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Episode1/Raison detre
序章╱星の巡り(.3)
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(.3)
ーーこっちは月が一つだって話、あれって本当だったんだ。
夜7時、他の人間とは異なる髪色ーー緑髪を肩までの長さで揃えている少女は、帰宅するサラリーマンや大学生を横目に、駅前へと向かって歩いていた。とはいっても、彼女は別に電車に用があるわけではない。
ーーそれにしても、本当にみんな黒色ばっかで地味だなぁ……どうして黒一色で統一してるんだろう? 法的義務かな?
大抵の人間が黒髪にしているせいで、彼女は茶髪や金髪のひとを稀にみかけると、つい嬉しくなってしまうらしい。
そうして彼女は『グリーンメンタルクリニック』と書かれた看板の建物へと入った。
「すみません、今日7時30分に予約を入れていた微風瑠奈そよかぜるななんだけど」
彼女ーー瑠奈は、カウンターにいる人に保険証を渡した。
「はい、ではお座りになられてお待ちください。呼ばれるまでの間、問診表にご記入いただけますか」
「わかった」
瑠奈は偽造した保険証を、バレないかヒヤヒヤしながら渡した。案外バレる事はなさそうだと一安心する。
問診表を書きながら、名前欄に本名を書きそうになってあわてて消した。
ーーだれが微風瑠奈だ。わたしの名前はルーナエ・アウラだってば。どうして名前わざわざ変えたんだろ?
頭のなかで突っ込みをいれながら、少女ーー瑠奈はロビーのソファーに腰をかけた。
前髪を少しだけヘアピンで揃え、その上から布製のチューシャを着け飾っている。そんな奇抜な色や髪型なだけでも目立つというのに、瑠奈は容姿にも恵まれていた。
髪はきめ細かく、透きとおるように繊細である。実年齢よりも10歳下に見える幼い顔立ち、140cm半ばという背丈、艶やかで若さを感じさせる張りのある肌。オーバーニーソックスを履いている足は少し痩せ気味で健康的とはいえないかもしれないが、まさに、美少女と呼ぶに相応しい姿。
周りから注目されるのは、ある意味当然であった。
容姿で唯一欠点なのは、貧相を通りすぎて壁にしかみえない胸くらいなものだろう。
あまりにもチラチラ見られ、その理由がわからずに気になって仕方ない瑠奈は、早く呼ばれないかと考えてしまう。
ーーというか、この状態から本当に元に戻るのかな? そもそも精神専門の病院があるだなんてびっくりしたなぁ……。
瑠奈は、ここ数ヶ月の期間、気力が少しずつ無くなっていくという謎の現象に頭を悩ませていた。何をやっても無意味に思えてしまい、何にも手付かずの状態になってしまっている。
そんなある日、何時ものように様子を見にきた友人でありお姫様でもある存在ーーアリーシャが、異世界の住人をーーようするに此方の世界の人間を連れてきたのだった。
話を聞いてみると、なにやら『こっちには精神病院があるから行ってみる?』と言うのである。
最初こそ、異世界にまでわざわざ行きたくはないと考えていた瑠奈だったが、ウィッチクラフトを呼び特製のハーブティーを飲んでも治らないとわかり、もう手立てがなくなってしまう。
それでも異世界に行くとはならず、『治らないなら、もう辛いだけだし死ぬとするかな』と単純に思い付いたのだ。
しかし、アリーシャに別れを告げるタイミングが悪く、半ば無理やり異世界へと追い出されてしまったのである。
たまたまいた舞香と、異世界と現世界を繋ぐ人間ーー朱音あかねに押し付け、『治ったら帰ってきてくださいね』と言いながら、瑠奈の一存をアリーシャは委ねてまった。
『微風さん。微風瑠奈さん、どうぞお入りください』
そうして数分が経過したあと、ようやく瑠奈は診察室へと呼ばれた。
瑠奈は言われたとおり診察室に入る。
「ど、ども」
「こんばんはー」医師は、瑠奈から問診表を受け取る。「さてと、うん、うん。ええっと、それじゃこれに書かれているとおり、やる気が出ない、と」
「はい。なんかもう死のうか迷ってたんだけど、友達から死ぬ前にいけって言われてしまって」
「やる気が出ないだけ? どうしてやる気がでないのかな?」
「うーん、何をやってもつまらないし、なんか生きてるだけで辛いからかな?」
