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06 悦ぶ
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「え……? いま、なんて」
「あんたの名前が偽名だっていったんだよ。
まえはミリアムなんて名乗ってなかっただろ?」
言いながら、ファビオはベッドから立ち上がる。
マズい。
マズい。マズい。マズい。
アタシの正体がバレた!
「なあ――ソフィア?」
「うあ……」
捨てたはずの名前で呼ばれ、アタシは14歳の少女に引き戻される。
未熟でうぶでばかで愚かで、彼なんかを愛してしまっていたあのころのアタシに。
「ファビオ……なんでわかったの?」
「はあ」
問いかけるアタシに、彼はやれやれと肩をすくめる。
痩せて小さくなった肩だが、そのしぐさはあのころの彼と同じものだ。
「ソフィア、おまえやっぱ、壊れたまんまなんだな」
アタシが壊れている?
なにをいっているの、彼は。
あんなに毎日愛してくれたのに。
あなたが急に変わって、愛が終わってしまった。
「さっき水を拭いてるときに腹が見えて、本気で驚いたよ。
その身体をなんとも思ってないの、おまえ、マジで異常だろ。
自分の若気の至りを見せつけられているようで、気が滅入っちまう」
「アタシの、身体……?」
立ち上がったファビオは、椅子に座っているアタシのまえに立つと、
「じゃあこれも、まだそのままなんだろうな。
悪く思うなよ。
……いや、思えないか!」
言って、アタシの顔を殴った。
死にかけの病人とは思えないほどの力で、アタシの頬をこぶしで殴りぬいた。
「あっ」
声をあげて椅子から吹っ飛び、アタシは床に倒れ込む。
そこにファビオが馬乗りになり、さらに殴りかかってきた。
「懐かしいなあ!
この感覚、ひさしく忘れていたぜ。
なあソフィア! 懐かしいなあ!」
「あっ、あっ……」
アタシは抵抗しない。
抵抗なんて、したことがないから。
「そら、どうなってる?」
「ああっ」
彼がアタシの服を破り捨てる。
あのころのように。
毎日あたらしい服を買い与えてくれては破り捨てて脱がせていた、あのころのように。
下着も引きちぎると、彼はひきつった笑顔を見せた。
「殴られただけで、どんだけ濡れてんだよ。
下着まで完全にぐしょぐしょじゃねーか。
ほんと……ほんと、狂ってる」
「はあ……はあ……っ。
あなた……が、こうしたんじゃないの」
荒くなる息の合間でどうにか言い返すと、彼は今度はアタシを引っ張って、姿見のまえに立たせた。
「ほら、見てみろよ自分の身体を。
どうなってる?」
「……?
べつに、ふつうだけど。
おとなの女の身体よ」
これだけはあのころとまるで違う。
貧相だったアタシの身体は、成長した。
小さかった胸は風船のように大きくなった。
「ちげーよ、こんな身体の人間はいないんだって。
……読んでみろよ」
アタシは、身体に彫られた文字を読み上げる。
「アタシを犯して」
「殺して」
「首を絞めて」
「あそこになんでも入れて」
ナイフで書かれた傷文字は読みにくいけど。
おとなになった証なのだから、アタシは気に入っている。
昔から、何度も何度も読んだ文字だ。
「読んだけど。これがなに?」
これを読ませることになんの意味があるのだろう。
たしかにアタシをおとなにしたのはかつての彼だが、こんなものは生娘でなければ誰にでもあるものだ。
一度でも、愛されたことのある女なら。
「平然とするなよ、ほんとにおまえは……。
この文字のこと、いったいなんだと思ってんだ?」
「?
これは、処女ではない証」
「たしかに、おれがそういったけどよお!」
信じるかフツー、といって彼は笑った。
その嗜虐的な笑顔は、コリンのまえで見せるつまらない笑顔とはまるでちがう。
アタシを愛してくれていたころの笑顔。
「びしょ濡れのソコのうえにも、彫ってあるよな?」
「ええ、はじめての相手の名前を書くところよ。
あなたの名前が消えずに残ってるわ」
「アハハハ!
てめえのソコを舐めた男はたまげただろうな。
舐めるたびに、おれの名前が見えるんだから。
よっぽど相手も狂ってなければ、二度めは舐めない」
そんなことはない。
アタシは彼の思い込みをふしぎに思った。
彼以外でアタシのココを舐めたのはコリンだけだが、彼は二度めどころか毎晩のように喜んで舐めている。
アタシとは年が離れているのだから、処女ではないことを気にしてなどいないだろう。
まあ、そこに書かれた相手の名前が「ファビオ」だというのは、気になったかもしれないが。
(……あ、そっか。
それであの子、アタシが兄貴のことを好きだとか勘違いしていたわけね。
ファビオなんてこの国ではよくある名前なのに)
「なにをにやにやしてんだ!」
「ああっ」
彼はまたアタシを殴った。
どうしてそんなことをするのだろう。
あんなに手ひどく振っておいて。
これではまるで、まだアタシのことを愛しているかのようではないか。
「あんたの名前が偽名だっていったんだよ。
まえはミリアムなんて名乗ってなかっただろ?」
言いながら、ファビオはベッドから立ち上がる。
マズい。
マズい。マズい。マズい。
アタシの正体がバレた!
