7 / 12
第三章 選ばなかった現在の意味
なにも言わなければ、なにも壊れない
しおりを挟む
アキが笑ってくれる。
こっちを向いて、
少し首をかしげて、
「うん、大丈夫」
って言ってくれる。
その笑顔を見て、
わたしは、ほっとする。
でもその「ほっとする」は、
たぶんまちがっている。
わたしが安心しているのは、
アキの気持ちを受けとったからじゃない。
なにも壊れなかったことに、
ほっとしているだけだ。
言葉を出せば、
なにかが変わる。
問いを返せば、
なにかが始まる。
そして、始まったものは、
いつか必ず終わる。
そうなるのが、こわい。
だから、わたしは、
何も言わないまま、
アキの言葉を受けとったふりをする。
それが、
わたしのやりかたになってしまった。
ナツミのときも、そうだった。
止めたかった。
あのとき、本当は。
でも、口をひらいたら、
きっとナツミのなかの何かが壊れると思った。
だから、黙った。
そして、アキが残った。
だけど、アキにも、
同じことをしている。
わたしは、誰のことも選ばない。
選べない。
選ばなければ、
誰も失わなくてすむ。
――そんなふうに、思っていた。
でもそれは、
誰の手も、
ほんとうには握らないということだった。
アキの笑顔のうしろで、
なにかが音もなく崩れていく気がする。
でもわたしは、それを見ないふりをする。
なにも言わなければ、
なにも壊れない。
わたしは、
今でもそう思い込もうとしている。
こっちを向いて、
少し首をかしげて、
「うん、大丈夫」
って言ってくれる。
その笑顔を見て、
わたしは、ほっとする。
でもその「ほっとする」は、
たぶんまちがっている。
わたしが安心しているのは、
アキの気持ちを受けとったからじゃない。
なにも壊れなかったことに、
ほっとしているだけだ。
言葉を出せば、
なにかが変わる。
問いを返せば、
なにかが始まる。
そして、始まったものは、
いつか必ず終わる。
そうなるのが、こわい。
だから、わたしは、
何も言わないまま、
アキの言葉を受けとったふりをする。
それが、
わたしのやりかたになってしまった。
ナツミのときも、そうだった。
止めたかった。
あのとき、本当は。
でも、口をひらいたら、
きっとナツミのなかの何かが壊れると思った。
だから、黙った。
そして、アキが残った。
だけど、アキにも、
同じことをしている。
わたしは、誰のことも選ばない。
選べない。
選ばなければ、
誰も失わなくてすむ。
――そんなふうに、思っていた。
でもそれは、
誰の手も、
ほんとうには握らないということだった。
アキの笑顔のうしろで、
なにかが音もなく崩れていく気がする。
でもわたしは、それを見ないふりをする。
なにも言わなければ、
なにも壊れない。
わたしは、
今でもそう思い込もうとしている。
0
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる