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第一章 リアルチーター
二本目 達人無双
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BFO を起動した途端意識を失い、目が覚めると不思議な空間にいた。
周囲は黒一色の中、半透明なボードが浮かんでいる。
『はじめまして。この場所ではキャラクターメイキングをしていただきます』
「あ、はじめまして。よろしくお願いします」
どこからともなく女性の声が聞こえてきた。挨拶を返し、どこにいるのか分からないけど、お辞儀をする。
『目の前のウィンドウを見てください。そこからキャラクターの名前と見た目を設定できます』
「わかりました」
ウィンドウを見る。名前は・・・適当でいいか・・・「リューセイ」、っと。見た目は・・あんまり変えられないらしい。まぁ見た目にコンプレックスとかがあるわけじゃないから、別にいいんだけどね。
変えられるのは・・・髪の色と目の色くらいか。
迷わず両方水色で。僕の好きな色だ。
〈完了〉を選んで、っと。
『選び終わったようですね。それでは、〈ヨルム〉の世界をお楽しみください』
彰太から聞いている。この世界そのものをヨルムと呼ぶらしい。
「お世話になりました」
『いえ。いってらっしゃい』
足元から白い光が立ち上る。
どうやらヨルムに移動するらしい。
「いってきます」
そう言って笑うと、天の声?さんが困惑していたような気がした。気のせいだろうか。彰太曰く、この世界には人間に限りなく近いAIを持つNPCがいるそうなので、天の声さんもそうなのかもしれないなぁ。
何て考えていたら、視界が光に埋め尽くされ、気づけば日本では決して見ないような建物で構成された街の中にいた。この後彰太と合流することになっているのだけれど、無事に会えるだろうか・・・あれはっ!?
周囲を歩く人々を見てみると、ほとんどの人が剣を持っている。鎧を来た人もいる。お、あれが魔導師ってやつかな?
「ふふ、素晴らしい世界だね」
筋力が現実よりも下がっている気がするけれど、この世界は楽しそうだ。
ワクワクするなぁ。
彰太は街の中にはモンスターが来ることはなく、安全だと言っていた。
そうだ、街の外に行こう。
~~~~~
その頃の彰太は―――
「すまん、俺一旦ルミリエイス行ってくるわ!」
「は?何でまた・・・あ、リア友が来るとか言ってたな」
「おう、待ち合わせの約束してるんでね。ちょっと行ってくるよ」
「―――女か?」
「ちっげぇよ!男友達だよ!!」
「ふむ、そうか・・・お前ら、ショートがウソついてたら・・・わかってるな?」
「「「「おう!フルボッコにしてやんぜ!!」」」」
「こっえぇよ!!」
「うるせぇ!!お前は既にこの場にいるぼっちを敵に回してんだよ!!」
「「そうだそうだ」」
「はいはい分かりましたー!さっさと行ってきますー」
「三秒以内な」
「ガキかお前は!?」
「ねぇ、あれは何をしているのかしら・・・?」
「さぁ・・・」
~~~~~~
街の外についた。モンスターは・・・っと。お、早速いるねぇ。
えーっとあれは・・・。!?
凝視してたら名前が出てきた。
―――――――
ゴブリン Lv7
―――――――
ゴブリン・・・あ、前に彰太が「大体のRPGで雑魚」って言ってたやつか。
ん?一際大きいやつがいるなぁ。他のゴブリンの1.5倍くらいはあるんじゃないかな?
―――――――
ホブゴブリン Lv20
―――――――
ホブゴブリン、か。リーダーみたいなものかな。
おっと、こっちに気づいたらしい。棍棒を持って走ってくる。
数は・・・ゴブリンが12匹のホブゴブリンが1匹か。
「よっ、と」
「グギャッ!?」
最初に棍棒で殴りかかってきた一匹の攻撃を回避し、首を手刀で叩く。ゴキリという音と共にゴブリンの首が折れる。倒れたゴブリンが緑色の光を放つ。あれ?消えた・・・なんでだろ?
試しに五匹ほど倒してみると、その全てが同じように消えた。
それだけではなく、一部は小さな変わった色の石?を残して消えていった。
どうやらこれが普通みたいだね。
「んー・・・けどこれは・・・おっと」
考え事をしていると、六匹のゴブリンが襲ってきた。
一匹目の首に蹴りを放つ。棒が折れるような音がした後、そのゴブリンはすぐに緑の光に変わった。2匹目のゴブリンの顔面を掴む。体を捻り、他の一匹のゴブリンに向け、投げる。
ゴブリン同士の頭がぶつかり、二匹ともが消えた。残ったゴブリンの内一匹の頭部に回し蹴りを放ち、あとの2匹の片方に飛ばす。
飛んできた仲間の体を支えきれずに倒れこんだゴブリンを一瞥し、もう片方へと駆け寄る。横凪ぎに振るわれた棍棒を跳躍で回避し、ゴブリンの後ろに着地するとゴブリンの頭を掴んで首をへし折る。
まだ息のあった倒れこんだゴブリンが、自分に飛んできた仲間が消えたことで動けるようになるが、
「遅いよ」
「ガァッ!?!」
首を手刀で突いて止めを刺す。
「さて、残ってるのは君だけだよ?」
「ガァァァ!!」
手下が次々とやられたことに苛立ちを覚えたのか、不愉快さを全面に出している。
怒りに染まったホブゴブリンが駆け出す。
さっきのゴブリン達と比べると多少は速いかな?
