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なにもおきなかった午後
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あの午後のことを、僕はたぶん、ずっと覚えている。
でも、覚えているのは、何かがあったからじゃない。
何も起きなかったからだ。
日が傾き始めた窓辺で、
彼女はコップの水をゆっくりと揺らしていた。
氷が溶ける音だけが、部屋のなかにかすかに残っていた。
言葉は、いくらでも浮かんできた。
でも、そのどれもが、意味を持ちすぎていた。
伝えた瞬間に、なにかが壊れる気がして、黙ることを選んだ。
彼女は何も聞かなかった。
ただ、グラスを置いて、
視線を少しだけ僕から外した。
そして僕も、それに何ひとつ応えなかった。
本当は、手を伸ばせば届いた。
声にすれば、伝えられたかもしれない。
でも、僕はそれをしなかった。
そうして、何も起きなかった午後が、
まるで過ちのように、僕の中で沈んでいく。
いま思えば、
あれは「終わり」ではなかったのかもしれない。
けれど、あの静けさが、
僕たちを確かに、別の場所へと分けた気がした。
でも、覚えているのは、何かがあったからじゃない。
何も起きなかったからだ。
日が傾き始めた窓辺で、
彼女はコップの水をゆっくりと揺らしていた。
氷が溶ける音だけが、部屋のなかにかすかに残っていた。
言葉は、いくらでも浮かんできた。
でも、そのどれもが、意味を持ちすぎていた。
伝えた瞬間に、なにかが壊れる気がして、黙ることを選んだ。
彼女は何も聞かなかった。
ただ、グラスを置いて、
視線を少しだけ僕から外した。
そして僕も、それに何ひとつ応えなかった。
本当は、手を伸ばせば届いた。
声にすれば、伝えられたかもしれない。
でも、僕はそれをしなかった。
そうして、何も起きなかった午後が、
まるで過ちのように、僕の中で沈んでいく。
いま思えば、
あれは「終わり」ではなかったのかもしれない。
けれど、あの静けさが、
僕たちを確かに、別の場所へと分けた気がした。
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