【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第13話:モブリンとの出会い

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「ちょっと待ってね……」

 わたしはマッスリーヌのほうに手のひらを向け、待てのジェスチャーをした。
 彼女はあちこちの筋肉に「ダメだ、落ち着け」などと命令しながら待っている。
 そういう小芝居は別にしなくていい。

 わたしもマッスリーヌも女性だ。
 でも、その点については、彼女の感性なので否定はしない。
 最初から、わたしにひと目惚れしたと言っていたではないか。
 わたしの名前を可愛いとも言った。

 レッドの標的にされたときも身を挺して守ってくれたし、ターコに言い寄られたときも、すぐにバチバチと火花を散らしていた。

「ああ、たしかに愛されてるっぽいわ」
「はい、愛しております!」
「まだ待って」

 でも、なんだろう……。
 どうしてわたしは、ここまでストレートな彼女の好意を愛として認識していなかったんだろう。
 ずっと、ただ慕われているだけだと思って受け入れていた。

 って、

「メイドとして押し掛けたのがおかしいじゃん!
 ひと目惚れして、なんでそこでメイドなわけ?
 もっとこう、求愛みたいなことをしたらすぐ伝わったのに」

 問いかけるわたしに、マッスリーヌは口をぱくぱくさせている。
 握りこぶしをぐっと作り、筋肉の動きでわたしになにかを伝えようとする。

 あ、待てを解除してなかった。
 かざしていた手を下げる。

「すばらしい、筋肉言語が伝わった!」
「伝わってないから。
 筋肉は関係なくて、ただ思い出しただけだから。
 で、なんでメイドだったの?
 押し掛けるにしても、普通に『好きです』でいいでしょうに」
「お嬢様……覚えていらっしゃらないのですか?」

 う……。
 たしかにわたしは、元のモブリンが彼女とどう出会ったのか知らない。
 マッスリーヌが言っていたことから推測して勝手に思っているだけだ。

「お、覚えているけど……。
 覚えているけど、あんたの口からもういちど聞きたい。
 あのときみたいに、ここで言って」
「かしこまりました」

 すっ、と真顔になる。
 普通にしていれば、かなり美しい顔立ちなのだ。
 首から下のとんでもない筋肉がアンバランスだけど、見慣れてくるとそれも含めて美しくもある。

 そんな彼女が、教室の床に膝をついて、わたしに言った。

「わたくしのことを見つめてくれてありがとう。
 あなたのその瞳に、この筋肉を一生映していたい。
 どうか結婚してください」

 うわ、ど真ん中ど直球の求婚だ。
 聞いているこっちが赤面してしまうくらい、まっすぐ。
 筋肉うんぬんはともかくとして、彼女はちゃんとモブリンに気持ちを伝えていた。

「……どうですか?」
「で、ええと、わたしの反応もいちおう再現して」
「はい」

 マッスリーヌが立ち上がり、ふにゃっとした表情になる。
 これ、わたし……というかモブリンの真似?
 そんな気の抜けたゆるゆるフェイスをしているのか。

 筋肉の力も抜いて、なよなよっとしてマッスリーヌが言う。

「えー、でもぉ~。
 それって普通じゃなくないですかぁ?
 わたしのモブ道に反しているから、お断りしますぅ。
 もっと段階を踏んで、普通にやってくださぁい」

 も、モブ道って言った!
 元のモブリンもモブ道の求道者だったわけ?

 ていうか、なにその腹立つ口調。
 もっとちゃんと、普通にしゃべってくださぁい!
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