けどなぁ、それでも・・・
「遅すぎるんだよ」
「ガ・・・ァ?」
降り下ろされる棍棒を体をそらすことで避け、手刀を振るう。
振るわれたその手刀はホブゴブリンの喉を切り裂き、ホブゴブリンは膝を地面につき緑色の光へと変わる。
後に残された石を拾い、このゲームを始めた時から着ていた服のポケットに入れる。
あ・・・しまった。
「彰太との約束忘れてたなぁ・・・急ごう」
~~~~~
「しまったぜ・・・あいつの予想外の行動を計算にいれてなかった。って予想外なんだから無理か」
「おーい」
彰太、だよねアレ。
赤い鎧に赤い髪。
まぁ顔は同じだから彰太だと思う。
「あ!やっと来たか。ん?結局そのまんまにしたんだな、名前」
よし、他人の空似ではなかったみたいだ。
「うん。悩むのも面倒だからね」
「お前らしいな・・・それはそうと、お前何してたんだよ」
「街の外でゴブリンの群れを狩ってたよ」
「・・・は?今なんて?」
「だからゴブリンの群れ狩ってたってば」
「はぁぁぁぁ!?お前Lv1無職の装備ナシだろ!?」
「ん?無職?というか周りの人達が変な人を見る目をしてるから静かにした方がいいよ」
「あ、説明してなかったか。って誰が変な人だコラァ!!・・・まぁいい、ついてこい」
「分かったよ」
事実あれは変な人を見る目だと思うよ?
~~~~~
「ここは?」
「訓練場だ。魔法の試し撃ちや模擬戦に使う」
彰太につれてこられたのは地面が平らな岩で出きた建物だった。
「よっしゃ、まずは『ステータスを見たい』って念じてみな!」
「分かったよ」
言われた通りに念じる。すると、目の前にキャラクターメイキングの時よりは小さいウィンドウが出てきた。
「おっし、ステータスウィンドウが出たな?まずはチェックしてみろ」
そこにはこう書かれている。
――――――――――――
Name:リューセイ
JOB:なし
Lv:1(4)
HP:100
MP:100
STM:100
STR:100
AGI:100
VIT:100
Skill:【無手術】Lv1
《称号》なし
――――――――――――
「そんじゃ、次はJOBのとこを強く意識してみろ。タップすることでもできるけどな」
すると、画面が変化した。
――――――――――――
取得可能JOB
・剣士
・重戦士
・魔導師
・弓士
・拳闘士
・聖法士
――――――――――――
「説明頼める?」
「勿論だ!まず、このゲームでの職業がどういうものかだが、スキルって分かるか?」
「多分、このゲーム内だけの特殊な技能、能力とかじゃないの?」
「大体そんな感じだ。で、このスキルなんだがな。お前はまだ何も・・・持ってんなオイ。無手術ってことは・・・お前ゴブリンと素手でやりあったな?」
「うん。あ、もしかして実際に経験したことでスキルが手に入るの?」
「その通りだ。ただな、例えば《剣術》とか《無手術》みたいなスキルはな、そのスキルに関連する攻撃、例えば素手で殴るとかだな。それをしたときに補正がかかるって物なんだが・・・」
「うん?」
急に彰太が顔をしかめたので首をかしげていると、
「これな、要するに現実では剣を使ったこともありません、みたいなやつが《剣術》のスキルを使うとまるで剣を使った経験があるような感じになるもんなんだよ。で、そのLvは補正の度合いだ」
「それってつまり?」
「お前が剣術のスキル持っても低Lvじゃ間違いなく無意味だな」
「いらないじゃん」
「待て待て最後まで聞け!このスキルは、お前にも利点はないこともない。他のやつほどじゃないだろうけどな。スキルってのは、Lvが上がると普通は無理な技、《アーツ》って言うんだがな。それが出来るようになるんだ」
「例えば?」
「《剣術》スキルを上げると《飛斬》っつー飛ぶ斬撃を使えるようになる」
「へぇ、それは面白いね」
「あと、スキルの取得方法は他にもいくつかある。例えば、JOBを決めたときは、それに対応する初期のスキルが手に入る。あとは、〈スキルブック〉ってアイテムがあってな。モンスターや遺跡からごく稀に手に入るんだが、それでも入手は可能だ。ちなみに、これの場合は普通なら手に入んねぇようなスキルが手にはいることもある。あと、大抵の《アーツ》はSTM、スタミナを消費するからな。そこらへんは気を付けろ」
「ほうほう。分かったよ」
「それと、隠しパラメーターってもんがあってな。腹減りもこの一つだ。これが0になると体がダルくなり、スタミナが回復しなくなる。ちなみにこのスタミナは普通に走ったりしても減らない。ただし、運動してると早く腹が減ったりもする」
「じゃあ、このゲームでも食事はできるの?」
「まぁな」
「それは是非とも食べてみたいなぁ。あ、JOBの説明お願いできるかな」
「おうよ!さっきも言った通り、JOBを選ぶとそれに対応した初期スキルが貰える。あとな、ステータスも選んだJOBによって一部上昇する。近接JOBならHPに、STRやAGI、VITといった具合にな。あと、レベルアップしたときにステータスの増加量も変化する。魔導師ならMP、重戦士ならSTRが特に増える。それに、そのJOBに対応したスキルも上がりやすくなる。あとな、ステータスやスキルレベルをあげる方法は他にもある。これはかなり珍しいが、特殊なクエストをクリアしたり、特殊なモンスターを討伐することで上がる時もある。まぁそんなことはほとんどないけどな!最後に、JOB特性ってのがあってな。魔導師だと物理攻撃の威力が下がったり、逆に剣士だと魔法の威力が下がったりする。JOBについてはこんなところだ」
なるほど、JOBについてまとめるとこんな感じか
・JOBを選んだ際に対応したステータスが上がる。
・JOBを選んだ際に対応したスキルが貰える。
・そのJOBに対応したスキルやステータスが上がりやすくなる
・JOBの特性によりステータスが表示されているものとは変化する場合がある。
「一つ一つのJOBについて教えてくれないかい?」
「まず、近接職は大体HP・STR・AGI・VITが、魔法系の職業、つまり聖法士や魔導士ならMPが上がりやすい。さらに、弓士は少し特殊でな。スキルの中に魔法に近いもんがあるもんだから、MP・AGIが上がりやすいんだ。得意なもんはほとんど名前通り。ただ、聖法士だけは回復が得意なタイプだな。これだけ聞くと近接職がいいように思えるんだが・・・MPの存在は大きい。魔法の飛距離はものによっちゃ弓と同じかそれ以上のもんもあるんだ。威力に関しちゃ、MPの消費が多いやつだと、その分だけ高くなる。要は近接職より火力があると考えていい。弓の場合はインベントリに入れてる矢の数が、魔法の場合はMPが弾の数になる。だからMPがあればそれだけ火力の高い攻撃が遠くから出来るようになる・・・まぁ近づかれるとほぼ終わりだけどな。聖法士も魔導士ほどじゃないが、まぁ似たようなもんだ。魔法の中で回復魔法が一番得意ってだけ」
