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あとずさる輪郭
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彼女の足音が、廊下に微かに響いていた。
けれど、ドアの前で立ち止まったとき、空気の密度がわずかに変わった。
まるで、誰かがそこにいて、いましがた身を引いたような、そんな残像が漂っていた。
彼女は手を伸ばしかけて、指を止めた。
触れようとしたドアノブに、熱が残っていないことに気づく。
誰かがそこにいたのだとしても、それはもう過去のことだった。
部屋に入る。
灯りのついていない空間に、輪郭だけがある。
整えられた椅子、ずれたクッション、小さく開いた窓。
ひとつずつが、「いたはず」の証明であり、
同時に「もういない」の証明でもあった。
彼女は歩を進めるたび、
そこにあった気配が、すこしずつあとずさっていくのを感じていた。
追いかければ届くようでいて、
近づこうとすると、霧のように消えていく。
そうして残ったのは、
重ねられなかった気配と、
ほんの少し開いたままの窓から吹き込む、やわらかい風だけだった。
けれど、ドアの前で立ち止まったとき、空気の密度がわずかに変わった。
まるで、誰かがそこにいて、いましがた身を引いたような、そんな残像が漂っていた。
彼女は手を伸ばしかけて、指を止めた。
触れようとしたドアノブに、熱が残っていないことに気づく。
誰かがそこにいたのだとしても、それはもう過去のことだった。
部屋に入る。
灯りのついていない空間に、輪郭だけがある。
整えられた椅子、ずれたクッション、小さく開いた窓。
ひとつずつが、「いたはず」の証明であり、
同時に「もういない」の証明でもあった。
彼女は歩を進めるたび、
そこにあった気配が、すこしずつあとずさっていくのを感じていた。
追いかければ届くようでいて、
近づこうとすると、霧のように消えていく。
そうして残ったのは、
重ねられなかった気配と、
ほんの少し開いたままの窓から吹き込む、やわらかい風だけだった。
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