ありふれたしがない話

波場ネロ

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黒髪ロングの元人間

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「360円になります。ちょうどお預かりします。ありがとうございました。」

 俺は自宅の近くにあるコンビニで深夜にバイトをしている。この時間帯だと人がほとんど来なく、店内では俺一人がレジに突っ立っている。しかし今日は妙に騒がしい。騒がしいと言っても、人が多いからでは無い。黒髪ロングにすらっとした体型の制服を着た女が1人で騒いでいるからだ。

 「私はここにいるぞぉぉ!私はそんざいしているぞぉぉ!」

 やばいやつだ。とりあえず目は合わせないようにしよう。

 「はぁ、さすがに夜中じゃ人いないかぁ。おや?そこにいるのは店員さんかい?」

 うわぁ、なんかこっち来たんだけど。俺はいない。存在しない。

 「ふぅん。アルバイトねぇ。じゃあ、バイト君!私が見えるかい!見えるなら拍手!見えなくても拍手!」

 俺の名札を見て勢いよく訳の分からん事を言ってきた。これは反応すると面倒事になりそうだ。

 「……」

 「はぁ、やっぱだめかぁ。誰かいないかなぁ、私のことが見える人。」

 そう言って、女がレジから離れて外へ出ようとした時、女のポケットからハンカチが落ちた。
 俺は無意識に行動していた。

 「あのー、落としましたよ。ハンカチ。」

 「あぁ、ありがとう。それじゃ。」

 そう言って女は外へ消えていった。
 頭のおかしい人でも感謝は言えるんだなぁ。そう思い、レジへ戻った。              
約1分後。

 「ぉぃぉぃぉぃおい!バイト君!私が見えるの!」

 女がそう言って猛スピードでレジへ戻ってきた。

 「まぁ、見えますけど。なんなんですか?あんた。」

 今更無視してもねぇ。とりあえず、聞いてみた。

 「本当に見えるんだね!あはははは!うれしぃ事言ってくれるねー君ー。」

 「は、はぁ。」

 「私が何者かねぇ。実際のところ私にもよく分からない。」

 なんだそれ。

 「私が知り得る範囲でいうと……幽霊、オバケ、ゴーストみたいな?」

 「SFチックな人なんですね。」

 テキトーにそう返した。

 「そうなのよねぇ。ねぇ、知りたいでしょ!なんで私が幽霊になったか!」

 「知りたいっすねー。簡潔にー。」

 まぁ、こいつ以外に誰もいないし、聞いてやるか。

 「今日ねぇ、無性にメロンパンが食べたくてねぇ、学校帰りにパン屋に行こうとしたんすよー。そしたらねー、道半ばで車が突っ込んできてねぇ、そっから記憶がないのよねー人の時の。」

 にわかに信じ難い話だが、嘘をついているようにも見えない。マジなトーンで淡々と話すからか?

 「それでねー。気づいたら私が車に潰されている光景を私が見てんの。さすがの私でもビビったよ。でも妙に頭の中はスッキリしていてさ。すぐに、あっ、死んだんだ、私。ってなった。それで、死んだ私が運ばれていくのを見ながら、とりあえずパン屋に向かったんだけど、店員さんに話しかけても反応しなくてねぇ、そこでようやく私の事見えてないんだ。って気づいたわけ。どう思う?」

 どう思う?じゃないだろ。信じられるか。仮に信じられたとしてどう思えばいいんだ?

 「えーっと、とりあえず病院行きましょうか。頭の。」

 「ははーん。信じてないね、バイト君。いいだろう、ケータイある?あったら調べてみて、A市 高校生 死亡 的な感じで。」

 まぁ、何となくわかる。そういう時期なのだろう。否定はしないよ。
 そう思い、スマホを取りだし言われたとおり調べた。

 「たしかに、A市で今日16時45分に高校生が車に押し潰され死亡したという記事がありますね。」

 「だろだろー。信じてくれた?」 

 「少しだけ信じました。でも、このニュースを知っていればなりすましだってこともあるのでは?」 

 「ひどいねぇ。そんな縁起の悪いことはしないよ。そうだなぁ。それじゃあ手、出して。」

 言われるがままに俺は手を出した。そうすると、女は手を握ってきた。 

 「冷たっ!っていうか熱っ!」

 「あれ?本当だったらバイト君の手をすり抜けるはずだったんだけど。」

 なるほど、つまりこういうことか。

 「あなたの事を認識できない人は触れてもすり抜けるだけ、しかし俺はあなたを認識できているから今のように狂気じみた低温度で私に触れることができる、ということですね。」