「ふむ・・・じゃあ聖法士だな」
ポチッ
「えっマジで」
「あれダメだった?」
「いや、ダメじゃないが・・・回復自体は魔導士でもできなくはないからな。聖法士ってのは、魔導士ほどのMPがない上に、近接に関しても魔導士よりはマシって感じだから、中途半端になってな。不人気職なんだよ」
「そうなの?まぁいいんじゃない?もう決めちゃったし」
「そうなんだけどな・・・でもなんでだ?お前ならてっきり剣士を選ぶと思ったんだが」
「確かにそれもありだけどね?別に剣が使えない訳じゃないんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「だったら大丈夫だよ。それに僕は基本的にソロで動くと思うからね。回復はあった方がいい」
「まぁ、お前が選んだことならいいか」
彰太は結構優しいところあるからなぁ。心配してくれてるみたいだね。
「それじゃあ次だ!JOB選びが終わったから、魔法についてだ!ショート先生の魔法講座はっじまっるよー!」
「わーぱちぱちー」
「一切拍手してねぇよな!?まぁいい。このゲームの魔法ってのはな、結構変わってるんだ。誰であっても使うことは不可能じゃない」
「ん?スキルさえあればできるってこと?」
「惜しい。まぁほとんどそれに近いがな。まず、魔法を使うのにスキルは必須なわけじゃねぇんだ」
「へぇ、そうなの?ってことは、剣術とかと同じ感じ?」
「あー、そうかもしんねぇ。けどな、魔法のスキルってのは、Lvが上がったとき、使えるようになるのが《アーツ》じゃねぇんだよ」
「じゃあ魔法じゃないの?」
「その通りだ。ただ、使えるようになる、ってのは語弊がある。ほとんどのやつにとっちゃ同じことなんだが・・・魔法のスキルLvが上がった時、使えるようになるのは《詠唱》なんだよ」
「詠唱?」
「ああ。まず最初に、魔法を使うために必要なものってなんだと思う?」
「MPじゃないのかい?」
「あー、それはそいつが魔法を本来使える場合だ」
「じゃあ・・・気合い?」
「それじゃあ魔法使えるやつはみんな脳筋なんじゃねぇか?正解はだな・・・イメージだ!!」
「イメージ?」
「まぁ、想像力とも言える。例えば火の系統の魔法を使おうと思ったらだな。火の魔法、みたいな雑なイメージじゃダメだ。熱さ、色合い、大きさ、性質、形状、みたいな要素をほとんど完璧に近いレベルで想像しねぇとダメなんだ。そんなもんできるやつはほとんどいねぇ。できたとしても詠唱で発動できるようになってから何度も何度も練習して、ってパターンだな。それでもできるやつはそれだけですげぇよ」
「へぇ、面白そうだね」
「イメージだけで発動することを無詠唱って呼ぶ。けどそれができるやつはごく一部だ。そして詠唱はこのイメージの補助をするためのもんだ」
「補助?」
「実際にやってみると分かるかもしんねぇが、詠唱はどちらかって言うと不完全なイメージでも魔法を使えるようにするもんだ」
「ああ、そういうことか。詠唱を使えるようになるっていうのは」
「その通りだ。より正確に言うなら、スキルのLvがアップすれば詠唱の効果が発揮できるようになるってのが正しい」
「ああ、詠唱だけなら他の人から聞けばいいのか」
「そういうことだな。後、他にも要素はいくつかある。魔力ってのがこの世界にはあるんだよ。俺らの体内にもな」
「ん?もしかして腹の辺りの違和感はそれかな?」
「え?お前マジか。知らなくてその感覚に気づいてるやつは初めて見たぜ。まぁその感覚が魔力だ」
「てっきりVR特有のものかと思ったよ。でも、この感覚がどうかしたの?」
「その感覚が分からねぇやつは魔法を使えねぇ。まぁ他の奴に魔力を流してもらえれば大抵分かるけどな。魔力を体の外に持っていってイメージで魔法に変換、それが魔法の正式な手順だそうだ。一応、これに関しても詠唱が若干補助してくれるが、その分発動が遅れる。だからあらかじめ必要な量を外に出しておくんだ。全く魔力を外に出してない状態で使うと、詠唱でも補助しきれない。その場合体内で魔法に変わってただの自滅になるから」
「それさっきの話の前に言うやつじゃない?」
「うん、ごめん」
「よし、許そうじゃないか」
「で、だ。魔力を体の外に持っていく方法は、これもイメージだ。動かそうって思うだけじゃ難しいがな。なんでも、これは自分の身体をよく知ってないと難しいんだと。何度も練習して自分の身体の仕組みを知っていくのが基本だな。あと、手のひらの先に魔力を集めようとするのが一番いいぞ。人間の身体の中で一番器用に扱えるのが手だから、って理屈らしい。まぁぶっちゃけ感覚でやるのが一番だな」
「ふむふむ、こういう感じかい?」
手のひらを前に出す。
「あのな、そんな簡単にできるわけ――――」
「よっと」
手の先から白い光が出る
「はぁぁぁぁ!?!?おまっ、えっ、ちょ、どうやった!?」
「え?どうやったって・・・言われた通りに」
「マジかお前・・・あ、お前まさか鍛練の時に自分の身体を意識してるから、とかそんな理由じゃねぇだろうな」
「いや、多分それだね。スムーズに魔力?を動かせるし」
「・・・マジかよ・・・はぁ、まぁ一旦それはおいておこう・・・次は実際にやってみせるぞ」
「いえーい」
「棒読み腹立つぅ・・・はぁ、〈炎よ、高熱の槍となりて、我が意のままに敵を穿て〉!《ファイアジャベリン》ッ!!」
ショートの手のひらから、炎の槍が現れ、岩壁に突き刺さる。
「おおー!すごいね!」
「そうだろう、そうだろう。この魔法は威力は中の下ってところだが、ある程度自由に動かせる上に速いんだよ」
「面白いねぇ・・・うーん、こんな感じかな?」
手のひらに魔力を集め、発動。ショートが放ったものと比べると少し小さめのものが出てくる。
「!!??は!?ちょ!?え!!おま、それっ!!」
「どうしたの?っていうかショートのよりは小さくなっちゃうね。MPの問題なのかな」
パクパクと口を開け閉めして唖然とした表情をするショート。
どうしたんだろ?てかあれ顎外れないの?
