勇者殿の花嫁探し

ROKI

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13ターン目:青き侵略者の炎

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  街の人間が魔物の島だと恐れ慄いていた割には、海は荒れることなく穏やかだ。空は晴れ渡って徐々に近付いてくる島の緑が鮮やかに日の光に映える。
流れる雲も澄んでいてとても清々しい。

打って変わって船の中は重々しく緊迫していた。
重厚な鉄の甲冑に身を包んだ何人もの兵士が船の中で所狭しと上陸するのを待っている。
悪名高き島の魔王を今日こそは屠るため、ジリジリと士気を滾らせている。

一番大きく堅牢な船の舳先に、青い鋼で造られた美しい鎧を纏う端整な青年が佇んでいた。
苦々しく見つめる先は島の中心。
並々ならぬ殺気を放ちそちらを睨んでいる。


ーーー


曽祖父が亡くなった。
あれから7年は経つ。
かつては立派な騎士だったと聞いていた。
しかし王命を受け、彼の島に渡ってから曽祖父の輝かしかった道は一転し、破綻の一途を辿った。
曽祖父は魔王討伐に失敗し、気狂いとなった同胞を連れ島から逃げ帰ってきたのだ。
曽祖父は王宮騎士の名折れと言われ、ひどい扱いを受けるようになった。
古くから住んでいた土地を追われ領地を失った。
祖母もまたそれによって故郷を失った。
迫害から逃れるために各地を転々とし、何処にも落ち着けぬままに隠れ住み、そして老いて亡くなっていった。

生前曽祖父は幾度となく対峙した魔王の話をしていたという。

その姿は混沌そのものだった。
恐ろしい術を使う魔王に一切歯が立たず、仲間は皆狂ってしまった。
祖母と小さな命を救うために曽祖父は魔王と取引をし、そして生きながらえた。

しかし話の最後にはいつもこう締めくくる。
「仲間たちと共に自分も狂ってしまった方がマシな人生だった」と。

曽祖父が死んでからも、何とか持ち直したとはいえ失墜した家の名誉はなかなか回復するものでもなく、うだつが上がらぬままにこれまできている。
家の名をあげるだけで未だに鼻で笑う者も居るのだ。

曽祖父が何をしたというのか…。
王の命に従い島に渡り、命を賭して魔王と対峙した。
自我を捧げなかったというだけで、なぜそれほど蔑まれ醜い人生を送らねばならなかったのか…。

青い騎士  サファイはそんな憤りを島の中に向けていた。
曽祖父の人生をここまで貶めた混沌の魔王…。
落ちぶれた名誉を取り戻すために、幼い頃からサファイは並々ならぬ努力を重ね、それと比例して何度も何度も苦渋を味わってきた。
屈辱の日々を終えるため、無我夢中でようやくここまで来た。
討伐の任を得る事にも本当に苦労した。
生い立ちのせいでの劣勢のスタートから、大勢の競合達をひたすらに実力で退け、何とか勝ち取ったものだった。

茨の道を進み続けてやっと機会を得た。
何としてもこの島に住む魔王を仕留める。
そして自らの手で輝く未来を取り戻すのだ。
例えどんな手を使ってでも…。
サファイの研ぎ澄まされた殺気は遂に島に辿り着いた。