「なるほど、なるほど……それは苦手な事をやるときだけ? それとも、まえから楽しめていたこと、たとえば、自分が好きだったことが楽しめなくなったりしたのかな?」
瑠奈は、首を縦に振る。
「食欲はある? ちゃんと眠れてる? 眠れてない?」
「うん、どっちもないかな。性欲だけならあるんだけど、相手してくれる女の子がいま近場にいないから、欲求不満気味かもしれない」
「なるほど、なるほ……ん?」
「とはいっても、全盛期の私と比べたら10分の1にも満たないかな。今住んでる場所にいる女の子みんなかわいくてわたしの趣味にぴったりだから、普通ならベッドイン目指してチャレンジしてる。けど、今はダメ。だれか無料で相手してくれなきゃ、自分から誘いにいく気力はないや」
何気なしに、衝撃的な言葉を発する瑠奈に対して、医師は驚きながらもプロ根性を見せ平然さを保つ。
「……なるほど。そういえば君、20歳にしては幼く見えるんだけど、本当に二十歳? 気にしてる事だったらごめんね。そういう病気だとかあって、まあ無いと思うけど、診断が変わってくるかもしれないから」
「二十歳になったばっかりダヨ?」
ーーいや、本当は24歳なんだけど、それだと流石にバレかねないって言われちゃった。シガレットを嗜むって言ったら、14歳ではなく20歳にしてくれたけど。
「ふむ、なるほど。うーん、希死念慮・性欲はある……いきなりハイになったりするかな?」
「いえ」
「多分、単極性障害ーーうつ病だと思うんだけど、どれくらい続いてるの?」
「帝国アリシュエール所属アリーシャ護衛隊で精霊操術師(エレメンタルウィザード)として働き始めて6年くらい経ってからかな?」
「……ん?」
「え?」
一瞬だけ会話が止まった。
「あっ、ごめんなさい。6ヶ月くらいまえからですね」
「なるほどなるほど? ……うん、ごめん、ちょっといいかな? えっとね、幻聴とか幻覚とかあるかな? ほら、目に見えないのになにか聞こえるとか」
「精霊は見えなくても声は聞こえちゃうから、色々いってくるけど」
「……ん?」
「え?」
会話が一瞬だけ止まった。
「なるほ……ど……うん。悪口言ってくるのかな? それとも音楽みたいな耳鳴りとか?」
「精霊によるよ、そりゃあ。雄叫びをあげてる精霊もいれば、笑ってる精霊もいるんだし。むしろ、言語を喋る精霊なんて四大属性の大精霊しかいないんじゃないかな?」
「……ん?」
「え?」
会話が一瞬だけ止まった。
「……うん」
「はい」
「……統合失調症の可能性もあるな。とりあえず、軽いお薬からはじめて様子を見ましょうか。悪いんだけど、次回ちょっと心理検査してもらいたいんだけど、いいかな?」
「心理検査? まあ、それで治るんであればするけど」
「多分、単極性障害か統合失調症だと思うんだけど、気になる点がいくつかあるから、申し訳ないけどお願いします。とりあえず、毎日飲む薬として、気分を調整するお薬と、軽めの睡眠薬出しときますから、眠れなかったら飲んで寝てください」
「はい、とりあえずわかりまし……たでいいのかな?」
瑠奈は悩みながらも診察室を出るのであった。
ーーこっちは月が一つだって話、あれって本当だったんだ。
夜7時、他の人間とは異なる髪色ーー緑髪を肩までの長さで揃えている少女は、帰宅するサラリーマンや大学生を横目に、駅前へと向かって歩いていた。とはいっても、彼女は別に電車に用があるわけではない。
ーーそれにしても、本当にみんな黒色ばっかで地味だなぁ……どうして黒一色で統一してるんだろう? 法的義務かな?
大抵の人間が黒髪にしているせいで、彼女は茶髪や金髪のひとを稀にみかけると、つい嬉しくなってしまうらしい。
そうして彼女は『グリーンメンタルクリニック』と書かれた看板の建物へと入った。
「すみません、今日7時30分に予約を入れていた微風瑠奈そよかぜるななんだけど」
彼女ーー瑠奈は、カウンターにいる人に保険証を渡した。
「はい、ではお座りになられてお待ちください。呼ばれるまでの間、問診表にご記入いただけますか」
「わかった」
瑠奈は偽造した保険証を、バレないかヒヤヒヤしながら渡した。案外バレる事はなさそうだと一安心する。
問診表を書きながら、名前欄に本名を書きそうになってあわてて消した。
ーーだれが微風瑠奈だ。わたしの名前はルーナエ・アウラだってば。どうして名前わざわざ変えたんだろ?