「おっまえ、自分のしたことがどういうことかわかってねぇな!?さては!!」
「え?ダメなの?」
「いやダメじゃないけど!!ダメじゃないけどっ!!・・・なあリューセイ、お前の普段の鍛練で想像力を鍛えるようなやつってある?」
「え?うーん・・・あるとしたらイメージトレーニング?」
「絶対それだああああ!!このリアルチート野郎ッ!!」
「ええー・・・」
「俺の常識って下らないものだったんだね・・・じゃなくてっ!とりあえず説明を続行するぞっ!!頑張れオレッ!!」
「頑張れー」
「他人事みてぇに・・・畜生ッ!!…コホン。えっとな、このゲームの魔法には他にも凄いところがある」
「気になるねー」
「それはな、自分で魔法を新たに作れることだ!!」
「うん?」
「さっき想像力が大事だって言ったろ?つまり、完璧に近いイメージさえできれば全く新しい魔法ができるんだよ」
「おおー!」
「ただしな、全く新しい魔法ってことは、詠唱が存在しないんだ・・・だから、そんな真似ができるやつはほとんどいねぇ。つーかこれは運営が言ってるだけだ。システム上に存在しない魔法のことをオリジナル魔法って言うんだが・・・俺自身はまだ見たことがない。難しさなら無詠唱以上だからな。けど、お前ならもしかしたらできるかもな・・・あ、それともう一つ。さっき言った〈スキルブック〉の中には、魔法のことが書いてあるやつがあってな。その中には、魔法のスキルLvが上がっても詠唱の言葉が出てこない上に、現実離れしすぎてイメージするのがほぼ不可能、みたいな魔法もある。そういうのは大体強力だ。中には普通にスキルLvの上昇でイメージほぼ不可能なやつが出てくることもあるがな」
「それまた気になるねぇ」
「あ、あと、魔法のスキルLvが上がるとな、その属性の魔法を使ったときに消費するMPが少なくなる」
「それ結構大事じゃないの?」
「・・・忘れてました」
「よーし魔法の試し撃ちだー」
「やめろおおおおっ!!オレが悪かったから!!すいませんでしたっ!!」
「いいよー」
「ま、まぁ・・・説明は大体こんなとこだ。装備とかに関しちゃあ街の中に店があったり、プレーヤーのなかにも作ってるやつがいる。このゲームには生産系の職業はないが、スキル自体はあるんだ。ただ、実際の知識と現実の器用さが必要だから、これをやってるやつは少ない。あとは、ボスがたまに落としたりもする」
「ボス?」
「各フィールドに大体ボスがいるんだよ。そのエリアの通常のモンスターと比べるとかなり強いのが。普通はソロじゃあ相当なレベル差がない限り無理なんだが・・・お前なら何とか出来そうだわ」
「まぁ頑張ってみるよ。それにしても、今回は色々ありがとうねー」
「おうよ!あ、最後に聞きたいんだが」
「どしたの?」
「ゴブリンの群れってどれくらいいた?」
「ゴブリン12匹とホブゴブリン1匹だね」
「ッ!ホブもか・・・!・・・実際、戦ってみてどうだった?」
「・・・あれはダメだね。遅すぎるし動きも単調。それに、脆すぎる。あれは雑魚なんだよね?」
「・・・まぁ、他のフィールドのモンスターやボスと比べるとな」
「ふふっ、楽しみだねぇ」
「そーかい。こっちとしても誘った甲斐があったってもんだ」
ショートが笑顔になっているのを見て、思わず笑みを浮かべる。やっぱりコイツはいいやつだよなぁ。
「じゃ!俺は戻るぜ!あ、フレンド登録忘れてたわ」
ショートが気まずそうな表情になる。
「フレンド登録?」
「ああ。登録しておくとメールとか、通話なんかもできる。今から申請するから、Yesを押してくれ」
すると、細長いウィンドウが現れる。
―――――――
《 ショート からフレンド申請が来ています。承認しますか?》
Yes. or No.