 今知り得た情報でとりあえず結論を出してみる。

 「そういうことだね!どう?信じてくれた?」

 認めたくはなかったがしょうがない。

 「手が冷たい人はいると思いますが、さすがにドライアイスみたいな冷たい人は聞いたことがないので、まあ、信じますよ。」

 「よっしゃ。」

 女が嬉しそうに握り拳を作っている時、コンビニのドアが開いた。

 「杏也きょうやー、交代ー。」

 入ってきたのは、店員の佐々木さんだった。俺のシフトが終わり、次の佐々木さんのシフトが始まった。

 「へぇー、杏也君って言うんだー。まぁ、バイト君でいいか。」

 なんでだよ。とりあえず家に帰る前にひとつ試してみるか。

 「佐々木さん、今、俺と佐々木さん2人だけですよね。」

 「おう。そうだけど……なに?恋バナでもしたいの?しょうがねーな!俺の自慢の彼女との馴れ初めでも話しちゃおっかなー!」

 「それじゃ、お疲れ様でしたー。」

 そう言って俺はコンビニを出た。

 「なんだよー。聞きたくなかったのか?馴れ初め。」

  女もコンビニから出てきてそう言った。

 「違う、いや違くないけど。確認したかったんだよ、俺以外に本当に見えないか。」

  「なるほど、あの様子じゃ私のことは見えていなかったようだね。」

 うん。そうなんだよ。つまり、こいつは本当に幽霊だった。本当だったら驚くべきなんだろうけどなんかもういいや。

 「それじゃあ、気をつけて帰れよ。」

 「うん!バイト君もねー。じゃないよ!私は死んでんの!帰る場所なんてあるかい!」

  確かにそうだ。

 「じゃあ、どうすんの?ふらふら夜道でも歩いてる?俺は帰るけど。」

 「か弱い女子を1人にさせる気ぃ?バイト君、男だよね?」

 いやー、幽霊に言われてもなー。

 「そんなこと言われても、明日も俺学校だし、寝ないといけないんだが。」

 俺がそう言うと、女はしばらく黙ってから口を開いた。

 「分かった。バイト君の家に居候させてもらおう。どう?名案じゃない?」

 何言ってんのこの幽霊。

 「いやー、それはさすがにまずいでしょ。こう見えても男よ。私。男子高校生の家にズカズカと見ず知らずの女性を入れる訳にはー」

 「いや、私死んでるし。あと、そういうのは気にしないよ。バイト君、安全そうだし。私の目に間違いないし。」

 いい加減な目だな。

 「バイト君以外の家族にもどうせ見られないんだからさぁ(もしかしたら見られるかもそしたらどうしよ)、ね、頼みますよぉ。誰にも認識されない事がこんなにも辛いとは思わなくて、これがずーっと続くんだーと思うと気味が悪くてさ。どーしよーと思っていた時、バイト君が私を見つけてくれてさ。まじで嬉しかったんだー………だからお願い!孤独死は無理!もう死んでるけど……」

 そんなこと言われたら断るにも断れないじゃないか。まったく……

 「はぁ、家族の心配はいらないよ。俺は一人暮らしだからね。まぁ、君がいいならいいよ。家に来ても。居心地悪かったら勝手に出てっても構わないよ。」

 「ホントに!さすがバイト君、ありがとう!相手の同情に漬け込む作戦成功!」

 最後のはいらんだろ。とりあえず、これからは色々と気を使いそうだな。たとえ相手が幽霊だとしても。

 「はいはい。わかりました。行きますよー。」

 「これからよろしくー!」

 俺は、幽霊だかオバケだかゴーストだか、まぁ、どちらにしろ奇妙な奴と帰路についた。
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