖国が奪われて魔物たちに襲われることには変わりがない・・。


「キシャル神さま!いったいどうすれば良いのですか?ボクはどうすれば?!」

「お聞きなさいアイリス。そなたはその時がきたら、南へ・・ハルバトへと向かうことになるでしょう。そしてある場所で、使命を授かります」

「そうじゃなくて、この国を救うにはどうすれば?!」



「・・・・残念ながら、それは避けることができないでしょう。ただ、希望の光はあります。その光とともに在れば、この地を取り戻し、再興することも可能となるでしょう」


 避けることができない?!



 そんな!!



 ・・・そうだ!

 このことをみんなに言えば・・・。


「みんなに言ってみます。よろしいですよね?」

「構いません。・・・ですが、恐らく信じる者はいないでしょう」

「それでも言ってみます!」


 そうしないと、ボク・・・耐えられそうにないもの・・。




「そのかわり、そなたには特別な加護を授けます。この能力ちからはいずれ、必要となるでしょうから」


 キシャル神さまのその言葉と共に、全身が温かい力で包まれるのを感じた。




********


「キシャル神さまはそして、『邪神ティアマトが、息子キングウに命じて『11の魔物』を復活させる』とも教えてくださったんです」

「そうだったのか、だからさっき・・・」


 俺が思い出して言いかけると、アイリスは黙って頷いた。

 その顔は、どこか寂しげで、そして悲しげだった。

 祖国を無くしたんだもんな、当たり前か・・。

 思い出させて、悪いことしたかな? 




 しばらく沈黙が続いた。


「そういえば神託は2度って言ってなかったっけ?」


 俺は、重い雰囲気を切り替えようと、話を振ってみた。








「そうです。御神託は、もう一度ありました」


 アイリスは、俺の顔を見て頷いた。


「それはキシャル神さまの?」

「いえ、ニンフルサグ神さまです」

「そうか!だからあの時、あそこに居たんだ」

「ええ、まあ・・・」


 アイリスは、曖昧にうなずく。


「ん?でもどうしてヒタト国の王都キシャルに住んでいたのに、ニンフルサグ村あそこにいたの?」


 エルが、首をかしげる。


「キシャル神殿からニンフルサグ神殿へ、修行に来ていたそうよ」


 スザンヌさんが、言い淀むアイリスの代わりに答える。


「そういうことは、よくあることなのかい?」


 俺は、少し疑問に思って聞いてみた。


「そうですね。神殿同士、敵対しているわけではないですし、キシャル神様は地母神であり、ニンフルサグ神様は大地の女神、豊穣を司る神ですから、お互いに学ぶことも多いのです。・・それに、キシャル神様はニンフルサグ神様のお母様でもありますから」


 この世界の神様の人間関係・・神間関係というのか?・・は、なかなか複雑だなあ・・・。


「で、御神託というのは?」

「そうですね、あれはワイバーンたちが村を襲ってきて、礼拝堂に逃げ込んだときでした」





***************







 ある日、シア国からの使者が海を渡ってやってきた。


 
 王都の側にある大湖ラハムから流れ出た、ヒタト国最大の河川、ラフムの河口の村に上陸した使者一行は、使者と数名の護衛のみで陸路王都へ向かった。


 そして、王都入りした使者は、国王様に謁見をはたし、両国の親交と交易の発展を提案した。

 国王様をはじめ重臣たちはとても喜んで、使者一行を歓迎した。

 いにしえの巨大国家シュメルの流れをくむ、アリア、バロニア、ハルバトの3国は、現在でも親密な関係にあるけれど、ヒタト国を含むその他の国々は独自の文化や習俗を持ち、あまり関係が深いとは言えなかったから。