―――――――
「えぇー・・・」
「なんで嫌そうなのっ!?」
「・・・冗談だよ」
Yesを選ぶ。
「・・・今の間はなんだ・・・もういいっ!俺は戻るぜ!あ、そうそう。俺は〈紅鎧〉ってトップギルドのギルドマスターやってっから!それじゃまたな!!」
そう言ってショートは去っていった。
「ギルドってなんだろ?」
僕は首をかしげていた
ま、何にせよ、一旦夕飯に行ってこようかな。
食べ終わったらまたやろうっと。
周囲は黒一色の中、半透明なボードが浮かんでいる。
『はじめまして。この場所ではキャラクターメイキングをしていただきます』
「あ、はじめまして。よろしくお願いします」
どこからともなく女性の声が聞こえてきた。挨拶を返し、どこにいるのか分からないけど、お辞儀をする。
『目の前のウィンドウを見てください。そこからキャラクターの名前と見た目を設定できます』
「わかりました」
ウィンドウを見る。名前は・・・適当でいいか・・・「リューセイ」、っと。見た目は・・あんまり変えられないらしい。まぁ見た目にコンプレックスとかがあるわけじゃないから、別にいいんだけどね。
変えられるのは・・・髪の色と目の色くらいか。
迷わず両方水色で。僕の好きな色だ。
〈完了〉を選んで、っと。
『選び終わったようですね。それでは、〈ヨルム〉の世界をお楽しみください』
彰太から聞いている。この世界そのものをヨルムと呼ぶらしい。
「お世話になりました」
『いえ。いってらっしゃい』
足元から白い光が立ち上る。
どうやらヨルムに移動するらしい。
「いってきます」
そう言って笑うと、天の声?さんが困惑していたような気がした。気のせいだろうか。彰太曰く、この世界には人間に限りなく近いAIを持つNPCがいるそうなので、天の声さんもそうなのかもしれないなぁ。
何て考えていたら、視界が光に埋め尽くされ、気づけば日本では決して見ないような建物で構成された街の中にいた。この後彰太と合流することになっているのだけれど、無事に会えるだろうか・・・あれはっ!?
周囲を歩く人々を見てみると、ほとんどの人が剣を持っている。鎧を来た人もいる。お、あれが魔導師ってやつかな?
「ふふ、素晴らしい世界だね」
筋力が現実よりも下がっている気がするけれど、この世界は楽しそうだ。
ワクワクするなぁ。
彰太は街の中にはモンスターが来ることはなく、安全だと言っていた。
そうだ、街の外に行こう。
~~~~~
その頃の彰太は―――
「すまん、俺一旦ルミリエイス行ってくるわ!」
「は?何でまた・・・あ、リア友が来るとか言ってたな」
「おう、待ち合わせの約束してるんでね。ちょっと行ってくるよ」
「―――女か?」
「ちっげぇよ!男友達だよ!!」
「ふむ、そうか・・・お前ら、ショートがウソついてたら・・・わかってるな?」
「「「「おう!フルボッコにしてやんぜ!!」」」」
「こっえぇよ!!」
「うるせぇ!!お前は既にこの場にいるぼっちを敵に回してんだよ!!」
「「そうだそうだ」」
「はいはい分かりましたー!さっさと行ってきますー」
「三秒以内な」
「ガキかお前は!?」
「ねぇ、あれは何をしているのかしら・・・?」
「さぁ・・・」
~~~~~~
街の外についた。モンスターは・・・っと。お、早速いるねぇ。
えーっとあれは・・・。!?
凝視してたら名前が出てきた。
―――――――
ゴブリン Lv7
―――――――
ゴブリン・・・あ、前に彰太が「大体のRPGで雑魚」って言ってたやつか。
ん?一際大きいやつがいるなぁ。他のゴブリンの1.5倍くらいはあるんじゃないかな?
―――――――
ホブゴブリン Lv20
―――――――
ホブゴブリン、か。リーダーみたいなものかな。
おっと、こっちに気づいたらしい。棍棒を持って走ってくる。
数は・・・ゴブリンが12匹のホブゴブリンが1匹か。
「よっ、と」
「グギャッ!?」
最初に棍棒で殴りかかってきた一匹の攻撃を回避し、首を手刀で叩く。ゴキリという音と共にゴブリンの首が折れる。倒れたゴブリンが緑色の光を放つ。あれ?消えた・・・なんでだろ?
試しに五匹ほど倒してみると、その全てが同じように消えた。
それだけではなく、一部は小さな変わった色の石?を残して消えていった。
どうやらこれが普通みたいだね。
「んー・・・けどこれは・・・おっと」
考え事をしていると、六匹のゴブリンが襲ってきた。
一匹目の首に蹴りを放つ。棒が折れるような音がした後、そのゴブリンはすぐに緑の光に変わった。2匹目のゴブリンの顔面を掴む。体を捻り、他の一匹のゴブリンに向け、投げる。
ゴブリン同士の頭がぶつかり、二匹ともが消えた。残ったゴブリンの内一匹の頭部に回し蹴りを放ち、あとの2匹の片方に飛ばす。
飛んできた仲間の体を支えきれずに倒れこんだゴブリンを一瞥し、もう片方へと駆け寄る。横凪ぎに振るわれた棍棒を跳躍で回避し、ゴブリンの後ろに着地するとゴブリンの頭を掴んで首をへし折る。
まだ息のあった倒れこんだゴブリンが、自分に飛んできた仲間が消えたことで動けるようになるが、
「遅いよ」
「ガァッ!?!」
首を手刀で突いて止めを刺す。
「さて、残ってるのは君だけだよ?」
「ガァァァ!!」
手下が次々とやられたことに苛立ちを覚えたのか、不愉快さを全面に出している。
怒りに染まったホブゴブリンが駆け出す。
さっきのゴブリン達と比べると多少は速いかな?
