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第7章
4.
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「うわぁあ!」
「なんだこれっ、地面が……っ!」
「脚が、うご、かっ……!」
地面がぐらりと浮き上がり、地割れが走る。腹の底から震えるよな地響きが一度響き、周辺一帯の地面が凄まじい音を立てて持ち上がった。そこから湧き出すように、無数の土の柱が男たちの身体を絡め取り、蛇のようにうねりながら高く持ち上げて、止まる。
出来るだけ穏便にって言ったのに!! と思いながらシェラは周囲を見渡す。石と土が唸りを上げ、路地だけが生き物のように蠢いていた。激しい土埃と衝撃が走り、男たちから解放されたシェラは身体を小さく縮めて目をつむる。
もう誰が来たかなんてわかりすぎるくらいわかっていた。
正直、周囲がどうなってるか、目を開くのが怖い。轟音がおさまり、シェラはおそるおそる目を開けた。
目の前に、街灯くらいの高さの土の柱が二本建っており、男たちがその柱の中に顔だけを出して絡め取られている。死―――!!??と思ったけれど、どうやら気絶しているようだった。だって白目向いてる口元があわ吹いてるけどひくひくしてるから。
ほうっと息を吐いた、その時だった。
「シェルヴェリラ」
背後からふわりとやわらかな布が自分を包む。光を織り込んだような柔らかな素材。
見上げればそこにはテラリアが立っていた。きらめく亜麻色の長い髪を一つに束ねた長身の男。黒を基調とした長い裾を引きずるような幾重にも重なる着物はどこか異国じみた雰囲気がある。精霊然した少しとがった耳の傍の髪を左右に編み込み後ろで一つに束ねているその姿はどこかの大魔術師のよう。その切れ長な琥珀の瞳が真っ直ぐにシェラを捉え、そしてにこりと微笑む。
四大精霊――地のテラリアだった。
「ええっと……」
「シェルヴェリラ、衣服が破れている。それに血が。この者たちはなぜ、お前の衣服を剥いで胸をまろびさせているのだ。追剥か?」
「う、うん……ええと、まぁ、そんな感じ……です……」
「そうか。ならば処そう」
「待って!!!」
「うめるか、つぶすか、それともくだくか?」
潰すと砕くはどう違うの……でもそんなこと聞きたくない……と思いながら、シェラはテラリアにかぶせてもらった布を胸元で握りしめながらぶんぶんと首を振った。
低く、落ち着いた声。古風な話口調。そしてすぐ処そうとする。久しぶりだから少しは”成長”してるかと、思ったけど、テラ様全然変わってない!
「ええっと、テラ様。あのね、人間はあんまり簡単には処さないの。前にも言ったよね?」
「よくわからぬ、追剥は悪だ。処さねば」
「服破られただけだから、ね? ほら、処したらちゃんと裁けないでしょ? ええとちゃんと突き出すところに生きたまま突き出さないといけなくて」
「そうなのか? 人の世はむずかしいな」
こてんと首をかしげる仕草は、長身で切れ長な瞳に高い鼻、形のいい顎、立派な成人男性を言っていいその外見とひどく不釣り合いだ。姿かたちは精霊たちのなかでも一番精霊然しているというのに、やっぱりテラ様はどこか可愛いな、とシェラは思う。
地という膨大な”場”をつかさどっているテラリアは、基本的に寝ていることが多い。そのため他の精霊たちと比べても情緒がどこか幼いのだ。穏やかで、素直で、人間でいうと純粋無垢な子供に近いのかもしれない。
しかし――とても精霊然している彼は、人間に対してとても残酷だ。
「だが我は、契約者たるシェルヴェリラを傷つけられて怒っている。我は処したい」
「わ、わたしは大丈夫! だから、ね? ほら、テラ様! 助けてくれてありがとう!」
「我は怒っている」
「テラ様、落ち着いて!」
まったく悪びれもせず真顔で返してくるその姿は、神聖さとズレた感覚を併せ持つ精霊そのものだった。テラリアの怒りと呼応しているのか、ぎちり、と音を立てて土の拘束が強まり、意識を取り戻した男たちの悲鳴が響く。
「……ええと! ね、待って、テラ様! えっとこの人たちも悪気はなくて、いや、えーっと、悪気はあったけど、その、処するほどじゃないっていうか」
「悪いではないか」
「そ、そう、それはそうだけど、わたしの服がこうなっただけだし……っ!?」
どうやってなだめよう……と思った矢先だった。
胸が、急に苦しくなった。
(!! これ、紋章、の……っ)
胸元が熱くなり、身体全体が火照ってくる。
ドクン、ドクンと激しく心臓が動き、呼吸ができなくて首元を抑えた。浅く、はぁ、はぁと喘ぐようにしてなんとか息を吸う。けれど身体の中の衝動は激しくなるばかりだ。
苦しくて、立っていられない。地面に身体が沈みそうになったその瞬間、誰かの腕が抱き留めてくれる。すぅっとした、香のようなにおいだ。どこか懐かしいその香りに抱かれ、シェラは意識を失った。
