【R18】婚約破棄の復讐に、王子の弟を蹂躙してやります

08 誓う

　そのとき――
　目を閉じたアタシの耳に、扉の向こうから声が聞こえてきた。

「兄上がご乱心だ！
　鍵穴から、先生に剣を向けているのが見える。
　衛兵、扉を破るのを手伝ってくれ！」

　コリン王子の声だ。
　扉の外がにわかに騒がしくなり、ファビオが息を飲むのがわかった。

「ダメ、やめないで！」

　アタシはきつく目を閉じ、彼に股を開いたまま懇願する。
　せっかく彼の愛が戻ってきたのだ。
　邪魔をしないでほしい。
　椅子を伝って床まで垂れている、この愛への期待を裏切らないでほしい。

　今度こそ。

「今度こそ、殺して。
　アタシをこんなにしたのは、あなたよ、ファビオ。
　あなたの名前が書かれたココを、ちゃんと貫いて」
「くっ」

　アタシの言葉に、彼が覚悟を決めたのがわかった。
　再び剣を構える気配。

　扉には体当たりが繰り返されている。
　まもなく破られるに違いない。

　でも、そのまえにアタシを。
　最大の愛で、アタシを殺して。

「あなたの愛は、アタシに自分を刻みつけることなんでしょう？
　めちゃくちゃに刻みつけてほしい」

　さあ、お願い。
　お願いよ、ファビオ。

　……。

　…………。

　………………来ない。

「なぜなの！？」

　焦れたアタシが目を開くと――

　そこには両手で剣を握ったまま、膝をついて前のめりに倒れているファビオの姿があった。
　ぴくりとも動かない。

「ファビオ……そんな……」

　衰弱した彼の命はわずかしか残っていなかった。
　アタシの正体を知り、激情に任せて動いてはいたが、それももう限界だったのだ。

「愛してよファビオー！！」

　アタシが叫ぶのと、扉が破られるのはほぼ同時だった。

「先生ッ！」

　衛兵より早く、コリンが駆けてくる。
　ファビオのベッドからシーツを剥ぎ取ると、力なく佇むアタシの裸体をそれで包み込んだ。

　衛兵たちはファビオに駆け寄り、剣を奪う。
　が、彼からの反応がないのを見て、騒ぎだした。

「……たぶん死んでるわ。
　アタシを殺す体力は、もうなかったの」

　アタシが告げると、彼らは数人がかりでファビオの身体を抱え、医務室へと運んでいった。

　部屋にはアタシとコリンだけが取り残された。
　彼は、よほどアタシが憎いのか、しきりに優しい言葉をかけてアタシの背中をさすっている。

　きっと、扉の外でアタシたちの話を聞いていたのだろう。
　この国を滅ぼそうと企むアタシは、彼の敵だ。

「どうにかなりそう。
　あのひとの愛を受け損ねたうえ、今度はコリン、あなたからこんな仕打ちを受けて」
「え？」

　アタシの呟きを聞いた彼は、手を止めた。

「ああそうか、逆なのでしたね」

　言うと彼は、アタシの背中に爪を立てはじめた。
　血のにじむほどに強く。
　まるでそこに、自分を刻みつけるように。

　アタシはまた疼きだした自分の身体を抱きしめて、彼の顔を見た。
　こちらを見返すコリンの笑顔には、すこしだけ、あのひとの――ファビオの面影があった。

　加虐の香りがアタシを誘う。

「ねえコリン……アタシのご主人様になってくれない？」
「ふふ、アハハ。
　アハハハハハハハ！」

　可愛い顔に嗜虐の表情を浮かべ、嬉しそうに笑ってくれる。
　今度はコリンがアタシのご主人様。

　もしかして、あれをアタシにしてくれるだろうか。
　あのひとがくれなかった、最大の愛。

「最後はちゃんと殺してくれる？」

　アタシの問いかけに、彼はしかし、首を振った。

「なぜ？　なぜなの？」
「殺すよりも、ぼくはもっといいことを知っています。
　母上から聞いたんだ。
　出産というものは、それはそれは、ものすごく痛いそうですよ」
「え、それって――」

　問い返そうとするアタシの唇は、彼の唇で塞がれた。
　アタシが舌を差し出すと、彼は察して、それを強く噛んでくれた。

　血が出るほど強く。
　愛をこめて。

　そして、唇を離した彼は、血で美しく光る口でアタシに命令する。

「最高の痛みをプレゼントしてあげます。
　ぼくと結婚して、子を産んでください」