婚約探偵は夜歩く

monaca

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名探偵 皆を集めて さてと言い

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「さてーー」

 あたしは県警本部の会議室で、ヒールのかかとを鳴らしてみんなの注目を集めました。
 ここにいるのは警察官たち。

 そしてーー
 探偵として推理を披露する、あたしです。

 浮気調査とかの地味な探偵ではなく、ホームズみたいな名探偵。
 あたしはこれまでもいくつかの事件を解決してきました。

 愛がもつれた末の事件を得意としています。
 婚約していた女性が標的となった事件の真相をいくつも暴いてきたことから、陰では『婚約探偵』と呼ばれているほどです。

 あたしはみんなの顔を見まわし、全員の注目が集まっていることを確認してから続けました。

「今回の痛ましい事件ですが、この裏には、いくつもの行き違いが存在しました」
「行き違い……?」

 顔なじみの刑事が尋ねます。
 彼は食いつきがよいのであたしが推理を披露するときは必ず呼ぶことにしていました。

「まずひとつめ。これは、よくあること。借金ね。男のほうに借金があって、被害者とは日々揉めていました。金額はざっと300万」
「金額までわかったのか」
「ええ、あたしにわからないことはありません。男のほうには返すつもりがあったみたいですが、被害者はそれを信じることができませんでした」

 ゆっくり落ち着いて答えました。
 名探偵の余裕に、警察官たちは目を丸くしています。

「そしてふたつめ。被害者は浮気を疑われていました。これはほとんど男の妄想に近いんだけど、スマホをよく眺めてるとか、電話に出るのが遅れたとか、そういうつまらない理由。つまらないけど、被害者とうまくいっていないこともあって、男の中ではむくむくと膨らんでいく一方でした」
「それが犯行の理由か」
「いえ、決め手となったのは最後の理由です」

 あたしは事件の核心を最後に残していました。
 警察なんかでは知りえない、名探偵の技を駆使して手に入れた情報です。
 もったいぶってもバチは当たらないでしょう。

 あたしはひと呼吸置いて、語りはじめました。

「最後にして最大の理由は、男の夜の趣味が受け入れられなかったことにありました。彼はいわゆる、特殊性癖の持ち主」
「なるほど……婚約してから明かした性癖を断られてカッとなったというわけだな。よし、確保に向かうぞ!」
「え、最後まで聞きなさいよ。せっかくわかったんだから。あたし頑張ったの。その性癖はーー」

***

「先輩、あの女は何者なんですか?」

 会議室の外で、若い警察官が年配の警察官に尋ねた。

「DV被害者の味方らしいんだけどな。わざわざ加害者に近づいて、結婚をちらつかせて話を聞きだすらしい。おれたちがやると違法だが、まあ、民間人が勝手にやることだから……」
「はー、加害者と婚約するから婚約探偵って呼ばれてるんですね。で、そいつが警察に確保されたら婚約破棄する、と。身体張ってるなあ」
「まあ、それで被害者は円満に別れることができるし、被害者も語りたがらないDVの詳細も得られるし、やめさせる理由はない」
「夜な夜なそうやって男を探してるんですから、なんかもう立派に思えてきましたよ」

 ――婚約探偵は、今日も夜の町を歩く。
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