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見覚えのありすぎる、いたずらっぽい笑みを浮かべた、そのふわふわとした妖精は――!
「セシル!」
イヴリアは、思わず椅子から立ち上がった。
昨晩カーライルに“イタズラ”を仕掛けた張本人……張本妖精だ。
「あらあら、イヴ! ちょっとご挨拶にね、うふふ! 幸せいーっぱいの花嫁さんのお顔、見たくなっちゃったのよ!」
悪びれもせず入ってきたセシルは、相変わらず愛らしかった。淡いふわふわのピンクの巻き髪に金色の羽。可憐さと小悪魔めいた雰囲気を同居させたその姿はまさに妖精そのもの。今日は淡いピンクのレースのたっぷりとついたふわふわしたドレスを纏っている。
「セシル! わたし怒ってるのよ! ライルになんてひどいことを……あんなイタズラして!」
「イタズラ? うふふ、違うわよ。あれは祝福」
「しゅ、祝福……?」
顔色を変えるイヴリアに、うふふ、とウインクをしてセシルは肩をすくめた。
「ええ、わたしたちからの、少し早い結婚祝いよ。ああすれば、どうしようもなくなったあのヘタレはきっとイヴのところに泣きついて駆け込むでしょう? 夜中の密会、向かい合う愛し合う二人、そして出来上がったカ・ラ・ダ! ね、”ああ”なったのは必然ってこと! どう、楽しめたでしょう?」
「楽しめた……なんて……。そんな、ライルは最初、自分の大事なところを切り落とそうとしてたのよ!? それで危なくて、わたし、必死で……」
「あ~らあら! それはさすがにその展開はアタシも想像してなかったわ! とっても愉快ね!」
イヴリアの言葉に、ケラケラと明るい声で笑うセシル。
あんまりよ、と鼻白むイヴリアに、笑いながらセシルは続ける。
「でも、そうならなかったでしょ? それにほら――イヴだって、いい思いしたでしょ、とーっても気持ちよかったんじゃなぁい? たーっぷり、愛してもらったんでしょ?」
「~~っ!」
こっそりと耳元でからかうように囁かれ、耳まで真っ赤になるイヴリア。
どうしてセシルはそんなことまでわかっているのよ……! と頬に手を当ててうつむくと、セシルは再び、明るく笑った。呆れたようにその隣に回り込んだアンディが、たしなめるようにため息をつく。
「セシル。イヴをからかうのは、それくらいにしておいてやってくれないかい? これから大事な式なんだよ。こんな真っ赤な顔で、行かせるわけにはいかないだろう?」
「あーら、相変わらず過保護ねぇ、アンディ! でも事実でしょ? 告白に10年、プロポーズに5年かかったこのふたりよ? 元気で活発と見せかけて超絶ヘタレなライルに、冷静で頭が回るのにこんなにのんびりで鈍感なイヴ! このまま結婚してたら手を出すまでにまた5年、なんてなりかねなかったじゃない! ……そもそも、アンディがこの案を出したのに!」
「……!! えぇっ?」
セシルの言葉におどろくイヴリア。そしてまあね、と涼しげな顔で肩をすくめるアンディ。
二の句も継げずにいるイヴリアに、セシルはイヴリアに向かってウインクをした。
「そういうことよ、イヴ。ぜーんぶ、あんたたちふたりのためなんだから!」
「で……でも! そんな、あんなこと……」
「妖精なんて、こういうものよ! とっても気まぐれで、愛情深いの! お小言なんてヤダヤダ、素敵なドレスが台無しよ! ……あんまり言うなら、あの祝福、もう一回ライルにかけちゃうわよ?」
「! ダメよ、ねえセシル! 絶対にやめて!」
「うふふ、うふふ! 冗談よ! ねえアンディ、よかったわね、計画通りだわ!」
軽やかに笑いながら、セシルはアンディの方を振り向いた。
そう。アンディがこのひと騒動の発案者だったなんて、とイヴリアは裏切られたような気持ちで彼を睨もうと思ったけれど、思った以上に優しい顔つきで微笑まれて毒気をぬかれてしまった。
今まで見た中で、アンディは一番優しい笑顔をしている。
ぽかんとしてしまったイヴリアに、ふたりの妖精は顔を見合わせてくすくすと笑いあった。
「次の祝福は……そうね、ふふふ、もう一人、家族が増えたときかしらね?」
「そうだな。その時は、僕からもたくさん祝福を送るよ」
「たっくさん愛してもらってね、イヴ。ふふ、あなたもライルも大好きよ……お幸せに!」
そう妖精ふたりに言われ、イヴリアは頬を染めるしかなかった。
本当は優しくイヴリアとカーライルを見守ってくれていた、セシルとアンディ。
それに、もう一人の家族、だなんて。
結婚式はこれからなのに、そんな未来を考えると――昨晩のことを思い出して、ドキドキしてしまう。でも、ライルとなら――きっと……。
そのとき、扉の外から声がした。
「え、ええと、イヴ? 準備は、できたかい?」
――ライルの声だわ!
