世界は変わってしまったけれど、僕には意外と合っている

Lizard

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プロローグ 神と人、人と悪魔

Ⅲ.疑問

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「……ここは」

 再び紫の光に視界を覆いつくされ、次に目覚めたのは瓦礫の中。
 ゴツゴツとした感触、けれど身体が痛みを感じることは無かった。

「お目覚めの様ですね」

 先ほどまで聞こえていたものとは違う、無機質な、しかし美しい声音。
 音の方に視線を向けて見れば、視界に入るのは『天使』の様な姿の少女。白い衣を巻く様に纏い、素足で地面に立っている。紺碧色の瞳に、艶のあるボブカットの金髪。文句の付け所がない、容姿。
 しかしそれ以上に目を引いたのは、背中から生える翼だ。小さく細かい羽が重なり合い、まるで光っている様にすら思える純白の翼。
 目覚めに伴う怠さは一切無い。視界は良好、思考も鮮明。数瞬の周辺を見渡し、次に体に異常がないか確認する。
 異常は...あった。
 異常に、体に力が漲っている。体格に見合わず、わずかな万能感すら覚えるほどだ。
 しかし疑問は一旦抑えて、彼女の言葉に応えるとしよう。

「君は?」
「貴方を援助サポートするためにヴィクティ様より遣わされた者でございます。【天使】と言えばお分かりでしょうか。種族名称は【智天使ケルビム】、個体名称は存在しません」

 早口気味な喋りと人間味の薄い言葉遣い。人間味の薄い整いすぎた容姿と相まって、人形の様な印象を受ける。
 確かに天使らしいといえば、らしいかもしれない。

「【天使】が【悪魔】に対して派遣されるって……複雑だね」
「ご心配なく。【悪魔】に忌避感などございませんので」
「ああ、うん……そうなんだ」

 それはそれでどうかと思うけど。まぁ派遣元ヴィクティがあんまりそういうの気にしなさそうだったしなぁ。
 さて、聞かなきゃいけないことはまだまだある。
 【智天使ケルビム】という名前から察するに……彼女は案内役か、説明役ってところか。

「君の役割について教えてくれないかな」
「状況説明、【悪魔】として成してほしいことの説明等。知識を授けることが私の役割です。知識の倉庫、変化した世界についての『辞書』と思っていただければ」
「辞書、ね」

 まぁ大体は予想通りか。
 僕が思っていたより、ヴィクティは親切なんだろうか。いや、面白がってるだけかも。

「じゃあ次。僕の記憶は、というより僕個人に関する記憶は――綺麗さっぱり、ってことでいいかな?」
「お察しが良いようで助かります」
「なるほどね……」

 僕の質問に彼女が悪びれることも、狼狽えることも無い。相変わらずの無表情だった。
 けれど、僕が納得した様子でいると彼女は怪訝そうな表情――僕がそう感じただけかもしれないけど――で口を開いた。

「怒らないのですか? 記憶というものは、人にとって大切なものなのでは?」

 意外なことに、そんな質問を投げかけてくる。特に迷うことも無く、本心を話す。

「不思議と湧いてこないんだよ。多分、どうでもいい記憶ばっかりだったんじゃないかな」
「……そうですか」

 彼女から僅かに感情が漏れたことに、頬を緩ませる。

「それじゃあ、【悪魔ぼくたち】が何をすればいいのか、具体的に教えてくれる?」
「……従うんですか?」

 一見すれば無表情、しかしほんの僅かに驚きを滲ませて、彼女に問われる。
 やはり【天使】にも感情は存在するらしい。そんな彼女を見て、思わずニヤついてしまった。

「従ってほしいんじゃないの?」
「その通りですが……反抗しないというのは、少々意外でした」

 ははは、確かに普通は「人間と戦え」なんて言われたら拒否するのか。
 でもなぁ……

「僕の中に、『人と争う事』に対する忌避感がね、無いんだよ。今までどんな人生を送って来たのか覚えてないけど、余程ひねくれてたみたいだ。まだ成人もしてないんだけどなぁ」
「そうですか」
「それに僕は……今までの人生が『とんでもなくつまらなかった』。それだけは記憶に残ってる。君なら知ってるだろう? 僕の住んでた国は、『平和なのが普通だった』。それが、自分でも驚くほど退屈に感じるんだ。争いが無いことが!」
「……そうですか」