ーーー


先に辿り着いた船から甲冑の集団が島になだれ込む。神殿では無くその反対側、魔物たちの住む村の方角へと列を乱すことなく進んでいく。

深い森の木々をナタで切り拓き、草を踏み荒らして隊列は島の奥地を目指す。


村に到達する前に、甲冑達の進軍は待ち構えていた魔物達の軍団に阻まれた。この島に暮らす彼らもまた度重なる侵略に対して自衛の為戦いを繰り返している。

剣と牙と、爪と。

交わり始めれば直ぐに戦場は荒れ狂う。
あちらもこちらも、手加減のない殺し合いが繰り広げられる。

先発隊から少し遅れて後方から青い閃光が戦場を薙いだ。
ひらりひらりと巧みに身をかわし襲い来る魔物を踊るように振り払っていく。

たった一人、輪舞曲を踊るものが現れるだけで戦況はグラリと傾く。
村に入られまいと足掻く魔物達が斬り捨てられていく。


ヒュウ、と一瞬風が鳴いた。
サファイの隣で剣を振り回していたはずの兵士の鉄兜が宙を舞う。

冷ややかな殺気にサファイはリズムを崩し、慌ててステップを乱しながら後退する。

影のような黒い外套が倒れた兵士を足蹴にし、跳ねた鉄兜を蹴り飛ばして来る。

サファイは飛んでくる鉄兜を剣で払い除ける。
一瞬だった。

影の手がサファイの首を捉える。
微かに爪がかすめてピリ、と傷んだ。

どんな機動で距離を詰めたのか全く見えなかった。

黒い外套の深いフードの陰りから青い瞳がちらりと見える。


「今すぐ去れ。さすれば生かす」


これが、混沌の魔王か…。
サファイは念願叶って宿敵と対峙した。


「…流石、全く動きが見えなかった。貴方がこの島の主か…。聞いた話と違わぬ姿……類まれない強さだ」


サファイは抵抗はしない。
ただ笑いが止まらなくなってしまった。


「ここにいる者は誰も貴方には敵わぬだろう…魔王殿。圧倒的な存在だ……しかし、貴方以外はそうでもないようだ」


サファイは剣で村の方角を指す。
魔王はサファイの首を捉えたまま振り返った。


酷い臭いがする。
これは………
油と木々が焼ける臭いだ。


「貴様…!!!」


これまで島に来るものは島の資源を得る事を目的としていた為、地を荒らすものは殆どいなかった。そのように命じられていたからだろう。
毒を用いた者もあれ以来二度と現れなかった。
人間の間でどのような算段がされているのかは分からない。
ただ、どの刺客も魔王や魔物の命は狙えど、島の貴重な資源を絶やさぬよう壊さぬようにと慎重だったはずだ。
しかし、この軍団はこれまでの連中とは違う。
冷酷で機械的に動いては何も省みてはいないようだ。同胞の死体すら足蹴にしているのだ。
侵略のためならば森を踏み荒らし、焼き払い、島ごと破壊しようとしている。


「貴方が!私と共に来るというのなら、島に手を出すのは中止にする。今すぐ兵を撤退させ、そして貴方を連れすぐに島を出よう。…しかし、私を殺すか、或いはこの申し出を断られるのであれば……我らは全てを焼き尽くしても攻撃も殺戮も破壊もやめない。永遠にだ。そう兵達には命じてある。王はこの島の攻略に関して私にすべての指揮権を委ねている。我々が消えても、私の遺恨を継いだたくさんの同胞達が何度でもこの島を破壊しに来るだろう…。もはや侵略や搾取ではない…破壊だ、魔王殿。さあ、どうされる?」


サファイが張り上げた声は振り上げた魔王の手を止める。
辺りには散っていった兵と魔物達の死屍が散り散りに転がっていた。


「……今すぐ、このまま兵を村から…島から撤退させろ…それが本当に出来るというならば……」


サファイは魔王の返答の全てを待たずして手を掲げる。
生き残っていた兵たちがザワザワと集まり始める。
四方八方からどこからともなく揃っていき、足早に規則正しく列を組んでいく。

まだこれほどの人数が居たのか…。
魔王はその様を見回しながらに苦汁を飲んだ。


「さぁ、ではさっさと参ろうか。混沌の魔王よ」


捉えられていた首元からサファイは魔王の手を外す。薄っすらと切れた皮膚を撫で下ろしながら、サファイは一閃剣を翻した。

縦に切り離された外套のフードがパサリと魔王の頭から肩に滑り落ちる。


日の光の元に晒された黒く巻いた角は片方が欠け、透き通った白髪が風に揺れていた。
そして掠めた刀身で切り離された数本の毛束が森の奥へ飛んでいった。


続く
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