【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

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エピローグ/後日談

33:つなぐ未来に⑦*

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 こんな感覚、初めてだわ。
 性的知識が、ほぼ皆無だった結婚前。
 子を成すには、男女が服を脱いで寝台に上がって抱き合う? 口づけをすればいいのかしら? その程度の知識しかなかった自分がこうして愛し愛される喜びを教えられて一年。
 エルナドと出会い、色々な快楽とあたたかな気持ちを与えられてここまで来たけれど、今日触れてくる手のひらは今までのどの「それ」とも違っているわ、とシアは思う。

 寝台に横たえられ、上からそっと唇を重ねられる。
 髪に指がさし入れられて何度も梳かれるたびに、愛おしさが込み上げた。
 大きなてのひら、長い指。触れる唇の間から当たり前のように入り込んでくる舌がひどく熱く、甘く感じる。
 息ができないほど深く口づけられてかすかに呻けば、なだめるようにそっと身体をさすられた。
 けれど、やめてはくれない。
 喰らわれるような舌についていくのに必死でなんとかもがこうと彼の寝衣の胸元を掴めば、その余裕のなさにかすかに笑われてその色気にぐらりと脳が揺れた。

 エルってずるいわ、とシアは思う。
 ひとたびシア以外の人を相手にすれば、彼は威厳のある当主であり、著名な魔道具学者であり、名の知れた魔術師だ。ひどく理知的で鉄面皮、女性に愛を囁くような姿は想像がつかない。
 けれどふたりきりの寝台の上では、彼は本当に雄弁だ。絶対に誰に言っても信じてもらえないものね、と思いながらそのことに優越感を覚えてしまう自分をひどくあさましいと思う。
 意外といじわるだし快楽的だし、シアが乱れる姿を微笑みながら見つめるその眼差しは、とても普段の”ニグラード卿”からは想像がつかない。長身なのもあって、小柄なシアはいつも彼に翻弄されてしまうことが多いのだけれど、散々ギリギリのところまで愛撫しとことんまで蜜壷を蕩かしておいて、最後はおねだりをしないと挿れてくれなかったりだとか、肝心なところには触れてくれなくて、快楽をのがしきれないシアにわざと自分から挿入させたりだとか。
 本当に、あなたっていじわるね、と行為を終えてからシアは鼻白むことも多い。
 でも、それを気持ちよくて嬉しいと思ってしまう自分もいるから、仕方ないのかもしれない。少しだけいじわるく色気をのせて見つめてくるあの漆黒の眼差しを受けるのは、きっと世界でわたしだけ。
 でも今日の彼を取り巻く気配は、そのいじわるな時とも違っていた。


「シア」
「んっ、……エルっ、あぁ、あっ」

 名を呼ばれ、声が漏れる。ただ名を呼ばれて、そっと指先で頬をなぞられて耳をくすぐられているだけ。時折落とされる口づけによって舌が絡んで密やかな水音が立つけれど、普段の激しい手つきに比べれば驚くほどに優しい触れ合いだ。
 それでも、シアのうちがわは既に完全に蕩けていた。胎奥がキュウ、と切なく締め付け、股の間からは甘い蜜がこぼれているのがわかる。
 触れられているその指が、気持ちいい。本当にただ指でふれられているだけなのに、泣きたくなるくらい気持ちがよくてたまらないのだ。チリチリとした微弱な刺激、おそらくこれが増幅された彼の魔力なのだろうけれど、それが自分の身体にじわじわと沁み込んでくるような心地がする。指腹が頬をなぞるだけで、ん、と声が出る。そのまま耳に触れられて、指で外耳をすり、と挟まれればそれだけで達しそうなほどの刺激が耳から背中へを駆け抜けた。

「は、ぁ、あ……っ、え、エルぅ、エル、だめ、これ……いつもと、違う、だめ……っ、こわい、こわいのっ」
「シア……大丈夫だ」
「だいじょうぶ、じゃないのっ、わたし、こんな……触れられてるだけで、こんな、ダメよ、恥ずかしいの、はしたないわ」

 目が潤んでしまっている。本当に、ただ触れられているだけで誇張ではなく達してしまいそうだった。無意識に身体が揺れて、太腿をこすり合わせてしまえばそこからはちゅくちゅくと、まるで指を埋めて掻き回されているときのようないやらしい水音が立った。エルナドと身体を重ねるときにはいつでもこうなってしまうけれど、さすがに頬と耳に触れられて、口づけをされているだけで達しそうになっているのはおかしいと思う。こんなに情けなくて蕩けている顔を見られたくなくて手で顔を覆えば、手首をつかまれてしまった。

「!」
「シア」

 その手つきも、いつもより強い。痛みこそないけれど、絶対的に逆らえない力を感じるのだ。これが魔力増幅の効果なのかしら、とぼうっとしつつある脳内でシアは思う。やだ、やぁ、やめ、てともがけば、喉奥でエルナドが嬉しそうに笑ったのがわかった。

「シア、手をどけてくれ」
「……いや、よ、恥ずかしいもの。今日はおかしいわ、だってこんな、触れられてるだけで、ぐずぐずになって……全部、溶けてしまいそう」
「溶けていい、顔を見せてくれ。シアは、私のものだろう?」
「……っ」
「私の、最愛の妻だ」

 ぐい、と手首を引かれてそのまま頭上に両手首を彼の左手でまとめられてしまった。そんなことを言われて、じっとうつくしい瞳で見つめられると、それだけで体中が切なく喘いでしまう。わたしって、こんなにはしたない女だったかしら、と思うけれど、目は潤んで口は半開きで吐息をもらし、鼻にかかった声が自然と漏れて、ねだるように彼の名を無意識に紡いでいるから、もうダメなのだと思う。
 彼がいないと、生きていけない。
 身体も、心も、すべて。
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