「なあ――ソフィア?」
「うあ……」
捨てたはずの名前で呼ばれ、アタシは14歳の少女に引き戻される。
未熟でうぶでばかで愚かで、彼なんかを愛してしまっていたあのころのアタシに。
「ファビオ……なんでわかったの?」
「はあ」
問いかけるアタシに、彼はやれやれと肩をすくめる。
痩せて小さくなった肩だが、そのしぐさはあのころの彼と同じものだ。
「ソフィア、おまえやっぱ、壊れたまんまなんだな」
アタシが壊れている?
なにをいっているの、彼は。
あんなに毎日愛してくれたのに。
あなたが急に変わって、愛が終わってしまった。
「さっき水を拭いてるときに腹が見えて、本気で驚いたよ。
その身体をなんとも思ってないの、おまえ、マジで異常だろ。
自分の若気の至りを見せつけられているようで、気が滅入っちまう」
「アタシの、身体……?」
立ち上がったファビオは、椅子に座っているアタシのまえに立つと、
「じゃあこれも、まだそのままなんだろうな。
悪く思うなよ。
……いや、思えないか!」
言って、アタシの顔を殴った。
死にかけの病人とは思えないほどの力で、アタシの頬をこぶしで殴りぬいた。
「あっ」
声をあげて椅子から吹っ飛び、アタシは床に倒れ込む。
そこにファビオが馬乗りになり、さらに殴りかかってきた。
「懐かしいなあ!
この感覚、ひさしく忘れていたぜ。
なあソフィア! 懐かしいなあ!」
「あっ、あっ……」
アタシは抵抗しない。
抵抗なんて、したことがないから。
「そら、どうなってる?」
「ああっ」
彼がアタシの服を破り捨てる。
あのころのように。
毎日あたらしい服を買い与えてくれては破り捨てて脱がせていた、あのころのように。
下着も引きちぎると、彼はひきつった笑顔を見せた。
「殴られただけで、どんだけ濡れてんだよ。
下着まで完全にぐしょぐしょじゃねーか。
ほんと……ほんと、狂ってる」
「はあ……はあ……っ。
あなた……が、こうしたんじゃないの」
荒くなる息の合間でどうにか言い返すと、彼は今度はアタシを引っ張って、姿見のまえに立たせた。
「ほら、見てみろよ自分の身体を。
どうなってる?」
「……?
べつに、ふつうだけど。
おとなの女の身体よ」
これだけはあのころとまるで違う。
貧相だったアタシの身体は、成長した。
小さかった胸は風船のように大きくなった。
「ちげーよ、こんな身体の人間はいないんだって。
……読んでみろよ」
アタシは、身体に彫られた文字を読み上げる。
「アタシを犯して」
「殺して」
「首を絞めて」
「あそこになんでも入れて」
ナイフで書かれた傷文字は読みにくいけど。
おとなになった証なのだから、アタシは気に入っている。
昔から、何度も何度も読んだ文字だ。
「読んだけど。これがなに?」
これを読ませることになんの意味があるのだろう。
たしかにアタシをおとなにしたのはかつての彼だが、こんなものは生娘でなければ誰にでもあるものだ。
一度でも、愛されたことのある女なら。
「平然とするなよ、ほんとにおまえは……。
この文字のこと、いったいなんだと思ってんだ?」
「?
これは、処女ではない証」
「たしかに、おれがそういったけどよお!」
信じるかフツー、といって彼は笑った。
その嗜虐的な笑顔は、コリンのまえで見せるつまらない笑顔とはまるでちがう。
アタシを愛してくれていたころの笑顔。
「びしょ濡れのソコのうえにも、彫ってあるよな?」
「ええ、はじめての相手の名前を書くところよ。
あなたの名前が消えずに残ってるわ」
「アハハハ!
てめえのソコを舐めた男はたまげただろうな。
舐めるたびに、おれの名前が見えるんだから。
よっぽど相手も狂ってなければ、二度めは舐めない」
そんなことはない。
アタシは彼の思い込みをふしぎに思った。
彼以外でアタシのココを舐めたのはコリンだけだが、彼は二度めどころか毎晩のように喜んで舐めている。
アタシとは年が離れているのだから、処女ではないことを気にしてなどいないだろう。
まあ、そこに書かれた相手の名前が「ファビオ」だというのは、気になったかもしれないが。
(……あ、そっか。
それであの子、アタシが兄貴のことを好きだとか勘違いしていたわけね。
ファビオなんてこの国ではよくある名前なのに)
「なにをにやにやしてんだ!」
「ああっ」
彼はまたアタシを殴った。
どうしてそんなことをするのだろう。
あんなに手ひどく振っておいて。
これではまるで、まだアタシのことを愛しているかのようではないか。
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