心臓が大きく跳ねるのを感じながら、イヴリアは妖精たちに小さく一つ頷いてから、その扉へと向かった。
「……。長い片想いだったわね」
「お互いにな」
「仕方ないわ! だってアタシ、ふたりとも大好きなんだもの!」
「僕もだよ」
そう言って妖精たちが大人びた顔をして微笑みあっていたのを、イヴリアもカーライルも知ることはない。
「セシル!」
イヴリアは、思わず椅子から立ち上がった。
昨晩カーライルに“イタズラ”を仕掛けた張本人……張本妖精だ。
「あらあら、イヴ! ちょっとご挨拶にね、うふふ! 幸せいーっぱいの花嫁さんのお顔、見たくなっちゃったのよ!」
悪びれもせず入ってきたセシルは、相変わらず愛らしかった。淡いふわふわのピンクの巻き髪に金色の羽。可憐さと小悪魔めいた雰囲気を同居させたその姿はまさに妖精そのもの。今日は淡いピンクのレースのたっぷりとついたふわふわしたドレスを纏っている。
「セシル! わたし怒ってるのよ! ライルになんてひどいことを……あんなイタズラして!」
「イタズラ? うふふ、違うわよ。あれは祝福」
「しゅ、祝福……?」
顔色を変えるイヴリアに、うふふ、とウインクをしてセシルは肩をすくめた。
「ええ、わたしたちからの、少し早い結婚祝いよ。ああすれば、どうしようもなくなったあのヘタレはきっとイヴのところに泣きついて駆け込むでしょう? 夜中の密会、向かい合う愛し合う二人、そして出来上がったカ・ラ・ダ! ね、”ああ”なったのは必然ってこと! どう、楽しめたでしょう?」
「楽しめた……なんて……。そんな、ライルは最初、自分の大事なところを切り落とそうとしてたのよ!? それで危なくて、わたし、必死で……」
「あ~らあら! それはさすがにその展開はアタシも想像してなかったわ! とっても愉快ね!」
イヴリアの言葉に、ケラケラと明るい声で笑うセシル。
あんまりよ、と鼻白むイヴリアに、笑いながらセシルは続ける。
「でも、そうならなかったでしょ? それにほら――イヴだって、いい思いしたでしょ、とーっても気持ちよかったんじゃなぁい? たーっぷり、愛してもらったんでしょ?」
「~~っ!」
こっそりと耳元でからかうように囁かれ、耳まで真っ赤になるイヴリア。
どうしてセシルはそんなことまでわかっているのよ……! と頬に手を当ててうつむくと、セシルは再び、明るく笑った。呆れたようにその隣に回り込んだアンディが、たしなめるようにため息をつく。
「セシル。イヴをからかうのは、それくらいにしておいてやってくれないかい? これから大事な式なんだよ。こんな真っ赤な顔で、行かせるわけにはいかないだろう?」
「あーら、相変わらず過保護ねぇ、アンディ! でも事実でしょ? 告白に10年、プロポーズに5年かかったこのふたりよ? 元気で活発と見せかけて超絶ヘタレなライルに、冷静で頭が回るのにこんなにのんびりで鈍感なイヴ! このまま結婚してたら手を出すまでにまた5年、なんてなりかねなかったじゃない! ……そもそも、アンディがこの案を出したのに!」
「……!! えぇっ?」
セシルの言葉におどろくイヴリア。そしてまあね、と涼しげな顔で肩をすくめるアンディ。
二の句も継げずにいるイヴリアに、セシルはイヴリアに向かってウインクをした。
「そういうことよ、イヴ。ぜーんぶ、あんたたちふたりのためなんだから!」
「で……でも! そんな、あんなこと……」
「妖精なんて、こういうものよ! とっても気まぐれで、愛情深いの! お小言なんてヤダヤダ、素敵なドレスが台無しよ! ……あんまり言うなら、あの祝福、もう一回ライルにかけちゃうわよ?」
「! ダメよ、ねえセシル! 絶対にやめて!」
「うふふ、うふふ! 冗談よ! ねえアンディ、よかったわね、計画通りだわ!」
軽やかに笑いながら、セシルはアンディの方を振り向いた。
そう。アンディがこのひと騒動の発案者だったなんて、とイヴリアは裏切られたような気持ちで彼を睨もうと思ったけれど、思った以上に優しい顔つきで微笑まれて毒気をぬかれてしまった。
今まで見た中で、アンディは一番優しい笑顔をしている。
ぽかんとしてしまったイヴリアに、ふたりの妖精は顔を見合わせてくすくすと笑いあった。
「次の祝福は……そうね、ふふふ、もう一人、家族が増えたときかしらね?」
「そうだな。その時は、僕からもたくさん祝福を送るよ」
「たっくさん愛してもらってね、イヴ。ふふ、あなたもライルも大好きよ……お幸せに!」
そう妖精ふたりに言われ、イヴリアは頬を染めるしかなかった。
本当は優しくイヴリアとカーライルを見守ってくれていた、セシルとアンディ。
それに、もう一人の家族、だなんて。
結婚式はこれからなのに、そんな未来を考えると――昨晩のことを思い出して、ドキドキしてしまう。でも、ライルとなら――きっと……。
そのとき、扉の外から声がした。
「え、ええと、イヴ? 準備は、できたかい?」
――ライルの声だわ!
心臓が大きく跳ねるのを感じながら、イヴリアは妖精たちに小さく一つ頷いてから、その扉へと向かった。
「……。長い片想いだったわね」
「お互いにな」
「仕方ないわ! だってアタシ、ふたりとも大好きなんだもの!」
「僕もだよ」
そう言って妖精たちが大人びた顔をして微笑みあっていたのを、イヴリアもカーライルも知ることはない。
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