「なんだこれっ、地面が……っ!」
「脚が、うご、かっ……!」
地面がぐらりと浮き上がり、地割れが走る。腹の底から震えるよな地響きが一度響き、周辺一帯の地面が凄まじい音を立てて持ち上がった。そこから湧き出すように、無数の土の柱が男たちの身体を絡め取り、蛇のようにうねりながら高く持ち上げて、止まる。
出来るだけ穏便にって言ったのに!! と思いながらシェラは周囲を見渡す。石と土が唸りを上げ、路地だけが生き物のように蠢いていた。激しい土埃と衝撃が走り、男たちから解放されたシェラは身体を小さく縮めて目をつむる。
もう誰が来たかなんてわかりすぎるくらいわかっていた。
正直、周囲がどうなってるか、目を開くのが怖い。轟音がおさまり、シェラはおそるおそる目を開けた。
目の前に、街灯くらいの高さの土の柱が二本建っており、男たちがその柱の中に顔だけを出して絡め取られている。死―――!!??と思ったけれど、どうやら気絶しているようだった。だって白目向いてる口元があわ吹いてるけどひくひくしてるから。
ほうっと息を吐いた、その時だった。
「シェルヴェリラ」
背後からふわりとやわらかな布が自分を包む。光を織り込んだような柔らかな素材。
見上げればそこにはテラリアが立っていた。きらめく亜麻色の長い髪を一つに束ねた長身の男。黒を基調とした長い裾を引きずるような幾重にも重なる着物はどこか異国じみた雰囲気がある。精霊然した少しとがった耳の傍の髪を左右に編み込み後ろで一つに束ねているその姿はどこかの大魔術師のよう。その切れ長な琥珀の瞳が真っ直ぐにシェラを捉え、そしてにこりと微笑む。
四大精霊――地のテラリアだった。
「ええっと……」
「シェルヴェリラ、衣服が破れている。それに血が。この者たちはなぜ、お前の衣服を剥いで胸をまろびさせているのだ。追剥か?」
「う、うん……ええと、まぁ、そんな感じ……です……」
「そうか。ならば処そう」
「待って!!!」
「うめるか、つぶすか、それともくだくか?」
潰すと砕くはどう違うの……でもそんなこと聞きたくない……と思いながら、シェラはテラリアにかぶせてもらった布を胸元で握りしめながらぶんぶんと首を振った。
低く、落ち着いた声。古風な話口調。そしてすぐ処そうとする。久しぶりだから少しは”成長”してるかと、思ったけど、テラ様全然変わってない!
「ええっと、テラ様。あのね、人間はあんまり簡単には処さないの。前にも言ったよね?」
「よくわからぬ、追剥は悪だ。処さねば」
「服破られただけだから、ね? ほら、処したらちゃんと裁けないでしょ? ええとちゃんと突き出すところに生きたまま突き出さないといけなくて」
「そうなのか? 人の世はむずかしいな」
こてんと首をかしげる仕草は、長身で切れ長な瞳に高い鼻、形のいい顎、立派な成人男性を言っていいその外見とひどく不釣り合いだ。姿かたちは精霊たちのなかでも一番精霊然しているというのに、やっぱりテラ様はどこか可愛いな、とシェラは思う。
地という膨大な”場”をつかさどっているテラリアは、基本的に寝ていることが多い。そのため他の精霊たちと比べても情緒がどこか幼いのだ。穏やかで、素直で、人間でいうと純粋無垢な子供に近いのかもしれない。
しかし――とても精霊然している彼は、人間に対してとても残酷だ。
「だが我は、契約者たるシェルヴェリラを傷つけられて怒っている。我は処したい」
「わ、わたしは大丈夫! だから、ね? ほら、テラ様! 助けてくれてありがとう!」
「我は怒っている」
「テラ様、落ち着いて!」
まったく悪びれもせず真顔で返してくるその姿は、神聖さとズレた感覚を併せ持つ精霊そのものだった。テラリアの怒りと呼応しているのか、ぎちり、と音を立てて土の拘束が強まり、意識を取り戻した男たちの悲鳴が響く。
「……ええと! ね、待って、テラ様! えっとこの人たちも悪気はなくて、いや、えーっと、悪気はあったけど、その、処するほどじゃないっていうか」
「悪いではないか」
「そ、そう、それはそうだけど、わたしの服がこうなっただけだし……っ!?」
どうやってなだめよう……と思った矢先だった。
胸が、急に苦しくなった。
(!! これ、紋章、の……っ)
胸元が熱くなり、身体全体が火照ってくる。
ドクン、ドクンと激しく心臓が動き、呼吸ができなくて首元を抑えた。浅く、はぁ、はぁと喘ぐようにしてなんとか息を吸う。けれど身体の中の衝動は激しくなるばかりだ。
苦しくて、立っていられない。地面に身体が沈みそうになったその瞬間、誰かの腕が抱き留めてくれる。すぅっとした、香のようなにおいだ。どこか懐かしいその香りに抱かれ、シェラは意識を失った。
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