【R18】婚約破棄の復讐に、王子の弟を蹂躙してやります

monaca

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 ファビオ王子はついに病の床に臥した。

 病、とはいうものの、王宮お抱えの老医には衰弱していることしか理解できていない。
 わからないのだから、ただ見守るしかできない状況で、両親である国王と王妃も頭を抱えていた。

 そんな折、アタシが呼ばれた。
 これまで立ち入ったことのない、ファビオの部屋に来るようにと呼び出されたのだ。

(まさか……とは思うけれど)

 毒薬を盛っていたことが露見したのだろうか?
 いや、バレるわけがない。
 まとまった量を部屋に置くことさえ避けていたし、充分に病状が悪化してからはもはや不要と判断してすべて破棄した。

 人の口から漏れるとすればコリンだが……。
 それも絶対にないと確信している。
 彼はアタシの下僕として、ゆうべも痴態を晒しながらアタシのなかで思うさま果てたばかりだ。

(つまり、バレてない)

 アタシはただ、ファビオ王子の弟の家庭教師として、親交ある彼を心配しながら扉を開けることにした。

「おお、よくきてくれましたミリアム先生」

 ファビオのベッドの横には王妃が座っていた。
 気丈にしているが、その目は赤く、顔にはうっすら涙のあとが残っている。
 日に日に弱っていく息子を見て絶望していたのだろう。

「王妃、ファビオ王子のお加減は……」

 すっとぼけて尋ねるアタシに、王妃は静かに首を振る。
 かなりよくないということか。
 そうだろう、アタシの見立てではもうあと数日で死ぬのだから。

 アタシは喜びを噛み殺して言葉をしぼりだす。

「そうですか……。
 それでアタシは、なぜここに?」
「藁にもすがる気持ちでお尋ねします。
 我が子コリンのために、すべての教科をお教えになられている博識なミリアム先生。
 もしや、医学や薬学にも精通しておられるのではありませんか?」
「え……」

 返答に詰まる。
 正直なところ、かなり精通している。
 毒殺とわからないように身体を蝕む毒を、かろうじて排出されきらずに蓄積する分量だけ彼に与えてきたのだ。
 勉強も下調べも万全だし、もはや専門といっても過言ではないほどに詳しい。

 が、そのことを知られると、彼の病状が毒薬によるものと知れたときに、アタシが容疑者筆頭に挙げられることになってしまう。
 だからこれまで黙っていた。

「この子の……ファビオの病状はうちの医者ではなにもわかりませんでした。
 彼の能力を疑っているわけではないのです。
 ですが、もし、ほかのかたのご意見を伺えたら、わたくしのこの気持ちもすこしは整理がつくかもしれません」

 懇願する王妃。
 ここで恩を売ることは、ファビオが死んだあとの計画にとって、プラスになることはあれどマイナスにはなりえないとアタシには思えてきた。

「……医学にも薬学にも、多少の心得があります。
 アタシが診てもよろしいですか?」
「ぜひ!」

 すぐに立ち上がってアタシを息子の横に導く。
 そこには骨のように痩せこけ、見る影もなくなったあの男が、生気のない顔で横たわっていた。

「ファビオ様、失礼いたします」
「……センセ。
 あんた、添い寝しにわざわざきてくれたのか」

 口と鼻に蓋をして殺そうかと思ったが、こらえる。

 本当はさっさと打つ手がないことを伝えたかったが、心得があると言ってしまった手前、なにもしないわけにはいかない。
 ひととおり診察のまねごとをしたアタシは、顔色だけでも改善させる薬を飲ませることにした。

 指定した薬を使用人に持ってきてもらい、水とともに彼に渡す。
 彼はゆっくり、コップの半分ほど水を飲む。
 そして、アタシにコップを返そうとしたところで――

「あっ!」
 受け渡しに失敗して、アタシの服に水がかかった。

「悪い、センセ。
 手がしびれて落としちまった」
「気にしないで。
 アタシも悪かったから」

 薄手の服を着ていたアタシは濡れた部分が肌にまとわりつくので、手早く拭くことにした。
 タオルで腹部を拭いていると、ものすごく強烈な視線を感じ、ファビオ王子のほうを見た。

「センセ……それ……」

 身を起こしてアタシを凝視している。
 すこし離れた位置にいた王妃が苦笑し、たしなめる。

「これファビオ、レディの身体をそんなにじっと見てはなりません。
 ほんとにもう、こんなときばかり元気になって」

 そうは言いながらも、王妃はどこか嬉しそうだ。
 それはそうだろう。
 さっきまでほとんど死にかけだった息子が、まるで嘘のようにベッドの上であぐらをかいているのだから。

「ああ、失礼したセンセ。
 でも、あんたが出してくれた薬のおかげで、なんだか元気が出てきた気がするよ。
 なあおふくろ、これからの療養について相談したいから、すこしミリアム先生とふたりきりにしてくれないか?」
「え……」

 王妃はよほど嬉しかったのか、狼狽するアタシをよそに、小躍りしながら部屋を出ていった。

 出ていってしまった。

 アタシは、10年ぶりにファビオと……アタシを捨てた憎きクソ野郎とふたりで取り残された。

「まあ落ち着きなよ、ミリアム先生」
「な、なによ」

 いつもの軽い調子ではなくなっている。
 すぐにでも部屋を出たかったが、わざわざ名前で呼ばれたことに動揺し、アタシは椅子から立ち上がれない。

「あんた、まえは違う名前だったよなあ。
 ミリアムってのは、偽名なのかい?」
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