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赤い炎が、暖炉で揺れている。
初めてニコラスに抱かれた日と同じように。
ヴィオレッタの自室。
寝台で横になり、ヴィオレッタはただその炎を見つめていた。
初めて自分から「抱いてください」と頼んで、無理やり抱いてもらったあの日以来、ニコラスとは会っていなかった。
たぶん、中央へ帰る準備や引き継ぎで忙しいんだろう。酒場にも姿を見せていない。
(でも、かえってよかったかもしれないわ。だって――今、顔を合わせたら、きっと私……冷静でいられないもの)
彼への恋心を自覚した今、ヴィオレッタの取れる選択肢は、ただ心で思い続けることだけだ。
(このまま、ゴズを去ってもらう。寂しいけれど、きっとそれが一番いいわ)
揺らめく炎の赤に彼の瞳を思い出しながら、ヴィオレッタは静かに瞳を閉じた。
✾
日々は静かに、それでも慌ただしく過ぎていく。
掃除の合間、ふと廊下にある飾り鏡を覗けば、化粧でも隠しきれない酷い顔色の自分がいて思わず苦笑してしまった。小指の先に魔力を宿して、少し濃いめに紅を引く。
(情けないわ。でも私だって、もう子供じゃないんだもの)
ニコ様とのことはいい思い出にできるはず――そう、思っていた。
けれど数日が過ぎ、一週間が過ぎても、状況は変わらない。「ゴズに新しい魔術師様が赴任した」という噂も「ニコラスがゴズを去る」という話も聞かなかった。
(どういうこと? ……何か、起きたのかしら)
今日も娼館の受付に座って事務仕事をこなしながら、ヴィオレッタはどこかうつろな視線を窓の外に向けた。
その時、ガチャと鈍い音を立てて娼館の入り口が開く。鍵を掛けていたのに――
「まだ準備中です――」
そう言いかけて顔を上げると、そこには黒いローブ姿があった。
初めてニコラスに抱かれた日と同じように。
ヴィオレッタの自室。
寝台で横になり、ヴィオレッタはただその炎を見つめていた。
初めて自分から「抱いてください」と頼んで、無理やり抱いてもらったあの日以来、ニコラスとは会っていなかった。
たぶん、中央へ帰る準備や引き継ぎで忙しいんだろう。酒場にも姿を見せていない。
(でも、かえってよかったかもしれないわ。だって――今、顔を合わせたら、きっと私……冷静でいられないもの)
彼への恋心を自覚した今、ヴィオレッタの取れる選択肢は、ただ心で思い続けることだけだ。
(このまま、ゴズを去ってもらう。寂しいけれど、きっとそれが一番いいわ)
揺らめく炎の赤に彼の瞳を思い出しながら、ヴィオレッタは静かに瞳を閉じた。
✾
日々は静かに、それでも慌ただしく過ぎていく。
掃除の合間、ふと廊下にある飾り鏡を覗けば、化粧でも隠しきれない酷い顔色の自分がいて思わず苦笑してしまった。小指の先に魔力を宿して、少し濃いめに紅を引く。
(情けないわ。でも私だって、もう子供じゃないんだもの)
ニコ様とのことはいい思い出にできるはず――そう、思っていた。
けれど数日が過ぎ、一週間が過ぎても、状況は変わらない。「ゴズに新しい魔術師様が赴任した」という噂も「ニコラスがゴズを去る」という話も聞かなかった。
(どういうこと? ……何か、起きたのかしら)
今日も娼館の受付に座って事務仕事をこなしながら、ヴィオレッタはどこかうつろな視線を窓の外に向けた。
その時、ガチャと鈍い音を立てて娼館の入り口が開く。鍵を掛けていたのに――
「まだ準備中です――」
そう言いかけて顔を上げると、そこには黒いローブ姿があった。
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