【R18】婚約破棄の復讐に、王子の弟を蹂躙してやります

monaca

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04 謀る

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 表面上は、変わりなく日々が過ぎていく。
 昼はコリンに授業をおこない、夜は彼を調教する。
 ファビオはお茶会にときおり現れては、アタシを口説いたり弟をからかったりして笑う。
 この2年間、繰り返されてきた日常だ。

 だがそこに、しだいに変化があらわれはじめた。

 ガチャン。

「あれ?」
 ファビオ王子の手から落ちたティーカップが、ソーサーに激しくぶつかり音を立てた。

「兄上! どうされました?」
 心配したコリンが立ち上がる。
 ファビオは首をひねりながら自分の手を眺めている。

「……すまんな。
 どうも最近、しびれがひどくて」
「お医者様にはお見せになったのですか?」
「ああ。疲労回復の薬をもらったよ」

 それは原因不明ということだろう。
 コリンは兄に安静にするよう進言したが、ファビオはそれを笑い飛ばした。

「こんなものは、美しい女性が添い寝してくれたら一発で治るんだがなあ。
 なあ、センセ」
「性病にでも罹っているのでは?」
「あはは、こいつは手厳しい」

 そうやって笑う彼の頬は、あきらかに痩けていた。

「今日のところは退散するよ。
 じゃあなコリン。
 お勉強がんばれよ」
「はい、兄上。
 どうかご自愛ください」

 すべては計画どおりに進んでいる。
 ――はずだ。

 なのに、アタシの頭の中からは、あのときのコリンの言葉が一向に離れてくれない。

『兄上と会うと、いつもつらそうにしてる』
『ぼくはてっきり、先生は兄上のほうが好きなんだと思っていました』

 それがどういう意味なのか、ここにいる本人に問いただせば話は早いのだが、それをすると計画になにか致命的な支障がでてしまうような気がしてならない。
 アタシは、アタシが実感しているこの恨みと呪い以外の感情を意識してはいけない。

 復讐のために生きると誓ったのだから。

「ねえ、コリン様。
 ファビオ王子はいったいどうされたのかしらね」

 アタシたちの会話に、こぼれたファビオの紅茶を片付けているメイドが聞き耳を立てている。
 彼女たちはこういった噂話が大好きだ。

「お医者様のお見立てどおり、ただの疲労であればいいのですが。
 ぼくは冗談ではなく、先生のおっしゃるように兄上がよその女の人からへんな病気をおもらいになられたのではないかと心配でなりません」

 しかつめらしい顔でコリンが答える。
 ファビオの女好きは、昔から王宮の悩みと噂の種なのだ。
 メイドは新しい噂話ができることを喜ぶように、軽やかな足取りで戻っていった。

「アハハ」
「先生、突然どうされたのですか?」

 愉快な気分になったアタシは、笑いながらコリンの頭を撫でた。
 撫でられた彼も、にっこりと笑う。

 コリン王子はファビオの不調の原因を知っている。
 いつも黙って見ているからだ。
 この2年間、アタシが彼の紅茶に粉を混ぜていることを。

 知っているが、アタシがきちんと調教しているので、絶対に他言したりなどしない。

 粉を混ぜるのは、毎回ではなくたまに。
 この計画にはここまで10年かけているのだから、焦る必要はなにもない。
 発覚することだけはないように、遅効性の毒でじわりじわりと彼を死に近づけている。

 それを見ているにもかかわらず、あの日、コリンはアタシに言ったのだ。
 アタシがファビオを好きなんじゃないか、と。
 本当にばかげている。

「あんた、アタシに遊ばれすぎて、愛情の定義がひねくれてんじゃない?」

 いきなり言われて、質問の意味がわからなかったのだろう。
 彼は、はにかんだように微笑んでアタシを見ていた。
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