けどなぁ、それでも・・・
「遅すぎるんだよ」
「ガ・・・ァ?」
降り下ろされる棍棒を体をそらすことで避け、手刀を振るう。
振るわれたその手刀はホブゴブリンの喉を切り裂き、ホブゴブリンは膝を地面につき緑色の光へと変わる。
後に残された石を拾い、このゲームを始めた時から着ていた服のポケットに入れる。
あ・・・しまった。
「彰太との約束忘れてたなぁ・・・急ごう」
~~~~~
「しまったぜ・・・あいつの予想外の行動を計算にいれてなかった。って予想外なんだから無理か」
「おーい」
彰太、だよねアレ。
赤い鎧に赤い髪。
まぁ顔は同じだから彰太だと思う。
「あ!やっと来たか。ん?結局そのまんまにしたんだな、名前」
よし、他人の空似ではなかったみたいだ。
「うん。悩むのも面倒だからね」
「お前らしいな・・・それはそうと、お前何してたんだよ」
「街の外でゴブリンの群れを狩ってたよ」
「・・・は?今なんて?」
「だからゴブリンの群れ狩ってたってば」
「はぁぁぁぁ!?お前Lv1無職の装備ナシだろ!?」
「ん?無職?というか周りの人達が変な人を見る目をしてるから静かにした方がいいよ」
「あ、説明してなかったか。って誰が変な人だコラァ!!・・・まぁいい、ついてこい」
「分かったよ」
事実あれは変な人を見る目だと思うよ?
~~~~~
「ここは?」
「訓練場だ。魔法の試し撃ちや模擬戦に使う」
彰太につれてこられたのは地面が平らな岩で出きた建物だった。
「よっしゃ、まずは『ステータスを見たい』って念じてみな!」
「分かったよ」
言われた通りに念じる。すると、目の前にキャラクターメイキングの時よりは小さいウィンドウが出てきた。
「おっし、ステータスウィンドウが出たな?まずはチェックしてみろ」
そこにはこう書かれている。
――――――――――――
Name:リューセイ
JOB:なし
Lv:1(4)
HP:100
MP:100
STM:100
STR:100
AGI:100
VIT:100
Skill:【無手術】Lv1
《称号》なし
――――――――――――
「そんじゃ、次はJOBのとこを強く意識してみろ。タップすることでもできるけどな」
すると、画面が変化した。
――――――――――――
取得可能JOB
・剣士
・重戦士
・魔導師
・弓士
・拳闘士
・聖法士
――――――――――――
「説明頼める?」
「勿論だ!まず、このゲームでの職業がどういうものかだが、スキルって分かるか?」
「多分、このゲーム内だけの特殊な技能、能力とかじゃないの?」
「大体そんな感じだ。で、このスキルなんだがな。お前はまだ何も・・・持ってんなオイ。無手術ってことは・・・お前ゴブリンと素手でやりあったな?」
「うん。あ、もしかして実際に経験したことでスキルが手に入るの?」
「その通りだ。ただな、例えば《剣術》とか《無手術》みたいなスキルはな、そのスキルに関連する攻撃、例えば素手で殴るとかだな。それをしたときに補正がかかるって物なんだが・・・」
「うん?」
急に彰太が顔をしかめたので首をかしげていると、
「これな、要するに現実では剣を使ったこともありません、みたいなやつが《剣術》のスキルを使うとまるで剣を使った経験があるような感じになるもんなんだよ。で、そのLvは補正の度合いだ」
「それってつまり?」
「お前が剣術のスキル持っても低Lvじゃ間違いなく無意味だな」
「いらないじゃん」
「待て待て最後まで聞け!このスキルは、お前にも利点はないこともない。他のやつほどじゃないだろうけどな。スキルってのは、Lvが上がると普通は無理な技、《アーツ》って言うんだがな。それが出来るようになるんだ」
「例えば?」
「《剣術》スキルを上げると《飛斬》っつー飛ぶ斬撃を使えるようになる」
「へぇ、それは面白いね」
「あと、スキルの取得方法は他にもいくつかある。例えば、JOBを決めたときは、それに対応する初期のスキルが手に入る。あとは、〈スキルブック〉ってアイテムがあってな。モンスターや遺跡からごく稀に手に入るんだが、それでも入手は可能だ。ちなみに、これの場合は普通なら手に入んねぇようなスキルが手にはいることもある。あと、大抵の《アーツ》はSTM、スタミナを消費するからな。そこらへんは気を付けろ」
「ほうほう。分かったよ」
「それと、隠しパラメーターってもんがあってな。腹減りもこの一つだ。これが0になると体がダルくなり、スタミナが回復しなくなる。ちなみにこのスタミナは普通に走ったりしても減らない。ただし、運動してると早く腹が減ったりもする」
「じゃあ、このゲームでも食事はできるの?」
「まぁな」
「それは是非とも食べてみたいなぁ。あ、JOBの説明お願いできるかな」
「おうよ!さっきも言った通り、JOBを選ぶとそれに対応した初期スキルが貰える。あとな、ステータスも選んだJOBによって一部上昇する。近接JOBならHPに、STRやAGI、VITといった具合にな。あと、レベルアップしたときにステータスの増加量も変化する。魔導師ならMP、重戦士ならSTRが特に増える。それに、そのJOBに対応したスキルも上がりやすくなる。あとな、ステータスやスキルレベルをあげる方法は他にもある。これはかなり珍しいが、特殊なクエストをクリアしたり、特殊なモンスターを討伐することで上がる時もある。まぁそんなことはほとんどないけどな!最後に、JOB特性ってのがあってな。魔導師だと物理攻撃の威力が下がったり、逆に剣士だと魔法の威力が下がったりする。JOBについてはこんなところだ」
なるほど、JOBについてまとめるとこんな感じか
・JOBを選んだ際に対応したステータスが上がる。
・JOBを選んだ際に対応したスキルが貰える。
・そのJOBに対応したスキルやステータスが上がりやすくなる
・JOBの特性によりステータスが表示されているものとは変化する場合がある。
「一つ一つのJOBについて教えてくれないかい?」
「まず、近接職は大体HP・STR・AGI・VITが、魔法系の職業、つまり聖法士や魔導士ならMPが上がりやすい。さらに、弓士は少し特殊でな。スキルの中に魔法に近いもんがあるもんだから、MP・AGIが上がりやすいんだ。得意なもんはほとんど名前通り。ただ、聖法士だけは回復が得意なタイプだな。これだけ聞くと近接職がいいように思えるんだが・・・MPの存在は大きい。魔法の飛距離はものによっちゃ弓と同じかそれ以上のもんもあるんだ。威力に関しちゃ、MPの消費が多いやつだと、その分だけ高くなる。要は近接職より火力があると考えていい。弓の場合はインベントリに入れてる矢の数が、魔法の場合はMPが弾の数になる。だからMPがあればそれだけ火力の高い攻撃が遠くから出来るようになる・・・まぁ近づかれるとほぼ終わりだけどな。聖法士も魔導士ほどじゃないが、まぁ似たようなもんだ。魔法の中で回復魔法が一番得意ってだけ」
