68 / 107
2章
25
しおりを挟む
「アイツがもうすぐここに来るねぇ。思ってたより早いなぁ…」
窓の外を眺めながらどこか楽しげにそう言った。
ケイは疲れたのでベッドでだらけている。
窓辺にいる魔王をただ観察するだけ。
「ボクねぇ、アイツがここに来た時1番嫌がるのって何かなーってずっと考えてたんだぁ」
返事など求めていないように言葉を紡ぐ。
アイツとは誰のことなのか、ケイにはわからない。
正直誰でもいいような、どうでもいいような気がしている。
「ケイくんを消しちゃうとボクがつまんないし…」
またまた不穏な言葉が聞こえたがケイは気にしない。
実害がなければそれでよし。
魔王はそこまで言うと寝そべるケイにゆっくりと近づく。
ケイはただそれを見ているだけ。
「それでね、考えたんだけどぉ…雰囲気って大事だよねぇ」
ケイを覆い隠すように上に被さる。
それからなんの躊躇いもなく顔を近づける。
「な、なに、するつもり…?」
「んーふふ、なぁんだろうねぇ?」
近づいて来た顔を両手で止めるケイ。
これ以上近づかれるのはさすがにちょっと。
そんなケイの様子を見て、くすくす笑いながら邪魔なその手を舐める。
だって大事なのは雰囲気だから。
「っ…ゃ、やだ……」
舐められてびくりと震える。
ああ、またそういうことをされるのか。
なんだか異世界に来てからはついてない。
まあいいかと受け入れる気は当然なく。
そればかりか思い浮かぶのはあの人で。
「ヴィーじゃなきゃ、やだ…」
溢れる本音。
だってそうだ。
初めての人で、料理上手で、世話焼きで。
それって兄さんにそっくりじゃないか。
「ねぇ、ケイくん。ヴィーってだぁれ?」
「え…」
彼の瞳が見開かれている。
けれどその口元は不気味に笑っていて。
その表情から、狂気を感じた。
「駄目だよケイくん。ボクがキミを1番に思ってるんだからキミもそうじゃなきゃ」
するすると首を撫でられる。
まるで金縛りにあったかのように指の1本さえ動かせなかった。
「ねぇ、ボクの言ってることわかる?わかるよね?だってケイくんはいい子だもんね?それとも“兄さん”の言うことも聞けないような悪い子なのかな?」
「ち、ちが、ぁ…っ」
ゆるゆると首を撫でていた手に力が込められる。
首を絞められる恐怖よりも兄さんに悪い子だと思われる恐怖が勝る。
嫌われたら生きていけない。
嫌だ、悪い子にはなりたくない。
「ボクがそいつを殺してもケイくんには関係ないよね?笑っていてくれるよね?だってボクはキミの“兄さん”なんだから」
兄さんが望むのならそうしなくてはいけない。
兄さんに勝るものなど何もないはずなのだから。
「そいつのこと好き?嫌いだよね?嫌いって言えよ。ケイくんはいい子だからちゃんと言うこと、聞けるでしょ?」
「ぁ…」
いい子だから、いい子にしていないと。
ちゃんと、言うことを聞かなきゃ嫌われてしまう。
嫌だ、やだ。
嫌わないで。
捨てないで。
混乱した思考のまま、まるで眠るように暗闇に落ちていった。
「ねぇ、喋れないの?ああ…もう寝ちゃったのかぁ。ケイくんは仕方ないなぁ」
慈しむような視線を向け、手を離す。
その表情は先程と同じ人物とはとても思えない。
「家族なんだから、大切に守ってあげないとねぇ」
窓の外を眺めながらどこか楽しげにそう言った。
ケイは疲れたのでベッドでだらけている。
窓辺にいる魔王をただ観察するだけ。
「ボクねぇ、アイツがここに来た時1番嫌がるのって何かなーってずっと考えてたんだぁ」
返事など求めていないように言葉を紡ぐ。
アイツとは誰のことなのか、ケイにはわからない。
正直誰でもいいような、どうでもいいような気がしている。
「ケイくんを消しちゃうとボクがつまんないし…」
またまた不穏な言葉が聞こえたがケイは気にしない。
実害がなければそれでよし。
魔王はそこまで言うと寝そべるケイにゆっくりと近づく。
ケイはただそれを見ているだけ。
「それでね、考えたんだけどぉ…雰囲気って大事だよねぇ」
ケイを覆い隠すように上に被さる。
それからなんの躊躇いもなく顔を近づける。
「な、なに、するつもり…?」
「んーふふ、なぁんだろうねぇ?」
近づいて来た顔を両手で止めるケイ。
これ以上近づかれるのはさすがにちょっと。
そんなケイの様子を見て、くすくす笑いながら邪魔なその手を舐める。
だって大事なのは雰囲気だから。
「っ…ゃ、やだ……」
舐められてびくりと震える。
ああ、またそういうことをされるのか。
なんだか異世界に来てからはついてない。
まあいいかと受け入れる気は当然なく。
そればかりか思い浮かぶのはあの人で。
「ヴィーじゃなきゃ、やだ…」
溢れる本音。
だってそうだ。
初めての人で、料理上手で、世話焼きで。
それって兄さんにそっくりじゃないか。
「ねぇ、ケイくん。ヴィーってだぁれ?」
「え…」
彼の瞳が見開かれている。
けれどその口元は不気味に笑っていて。
その表情から、狂気を感じた。
「駄目だよケイくん。ボクがキミを1番に思ってるんだからキミもそうじゃなきゃ」
するすると首を撫でられる。
まるで金縛りにあったかのように指の1本さえ動かせなかった。
「ねぇ、ボクの言ってることわかる?わかるよね?だってケイくんはいい子だもんね?それとも“兄さん”の言うことも聞けないような悪い子なのかな?」
「ち、ちが、ぁ…っ」
ゆるゆると首を撫でていた手に力が込められる。
首を絞められる恐怖よりも兄さんに悪い子だと思われる恐怖が勝る。
嫌われたら生きていけない。
嫌だ、悪い子にはなりたくない。
「ボクがそいつを殺してもケイくんには関係ないよね?笑っていてくれるよね?だってボクはキミの“兄さん”なんだから」
兄さんが望むのならそうしなくてはいけない。
兄さんに勝るものなど何もないはずなのだから。
「そいつのこと好き?嫌いだよね?嫌いって言えよ。ケイくんはいい子だからちゃんと言うこと、聞けるでしょ?」
「ぁ…」
いい子だから、いい子にしていないと。
ちゃんと、言うことを聞かなきゃ嫌われてしまう。
嫌だ、やだ。
嫌わないで。
捨てないで。
混乱した思考のまま、まるで眠るように暗闇に落ちていった。
「ねぇ、喋れないの?ああ…もう寝ちゃったのかぁ。ケイくんは仕方ないなぁ」
慈しむような視線を向け、手を離す。
その表情は先程と同じ人物とはとても思えない。
「家族なんだから、大切に守ってあげないとねぇ」
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
674
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる