復讐なんてとんでもない

monaca

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身からでたサビ

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「わたくしは悪い女でした。本当にごめんなさい……」

 わたくしは今日も、冷水で身を清めます。
 肌が裂けるように冷たくてたまりません。
 でも、わたくしは罰を受けなければいけない身。

「聖女などと呼ばれ、心のどこかにおごりがありました」

 かつて聖女と呼ばれていたわたくしは、とある貴族に見初められました。
 よせばいいのに突然の婚約を受けいれ、教会を出て貴族の世界へと飛び込みーー

 半年後、ぼろ布のように捨てられました。
 婚約破棄です。

 彼が言うには、「飽きた」ということでした。
 これまで周囲にいなかったわたくしのような女が、とても美しく見えたと。
 目が慣れてみれば、ただ世間擦れしていないイモ女にすぎないと言われました。

「でも、それは嘘」

 わたくしは理解していました。
 彼という存在が邪悪なのではなく、すべてはわたくし自身から生じたことなのです。

 わたくしの心にあった、おごり。
 その醜い部分が神の怒りを招きました。
 そして、彼の姿を使ってわたくしを罰したのです。

 彼に罪はありません。
 悪いのはわたくし自身。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 わたしは教会へは戻りませんでした。
 もう聖女と呼ばれる資格は残っていません。

 ひとりで村はずれの小屋に住み、ひたすらに罰を受けています。

 冷水を浴びて身を清め。
 清めた身体で村や森を掃除してまわり。
 わずかな食事を祈りながら口へと運び。
 祈りつづけたまま倒れるように眠る。

 とてもつらく、厳しい毎日。

 でもこれが罰。
 わたくしに与えられた罰であり、試練なのです。

「神はわたくしを見てくださっています」

 そうでなければ、わたくしはただ、聖女として一生を終えていたでしょう。
 何も気づくことなく、心の底でおごりながら。

 気高いということは、見下すということだったのかもしれません。
 いえ、きっとそうだったのだと思います。

 だからわたくしは、ありえないような出会いをし、ありえないような婚約破棄をされました。

 わたくしを捨てた彼もまた、神に見守られています。
 毎日祈るのは、そのことばかり。
 彼も正しく過ごせませすように。
 試練が必要なときは、ちゃんと試練が与えられますように。

 何年も、何年も祈りました。

 そしてあるときーー

『その祈りを聞き入れよう。真の聖女よ』

 そう、聞こえたような気がしました。
 もしかしたら、神の声だったのかもしれません。
 でも、特別なことが自分に起こると思うのは、それもまた傲慢なことです。

 わたくしはいつもどおりに生活します。

 冷水を浴びて身を清め。
 清めた身体で村や森を掃除してーー

「あら? 何かしら?」

 森の一ヶ所がひどく汚れていました。
 野犬たちが動物か何かを食い散らかしたようです。
 ひどくお腹を空かせていたらしく、わずかな骨しか残っていません。

 わたくしは、骨を集めて、土に埋めました。

 一緒に落ちていた指輪に、見覚えがあるような気がしました。
 たしか彼がつけていたーー

「ううん、彼に何かあったとしたら、それは試練。きっと彼のためのことよ」

 わたしは指輪も一緒に埋め、祈りの日々へと戻りました。
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