 歓迎の宴の席で、シア国の使者は国王様に、更にこう進言した。


「国王陛下に献上するため、多少の品を乗ってきた船にて運んで参りました。つきましては、王都の港に接岸することをお許し頂きたい」


 国王様はすぐにお許しになり、船が到着するまでの間、使節一行を盛大に饗しもてなし続けた。



 やがて、大河ラフムを遡り、シア国の巨大な船が王都の港に入港した。

 船からは、大量の奴隷と物産が降ろされ、国王様と重臣たち貴族に献上された。


 特に、シア国の南方にあるというエト国産の黄金製品は、貴族たちを大いに喜ばせた。

 なぜなら、ヒタト国は鉄を始め多くの鉱石類を産出し、金属加工に秀でた国であったけれど、唯一黄金だけが得られなかったから。

 金属製品に目がない国民性から、その希少性も含めて、絶大な人気があったのだ。



 シア国の使者一行は、護衛を含めて全部で10人だった。


 使者の名前は正使がナタル、副使がベセリといい、事務官のネルという人が随行していた。

 それら3人の使者に、護衛が7人付いていた。



 ドワーフ族は少し閉鎖的で、そのため世情に疎いところがある。

 それに、ものづくり以外のことには、どうしても大雑把なところもある。


 正使のナタルはシア国の首相を務める大臣であり、副使のベセリは筆頭書記官、事務官のネルはその補佐という立場であることを、最初の自己紹介で知らされた国王様を始め重臣たち(女王様や婦人たちも含めて)は、その理知的で物腰の柔らかさから、いつしか、すっかり3人の魅力の虜になっていた。

 さらには、護衛の7人も屈強さと精悍さを併せ持つ姿に、女性たちの絶大な人気を得るようになっていたのだけれど、宴席の余興として開かれた武闘会において、近衛騎士団を打ち負かしたのを受けて、武力信仰の強い男性たちの心をも鷲掴みにしたのだった。



 ヒタト国全体が、シア国の使者一行に、ある種の熱狂状態に陥っていた。


 
 使者一行の滞在は、いつしか半年にも渡っていた。

 国王様を始め重臣たちが引き止めたというのもあるが、今から考えれば異常なことだった。




 使者たちがいることが当たり前になり、連日連夜の宴のため、王都中の人々がぐっすりと寝入っていたある夜に、それは起きた。


 港に接岸していたシア国の巨船から魔物が溢れ出し、殺戮と破壊を始めたのだった。

 王都は混乱の極致となり、逃げ惑う人々の叫び声が街中に充満した。

 
 あまりの突然の事態に、国軍は為す術なく壊滅し、魔物たちは王城へと迫った。


 当然、神殿へも魔の手が届くのは時間の問題だった。






 ボクは、礼拝堂でキシャル神さまにヒタト国をお守りくださるように、一心にお祈りを捧げていた。 


「アイリス様、魔物が迫っております。一刻も早く、ここをお出になってください」


 礼拝堂の入り口の扉を開けて、神官兵が差し迫った声をかけてきた。


「きっと、キシャル神さまがお助けくださるはずです。ボクは、ここでお祈りを捧げ続けます」


 ボクは振り向くことなく、お祈りを続けた。



 あの時、キシャル神さまの御神託を、すぐにみんなに話したのに・・・誰も信じてはくれなかった。


『たとえ、そなたが聖女の称号を持っていようとも、そのような事があるはずがなかろう』

『そうですよ。あなたは、あまりに熱心に修行をするから、疲れが出たのです。今日は神殿には戻らず、元の自分の部屋でゆっくり休みなさい』


 そう言って、お父様も、お母様も微笑われただけだった。



 それが・・・現実のものとなろうとしている。


「どうすればいいのだろう?」


 遠くからは、何かが爆発するようなドーンという音が響いている。



「アイリス様!もはや猶予はございません。早くお逃げください!!」


 ひときわ大きな音が響いたとき、先ほどとは別の神官兵が扉のところへやってきて叫んだ。

 ボクは、全身が震えていることに気がついた。


「ああ・・・キシャル神さま!!」


 ガタン・・バタン・・・・・・・ズシャ!