頭のなかで突っ込みをいれながら、少女ーー瑠奈はロビーのソファーに腰をかけた。
前髪を少しだけヘアピンで揃え、その上から布製のチューシャを着け飾っている。そんな奇抜な色や髪型なだけでも目立つというのに、瑠奈は容姿にも恵まれていた。
髪はきめ細かく、透きとおるように繊細である。実年齢よりも10歳下に見える幼い顔立ち、140cm半ばという背丈、艶やかで若さを感じさせる張りのある肌。オーバーニーソックスを履いている足は少し痩せ気味で健康的とはいえないかもしれないが、まさに、美少女と呼ぶに相応しい姿。
周りから注目されるのは、ある意味当然であった。
容姿で唯一欠点なのは、貧相を通りすぎて壁にしかみえない胸くらいなものだろう。
あまりにもチラチラ見られ、その理由がわからずに気になって仕方ない瑠奈は、早く呼ばれないかと考えてしまう。
ーーというか、この状態から本当に元に戻るのかな? そもそも精神専門の病院があるだなんてびっくりしたなぁ……。
瑠奈は、ここ数ヶ月の期間、気力が少しずつ無くなっていくという謎の現象に頭を悩ませていた。何をやっても無意味に思えてしまい、何にも手付かずの状態になってしまっている。
そんなある日、何時ものように様子を見にきた友人でありお姫様でもある存在ーーアリーシャが、異世界の住人をーーようするに此方の世界の人間を連れてきたのだった。
話を聞いてみると、なにやら『こっちには精神病院があるから行ってみる?』と言うのである。
最初こそ、異世界にまでわざわざ行きたくはないと考えていた瑠奈だったが、ウィッチクラフトを呼び特製のハーブティーを飲んでも治らないとわかり、もう手立てがなくなってしまう。
それでも異世界に行くとはならず、『治らないなら、もう辛いだけだし死ぬとするかな』と単純に思い付いたのだ。
しかし、アリーシャに別れを告げるタイミングが悪く、半ば無理やり異世界へと追い出されてしまったのである。
たまたまいた舞香と、異世界と現世界を繋ぐ人間ーー朱音あかねに押し付け、『治ったら帰ってきてくださいね』と言いながら、瑠奈の一存をアリーシャは委ねてまった。
『微風さん。微風瑠奈さん、どうぞお入りください』
そうして数分が経過したあと、ようやく瑠奈は診察室へと呼ばれた。
瑠奈は言われたとおり診察室に入る。
「ど、ども」
「こんばんはー」医師は、瑠奈から問診表を受け取る。「さてと、うん、うん。ええっと、それじゃこれに書かれているとおり、やる気が出ない、と」
「はい。なんかもう死のうか迷ってたんだけど、友達から死ぬ前にいけって言われてしまって」
「やる気が出ないだけ? どうしてやる気がでないのかな?」
「うーん、何をやってもつまらないし、なんか生きてるだけで辛いからかな?」
「なるほど、なるほど……それは苦手な事をやるときだけ? それとも、まえから楽しめていたこと、たとえば、自分が好きだったことが楽しめなくなったりしたのかな?」
瑠奈は、首を縦に振る。
「食欲はある? ちゃんと眠れてる? 眠れてない?」
「うん、どっちもないかな。性欲だけならあるんだけど、相手してくれる女の子がいま近場にいないから、欲求不満気味かもしれない」
「なるほど、なるほ……ん?」
「とはいっても、全盛期の私と比べたら10分の1にも満たないかな。今住んでる場所にいる女の子みんなかわいくてわたしの趣味にぴったりだから、普通ならベッドイン目指してチャレンジしてる。けど、今はダメ。だれか無料で相手してくれなきゃ、自分から誘いにいく気力はないや」
何気なしに、衝撃的な言葉を発する瑠奈に対して、医師は驚きながらもプロ根性を見せ平然さを保つ。
「……なるほど。そういえば君、20歳にしては幼く見えるんだけど、本当に二十歳? 気にしてる事だったらごめんね。そういう病気だとかあって、まあ無いと思うけど、診断が変わってくるかもしれないから」
「二十歳になったばっかりダヨ?」
ーーいや、本当は24歳なんだけど、それだと流石にバレかねないって言われちゃった。シガレットを嗜むって言ったら、14歳ではなく20歳にしてくれたけど。
「ふむ、なるほど。うーん、希死念慮・性欲はある……いきなりハイになったりするかな?」
「いえ」
「多分、単極性障害ーーうつ病だと思うんだけど、どれくらい続いてるの?」
「帝国アリシュエール所属アリーシャ護衛隊で精霊操術師(エレメンタルウィザード)として働き始めて6年くらい経ってからかな?」
「……ん?」
「え?」
一瞬だけ会話が止まった。
「あっ、ごめんなさい。6ヶ月くらいまえからですね」
「なるほどなるほど? ……うん、ごめん、ちょっといいかな? えっとね、幻聴とか幻覚とかあるかな? ほら、目に見えないのになにか聞こえるとか」
「精霊は見えなくても声は聞こえちゃうから、色々いってくるけど」
「……ん?」
「え?」
会話が一瞬だけ止まった。
「なるほ……ど……うん。悪口言ってくるのかな? それとも音楽みたいな耳鳴りとか?」
「精霊によるよ、そりゃあ。雄叫びをあげてる精霊もいれば、笑ってる精霊もいるんだし。むしろ、言語を喋る精霊なんて四大属性の大精霊しかいないんじゃないかな?」
「……ん?」
「え?」
会話が一瞬だけ止まった。
「……うん」
「はい」
「……統合失調症の可能性もあるな。とりあえず、軽いお薬からはじめて様子を見ましょうか。悪いんだけど、次回ちょっと心理検査してもらいたいんだけど、いいかな?」
「心理検査? まあ、それで治るんであればするけど」
「多分、単極性障害か統合失調症だと思うんだけど、気になる点がいくつかあるから、申し訳ないけどお願いします。とりあえず、毎日飲む薬として、気分を調整するお薬と、軽めの睡眠薬出しときますから、眠れなかったら飲んで寝てください」
「はい、とりあえずわかりまし……たでいいのかな?」
瑠奈は悩みながらも診察室を出るのであった。
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