 少々興奮してしまった。この世界に対する期待、歓喜は止めどなく溢れる。僕は間違いなく異常者だし、善人どころか悪人と呼んでもいい存在だろう。一般人どころか以前は犯罪者だったとしてもおかしくはない。けれどそのせいで、あるいはそのおかげで僕の望み――欲求は、彼女たちが僕に求めるものと一致している。
 だからこそ、ヴィクティには感謝すらしている。
 『つまらない世界を壊してくれてありがとう』、ってね。
 自分勝手とか、不謹慎とか、今となってはどうだっていい。最低限の倫理観はあると思っているけど......

「記憶を操作されているとは考えないんですか?」

 【智天使】が述べた言葉は、僕の意表を突くものだった。
 その想定をしていなかった、というわけではなく。

「君からそんな風に言われるなんてね」
「少々気になりましたので」
「へぇ……それで、記憶を操作されている可能性を考えないのか、だっけ」
「はい」
「それってさ……考える意味あるかな?」
「……?」
「ほとんどの記憶を消されている以上、自力で気付くことは不可能だ。違和感も感じ取れないだろうから。というか実際、感じ取れない。それに操作されていたとして、どうする?」
「どうする、とは?」
「『どう抗っていいかも分からない』、そんなことに怯えたところで無駄だね。僕自身が今この世界に対して喜びを感じているなら、僕はそれに従う。これが間違っていたとして、何が出来る? 抗うために」

 答えは、何もできない。
 何故なら。

「『人と争う』。これに僕が逆らえない以上、記憶を書き換えられてたとして抵抗する意味は無い。ヴィクティが本当に神様なら、そんな余地を残すとは思えない。あるいは余興で残してるのかもしれないけどねー」
「……」

 僅かに伝わる息を呑む気配。
 彼女には僕の考えを伝えておくべきだな。

「まぁ自分から殺戮に励む気は無いけどねー。ただ、無理に答えなくてもいいけど……多分、人間の方から襲ってくるように仕向けるんだよね?」
「……何故そう思うのですか?」
「状況から考えて、あとは勘」

 わざわざ【悪魔】なんて種族に変えて。
 【天使】を派遣して。

「【悪魔】は人類の敵、殺さなくてはいけない存在。そんな風に人間に刷り込むのかな。それが可能性としては一番高いと思うんだけど」
「……その通りです」
「【悪魔ぼくたち】はもう、自分から人間を襲わなかったとしても勝手に人間に襲われる。君たちの最終的な目的なんて分からないけど、戦わせるためにはそれが一番確実」

 「悪魔は邪悪で、平気で嘘をつく」なんてことを人間に信じさせるのは、あの神様ヴィクティならきっと簡単だろう。そうすれば人間は、僕らの言葉を信じない。少なくとも悪魔と人間が和解するまでには、長い時間がかかる。
 ふと、【智天使】の方を見る。
 一つ気になった。目的をヴィクティが話さなかったことから彼女たちにそれを話す気はない、と解釈したんだけど。

「君たちの目的って、教えて貰えるの?」
「無理です」
「だよねー」

 即答だった。まぁ教えないってことは、何か目的があるってことだろう。
 神の遊戯、なんて言われることも考えてたけど......彼女たちからは、どこか『必死さ』を感じる。
 ま、僕が考えたところで分かりやしないよね。

「さて、質問はまだあるんだ。図々しいかもしれないけど、いい?」
「それが役割ですので」
「じゃあ、僕は――何をすればいい?」
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