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エピローグ/後日談
19. 時を越えて(3)
しおりを挟む簡単に湯浴みを済ませ、シアはルーとノルンの手によって自室の寝台に寝かせられていた。
夫婦の寝台が広すぎるだけで、この部屋のベッドもそれなりに広い。どこかぽつんとして、それだけで物悲しい気持ちになってしまい、シアはますます落ち込んだ雰囲気を隠せずにいた。
「ごめんなさい、ふたりとも。手間をかけてしまって」
信頼のおけるこのふたりになら、相談してもいいかもしれない。
そうは思ったけれど、シアの口は固まってしまっていた。
いざ話そうとすると、口が止まってしまうのだ。
エルと昔、お付き合いしていたらしい女性のお手紙を見つけたの。
そんなことをいって「ああ、その方と坊ちゃんは心から愛し合っておられたのですが、シア様との結婚が決まって泣く泣くお別れに……」なんて言われてしまったら。
(立ち直れる気がしないわ……)
シアは自分自身の妄想でますます気持ちを落ち込ませていく。
寝台の上で一人、ああでもない、こうでもない、と百面相を繰り返すシアを見て、ノルンとルーは顔を見合わせて微笑んだ。
「奥様。僭越ですが、なにかありましたね? 坊ちゃん関係のことでしょうか?」
「もしかして、何かを見つけてしまったり?」
二人から静かに放たれた問いに、シアはぴくりとまぶたを揺らした。
「! ど、どどど、どうして、わかるの?」
しんとした室内に動揺に震える自分の声が響いて、シアは思わず口元を手で押さえて目を見開く。
すぐさま隣にいたルーが、くすりと口元だけで微笑んで首を振った。
「女の勘です。男どもには、こういうのは分からないのでしょうね」
「男どもって……そんな言い方」
ルーの言葉にシアは食堂での三人を思い浮かべる。
ヴィッセル、バルクホルン、そしてエルナド。
確かに、夫を筆頭に、優しいが女性心には疎そうな三人である。
バルクホルンについては、わかっていてあのノリだったかもしれないけれど。
ふたりになら、と改めて思う。
シアは意を決して、枕元に持ち込んだ本の間から、ひらりと例の紙を取り出した。
「あの、あのね。この紙が、書庫の本に挟まっていたの。知らない筆跡で……その、エルのこと愛している、って……書いてあって。その……わたし、エルの以前の恋人さんのこと、聞いたことがないわ、と思ってしまって」
どこか歯切れの悪い言い方をしながら、シアはそれを差し出した。
事故とはいえ、ヒトの恋文を勝手に見てしまったという罪悪感が再び募る。
ノルンが受け取り、ふたりが紙に視線を落とした直後――不意に、くすくすと笑い声がこぼれた。
シアが、不安と困惑に目を丸くする。
ふたりとも、笑っている……? ルーは口元だけだけれど。
「え……? な、なに……? どうしたの、ふたりとも?」
笑う、という反応は想定外だった。
哀れみでも慰めでもなく、笑み。
それもどこか懐かしむような、優しい笑みだった。
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