「ふむ・・・じゃあ聖法士だな」
ポチッ
「えっマジで」
「あれダメだった?」
「いや、ダメじゃないが・・・回復自体は魔導士でもできなくはないからな。聖法士ってのは、魔導士ほどのMPがない上に、近接に関しても魔導士よりはマシって感じだから、中途半端になってな。不人気職なんだよ」
「そうなの?まぁいいんじゃない?もう決めちゃったし」
「そうなんだけどな・・・でもなんでだ?お前ならてっきり剣士を選ぶと思ったんだが」
「確かにそれもありだけどね?別に剣が使えない訳じゃないんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「だったら大丈夫だよ。それに僕は基本的にソロで動くと思うからね。回復はあった方がいい」
「まぁ、お前が選んだことならいいか」
彰太は結構優しいところあるからなぁ。心配してくれてるみたいだね。
「それじゃあ次だ!JOB選びが終わったから、魔法についてだ!ショート先生の魔法講座はっじまっるよー!」
「わーぱちぱちー」
「一切拍手してねぇよな!?まぁいい。このゲームの魔法ってのはな、結構変わってるんだ。誰であっても使うことは不可能じゃない」
「ん?スキルさえあればできるってこと?」
「惜しい。まぁほとんどそれに近いがな。まず、魔法を使うのにスキルは必須なわけじゃねぇんだ」
「へぇ、そうなの?ってことは、剣術とかと同じ感じ?」
「あー、そうかもしんねぇ。けどな、魔法のスキルってのは、Lvが上がったとき、使えるようになるのが《アーツ》じゃねぇんだよ」
「じゃあ魔法じゃないの?」
「その通りだ。ただ、使えるようになる、ってのは語弊がある。ほとんどのやつにとっちゃ同じことなんだが・・・魔法のスキルLvが上がった時、使えるようになるのは《詠唱》なんだよ」
「詠唱?」
「ああ。まず最初に、魔法を使うために必要なものってなんだと思う?」
「MPじゃないのかい?」
「あー、それはそいつが魔法を本来使える場合だ」
「じゃあ・・・気合い?」
「それじゃあ魔法使えるやつはみんな脳筋なんじゃねぇか?正解はだな・・・イメージだ!!」
「イメージ?」
「まぁ、想像力とも言える。例えば火の系統の魔法を使おうと思ったらだな。火の魔法、みたいな雑なイメージじゃダメだ。熱さ、色合い、大きさ、性質、形状、みたいな要素をほとんど完璧に近いレベルで想像しねぇとダメなんだ。そんなもんできるやつはほとんどいねぇ。できたとしても詠唱で発動できるようになってから何度も何度も練習して、ってパターンだな。それでもできるやつはそれだけですげぇよ」
「へぇ、面白そうだね」
「イメージだけで発動することを無詠唱って呼ぶ。けどそれができるやつはごく一部だ。そして詠唱はこのイメージの補助をするためのもんだ」
「補助?」
「実際にやってみると分かるかもしんねぇが、詠唱はどちらかって言うと不完全なイメージでも魔法を使えるようにするもんだ」
「ああ、そういうことか。詠唱を使えるようになるっていうのは」
「その通りだ。より正確に言うなら、スキルのLvがアップすれば詠唱の効果が発揮できるようになるってのが正しい」
「ああ、詠唱だけなら他の人から聞けばいいのか」
「そういうことだな。後、他にも要素はいくつかある。魔力ってのがこの世界にはあるんだよ。俺らの体内にもな」
「ん?もしかして腹の辺りの違和感はそれかな?」
「え?お前マジか。知らなくてその感覚に気づいてるやつは初めて見たぜ。まぁその感覚が魔力だ」
「てっきりVR特有のものかと思ったよ。でも、この感覚がどうかしたの?」
「その感覚が分からねぇやつは魔法を使えねぇ。まぁ他の奴に魔力を流してもらえれば大抵分かるけどな。魔力を体の外に持っていってイメージで魔法に変換、それが魔法の正式な手順だそうだ。一応、これに関しても詠唱が若干補助してくれるが、その分発動が遅れる。だからあらかじめ必要な量を外に出しておくんだ。全く魔力を外に出してない状態で使うと、詠唱でも補助しきれない。その場合体内で魔法に変わってただの自滅になるから」
「それさっきの話の前に言うやつじゃない?」
「うん、ごめん」
「よし、許そうじゃないか」
「で、だ。魔力を体の外に持っていく方法は、これもイメージだ。動かそうって思うだけじゃ難しいがな。なんでも、これは自分の身体をよく知ってないと難しいんだと。何度も練習して自分の身体の仕組みを知っていくのが基本だな。あと、手のひらの先に魔力を集めようとするのが一番いいぞ。人間の身体の中で一番器用に扱えるのが手だから、って理屈らしい。まぁぶっちゃけ感覚でやるのが一番だな」
「ふむふむ、こういう感じかい?」
手のひらを前に出す。
「あのな、そんな簡単にできるわけ――――」
「よっと」
手の先から白い光が出る
「はぁぁぁぁ!?!?おまっ、えっ、ちょ、どうやった!?」
「え?どうやったって・・・言われた通りに」
「マジかお前・・・あ、お前まさか鍛練の時に自分の身体を意識してるから、とかそんな理由じゃねぇだろうな」
「いや、多分それだね。スムーズに魔力?を動かせるし」
「・・・マジかよ・・・はぁ、まぁ一旦それはおいておこう・・・次は実際にやってみせるぞ」
「いえーい」
「棒読み腹立つぅ・・・はぁ、〈炎よ、高熱の槍となりて、我が意のままに敵を穿て〉!《ファイアジャベリン》ッ!!」
ショートの手のひらから、炎の槍が現れ、岩壁に突き刺さる。
「おおー!すごいね!」
「そうだろう、そうだろう。この魔法は威力は中の下ってところだが、ある程度自由に動かせる上に速いんだよ」
「面白いねぇ・・・うーん、こんな感じかな?」
手のひらに魔力を集め、発動。ショートが放ったものと比べると少し小さめのものが出てくる。
「!!??は!?ちょ!?え!!おま、それっ!!」
「どうしたの?っていうかショートのよりは小さくなっちゃうね。MPの問題なのかな」
パクパクと口を開け閉めして唖然とした表情をするショート。
どうしたんだろ?てかあれ顎外れないの?
