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エピローグ/後日談
20. 時を越えて(4)
しおりを挟む「シア様」
ノルンが、微笑を浮かべたまま言った。
ルーは相変わらず無表情だがどこか楽しそうだ。
「二人とも、どうしたの?
「原因はよくわかりましたわ。それで、何がご不安なのですか?」
ノルンに単刀直入に聞かれ、シアは口籠る。
「ええと……たくさんある、けれど。その、この文を書かれた方がどんな方だったのか、だとか、エルはわたしと結婚する前に、当主様だもの、沢山お付き合いされていたのかな、だとか。あとはその……本当は愛し合う方がいたのに、わたしと無理に結婚させられたのでは、とか……そういう、事よ」
言葉にすると余計に自分の心の狭さが目立つ気がしてさらに恥ずかしくなる。
「本当は、ちょっと前から……気になってはいたの。でもこんなこと、聞くのもいやな女じゃない? エルの愛情を疑っているわけではないの。でも――エルは大人だから、うまく隠せたりもできるでしょう?」
シアの言葉にノルンとルーは顔を見合わせる。
そして今度はルーが静かに口を開いた。
「たしかに坊ちゃんは、過去に何人かの女性とお付き合いされていました。ただ……お傍にいても、まったく楽しそうではございませんでしたね」
ノルンが続けるように頷く。
「ええ。どなたも“当主の妻にふさわしい”という理由で周囲に薦められた方々ばかりでしたから。坊ちゃんのほうは、淡々と義務を果たしておられただけでした。ご自身の発明した魔道具を見る目つきの方が、まだお優しいくらいで……。熱を上げておられる方もいらっしゃいましたが、周囲への義理返し程度にお付き合いされていただけです」
「そ、そんな……? でも――」
「坊っちゃんが愛しておられるのは、生涯、間違いなくシア様だけですよ。使用人一同、これだけは自信をもって言えますわ」
静かに、しっかりとノルンが言い切った。
その言葉に、シアの瞳が大きく揺れる。
嬉しい。信じたい。でも……。
「じゃあ、この紙は……?」
まだ不安の残る問いかけに、ルーはくすりと笑いながら、意味深な目線でノルンと視線を交わす。
「それはまあ、別件ですね。今は……内緒です」
「え?」
シアのきょとんとした顔に、ノルンがにこやかに答える。
「この紙については、坊ちゃんからしっかりと説明してもらいましょう。諸々の話も、きちんとお話してもらった方がいいと思いますし」
「え……えっ、ええぇっ!?」
「呼んでまいります」
すっと一礼し、扉へと向かうノルン。
その背を、シアの声が、か細く追いかける。
「ちょ、ちょっと待って、ノルン! まだ心の準備が――」
だがノルンはさっさと扉の向こうに姿を消してしまった。
あとに残されたシアは、掛け布団をぎゅっと握りしめてぶわっと頬を染めた。
そしてその頬がぷくりと膨らむ。
「ルー!」
「なんですか」
「ひどいわ! ノルンとルーは味方だと思ったからお話したのに、エルを呼ぶだなんて!」
「わたしたちより、坊ちゃんに直接聞いた方がすっきりするでしょう?」
「それは、そうかもしれないけれど……でも」
それでもこんな展開になるなんて思わなかったわ、とシアは思う。
ノルンとルーの、どこか楽しげな、揶揄うような態度も気に食わない。
「でも?」
「……他の女性の話をエルの口から聞きたくないの。お名前だけでも嫌だわ」
「おかわいらしいですね、奧様」
「……そんなことないわ。ただ、嫉妬深いだけ……。わたしもエルのように大人になれればいいのに」
「大人、ですか」
そういって、ルーはかすかに口元を上げて微笑む。
今日のルーはごきげんだわ、とシアは思った。
「ふふふ……シア様に、他の男性とのお付き合い経験がなくて、本当によかった、と私は思っていますよ。坊ちゃんの嫉妬心はすごそうですからね。とんでもないお薬を調合させられていたかもしれません……」
「……え? そ、そうかしら?」
「そうですとも。愛されている自覚を、きちんとお持ちください、シア様」
ルーはすました顔をして、相変わらず口元だけで笑っていた。
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