 誰かが礼拝堂へ入ってきて、ボクのすぐ後ろに崩れ落ちたのが、気配でわかった。


「だ、だれ?!」


 ボクは、慌てて後ろを振り返った。


「ひ、姫様。・・・はやくお逃げください・・・」


 そこにいたのは、昔よく遊んでくれた近衛騎士団長のシーグだった。


「シーグ!!どうしたのです、その身体は?!」


 鎧はひび割れ、血に染まり、兜は着けていない。

 ドワーフにしては長い手脚の内、左手はすでに無く、右足はあらぬ方向に曲がっていた。

 宮廷の女性たちに絶大な人気を誇っていた端正な顔は、腫れ上がり赤黒くこびりついた血で汚れている。


「してやられました。このシーグ、一生の不覚です・・」


 唯一開いている右目でこちらを見上げ、苦笑とも泣き顔とも判別のつかない表情を見せる。

 片膝をついて、臣下の姿勢をとろうとしているが、脚を骨折しているため、形にならない。


「お父様とお母様は?」

「申し訳ございません・・。国王陛下も女王陛下も、もはや・・・」

「!!・・・お兄様やお姉様も?」

「面目次第もございません・・」

「そんな!」


 うなだれるシーグに、ボクは絶句した。



「・・・なにがあったのです?」


 ボクはようやく声を絞り出した。


「王城の門に魔物たちが迫った時、シア国の使者・・いや、もはやそのような者ではありませんが・・の護衛たちが、門衛を殺して門を開け放ったのです」

「どうして!?」

「魔物たちが王城内へなだれ込む中、国王陛下らの側にいた使者たちの姿が突然一変して、異形のモノになったのです。そして、7人の護衛たち・・そのときにはすでに、かの者たちも異形の姿へと変わっていました・・に、老若男女を問わず殺戮するように命じました」


 ボクは、あまりの衝撃で言葉を失った。


「宮廷魔導師をはじめ、我ら近衛騎士団も応戦しましたが、全く歯が立たず、ついには国王陛下まで・・・」

「お父様・・・」

「陛下は混戦の中、わたくしに最後の言葉を託されました。『娘を、アイリスの命を助けてほしい』と・・・」


 
 ・・・アレ?

 涙が出てこない。

 悲しいはずなのに・・胸が張り裂けそうなくらい悲しいことなのに・・。

 さっきまで聞こえていた、爆発音も遠ざかったように、あたりが静かになっている。


 お父様の豪快な笑い声・・お母様の鈴が転がるような笑い声・・・お兄様に頭をぽんぽんとされたこと・・・・お姉様とお城の花壇でお花を摘んだこと・・・・・昨日のことのように覚えている・・。




「シーグ殿!神殿の入口も、魔物たちに塞がれました。もはや、例の手段しか残されておりません!!」

「さあ、はやく!」


 急に爆発音が戻ってきた。


 目線を上げると、二人の神官兵がボロボロの姿で後ろを気にしながら叫んでいた。


「うむ、分かった!」


 シーグが片脚で立ち上がり、自分の腕をボクの腕にからませて、引きずるように祭壇の方へ歩き出した。

 シーグの手には刃こぼれをした長剣が握られている。

 ミスリル製のあの宝剣が・・・。


「さあ、この像を台座ごとこう動かして・・・」


 神官兵のひとりが走り寄ってきて、シーグの手助けをする。

 すると、思いのほかすんなりと、キシャル神さまの神像が回転し、床に真っ暗な穴が口を開けた。


「ライト!」


 神官兵が魔法を唱えると、中が明るくなる。

 石造りの階段が続いているのが見えた。


「さ、姫様・・・お行きください」


 シーグが、なにかを決断したかのような表情をして言った。


「え?お前も一緒に行くのではないの?」


 ボクは驚いて聞き返した。


「シーグ殿!あと精々もっても、30分程度です」


 もう一人の神官兵がやってきて、シーグに言った。


「姫様を頼む」


 シーグが頷いて、ボクから離れる。


「シーグ!」

「この身体では、かえって足手まといになります。わたしはここで、敵を食い止めますので、その間にどうかお逃げください」


 そう言って、シーグが一礼する。


「そんな!駄目だよ!!一緒に行こうよ!!!」

「「アイリス様」」


 二人の神官兵に両腕を抱えられて、無理やり地下道へと連れて行かれる。


「どうかご無事で・・・」


 シーグが小さくつぶやいて、神像を元の位置に戻し始める。


「しーーーぐーーーー!!!」


 最後に見えたのは、小さい頃遊んでくれたときに見た、あの優しい笑顔だった・・・・。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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