「おっまえ、自分のしたことがどういうことかわかってねぇな!?さては!!」
「え?ダメなの?」
「いやダメじゃないけど!!ダメじゃないけどっ!!・・・なあリューセイ、お前の普段の鍛練で想像力を鍛えるようなやつってある?」
「え?うーん・・・あるとしたらイメージトレーニング?」
「絶対それだああああ!!このリアルチート野郎ッ!!」
「ええー・・・」
「俺の常識って下らないものだったんだね・・・じゃなくてっ!とりあえず説明を続行するぞっ!!頑張れオレッ!!」
「頑張れー」
「他人事みてぇに・・・畜生ッ!!…コホン。えっとな、このゲームの魔法には他にも凄いところがある」
「気になるねー」
「それはな、自分で魔法を新たに作れることだ!!」
「うん?」
「さっき想像力が大事だって言ったろ?つまり、完璧に近いイメージさえできれば全く新しい魔法ができるんだよ」
「おおー!」
「ただしな、全く新しい魔法ってことは、詠唱が存在しないんだ・・・だから、そんな真似ができるやつはほとんどいねぇ。つーかこれは運営が言ってるだけだ。システム上に存在しない魔法のことをオリジナル魔法って言うんだが・・・俺自身はまだ見たことがない。難しさなら無詠唱以上だからな。けど、お前ならもしかしたらできるかもな・・・あ、それともう一つ。さっき言った〈スキルブック〉の中には、魔法のことが書いてあるやつがあってな。その中には、魔法のスキルLvが上がっても詠唱の言葉が出てこない上に、現実離れしすぎてイメージするのがほぼ不可能、みたいな魔法もある。そういうのは大体強力だ。中には普通にスキルLvの上昇でイメージほぼ不可能なやつが出てくることもあるがな」
「それまた気になるねぇ」
「あ、あと、魔法のスキルLvが上がるとな、その属性の魔法を使ったときに消費するMPが少なくなる」
「それ結構大事じゃないの?」
「・・・忘れてました」
「よーし魔法の試し撃ちだー」
「やめろおおおおっ!!オレが悪かったから!!すいませんでしたっ!!」
「いいよー」
「ま、まぁ・・・説明は大体こんなとこだ。装備とかに関しちゃあ街の中に店があったり、プレーヤーのなかにも作ってるやつがいる。このゲームには生産系の職業はないが、スキル自体はあるんだ。ただ、実際の知識と現実の器用さが必要だから、これをやってるやつは少ない。あとは、ボスがたまに落としたりもする」
「ボス?」
「各フィールドに大体ボスがいるんだよ。そのエリアの通常のモンスターと比べるとかなり強いのが。普通はソロじゃあ相当なレベル差がない限り無理なんだが・・・お前なら何とか出来そうだわ」
「まぁ頑張ってみるよ。それにしても、今回は色々ありがとうねー」
「おうよ!あ、最後に聞きたいんだが」
「どしたの?」
「ゴブリンの群れってどれくらいいた?」
「ゴブリン12匹とホブゴブリン1匹だね」
「ッ!ホブもか・・・!・・・実際、戦ってみてどうだった?」
「・・・あれはダメだね。遅すぎるし動きも単調。それに、脆すぎる。あれは雑魚なんだよね?」
「・・・まぁ、他のフィールドのモンスターやボスと比べるとな」
「ふふっ、楽しみだねぇ」
「そーかい。こっちとしても誘った甲斐があったってもんだ」
ショートが笑顔になっているのを見て、思わず笑みを浮かべる。やっぱりコイツはいいやつだよなぁ。
「じゃ!俺は戻るぜ!あ、フレンド登録忘れてたわ」
ショートが気まずそうな表情になる。
「フレンド登録?」
「ああ。登録しておくとメールとか、通話なんかもできる。今から申請するから、Yesを押してくれ」
すると、細長いウィンドウが現れる。
―――――――
《 ショート からフレンド申請が来ています。承認しますか?》
Yes. or No.
―――――――
「えぇー・・・」
「なんで嫌そうなのっ!?」
「・・・冗談だよ」
Yesを選ぶ。
「・・・今の間はなんだ・・・もういいっ!俺は戻るぜ!あ、そうそう。俺は〈紅鎧〉ってトップギルドのギルドマスターやってっから!それじゃまたな!!」
そう言ってショートは去っていった。
「ギルドってなんだろ?」
僕は首をかしげていた
ま、何にせよ、一旦夕飯に行ってこようかな。
食べ終わったらまたやろうっと。
応援ありがとうございます!
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