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46.腹の探り合い?
しおりを挟むアイリスが話し終えるとその場は、しばらくの間物音一つすること無く静まり返っていた。
さすがのコリンとライアンも、その場の雰囲気を察したのか大人しく座っている。
・・・・コリンは両手にケーキを、ライアンは口に砂糖の入っていないクッキーを咥えたままだけど。
「アイリス・・・」
「だいじょうぶ!」
俺が、なんて声をかけたらいいか判らず小さくつぶやくと、アイリスが満面の笑顔を向けてきた。
「お父様もお母様も、お兄様もお姉様も・・・シーグも・・シュルツも・・・・みんなもうこの世にはいないけれど」
そして一瞬かすかに表情に影が差し、すぐに再び笑みを浮かべて言った。
「セイヤくん達がいるもん!スザンヌさんも、エルちゃんも、コリンちゃんもライアンも!!みんなが一緒にいてくれるから、今は幸せ!ボクは一人じゃないもの。ボクは『ジ・アース』のメンバーだもの!!」
「そ、そうだな!俺たち仲間だもんな」
「ええ!」
アイリスの眩しいくらいの笑顔に少したじろぎながら、俺も笑顔で応え、エルも大きく頷いて微笑んだ。
「アイリスちゃんはなかま~!「ミヤーォ!」」
「そうね、仲間よね」
他の二人(と一匹)も笑顔で応える。
(最後のひとが俺に向けて放ったウィンクは、ワタシには視えていません)
「む、むふぉん。何にしても、仲が良いのは良しとして、どうやら今回の件とは直接関係は無さそうですな」
バロア卿が、わざとらしい咳をしてそう言って話の矛先を変えようとした。
うん、良い人かも知れないけど、下手くそだ。
すると、ベンジャミンさんが横から言ってくる。
「そうとは言い切れませんぞ」
「どういうことだ?」
バロア卿が、くまのプーさんを彷彿とさせる、黒くてつぶらな瞳の上の、ふっとい眉を上げてベンジャミンさんの方を振り返る。
「例の黒いローブの魔物のことですかな?」
ベンジャミンさんが答える前に、反対側のレオナルド卿が言葉を発する。
「黒いローブ?・・何だそれは?」
律儀に再度レオナルド卿の方に振り返って、バロア卿が聞き返す。
「本部長殿がよくご存知でしょう」
しかし、レオナルド卿は口元に微笑をたたえつつ、鋭い目つきでバロア卿の向こう側のベンジャミンさんを見やった。
バロア卿が慌てて振り返る。
「内務省さんとの人材交流も良し悪しですな・・・守秘義務契約もあったものでもない・・・」
「まあそれは、どこの部所もお互い様というものではないですか」
レオナルド卿の視線から目をそらして、ぶつぶつ愚痴を零すベンジャミンさんに、レオナルド卿は口元の笑みをやや濃くして言った。
「はーーっ。確かにいずれ陛下からも知らされることであろうし、まあいいか・・」
今度はひとつ大きな溜息を零して、ベンジャミンさんは当惑したまま固まっているバロア卿の方を見た。
「イナンナの町の件は知っておられるでしょう?」
「う、うむ。確か、音信不通となっているイナンナの町へ冒険者連中を派遣したんだったな」
「だが結果は、帰還者はゼロだった。そして唯一そちらの方角から王都にたどり着いたという冒険者から、魔物の大量発生に遭遇したとの情報があった」
「ふん。そのくらいは知っておる。それで、冒険者ギルドでは大陣容の第二陣を派遣したのだろう?」
「さよう。今朝方、彼らは出発していった・・・」
そこで一旦ベンジャミンさんが口ごもる。
「・・・そうか、ではその結果待ちということだな」
「いや、さきほどその報告が届いた」
「な!は、早くないか?」
バロア卿が目を見開く。
「イナンナの町には着かなかったそうだ。その手前の森に着く前に魔物の群れに遭遇したそうだ」
「魔物の群れ?」
「グールが50体にスケルトンが50体、そしてヴァンパイアが20体。奴らは黒いローブの魔物に率いられていた」
「黒いローブ!!・・・・で、冒険者たちは?」
「壊滅した」
ベンジャミンさんは、目を伏せて首を振った。
「壊滅?・・・だが、今回はそれなりの準備をして向かったのだろう?」
「さよう。Bランク以上の選りすぐりの冒険者たちだ。中にはAランクも混じっていた」
「それが壊滅だと?!・・・それじゃあ相手はもしかして・・」
「Aランク以上ということだ」
「まさか!・・・それにしたって、それだけの人数を相手にして壊滅とは・・・それはつまり・・Aランクどころではないということか!?」
「どうやらそういうことのようだな。そうであろう?」
ベンジャミンさんとバロア卿のやり取りが一瞬止まり、僅かな間を置いたとき、上座に座ってテーブルの上に両肘を載せ、さらに組んだ手の上に顎を載せて、面白そうな表情でそのやり取りを眺めていたエリム国王さまが、唐突に俺やスザンヌさんの方へ視線を向けて言った。
その言葉に、一斉に偉い人たちの視線が俺たちの方へ向く。
「いや、その・・」
俺は大人たちの無言の圧力に、思わず口ごもった。
「そうね、あたしでも多分・・・ひとりでは勝てないと思うわ」
すると、スザンヌさんが不機嫌そうな顔で答えてくれた。
「まさか!!(あの『剛力の牆壁』が歯が立たないほどの?)」
バロア卿が大きな目玉を大きく見開いて、絶句した。
(そのあとの、つぶやきは俺にはよく聞こえなっかたけど)
「”乙女”よ。歯が立たないんじゃないわ、勝てないのよ」
(あ、聞こえている人がいた)
「スザンヌでも勝てぬ相手か・・・セイヤ、その方ならばどうだ?」
エリム国王さまは相変わらず顎を組んだ手の上に載せ、俺のことを見る。
目元は微笑っているのに、なにか抗いがたい眼力がある。
「お、俺ですか?いや、その・・正直勝てる気がしないです(今のところ)」
「ほう。今のところか?」
「え!?いや!そうじゃなくて、なんていうか」
なんで聞こえるかなあ。
エリム国王さまは、テレーゼさまの方へ視線を向けた。
・・テレーゼさまが無言でうなずく。
え?なんの頷きだよ!
「お、お待ち下さい。彼らはその黒いローブの魔物とやらに」
「会ったことがあるということですか?」
バロア卿とレオナルド卿が、揃ってエリム国王さまと俺達を交互に見て言った。
「先程の自己紹介で、ヴァンパイアたちに遭遇したと言っておったではないか」
ベンジャミンさんが、少し呆れたような表情で言う。
「そ、そうか・・」
「た、確かに・・」
「ところで、その方らの今後の予定を聞いていなかったな?」
そんな3人のやり取りには興味を示さずに、エリム国王さまは、ようやく組んだ手の上から顎を上げて言った。
「予定ですか?」
「うむ。予定が無ければ、頼み事をしようかと思ってな」
エリム国王さまは、そう言って右の口角を少しだけ上げた。
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